2023.07.28

デジタル広告の現状と、M-VALUE DIGITAL(デジタル広告効果測定調査)の位置付け|「M-VALUE DIGITAL」調査 報告セミナーレポート①

7月20日(木)、日本アドバタイザーズ協会、日本雑誌協会、日本雑誌広告協会の3団体共催による「M-VALUE DIGITAL」調査 報告セミナーが開催。前半では具体的な調査結果に入る前に、デジタル広告の現状と課題、「M-VALUE DIGITAL」の位置づけについて、講談社の長崎亘宏が解説しました。

開会の挨拶

開会にあたり、主催者を代表して、日本アドバタイザーズ協会 プリントメディア委員長を務める日本たばこ産業株式会社 田原光晃さんから挨拶がありました。

田原さんはまず、「このように3団体が共催してリアルでセミナーを開催するのは、2016年以来7年ぶり」と参加者への喜びと感謝を語りました。

日本アドバタイザーズ協会 プリントメディア委員長 田原光晃さん(日本たばこ産業株式会社)

田原 「『M-VALUE』は雑誌広告費が減少するなか、少しでも雑誌の出稿環境をよくしていこうと雑誌協会全体での取り組みとして2013年から始めた取り組みです。昨今はデジタルを活用した広告が増えるなか、今回は『M-VALUE DIGITAL』という形で調査をして、出版社Webメディアと一般メディアを比較。それぞれの特性を可視化しました。本日のセミナーが、少しでも皆さまの雑誌広告の活動のヒントになり、お役に立てば幸いです」

【第1講】デジタル広告の現状とM-VALUE DIGITALの位置づけ

続いて第1講「デジタル広告の現状とM-VALUE DIGITALの位置づけ」に、M-VALUEワーキンググループを代表して、講談社の長崎亘宏が登壇。

本日のテーマでもある「M-VALUE DIGITAL」調査 報告セミナーに入る前の導入編という形で、「デジタル広告の現状とM-VALUE DIGITALの位置づけ」というテーマで解説を行いました。

M-VALUEワーキンググループ 長崎亘宏(講談社)


「広告主動態調査2023」に見る、広告活動における重要な問題

まず、日経広告研究所による最新の「広告主動態調査2023」から、広告活動において「広告主が重要視している課題」に関する調査結果を紹介。

「広告主動態調査2023」の結果

結果を見ると、広告活動において重視するもののトップが「長期的な視点に立ったファンづくり」、次いで「ブランドイメージの構築」となっています。どちらも、ゴール設定が顧客の購入だけに限らないことに、長崎は着目し、このように語りました。

「通常はROI(費用対効果)やネット上での商品購入などの最終的な成果獲得、クリックレスポンスなどが重視されがちです。しかし、それよりも長期的な視点に立ったファンづくりや、ブランドイメージの構築といった項目が上位概念に来ています。これを踏まえたうえで今日のセミナーを最後まで聞いていただくと、より理解も深まると思います」

「M-VALUE DIGITAL」の調査から見えた結果(効果)は、まさに2つの項目とつながるものであり、その導入として、本調査が紹介されました。


4つの視点から紐解く「日本のデジタル広告の現状」

続いて、デジタル広告に関わるすべての人の課題として、3兆円規模(※)に成長したインターネット広告の現状を4つの視点から解説しました。

※電通「2022年 日本の広告費」によれば、2022年のインターネット広告費は3兆912億円(前年比114.3%)、広告費全体の43.5%を占めるほどに成長を遂げた

現状①インターネット広告が改善すべきユーザー体験

長崎は「残念ながらインターネット広告には、ユーザーが不快に感じる要素がある」と語り、JIAAが発表した調査結果をもとに、インターネット広告の課題について紹介しました。

インターネット広告を不快に感じる要素

調査結果にある不快に感じる要素は、誰もが自分自身も体験していることばかりです。
「ユーザーを追いかける、ターゲティング広告手法」
「コンテンツが読みたいのに広告で隠れてしまう」
「スキップできない動画の広告フォーマット」
さらに長崎は、自分が求めていない「不適切な広告内容」についても触れ、「この改善すべき課題については、我々全員が考えていかなければいけない」と提言しました。

現状②国内市場におけるアドフラウド率

続いて、アドフラウド(※)と呼ばれる不正広告の割合が、先進国のなかで日本は飛び抜けて高いことを紹介。

※アドフラウド:無効なインプレッションやクリックによって広告費用を水増しする不正行為を指す

先進国のなかでもっとも不正広告の比率が高い日本

日本は世界平均、アメリカよりもアドフラウド率が高く、しかも増加傾向にあります。
「ブランドセーフティーという項目においても、日本は世界で最も低いレベルという調査報告もあります。デジタル広告費が3兆円を突破したとそれだけで喜ぶのではなく、その中身も考えていく必要がある」と長崎は話しました。

インターネット広告費が伸長するなか、今後もアドフラウドの比率が高まっていけば、その影響はさらに大きなものとなります。そのなかでブランドを守るためには、安全・安心な場所(メディア広告枠)に出稿することも、これから重要になる可能性があることを示唆しました。

