2023.09.19

MERY Z世代研究所 所長 平山彩子さんに聞く「Z世代における推し活消費の傾向」

今後、消費の中心となっていく「Z世代」。その消費活動は、これまでの世代と異なる点も多く、"捉えづらい"と言われています。そのなかで「推し活」は、Z世代を捉えるキーワードのひとつです。「Z世代はどのように推しを捉え、行動を起こしているのでしょうか。 定期的にZ世代へのグループインタビューを繰り返しながら、リアルなZ世代の姿を追求しているMERY Z世代研究所の所長、平山 彩子さんに話を聞きました。

MERY Z世代研究所 所長 平山 彩子さん

Z世代の多くが、当たり前に「推し活」をする時代

──これまでとは違う価値観・考え方を持つといわれるZ世代。「推し活」に関しても、他の世代と異なる部分があるのでしょうか?

平山 Z世代というよりも、若年層という括りが正しいかもしれませんが、彼らはデジタルネイティブで、息を吸うように普段から情報を収集しています。そしてその高い情報収集能力は、推し活においても発揮されています。

ですが、推し活をしていることをリアルな友だちは知らない(公言していない)ケースが多くあります。実は裏アカで推し活をやっている。そんな話をよく聞きます。しかも、「(SNSの裏アカウントごとに)それぞれ違うコミュニティ」があるといいますから、自分たちの価値観でZ世代を図ろうとすると、驚くことも多いかもしれません。そのなかでZ世代のユーザーは、複数のコミュニティで多様なつながりを持つことで、情報を収集したり、拡散したりしているわけです。

──Z世代は、具体的にどのような人やキャラ、モノなどを推しているのでしょうか。

平山 私たちは定期的にグループインタビューを実施し、Z世代女性のインサイトを探る定性調査を実施しています。インタビューさせていただく方々は、おしゃれ感度が高く、こだわりを持ち、好きな世界観インフルエンサーだったり、韓流アイドルだったり、キャラクターだったりすることもあります。中には自分と2周り以上も離れた女優さん推しだという方もいました。その方は、「関連グッズは全部買っている」と話すほどの熱の入れようでした。

──推し活での消費行動について、Z世代にはどのような特徴がみられますか。

平山 堅実な印象です。自分のお給料を踏まえて、使う金額を決めている方が多いですね。感覚値としては、推し活に使っているのは、多い月で3~5万円ほどでしょうか。ですが、あくまで無理せず、生活が楽しくなるレベルで活動していると感じます。

推し活メディア『oshimoa』の調査では月に推し活に消費する費用は平均16,091円という結果に 参照:Oshimoa公式サイト

推し活は、仕事や癒しのモチベーションにもつながっているようです。ライブに合わせてダイエットしたり、美容院にいったり、何を着ていくかみんなで考えたりしていると聞きます。その時間も含めて、推し活の楽しさといえるでしょう。

推し活マーケティングの成功の鍵は、ギャップ

──「Z世代×推し活」の親和性が高いのであれば、マーケティング戦略として活用されることも有効ですよね。

平山 推される人やキャラと、コラボレーションすることで、確かに一定層に対してリーチできると思います。しかし「話題性の創出」という観点でみると、推し活を意識したプロモーションの多くは、著名人とコラボレーションする過去のマーケティング手法とそれほど大きな違いはありません。

むしろ、情報のインプット量が多いZ世代ユーザーの目は厳しく、「このパターンはもう見飽きた」と思われるケースもあります。推し活の文脈に乗せるだけでなく、「このパターンは新しくて面白い」といった要素、斬新さを求める傾向もあります。

これはギャップともいえます。たとえば、バラエティ番組でよく見かける藤田ニコルさんが、女性向けの下着通販で有名な「PEACH JOHN」とコラボレーションし、セクシーな一面を見せた例もその1つでしょう。その、これまで見たことのなかった新しい一面がファンにとっては喜びとなり、情報拡散も含めた熱狂へとつながっていったのではないでしょうか。つまり、商品と起用する人の親和性だけでなく、そのファンに対して、いかにアプローチするかも非常に重要な要素なのです。

「何でも買う層」を狙うだけでは成功しない

──一方で、「推し」が関係しているなら、商品でも広告でも、何でも応援する、という層もいますよね。

平山 はい。推しが広告に起用された商品であれば「一応、お布施的に買います」という人も一定数存在しますが、やはり理想は、推し活の延長にあり、かつ高揚感から生まれる消費活動であることです。

また、すべての推しが関わる商品を買える・買う層はほんの一握りです。そう考えると、もう一段広いマーケットを捉えるためにも、「心から欲しい」と思わせる「くすぐり感」を、いかに商品×その人の特性、推し活の文脈に乗せて届けるかが重要なわけです。

