2023.09.07

「迷ったときに背中を押してくれる、宇宙兄弟の言葉『どっちが楽しいかで決めなさい』」宇宙タレント 黒田有彩──マンガから学んだことvol.12

さまざまな分野で活躍する人物から「マンガから学んだこと」を聞く連載。第12回は、宇宙タレント 黒田有彩さんです。2023年は大人気マンガ『宇宙兄弟』の15周年イヤー。宇宙業界に詳しい黒田さんだからこそ、同作に触れて感じたこと、学んだことを聞きました。

宇宙の魅力をYouTubeやイベントなどで、わかやすく発信する、宇宙タレント 黒田有彩さん(左)、宇宙兄弟(1) 著:小山 宙哉 

宇宙好きなら『宇宙兄弟』は絶対読んだ方がいい

──宇宙タレントとして、YouTubeでの発信やイベント登壇など、さまざまな活動をされている黒田さん。まずは、宇宙好きになったきっかけを教えてください。

黒田 中学時代、作文コンクールで入賞し、米・アラバマ州のNASAを訪問したことが、「自分は宇宙が大好きだ!」と胸を張って言えるようになった出来事でした。そこで実物大のロケットのモックアップを見た瞬間、その大きさ、圧倒的な存在感に衝撃を受けました。「こんな大きなモノが地球の重力を振り切って宇宙まで行く」。たくさんの人たちのたくさんの挑戦がそれを可能にしたのだという壮大なスケールに、心打たれました。それまでテレビや本で見たことはあったものの、やはり本物を感じることは、まるで違う体験でした。

ロケットのイメージ 画像=Adobe Stock

──宇宙への興味の延長で、『宇宙兄弟』とも出会ったのですか?

黒田 出会いは2010年頃、一緒にお仕事した方から「宇宙好きなら『宇宙兄弟』は絶対読んだ方がいい」とすすめられたのがきっかけです。「ついにこんなリアルな宇宙マンガが出てきたか!」と非常に驚きましたね。それまでの宇宙マンガと言えば、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』などのSF系が多く、宇宙開発や宇宙飛行士について、ここまでリアルに描いたものはありませんでした。

宇宙飛行士を目指す主人公に自分を重ね、すぐに夢中になり、話を追うごとに、キャラクターたちの真摯な生き様に胸が熱くなりました。

宇宙兄弟(1) 著:小山 宙哉 
2023年は15周年イヤー。人気の宇宙マンガとして、幅広い世代から支持を受けている

『宇宙兄弟』の魅力は、「取材力」から生まれるリアリティ

──宇宙好きをも唸らせる、『宇宙兄弟』のリアリティは、どこから生まれているのでしょうか?

黒田 この作品の何よりすごい点は「取材力」です。自分でも「宇宙船の中はどうなっているのだろう」「未来の宇宙の施設はどうなっているのだろう」と考えたことがあります。ですが、自分が持つ想像力だけで、具体的にイメージするのは限界がありました。

一方で、『宇宙兄弟』は細部にわたって、本当にリアルですよね。月での手術シーンや、少し未来の月面活動の様子が細かく描き込まれたページなど、まるで見てきたかのようなクオリティです。『宇宙兄弟』はフィクションですが、マンガで起きていることを、実際の世界がなぞっていくのではないかと感じるほどのリアリティがそこにあります。ですから、宇宙に興味を持った方が、宇宙を知る最初の一歩としては、最適な教材だと思います。

──『宇宙兄弟』は、登場するキャラクターたちもリアルですよね。

黒田 はい。それぞれのキャラクターにドラマがありますよね。「JAXA宇宙飛行士候補者選抜試験」など、宇宙飛行士に挑戦する過程で自分自身が感じたことが、 『宇宙兄弟』のキャラクターが感じたことと似ていたりすると、その感情が自分由来なのか、キャラ クターの感情に引っ張られたものなのかがわからなくなってしまったんです。それくらい共感性が高くて、リアルなマンガだとも言えますよね。

実際、JAXAの宇宙飛行士試験に挑戦される方の中では、『宇宙兄弟』の内容が本当に起こり得そうで、「細部まで読んだ派」と「一旦読まない派」にわかれていたほどです。つまり、人生を賭けるチャレンジにそれだけ影響を与えかねない圧倒的なリアリティがそこにはある、ということです。