現状③デジタル広告予算の投資先比率

次に、日本とアメリカのデジタル広告費の投資先の違いを紹介。

日本とアメリカのデジタル広告予算を比べてみると日本の課題が見えてくる

アメリカに比べ日本は圧倒的にオープンウェブの比率が低く、大手プラットフォーマーへの投資が重視されていると説明しました。

「アメリカはオープンウェブの割合が20%もあって、GAFAMを中心とする大手プラットフォーマーと使い分けられている。それに対し、日本はオープンウェブの割合が2%しかない。これはメディアプランが偏っているのではないかと見ることができます」

Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft。IT企業の雄「GAFAM」は、ITだけでなく、デジタル広告の分野においても大きな存在感を示しています。日本は特に大手プラットフォーマー依存が高く、その偏りも「課題のひとつである」と指摘しました。


現状④マス4媒体由来のデジタル広告市場

最後は、電通「2022年 日本の広告費」をもとにマス4媒体由来のデジタル広告市場の推移を紹介。

マス4媒体由来のデジタル広告市場

デジタル広告の調査を開始した2019年と比較し、2022年のマス4媒体のデジタル広告市場は1.7倍の規模(1211億円)に伸長したことを解説。さらに動画広告が3倍の数値に伸びていることにも言及。これは「コンテンツ起点のデジタル広告への期待感の高まりを意味する」と語りつつも、一方で、オープンウェブ市場の一翼を担うには、さらなる整備が必要であると話しました。

現状から見えた、デジタル広告の抱える課題

4つの現状から、長崎は「デジタル広告の課題」を以下のように語りました。

「ひとつは、メディアデータの進化・統合。これまでは、テレビCMや新聞・雑誌広告など、4マス媒体のメディア出自によるものが多かったのですが、今後は、ユーザー体験による区分(メディア別ではなく、フォーマット別)に変えていくことが重要です。
たとえばビデオ広告、テキスト広告、オーディオ広告と区分する。こうすると、従来のインターネット広告との相対的評価が可能です。絶対評価のみならず、マス4媒体デジタルと、他のデジタル広告施策との相対評価が理想形でしょう」

さらに長崎は、「インターネット広告の測定指標」について、アッパーファネルに出てくる『到達指標(リーチ)』、そして『購入(CV)』の可視化は重要ではあるものの、もうひとつ「ファンづくり」につながる、大切な指標があると言います。

「『興味関心・購入意向』といったミッドファネル効果もインターネット広告の測定指標には求められています」

また、現状のリーチの考え方には、課題があると長崎は指摘しました。

「リーチには、ポジティブなものと、ネガティブなものがあります。重要なのは、ポジティブなリーチを目指すことです。もしリーチに対し、広告がネガティブに作用した場合は『しつこい』と思われてしまいます。一方、ポジティブに作用した場合は、『この広告は必要な情報である』とプラスに作用します。
つまり、広告を意図通りに届ける、成立させるためには、受容性とリーチの両方が必要なのです」


「M-VALUE DIGITAL」調査について

ほぼ満席となったセミナー当日の会場内の様子

最後に、第二講で調査結果が報告された「M-VALUE DIGITAL」の紹介がありました。

長崎 「M-VALUE DIGITAL」は日本雑誌広告協会を軸に、出版社、広告会社、調査会社の垣根を越えたコンソーシアム形式で運営されている、オープンかつ透明性の高いプロジェクトです。

雑誌の評価はいまや、本誌だけではなく、そこから広がる電子版やウェブメディア、ソーシャルアカウントも含めて、評価対象になっています。

そのなかで、雑誌広告効果を測定する「M-VALUE」も2013年以降、どんどんデジタルシフトしています。2021年には新たに出版社間の共通指標を設立し、調査・運用スキームを開発。2023年の調査では、ミッドファネル指標を拡充し、一般ウェブメディアとの比較も調査しました。

第二講では、出版社Webメディアと一般Webメディアの比較を徹底的に解説します。引き続きお楽しみください。

▼第1回「M-VALUE DIGITAL(デジタル広告効果測定調査)」調査結果のリリースは下記よりご覧ください▼
https://ad.kodansha.net/info/detail/938/

・・・・

第二講レポートでは、「M-VALUE DIGITAL」調査 報告の詳細をお届けします。そこでは以下3つの検証について言及されています。公開は8月上旬を予定しています。

検証①:雑誌メディアが本来持っている、メディアブランドとコンテンツ価値が、Webメディアに転換されたとしても広告効果として反映されるのか?
検証②:出版社Webメディアと、一般Webメディアそれぞれのユーザー像と、情報源としての使われ方の違いは何か?
検証③:出版社Webメディアは、広告主による「長期的な視点に立ったファンづくり」に貢献できているのか?


■「出版社Webメディアはデジタルマーケティングの新たな一手になるのか〜M-VALUE DIGITAL ミッドファネル効果検証レポートより〜」
 ・第1講:デジタル広告の現状とM-VALUE DIGITALの位置づけ
 ・登壇者:講談社 長崎亘宏(M-VALUEワーキンググループ)
■日時:2023年7月20日(木)13:30〜14:50
■参加費:無料 (会員社限定)
■会場:集英社神保町ビル(千代田区一ツ橋 2-5-10)
■形式:リアルセミナー

C-stationロゴ

筆者プロフィール
C-station編集部

マーケティングの基礎知識、注目キーワードの解説やマーケティングトレンドなど、日々の業務に役立つ記事をお届けします。

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら