2023.05.24
マーケティングファネルとは? パーチェスファネル、インフルエンスファネル、ダブルファネル──3種を詳しく解説 |マーケティング超入門
「マーケティングファネル(Marketing Funnel)」は、顧客の購買行動を段階的に表したモデルです。一般的には1960年代から1970年代にかけて、マーケティングの専門家や研究者によって開発された戦略立案のためのフレームワークとされています。
かなり前から提唱されているモデルでもあり、古いマーケティング概念という意見もみられますが、マーケティングファネルをデジタルマーケティングでも使えるフレームワークとして再定義する考え方も出ています。今回は、顧客の購買行動を理解しマーケティング戦略を構築するための基礎的な考え方として、あらためてマーケティングファネルにスポットを当ててみました。
マーケティングファネルとは?
ファネル(Funnel)は、英語で漏斗(じょうご)を表す言葉です。マーケティングにおけるファネルは、広く集められた顧客が、購入を検討していく行動段階で漏斗を通したように徐々に少なくなっていくことを示しています。
マーケティングファネルの概念
そのマーケティングファネルの背景となっているのが、マーケティングファネルよりはるかに前の1900年ごろから1920年代にかけて提唱された消費者の意識変容プロセスの説明モデル、AIDA(アイーダ)とそれを発展させたAIDMA(アイドマ)の法則です。
AIDMAとは、AIDAに「Memory」のプロセスを加えた、以下の消費者の意識プロセスです。
- Attention「注目する」
- Interest「興味を持つ」
- Desire「欲求が生じる」
- Memory「記憶する」
- Action「行動する」
マーケティングファネルでは、これを以下のように上からファネルへ当てはめるのが一般的です。
- 認知
- 興味・関心
- 比較・検討
- 購入
マーケティングファネルの基本形
まず消費者は、メディアや検索、口コミなどによって受動的あるいは能動的に、その商品または商品カテゴリーについて認知します。これが「認知」段階です。
次の「興味・関心」段階では、商品カテゴリーや複数の商品についてより深く調べ知ることで興味や所有したい気持ちが形成されていきます。
さらに「比較・検討」段階では、実際に購入するために、各商品の特長や機能・価格など最終的な判断材料を集めて検討します。そして最後に、「購入」段階に至ります。
これらの段階を経るとともに、自社の商品やサービスはふるいにかけられ、漏斗を通したように実際の顧客数が絞られていくことになるのです。
どう活用されてきたか
ここまでの内容を「ごく当たり前のこと」と感じた方も多いかもしれません。ではなぜ、この考え方が長い間支持されてきたのでしょうか。
消費者の意識をわざわざ漏斗に見立てて段階的に表現している理由は、各段階でどのような施策を行い、それが成果あるいは機会損失につながったかを確認し、それを今後の対応に活用するためです。
たとえば、こんな事例があったとします。
- 計画的に展開した広告活動によって、ターゲットに対し充分な認知が獲得できたことを調査で確認した
- 店頭やお問い合わせ窓口における反応も高く、ターゲットの興味・関心を得ることにも成功した
- しかし、売上は思うように伸びない
このケースでは、必然的に「比較・検討段階」に問題があったと考えられます。
比較検討中の顧客に対して、「競合よりも優位に立てるような情報をしっかりと表現できていたか?」、あるいは「情報と出会えるタッチポイントを充分に作ることができていたか?」などを検証し、課題を見つけ解決につなげていくことができるのです。
マーケティングファネルの種類
マーケティングファネルは、主に3つの種類で考えることができます。
パーチェスファネル
前項までで紹介した4段階で表現したファネルモデルがパーチェスファネルで、マーケティングファネルの基本形です。顧客の購買行動(purchase)を段階的に表していることから、このように名付けられています。
パーチェスファネル
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルは、商品やサービスを購入した後の顧客の行動プロセスをモデル化したもので、パーチェスファネルの逆三角形を逆さにした三角形の形状で表現されます。
段階は
- 継続
- 紹介
- 発信・拡散
が一般的で、購入後の顧客が次なる購入に影響(influence)を与えるプロセスが示されています。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルのバックボーンとなっているのが、AIDMAに変わって提唱されてきた消費者行動モデルAISAS(アイサス)です。AISASは、
- Attention「注目する」
- Interest「興味を持つ」
- Search「検索する」
- Action「行動する」
- Share「共有する」
から成るインターネット導入後の考え方で、Action「行動」の前後にSearch(検索)とShare(共有)の段階があるところが大きな違いです。これを購入後の顧客の行動に当てはめた理想形がこのインフルエンスファネルです。