印象的なキャラクターは、天文学者・金子シャロン

──『宇宙兄弟』の中で、いちばん印象に残っているキャラクターやセリフがあれば、教えてください。

黒田 特に印象的なキャラクターは、天文学者として登場する金子シャロンです。ムッタと弟の日々人(ヒビト)の家の近所に住んでいて、宇宙のことだけでなく、物事の向き合い方などさまざまなことを彼らに教えてくれた人でした。

私はシャロンのセリフで、すごく好きなものがあります。

それが「迷った時はね『どっちが正しいか』なんて考えちゃダメよ。(中略)『どっちが楽しいか』で決めなさい」です。目から鱗でした。人がどう思うかという「正しさ」より、自分の中にある「楽しさ」で決めると、未来にすごくワクワクできるんです。自分の素直な感情を大切にしてあげられるようになりました。

また、シャロンはALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気になっているのですが、私の母も似た難病に冒されており......できないことが増えていくけれども、懸命に立ち向かおうとするシャロンの姿を母の姿と重ね合わせてしまいます。

──『宇宙兄弟』の中で、他にも好きなキャラクターがいれば、教えてください。

黒田 ムッタと同期で元医師の女性宇宙飛行士、伊東せりかも好きです。シャロンと同じ病、ALSで亡くなったお父様の病気をきっかけに、治療薬を作るために宇宙へ行こうとする姿は、いつも胸を打たれます。 せりかは小さい頃、「少し変わった子」として扱われていた描写があり、自分が味わった過去を思い出します。 たくさん食べるところや、恋愛には鈍感なところも、可愛らしくて好きです。

『宇宙兄弟』のキャラクターたちは、どんな状況でも、決して諦めずに、新しい道を見つけようとします。その姿が、思わず応援したくなる、共感ポイントにつながっているように感じます。

誕生日が1日違いの主人公にも親近感

──黒田さんは、‎『宇宙兄弟』の主人公・南波 六太(ムッタ)と誕生日が1日違いだそうですね。

黒田 そうなんです。誕生日が近いと言うだけでムッタには親近感が湧いてしまいます。毎年「宇宙兄弟」の公式Xでムッタの誕生日がお祝いされるので、「ムッタも私もおめでとう」と感じるのが毎年の恒例です。以前、アニメ版の『宇宙兄弟』でムッタの声優を担当されている平田広明さんとはイベントでご一緒させていただいたこともあり、とてもうれしかったですね。

『宇宙兄弟』の主人公・南波六太の誕生日は10月28日。黒田さんは10月29日が誕生日
 画像出典=マンガIPサーチ

『宇宙兄弟』のキャラクターのように、下を向かずに次の一歩を踏み出したい

──『宇宙兄弟』の主人公・ムッタも受けた、JAXAの宇宙飛行士試験に、黒田さんも昨年挑戦しましたよね。

黒田 はい。ですが結果は不合格......。すごく悔しかったし、ものすごい喪失感に襲われました。昨年の6月28日に不合格の発表があったのですが、そこから1年以上たった現在も、ブラウザのショートカットキーに宇宙飛行士挑戦ページのブックマークが残っています。もう見る必要はないのですが、簡単に消せないのは、それくらい自分にとって「宇宙飛行士」が大きな夢だからです。

『宇宙兄弟』のキャラクターたちは、「この道がダメだったらどうするのか」を考えて、常に行動しています。未来のことはわかりませんが、私も彼らのように、決して下を向かずに、しっかり次の一歩を踏み出したいですね。

黒田有彩(くろだ・ありさ)

中学時代、作文コンクールで入賞しNASAを訪問したことをきっかけに宇宙の虜に。宇宙や科学の魅力を届ける活動を精力的に行う。13年ぶりに行われたJAXA宇宙飛行士選抜試験に挑戦。 2016年11月、個人事務所 兼 宇宙の魅力を幅広く伝えるコンテンツを企画する法人・株式会社アンタレスを設立し代表取締役に就任。2017年4月~2022年3月文科省JAXA部会臨時委員。2018年、和歌山大学国際観光学研究センター客員特別研究員。2021年、内閣府「ムーンショットアンバサダー」就任。2023年、「NEO 月でくらす展」SNSアンバサダー就任。2020年4月1日よりYoutube 番組「宇宙タレント黒田有彩 -ウーチュー部-」開設。現在、CX「ネプリーグ」、ニュース番組などTV、司会業などで活躍中。

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筆者プロフィール
C-station編集部

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