2023.05.16

「『日常を楽しくする』。マンガはそのためのヒントを教えてくれる存在」書道家・現代アーティスト 武田双雲──マンガから学んだことvol.9

さまざまな分野で活躍する人物から「マンガから学んだこと」を聞く連載。第9回は、書道家の武田双雲さんです。サラリーマンから書道家に転身し、道なき道を開拓してきた武田さんは、マンガからどのような影響を受けてきたのでしょうか。

書道家・現代アーティスト 武田双雲
1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。約3年後に書道家として独立。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」など、数々の題字を手掛ける。文化庁から文化交流使に任命され、海外で日本文化の普及に務める。また、日本はもとより、アメリカ、ドイツ、スイスなど世界各国で個展を開催。ベストセラーの「ポジティブの教科書」(主婦の友社)をはじめ、『丁寧道』(祥伝社)、『「ありがとう」の教科書』(すばる舎)など、著書は 60冊を超える。

書道にも影響を与えた、『はじめの一歩』の力強さ

──書道家として活躍されている武田さん。実はマンガがお好きだそうですね。

武田 はい。子どもの頃からマンガは大好きで、当時はマンガを読むために頑張って勉強を終わらせていたほど。いちばん好きだったのは『Dr.スランプ』です。キャラクターが真面目な顔になったり、デフォルメされたりと言った変化や表現方法は、文字を書くときにも影響を与えていると思います。子どもの頃から、文字をきれいに書くだけではなく、下手に書いてみたり、デフォルメしたりしながら、字で遊んでいました。

──子ども時代からマンガの影響を与えていたのですね。学生時代は、どのようなマンガがお好きでしたか?

武田 学生時代に読んだ作品はたくさんありますが、書道にも影響を受けたという点では『はじめの一歩』を挙げたいですね。

なんといっても、静止画なのに臨場感がすごいですよね。1枚の絵(コマ)でここまで表現できるのかと、感動しました。書道でも、ひとつの文字だけで表現することがあります。そのなかで、いかに文字に勢いやインパクトを持たせるか。躍動感の表現は、『はじめの一歩』から影響を受けている部分もあります。

(左)はじめの一歩(1)著:森川 ジョージ
(右)行け!稲中卓球部(1)著:古谷 実

あと『行け!稲中卓球部』もハマりました。出会った当初、本当に衝撃的だったギャグマンガです。モテないダメ男の嫉妬や劣等感、むなしさなど、思春期特有の少年の心情が上手に描かれていますよね。ちなみに、実家には全巻揃えており、たまには読み返しては、いまでも癒やされています(笑)。

──硬派からギャグマンガまで、幅広いジャンルを読まれているのですね。武田さんは書道家になる前、サラリーマンとしても働かれていましたが、その頃好きだったマンガはありますか。

武田 サラリーマン時代には『課長 島耕作』が好きでした。僕はどちらかというと、あまりクールなキャラクターではないので、「島耕作のようなカッコいい課長になりたい」と、彼に憧れを抱きながら読んでいましたね。

また入社当初は、初めての社会人経験と言うこともあり、会社組織ゆえの理不尽さというものに戸惑うこともありました。『課長 島耕作』を読むことで、会社での立ち振る舞いの勉強にもなりましたね。

課長 島耕作(1)著:弘兼 憲史

──最近は、どんなマンガを読みましたか?

武田 『東京卍リベンジャーズ』ですね。

出会いは、飛行機で見た実写映画でした。これがおもしろい! その場でネット通販を使ってマンガを全巻購入してしまいました。予想を裏切る展開が続き、いつ読むのを止めればいいのかわからないというほど、夢中になって読んでしましました。

キャラクターも魅力的ですよね。弱い主人公が人と関わりながら成長していく姿がいい。特に、ドラケンとマイキーのカッコよさは、ダントツ。すごく好きですね。

東京卍リベンジャーズ(1)著:和久井 健

自身の独立と『蒼天航路』の環境がシンクロ「作品からエネルギーをもらった」

──マンガを読む際、「書道家ならではの視点」があれば教えてください。

武田 「線質」は見ちゃいますね。強かったり繊細だったり、マンガ家さんによって、線質は異なります。特に好きな線質のマンガは、繊細さと大胆さが同時に存在する『蒼天航路』です。緻密に描き込まれたコマで構成された世界観、そしてストーリー、どちらも素晴らしいと思います。

蒼天航路(1)著:王 欣太 原案:李 學仁

僕は25歳のとき、それまで勤めていた会社を辞め、独立して道なき道を進むことになりました。「これからどうする」となったとき、未来を切り拓くために懸命に生きる『蒼天航路』のキャラクターたちから、ものすごい勇気やエネルギーをもらいました。ったのです。人生の門出と、彼らの環境が自分の中でシンクロしたのだと思います。

すべての書道家が衝撃を受けた、筆で描かれた『バカボンド』

──すてきなエピソードですね。ほかに「線質」が気になるマンガ家さんはいますか?

武田 井上雄彦先生の『バカボンド』の線質はすごいですよね。僕に限らず、書道家は衝撃を受けたと思います。ずば抜けたものを感じます。

バガボンド(1)著:井上 雄彦 原作:吉川 英治

筆で描かれているのですが、うまい下手を越えているんです。水墨画では描けなかった、井上さんしか描けない世界になっていると感じました。演出、世界感、キャラクター、ストーリーすべてが完全完璧にマッチしている作品です。本当に素晴らしいと思います。

マンガが盛んな国の日本人として、僕も楽しさを伝える伝道師でありたい

──たくさん作品を読まれてきた中で、マンガと書道では、どういった部分が似ていると感じますか。

武田 マンガも書道も、白と黒の世界。書道は1枚の紙に「字」で表現し、マンガも1枚の絵(コマ)で、表現をするという点は似ていますよね。

僕が書いた線に、そのときの感情や表現が乗るように、マンガで描かれる表情や仕草など、1本の線の上にもキャラクターの思考や感情が表現されていると感じます。そして「文字」は、英語で「キャラクター」と言います。つまり、書道もマンガも"キャラクター"が描かれているという点では共通しているわけです。

──「書」にもプラスの影響を与えてくれるマンガは、武田さんにとって、どのような存在ですか?

武田 僕の人生のテーマは「日常を楽しくする」です。そのなかでマンガは、あらゆる手段、表現方法で「人生の楽しみ方」を教えてくれます。だからこそ、日本のみならず、世界中で愛されているのでしょう。

マンガは、日本が世界に誇る文化です。僕も日本人のひとりとして、マンガのように、多くの人に「楽しさ」を伝える伝道師でありたい。小さな頃から抱えていた、マンガ家さんへの憧れ。その尊敬をエネルギーに変えて、これからも「楽しさ」を伝える活動をしていきたいです。

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筆者プロフィール
C-station編集部

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