実際には、購入した顧客が満足して利用を「継続」し、その良さを口コミやSNSなどで「紹介」し、そこからSNSでフォローやリツイート、シェアなどをして「発信・拡散」につながっていくプロセスで、デジタルマーケティングにこそ対応する行動モデルです。
ここでも「商品やサービスが『継続』して利用されているか?」、されていたら「その良さを『紹介』してもらえるレベルにまで達しているか?」、そして「その内容が『発信・拡散』されるに至っているか?」という検証を行うことで、課題を見つけて解決してゆく道すじが見つかるのです。
ダブルファネル
ダブルファネルは、上記のパーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせて一体化したもので、砂時計のような形状となります。
ダブルファネル
パーチェスファネルの行動プロセスを経て購入を終えた既存の顧客は、利用を継続してもらうことにとどまらず、インフルエンサーとしての行動プロセスに進んでもらうことが理想です。これによって顧客を拡大していくことをねらうモデルがダブルファネルです。
このダブルファネルの意義は、消費者が商品やサービスを認知して購入し、最終的に発信してもらうに至る理想的なプロセスを一気に確認し、施策と関連づけできることにあります。
たとえばSNSによる施策は「比較・検討」段階でも「発信・拡散」段階でも考えられますが、SNSを使うこと自体が目的化してしまい、本来の意味が見失われていることがあります。「SNSによって、ダブルファネルにおけるどのプロセスへの対策を行うべきなのか?」を明確にしていれば、適切な施策が遂行できるでしょう。
ダブルファネルのフェーズ
ダブルファネルを大きく4つの段階に分け、活動と関連づける考え方もあります。
プロモーションフェーズ
商品やサービスに何らかの興味を持っている潜在的な顧客に対し、興味を引くコンテンツや広告、プロモーションなどを通じて引き付けるフェーズです。
アクイジションフェーズ
新規顧客を獲得・開拓するフェーズです。見込み客のリストを作ったり、そこにアプローチしたりコンテンツを提供したりする活動が該当します。
リテンションフェーズ
顧客を維持・拡大するフェーズです。リピート購入やアップセル(同じ商品の上位版への販売促進)、クロスセル(別の商品の販売促進)などの活動です。
インフルエンスフェーズ
顧客に商品やサービスに関する発信をしてもらうフェーズです。口コミやSNSでの拡散をねらう活動などが該当します。
ダブルファネルのフェーズ
マーケティングファネルはもう古いのか
このようなメリットがあるマーケティングファネルですが、冒頭でも述べたように、もはや古いモデルであるとする意見も語られています。その理由を考えてみましょう。
マーケティングファネルでは、広告や販売促進活動・PRなどのマーケティング活動を、「見込み客を引きつけ、関心を維持し、最終的に顧客に変換するために、上から下へと段階的に実行する」ことを前提としています。しかし、現在のマーケティングにおいては、より多様な消費者とのタッチポイントが存在し、顧客が購入に至るプロセスが複雑化しています。
顧客が自発的に調べ、情報を収集することができる機会が多数存在し、それによって多くのマーケティングメッセージを受け取ることができるため、従来のマーケティングファネルが適用できない場合があるのです。
たとえば、パソコンを購入しようと思った場合を考えてみます。
- 最初は盛り上がってさまざまなメーカーの機種を検索し比較チェック
- そのうち「パソコンではなくタブレットにしてはどうか?」と考えるように
- 両方探すうちに選択肢が多くて疲れてしまいチェックを中断
- しばらく後にWEBで新しいタブレットを特集したコンテンツを見つけ、興味が再燃
- 理想的なタブレットが見つかって購入
この例では、行動が行ったり来たりしているだけでなく、最終的な購入製品までもが変わってしまっていますし、そもそも外部からの情報による認知ではなく、自分から検索して商品を見つけています。
また、購入や発信をゴールとするマーケティングファネルにあてはまらないビジネスモデルや行動機会も増えています。
しばらく前までは、自動車はマーケティングファネルに沿って購入プロセスが進む典型的な商品でした。しかし今では、自動車でもサブスクリプションサービスが導入されています。サービスを契約しても、気に入られなければ再び「比較・検討」に戻られてしまう可能性もあるのです。
他にも、インフルエンスファネルのゴールである紹介〜発信の内容は、ポジティブをどう増やすかが前提であり、ネガティブである可能性は含まれていません。しかし昨今ではネガティブな発信もSNSなどから容易になされてしまいますので、それを防ぐという視点も必要になってきます。このようなことは、ファネルではなかなか表すことができません。
SNS時代に上手に活用するには
マーケティングファネルに適しているのは
では、マーケティングファネルは現在では使えないモデルなのか、といえば、必ずしもそうではありません。時代は変わっても、消費者の行動プロセスが上から下へ移動していく商品は存在します。
所有性が高い、カスタマイズ意向が強いなど代替のきかない製品、外部からの情報によってニーズが発生しやすい製品(健康関連グッズなど)、また比較的行動プロセスが定まっている高齢者をターゲットとした製品などでは、マーケティングファネルの考え方が引き続き有効なケースも多いのです。ネットショップなどの販売環境においてファネルをあてはめ、どこで顧客が減少したか分析することも効果的です。
