2022.12.23
「メタバースが加速させるコンテンツビジネスの未来」 ── 講談社メディアカンファレンス2022 ミライトーク03レポート
「メタバース」はコンピュータネットワークの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを指します。本セッションでは、リアルなメタバースの現在地と未来についての解説や、コンテンツビジネスの可能性と将来像の解像度についての議論をお届けしました。
※本稿は、ビジネスオンデマンド動画「講談社メディアカンファレンス 2022 ミライトーク03」のレポートです。動画は、2023年1月までアーカイブ公開中です。詳しくはこちらをご覧ください。
左から、
・講談社 ライツ・メディアビジネス局 IPビジネス部 副部長 石本洋一
・株式会社POCKET RD 代表取締役 プロデューサー 社団法人Japan Contents Blockchain Initiative 理事 iU 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授 籾倉宏哉(もみくら・あつや)氏
・講談社 第四事業局クリエイターズラボ メタバースラボ チーム長 佐川俊介
仮想空間「メタバース」とは何か
講談社 ライツ・メディアビジネス局 IPビジネス部 副部長 石本洋一(以下、石本)
「メタバース」は、「超(Meta-)」と「世界(Universe)」を組み合わせた造語です。一般的にはコンピュータネットワークの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを指すといわれています。
このセッションでは「メタバース」という言葉が広がる前から、3DアバターやWeb3技術の開発を手がけ、世界中のメタバースをはじめとするXR領域の未来を切り拓く、POCKET RD社代表の籾倉宏哉さんにご登壇いただき、リアルなメタバースの現在地と未来を解説していただきます。
さらに、弊社クリエイターズラボ、メタバースチーム長・佐川との対談を通して、コンテンツビジネスの可能性と将来像の解像度を明らかにしていきます。籾倉さん、佐川さん、よろしくお願いいたします。
株式会社POCKET RD 代表取締役 プロデューサー 社団法人Japan Contents Blockchain Initiative 理事 iU 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授 籾倉宏哉(以下、籾倉)
POCKET RD社では、アバターを制作するプラットフォームと、NFTを使ったビジネスをつくるためのBaaS(Banking as a Service)を提供しています。本日はメタバースをテーマにみなさんと一緒に勉強させていただき、新しい情報をインプットできることを楽しみにしています。よろしくお願いいたします。
株式会社講談社 第四事業局クリエイターズラボ メタバースラボ チーム長 佐川俊介(以下、佐川)
私は2012年から2014年頃、理系の大学院でメタバースの研究をしていました。今日は籾倉さんとメタバースについてお話できるのを楽しみにしています。よろしくお願いいたします。
バズワード化した「メタバース」
石本 佐川さん、まずはメタバースとは何か、というところから解説していただけますか?
佐川 僕は「メタバース」という言葉は、2021年あたりから急に出てきたという印象を持っています。それまでもVR、XRという文脈はありましたが、急にここ1〜2年でバズワード化したなという印象を持っています。
書店に行けばメタバース関連本も数多く並んでいますが、メタバースの定義はまだ曖昧です。籾倉さんはメタバースにどのような印象がありますか?
籾倉 インターネットのスピードがあがり、端末の性能もあがったことでリッチなコンテンツが楽しめる環境が整ったからこそ、メタバースみたいなキーワードでコンテンツをつくろうという動きになってきた印象があります。
1995年をインターネット元年、2007年をスマートフォン元年というなら、2021年はメタバース元年といえると思います。
「2021年はメタバース元年」と語る籾倉さん
ソーシャルゲームもメタバースのひとつ
佐川 僕の認識では、メタバースはオンライン上に構築された現実世界ではない3次元空間で、かつコミュニケーションできる場所であれば、メタバースと呼んでいいのかなと思いますが、そのあたりはいかがですか?
籾倉 「FINAL FANTASY(ファイナルファンタジー)」や「あつまれ動物の森」、「Fortnite(フォートナイト)」のように、いわゆるMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)は、メタバースというキーワードが始まる前からありました。これをメタバースと呼ぶなら、すでにおもしろいメタバースは世の中にあふれていますよね。
MMORPGゲームもメタバースの一種とも言えると解説する籾倉氏
佐川 メタバースを、日本ではいま、企業やクリエイターがコミュニケーションに活用している印象があります。
籾倉 日本のメタバースが「コミュニケーションのメタバースだ」というのはここ最近の認識ですが、海外ではもっと前から進んでいます。
たとえば、世界最大の3Dゲームとソーシャルメディアがアバターで体験できる「imvu(アイエムビイユー)」や、全世界3億人のユーザーがプレイするグローバルプラットフォーム「ZEPETO(ゼペット)」などは、メタバースとしてはすでにかなり成長していますし、ユーザー規模も日本とは桁違いです。
Facebook(現Meta)の社長であるザッカーバーグ氏が、起死回生をかけてFacebookから社名をMetaに変えました。日本からもMetaを超える企業が出てくるといいなと思っています。
世界には、数億人規模のユーザーを抱えるメタバースもすでに存在している
Metaがメタバースビジネスに与えた影響は多大
佐川 メタバース業界の第一線を走っている籾倉さんから見て、Facebook社が社名をMetaに変えた影響。ビジネスシーンにおける変化は感じますか?
