2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされ、いまや頻度高く耳にするキーワード「メタバース」。じつは講談社のR&D(=研究開発)部署・クリエイターズラボが窓口をつとめる関連会社「講談社VRラボ」(以下、VRラボ)は、およそ6年くらい前から仮想空間でアイドルを躍動させていました。ということで半歩、いや一歩先をゆく、VRラボの石丸健ニプロデューサー兼代表取締役に、活動内容について話を聞きました。
※講談社VRラボ=2017年、講談社とポリゴンピクチュアズが設立した、VRストーリーテリングの企画開発に特化した会社
※本稿は、2023年1月発行のクリエイターズラボ広報紙THELab.の転載です。
「 Inspire Impossible Stories」を体現する講談社VRラボ。その正体は?
──昨年は『Thank you for sharing your world』 (以下『Thank you』)がヴェネツィア国際映圃祭に ノミネートされ、受賞目前までいきましたね。
石丸 おかげさまで、世界に確かな爪痕を残すことができた、躍進の年でした。その要因は「テーマの選び方」だと思います。世界で多様性への関心が高まる中、"メッセージ性の強いヒューマンドラマ"を作ることができたのが、 世界で共感を生んだ理由なのではないでしょうか。
──実はVRラボにはこれまでにも、数々の国際映圃祭にノミネートされた実績がありますよね。
石丸 海外の映画祭には積極的にアプローチをしてきまし た。2019年に発表した"やわらかいVR体験"『オタワムレ』が、クロアチアの国際映画祭「Animafest Zagreb 2021」でBest VR Animationに選ばれるなど、少しずつ実績を積み重ねているところです。世界で「VRラボ」の認知度を高めていければ、と。
──現在のVRラボは、その目標に ふさわしい陣営だとか。
石丸 結果的に外国人スタッフが多く、メキシコ、スペイン、 ドイツ、アメリカ、香港の方々が制作・宣伝に関わってくれています。メキシコ人Unityエンジニアのひとりは学生物理オリンピック で優勝したとか。みんなまじめで個性豊かなスタッフが集まってくれました。
──このメンバー構成のメリットは?
石丸 社内が多国籍だと多様な意見や考え方をすぐに議論できます。企画を考えるうえでとても助かります。また、多数派がいない状況が和気蒻々とした雰囲気を生み出しています。いろんな国の人たちと接することが当たり前、という環境は、特に日本人スタッフにとっては大きな財産になると思っています。
──創業当時の目標と今とでは変化はありますか?
石丸 大きくは変わっていないですが、VRを作れる組織作りから始めて、多種多様な人を巻き込んでコンテンツを作る流れを軌道に乗せるのに3年かかりました。 その成果が、『Last Dance』という作品です。この作品が、世界の映画祭のいくつかにノミネー トされたことで、手が届くところに目標があるという実感を得て、さらに世界を見据えるようになったのが、その後の2年です。
──一方で、課題も見つかったとのこと。
石丸 これまで、ストーリーテリングをメインとする「ハイエンドコンテンツ」と、VRアイドル「Hop Step Sing!」(以下、 HSS)の両輪でやってきたのですが、HSSでのコミュニティ作り、人気を高めるという部分では、まだまだできていないと感じています。
しかし、この数年で「HSSでできること」の可能性が自分の中でどんどん高まってきていて、どう発展させていくかを考えることが、楽しみになっています。HSSには、新しいテクノロジーを入れやすい、マスの人たちを一度に取り込めるという面白さがありますね。
──会社のターニングポイントといえばどこでしょうか。
石丸 『Last Dance』は手応えを感じた作品で、自信にもつながりました。一方で、主要映画祭での受賞に至らなかった。では、映画祭を獲るにはどうすればいいのか、その見極めが課題となりました。これを踏まえて作ったのが『Thank you』で、結果、ヴェネチア(国際映画祭)にノミネートされたのではと思っています。
──作品の「テーマ」を探すために日常的に心がけていることは?
石丸 ヒトが見ることができないもの、体験できないことができるのがVRの良いところなので、今まで見てこなかったジャンルも積極的に興味を持つようにしています。360°で表現するのに適しているのかを見極めることもポイントですね。そのテーマ探しのために、面白そうなものを手当たり次第に見ています。映画とか本とか漫画、現代アートの展示などもとても参考になります。これはもう仕事というよりは趣味ですね。
──2023年「VRラボのここを見てほしい!」というところは?
石丸 まだ詳細は内緒ですが、某・芥川賞作家さんが『Last Dance』を観て、ご自身の世界観にVRが合っていると思ってくださったことで、なんとオリジナルストーリーを書き下ろしてくれました。この企画の流れにはとても可能性を感じています。
小説家というVRとは違うジャンルの人がストーリーを書き下ろして、仮にヴェネツィアなどの国際映画祭で賞を取れたとしたら、これを皮切りに「講談社経由で、さまざまな才能の持ち主とご一緒する」という流れが生まれ、もっと言えばVR業界に"まったく違う畑から新たな才能が流入する"きっかけになるかもしれません。そうなったらとても楽しいですし、業界にとってもいい傾向だなと思っています。
──最後に、VRコンテンツの魅力を一言お願いします。
石丸 今までのエンタメはどうしても「四角い画面」に依存していて、そのフレームを飛び越えるのは難しかったわけです。その点、VRは360°見られるし、触れるし、飛ぶこともできる。そして究極は「別の人生を体験」できる。これこそ、VRの魅力だと思います。
『Thank you for sharing your world』は、目の見えない人への「感情移入」にとどまらず、「成り代わって体験」することを実現できた作品です。これに象徴されるように、驚きのベクトルがまだまだたくさんあるのがVRで、既存のものとは全く違うエンタメを実現できる、そういう可能性を秘めています。
さらに、ネットワーク機能を使えば遊園地にわざわざ行かなくても、世界中の友達と自前のアバターで遊べる。そんな未成熟なメディアにおける最適なエンタメを、5年かけて探求してきましたので、講談社VRラボが作り出すVRコンテンツに、ぜひご期待いただければ嬉しいです。
講談社VRラボ コンテンツヒストリー
C-station追加情報
講談社VRラボが企画・制作を手がけた、VRアニメーション『Thank you for sharing your world』は、世界的な評価を受けました。以下、2023年1月(THELab.掲載後)以降の主なノミネート・受賞リストです。
◉ADC 102nd Annual Awards Gaming部門:Gold賞
◉LIFE ART FESTIVAL:VR作品賞受賞
◉Philadelphia independent Film Festival:招待作品
◉Los Angels Film Awards(LAFA):Best VR 受賞
◉Balcelona Planet Film Festival:Best Virtual Reality受賞
◉Animefest Zagreb 2023 ノミネート
◉Harlem International Film Festival 2023 Best Virtual Reality
◉Fine Arts Film Festival:ノミネート(6月22日に結果判明)
本作は、2023年5月、世界で最も古くから開催されている広告デザインの国際賞「ADC 102nd Annual Awards 」のGaming部門でもGold賞を受賞した
<作品概要>
・監督:作道 雄
・製作年:2022年
・作品尺:約33分
・ジャンル:VRアニメーション
・企画・制作:講談社VRラボ
・製作:講談社
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弊社R&D部門・クリエイターズラボの月刊レポート「THELab」vol.02よりの転載です。
※「THELab」vol.02はこちら