BtoBの製品やサービスについても同様です。導入を決めた製品やサービスのカテゴリーが途中で変わるということはほとんどありません。購入決定までのプロセスもファネルに沿い、さらに期限設定が決められていることが多いために中断の機会も少なく、マーケティングファネルに最も適しているといえます。
マーケティングファネルとカスタマージャーニーの違い
マーケティングファネルとよく比較されるのが、カスタマージャーニーです。その大きな違いは、マーケティングファネルが各段階における顧客の「人数」に主眼を置いているのに対し、カスタマージャーニーが注目しているのは各段階における顧客の「心理や行動」であることです。
カスタマージャーニーでは、購入までのプロセスを行ったり来たりするなど、顧客の複雑な行動や変化する意識などを取りあげることができます。しかし、最終的にはできるだけ多くの人に購入まで進んでいただきたいことに変わりはありません。カスタマージャーニーにおける各プロセスに対して、マーケティングファネルの「人数を確保する」視点から対策を考えることは有効なのです。
新しい購買行動モデル
マーケティングファネルに代わる新しい購買行動モデルも生まれていますので、いくつかご紹介しましょう。
マイクロモーメント
「マイクロモーメント」はGoogleが提唱する、モバイルの普及によって顕著となった購買行動モデルです。
消費者はスマートフォンなどによって、何かが「欲しい」「したい」「行きたい」と思ったとき、すぐに調べて行動を起せるようになりました。
様々なメディア情報が「刺激」となり、その多様な刺激から、何かをしたいという「欲求」が生じる。そして調べるという「反応」の多くがスマートフォンで発生する。(出典:Think with Google)
この行動に出る瞬間であるマイクロモーメント(Micro-Moments)を、以下のステップでとらえ、成果を得ようという考えかたです。
- 見極める:マイクロモーメントが発生するタイミングを見極める(いつ、どこでデバイスを手にし、どのような情報やアイデアを求めているか)
- 届ける:探している答えに最も近い情報や気づきをすばやく簡単に届けるユーザーエクスペリエンスを提供する
- 測定する:モバイルが生み出す価値をデバイスやチャネルの区別なく測定した上で、組織の垣根を超えたPDCAの仕組みを構築し、マイクロモーメント活用を最適化する。
瞬間的に欲求が高まる商品サービスや、モバイル検索で探されることが多い日常的な課題を解決する商品サービスなどで、特に重視したいモデルといえるでしょう。
意思決定の旅
マッキンゼーは「意思決定の旅」で、マーケティングファネルのように上から下へ進むのではない、4つの行動が循環する「ロイヤリティループ」というプロセスによる購買行動モデルを示しています。
「意思決定の旅」では、以下の4つの行動が循環して意思決定されるとしています。
- 初期検討
- 積極的な評価
- 購入の瞬間
- 購入後の体験
ループというだけあって、マーケティングファネルのようにプロセスを経るにつれて人数が減っていく前提となっていません。購入後の体験によってロイヤリティが高まり、さらなる購入(クロスセルやアップセルなど)につながっていくとされています。
DECAX(デキャックス)の法則
DECAXは、2015年に電通デジタルホールディングスが提唱した購買行動モデルです。主にコンテンツマーケティング領域における消費者行動プロセスを、以下の5段階で表しています。
- 発見(Discovery)
- 関係構築(Engage)
- 確認(Check)
- 行動・購買(Action)
- 体験共有(Experience)
このモデルの新しいところは、最初の段階で企業から情報をプッシュして「認知」させるのではなく、消費者に「発見」してもらうことにあります。したがって、オウンドメディアやSNSにおける発信内容など、コンテンツに関する施策が重要となってきます。
発見してもらったあとは、消費者との関係性を構築して購入に結びつけ、さらに購入を終えた人には共有を促進することによって新たな見込み客を増やしていきます。コンテンツマーケティングを主軸にした理想形を示す購買行動モデルとして、意識しておきたい法則です。
終わりに
本記事では、マーケティングファネルという行動モデルに関する解説とその活用法、またマーケティングファネルと併用したりマーケティングファネルとは別に採用することができる行動モデルまでご紹介してきました。
マーケティングファネルは、提唱されてから長い時間がたっているモデルであるぶん、時代に合わないといわれることも多くなっています。しかし、基本であるパーチェスファネルにインフルエンスファネルを組み合わせたダブルファネルで考えたり、カスタマージャーニーを組み合わせたり、コンテンツマーケティング領域においてはDECAXの法則を採用したりなど、現代に合ったアレンジで採用すれば、いまでも見込み客を育てながら成果につなげられる可能性を持っているでしょう。
【マーケティング超入門シリーズ】
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筆者プロフィール
C-station編集部
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