しかも、お布施感覚を持つ「何でも買う層」は、私の感覚としては、上位10%ほどです。ここだけ捉えても、成功しません。狙うべきマーケットは、その下にあるのではないでしょうか。ですから、ターゲットの裾野を広げていくことを考えると、「心から欲しい」と思わせる「くすぐり感」を、いかに商品×その人の特性、推し活の文脈に乗せて届けるかが重要なわけです。

あくまで、「推し活」活用はマーケティングの入り口であり、情報が拡散していくなかで、推しを知らない人にまで商品が届くことが、理想的な推し活マーケティングのカタチだと考えます。

推し活マーケティングは、ファン起点のマーケティングです。人が喜ぶことをする、喜んでくれることをする。それがマーケティングのベースにありますから、「推し活マーケティング=顧客目線を重視したマーケティングの基本形」と捉えることもできると思います。

事例に見る、推し活マーケティング成功ポイント

──雑誌と推し活の相性はいいといわれます。講談社の広告事例のなかでも、推し活マーケティングを活用し、成功した事例が多くあります。平山さんの視点で分析をお願いします。

事例(1)FRaU╱FRaUウェブサイト ✖️ 株式会社コーセー

「雪肌精」×美の世界一を知っている羽生結弦選手を起用した編集記事と動画が、各方面で大きな話題に!

「世界中の人々の肌を美しくしたい」という想いを持つスキンケアブランド『雪肌精』×フィギュアスケートの世界で美を体現し続けている羽生結弦選手×サステナビリティの第一発信者である「FRaU」が、それぞれの想いをリンクさせた編集企画連動タイアップが実現。本誌・WEB・動画・ポスターなど多彩なメディア展開が大きな話題と反響を呼んだ。

平山 羽生結弦さんはもともと肌がすごくきれい、そして美しい方ですよね。その点で、ブランドイメージと羽生さんは、非常にフィットしています。ですが、スキンケアブランドに男性が、しかも羽生さんが起用されたという驚きが、効果にもつながったのではないでしょうか。

事例(2)NET ViVi×株式会社アルビオン

【約130万回再生を記録!】演出力とキャスティング力を活用したイケメンコラボ動画が大反響!

約47万フォロワーを有する『ViVi』のインスタグラムアカウントをフル活用したイケメンコラボ動画によるタイアップ企画を実施。ViVi読者にも大人気のTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEの吉野北人さんを起用した4本の動画でALBIONのベースメイク製品を訴求したところ、リール動画3本は合計約130万回再生を記録し、タイアップ記事は約75,000PV・CTR13%と記録的な高数値を達成。「北人買い」現象が起きるなど大反響を呼んだ。

平山 さきほどの羽生さんの事例もそうですが、最近、男性×コスメは、推し活マーケティングの鉄板的な組み合わせになっていますよね。推しの新たな一面も見られますし、ファンの熱狂がそのままマーケティングの熱量になりやすいのが特徴だと思います。

事例(3)ViVi×プーマジャパン株式会社

藤田ニコルが編集長として企画を先導した「ViVi PUMA」のメディアミックス施策が大きな話題に!

「ViVi」モデルの藤田ニコルが編集長に就任し、本誌8ページタイアップのBook in book「ViVi PUMA」の制作を先導。『ガールズパワーで時代を動かせ! 藤田ニコルがPUMAで見せるニューな私。』をテーマに、デジタルとも連動し、ViViオールメディアを駆使した立体的な企画が実現。大きな話題と反響を呼んだ。

平山 Z世代自体が、スポーツブランドに対して興味を持っている世代ですし、このコラボレーションは、藤田ニコルさん好きとプーマ好き、両方のコミュニティがきれいにぶつかって、相乗効果を生み出したことが想像できますよね。男性×コスメ同様、ギャップもありますし、推し活マーケティングのお手本のような事例ではないでしょうか。

今後は「推し活マーケティング」から「推し活共創マーケティング」へ

──今後、推し活×マーケティングはどのように発展していくと考えますか?

平山 推し活を意識して実施したけど、売れなかったという事例もあります。その原因は、ファンはなぜ、その人が好きなのかを捉えきれていないからではないかと考えます。売ったら終わりではなく、ファンと共に創る「共創」という部分を見極めて行う。目指すは「推し活共創マーケティング」ですね。そのカタチを目指すことで、関わるすべての方がハッピーになる、マーケティングが実現するのではないでしょうか。

平山 彩子
MERY Z世代研究所 所長/MERY統括編集長
株式会社リクルート・ゼクシィ統括編集長を経て、2022年7月よりMERYにジョインし、現職。ゼクシィでは紙メディアの他、TVCMやブランドマネジメントを統括。MERY入社後は、SNSを中心としたデジタルメディアに基軸を置きながら、ライフワークでもある世代研究とアナログ・デジタル両面でのコンテンツ制作経験を掛け合わせ、ユーザー応援・企業支援に従事。

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら