この連載では、ビジネス向け動画配信プラットフォームのグローバルリーダーであるブライトコーブの Product Marketing Director 森貴浩氏が、動画をマーケティングに活用するための実践的なノウハウをお伝えします。
第2回では、コンテンツマーケティングの中で動画を活用するメリットや、オウンドメディアなどで動画を活用することがリード獲得や売上増につながる理由について解説しました。
今回は、動画を使ったコンテンツマーケティングの応用編として、オンラインライブの活用について解説します。
オンラインライブは、リード獲得につながるマーケティング手法
コンテンツマーケティングを実施している企業が抱える課題のひとつが、「コンテンツを提供しても、売上に結びつかない」という点です。
SNSやオウンドメディア、ホームページなどでコンテンツを公開し、多数のアクセスを集めることができていても、集まった人たちに対してさらにアプローチできなければ売上にはつながらず、マーケティングの目的を果たせません。
アプローチするためには、アノニマス(匿名)の状態である訪問者を、メールアドレスや氏名などの個人情報がわかるリード(見込み客)にする必要があります。
コンテンツを閲覧・視聴しているユーザーにどのように個人情報を入力してもらえばよいのでしょうか。その解決策のひとつが「オンラインライブ」です。
オンラインライブには集客力がある
コロナ禍以降、オンラインイベントの開催は非常に多くなりました。単純にリアルイベントの代替手段としてオンラインで実施するだけでなく、リアルイベントにはない独自の価値を活かしてイベントの効用を最大限にする試行錯誤も続いています。
オンラインイベントには、開催コストを下げやすかったり、集客のキャパシティに上限がなかったりというメリットもありますが、他の情報伝達手段と比較して「集客力が格段に大きい」ことも特徴です。
やや極端な事例ですが、今年6月に行われた格闘技イベント「那須川天心VS武尊」の試合はAbemaTVで独占放送され、その際のペイ・パー・ビューの契約数は50万件以上になったと発表されています。有料の動画配信コンテンツでこれほどの集客を集めたことは画期的です。オンラインライブの可能性があらためて確認できた事例といえそうです。
オンラインライブではユーザーの個人情報入力のハードルが低い
動画コンテンツの提供方法は、大きく分けると3つに分類できます。
- 無料かつ登録不要で視聴できる
- 無料だが、視聴には登録が必要
- 有料
3の有料配信は、コンテンツマーケティングの領域とは言いがたいので割愛します。ここで注目したいのは、2のパターンです。
YouTubeやSNS、テレビ放送などは1にあたり、登録不要かつ無料でコンテンツを視聴することができます。ユーザーの立場からはこれが嬉しいですが、マーケティングの観点からは必要な情報を十分に取得することができません。
一方オンラインライブは、個人情報を入力するためのフックとして活用できます。普通の動画コンテンツと異なるプレミアム感があるため、その機会を逃すまいとユーザーが積極的に氏名やメールアドレスを入力するからです。視聴するためのURLをメールで個別配信するようにシステムを設計すれば、必然的にメールアドレスの情報を獲得できます。
SNSのフォロワーに対して、無料オンラインライブをフックに個人情報を入力させることができれば、リード化につながります。より精度の高い個人情報を集めるブリッジとなるのがオンラインライブだと言えるでしょう。
オンラインライブを活用したマーケティング成功事例
次に、コンテンツマーケティングの一環でオンラインライブをうまく活用し、リード獲得数を増やした大手生命保険会社の事例をご紹介します。
オンラインライブ実施にいたった背景
生命保険会社のA社では、コロナ禍によって顧客への対面アプローチができなくなり、顧客との接触回数が低下。新規のリード獲得も、既存顧客へのフォローも難しくなりました。そこで、オンラインイベントを定期的に実施して、顧客とのコミュニケーションをできるだけオンラインにシフトしようと考えたのです。
また、同時に顧客データベースの更新ができなくなったことも大きな課題でした。従来は、対面での接客時に個人情報をセールスパーソンが物理的に受け取り、社内の顧客データベースへ入力していました。しかし、コロナ禍で在宅勤務になったことで会社のデータベースにアクセスできなくなり、情報の更新ができなくなったのです。
そこでA社では、ウェブ上で顧客に直接個人情報を入力してもらう方針に変更します。しかし、そのためには、個人情報をスムーズに入力してもらうための理由が必要でした。
オンラインライブの効果