籾倉 投資という意味でもそうですし、メタバースコンテンツをつくることで出稿したり、マーケティングに活用したりする企業は非常に多くなってきていると感じます。
佐川 僕も2022年の6月からメタバースラボを担当していて、さまざまな企業とお話する機会が増えたのですが、どの企業も人材や予算をつけていて、本気度がうかがえます。
籾倉 日本の場合、技術先行というか、できること先行になっている印象です。
本来日本は、ユーザーが喜ぶコンテンツをつくれる力があります。日本には世界を代表するゲーム会社もたくさんありますし、講談社のようにIPを紡ぎ出せる力も世界的にレベルが高いので、シンプルに技術先行や投資として考えるのではなく、どうしたらユーザーが喜ぶのかを考えてコンテンツを世に送り出すことが重要だと思います。
佐川 テクノロジーは必要ですが、コンテンツも両輪で進めないといけないということですね。そして日本はそれを両方持っていると。
日本では、展示会系とエンタメ系のメタバースプレイヤーが台頭している
籾倉 ユーザーにとって何がおもしろいのかを徹底的に考えること。そこを楽しむ企業がたくさん出てくれば、企業もハッピーになるし、もちろんユーザーもハッピーになると思います。
プレイヤーが群雄割拠する「メタバース」
石本 いま、メタバースはプレイヤーが群雄割拠しています。プレイヤーの動向と、それぞれのプレイヤーがどういう方向を目指しているか教えてください。
籾倉 全世界的にメタバースは非常に注目されています。日本だとMeta社が注視されがちですが、Meta社以外にも欧米含めていろいろなプレイヤーがいます。
日本国内でも電話会社などのプラットフォーマーが「メタバース」というキーワードでコンテンツをたくさんつくっています。しかしBtoCモデルでコンテンツがつくられているというよりも、BtoBモデルでコンテンツがつくられていて、それがリッチになっている要素が大きいと思っています。
BtoCは、無課金でテストトライアル的にコンテンツが用意されているケースも多くあります。今後ユーザーが課金をしたくなる仕組み作りを整備することで、BtoCモデルも盛り上がってくることを期待しています。
「日本のメタバースビジネスは群雄割拠」と解説する籾倉氏
自由な発想が切り拓く、メタバースの未来
石本 ではここからは、メタバースの未来について進めていきます。
世界中のプレイヤーがメタバースの未来に対していろいろな戦略を考えているとは思いますが、ここでは講談社とPOCKET RD社さんで考えている新しい事業もふまえ、語っていただけたらと思います。
籾倉 メタバースは自由に発想することが大事です。
講談社の持つIPを紡ぎ出してきたプロデュース力やアイデアをまとめる力が僕にとっては非常に魅力的でしたので、ぜひ一緒にメタバース事業をやらせていただきたいとお声がけさせていただきました。講談社は「自由な発想」をとても大事にしておられますよね。
佐川 籾倉さんにそうおっしゃっていただけるとありがたいです。メタバース関連事業としてご相談を受けるときに、弊社の持つIPを使ってメタバース空間をつくれないかというご相談をよくいただくのですが、講談社は総合出版社なので、マンガ以外にも、女性誌や児童書の編集者もいます。
ファッション誌はひと昔前まで、毎月雑誌を出版することで、さまざまなムーブメントを生み出していました。ですから、メタバースのコンテンツをつくる時も、ユーザーがどういう心理になってどう共感し、どういうロードマップを辿るかというのを、編集者は描けるところに強みがあると考えています。
籾倉 メタバースはコミュニティなので、ファッションという切り口のメタバースがあってもいいですよね。
アバターの服を着替えるだけでなく、そこに複合的なサービスを付与できるのがメタバースの魅力
佐川 籾倉さんの会社のアバター技術を使えば、ファッションを着せ替えるシステムもできます。さらにそこに、「ViVi」のモデルがデザインした限定のアイテムを買えばファッションショーに参加できます、というような複合的な付加価値を提供できれば、もっと楽しくもっと広がると考えています。
メタバースはもうひとつの世界であり、もうひとつの経済圏
石本 メタバースが進化するとどうなるのか。不安と希望を抱いている方も多いと思いますので、そこに対してもメッセージをお願いします。
佐川 僕も不安な部分は正直あります。でも思い返すと、インターネットが出てきたときも、YouTubeが出てきたときも、最初は否定的にとらえていた方が多かったと思います。
ですから、いまのメタバースに固執せず、"メタバースが当たり前"になる世界が訪れることを信じて、ただひたすらコンテンツをつくり、ビジネスを行っていくことが大事なのかなと思っています。
籾倉 メタバースはいま、世界全体で壮大なテストをしている期間です。まだ何の答えも出ていない状態であり、何のルールもない状態だと思います。
マーケティングでメタバースを使えないか、自分たちのコンテンツを使ってメタバースで何かできないか、と考えている方も多いと思いますが、まずは飛び込んでみること、テストしてみることが非常に重要かなと思います。
「メタバースをやりたい」という企業担当者にお話をお聞きすると、「メタバースをやったことがない」とおっしゃる方が多くいます。マーケターとして何か仕事をするためには、まずはご自身で体感いただくことが大事だと思います。
石本 メタバースはもうひとつの世界であり、もうひとつの経済圏でもあります。これから新しくビジネスにチャレンジする方にとっては避けては通れないところではないでしょうか。
佐川 講談社とPOCKET RD社さんで考えている新しい事業では、POCKET RD社さんの持つアバター技術を活用し、我々が世界観やユーザー体験をつくるという企画も進行中です。
ステークホルダーとしていろいろな企業さんにご参加いただくことが可能ですので、ご興味をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。
石本 本日はありがとうございました。
【講談社メディアカンファレンス 2022 ミライトーク03】
メタバースが加速させるコンテンツビジネスの未来
登壇者:
・籾倉宏哉/株式会社POCKET RD 代表取締役 プロデューサー 社団法人Japan Contents Blockchain Initiative 理事 iU 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
・佐川俊介/講談社 第四事業局クリエイターズラボ メタバースラボ チーム長
・石本洋一(モデレーター)/講談社 ライツ・メディアビジネス局 IPビジネス部 副部長