A社は、独自の動画配信プラットフォームを構築し、有名アーティストによるオンライン配信コンサートを複数回実施しています。集客のためのキャンペーンや、セールスパーソンによる既存顧客への告知活動を行い、2021年時点で1イベントあたり10万超の申し込みを獲得しました。あるライブ時には、同時接続数で最大9万人を超えるほどの視聴者を集めています。
視聴を希望する既存顧客や見込み客には、イベントへの申し込みにあたってオンライン上で個人情報を入力してもらいました。その結果、新規見込み客の獲得だけでなく、既存顧客に関するデータベースの精度が向上するという副次効果も生まれました。
顧客データベースがリッチになったことで、マーケティング施策の効果検証の精度も向上しました。誰にどんなメールを送ったのか、その後の保険加入率はどうだったのかを追跡・分析することも可能になったのです。より効果的な施策を検討できるようになり、売上改善にもつながりました。A社ではオンラインイベントを運営する専門部署を立ち上げ、継続的な施策を行っています。
「チケットプレゼントキャンペーン」の新しい形
コンテンツを体験する権利をインセンティブにする手法は、コロナ以前から行われていました。音楽ライブやスポーツ観戦のチケットを「抽選で〇名様にプレゼント」というキャンペーンを展開していた企業は多いと思います。いまご紹介したA社の事例は、こうしたキャンペーンの新しい形態と言えるでしょう。
オンラインライブの場合は、希望する全員にコンテンツを同時に提供することが可能です。住んでいる地域も関係ありません。出演者や内容によっては、相当数の集客が見込めます。高品質なオンラインイベントを実質無料で提供することで、視聴者の満足度は総じて高く、SNS上でもポジティブな反応が見られます。リードを獲得するだけでなく、企業のイメージアップにもつながるかもしれません。
オンラインライブをコンテンツマーケティングに組み込む際の注意点
こうしたオンラインライブを企画する場合、いかに多くのユーザーを呼び込むかを意識するため、コンテンツの魅力を上げることばかりに意識が向いてしまいがちです。
しかし、コンテンツマーケティングの一環としてオンラインライブを実施するのであれば、目的はあくまで売上につながるリードの獲得です。そして、獲得したリードがちゃんと商談に結びついて売上につながるところまで考えていく必要があります。
そのためには、ユーザーごとの視聴データが取得でき、MAツールとの連携が可能な動画プラットフォームを選択するなど、取得したリードをきちんと活用できる方法を検討しなければなりません。
また、オンラインライブを実施する際には、セキュリティ面やアクセス制限機能も必要ですし、何といっても配信の安定性は欠かせません。ライブの内容によっては、数万、数十万というユーザーが同時視聴するのです。せっかくいいコンテンツを配信していても、途中で視聴できなくなったらユーザーが一気に離れてしまう危険性もあります。さらに、リード化した見込み顧客との接点を持ち続けるためには、魅力的な動画配信やオンラインライブを実施し続ける必要があります。
先の事例でも、この結果を受けて専門のプロジェクトを立ち上げて、継続的なコンテンツ配信を続けています。安定したコンテンツ配信を続けるための体制づくりやプラットフォーム選択も意識しましょう。
総合出版社は、近年、動画の制作にも積極的に取り組んできました。雑誌の企画編集力を動画にも活かし、ターゲット層の話題を呼び、強く訴求するプロモーション動画を制作します。SNSなどでバズを呼び、拡散させる展開も得意としています。詳しくはこちらをご覧ください。
筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 Product Marketing Director Japan
森 貴浩(もり たかひろ)
株式会社USENでGYAO事業本部のショッピングチャンネル立ち上げと新規顧客開拓に従事し、当時日本初のWEB動画による広告媒体の営業を実施。その後、凸版印刷株式会社へ入社。営業としてイベントプロモーションをはじめとするアカウント先のプロモーション業務全般を担当し、動画制作業務も複数実施。
2019年にブライトコーブ株式会社に入社し、Account Managerとしてエンタープライズ領域の伸長をリード。2021年には新設されたChannelセールスチームのDirectorに就任、日本における販売代理店プログラムの立ち上げを行う。動画配信サービスのチャンネル立ち上げやイベントプロモーション、ブライトコーブでの様々なビジネスにおける動画活用のユースケースを作成してきた経験から、事業会社における動画活用全般に関して精通する。