2021.12.17
これから何が起きるのか? 「ファンマーケティング2.0」を考える| ニューノーマル時代のファンマーケティング教室[第8回]
ファンマーケティングのコミュニティマネージャーとして活躍する株式会社Asobica・CCOの小父内信也(おぶない・しんや)氏の連載です。
ニューノーマルの世の中でますます重要性を高める「ファンマーケティング」。その実践のために欠かせない考え方と手法について、じっくりと解説していきます。
早いものでこの連載も今回で8回目となります。これまでは、なぜファンマーケティングが現代において必要とされているのか? 企業はどのように考え、どう向き合っていくことが求められているのか? コミュニティのデザイン方法や盛り上げるための効果的な仕掛けや取り組む際の注意点は? などなど、文字通りファンマーケティングの教室となるよう、さまざまな面からの解説を展開してまいりました。
集大成となる今回はちょっと先の未来に目を向け、ファンマーケティングやファンコミュニティの世界でこれから何が起きて、何を重要視していくべきかを「ファンマーケティング2.0」と題してお伝えしたいと思います。
まず、私がこれからのファンマーケティングで重要だと考えているキーワードを2つ挙げてみます。
- パーソナライズ化の促進
- クロスコミュニティの活発化
あらゆる情報が溢れ、サービスが均一化していく世の中で、現代は「個」にフォーカスすることが非常に重要な局面になっています。
これまでの記事でお伝えしてきた情報爆発時代への突入やファンコミュニティの台頭が、この先どうマーケティングに影響を与えていくのか。もっと大きな視点でいえば、我々の日常生活にはどのような変化が訪れるのか。私自身にも興味深いテーマですが、ぜひ皆さんもこの機会に考えてはいかがでしょう。
ただその前に、まず覚えておく必要がある「個人情報の取り扱い」についてお話していきます。
避けては通れない「Cookie規制」
今、WEBマーケティング界を揺るがす出来事が起きています。ニュースや新聞などでもしばしば取り上げられている、「Cookie規制」という言葉をご存じでしょうか。まだよく知らない方に向けて簡単にご説明しましょう。
「Cookie」とはWebサイトに訪れたユーザーの情報を一時保存し、便利に活用できるようにする仕組みのことです。「Cookie規制」とは、Cookieによって取得したユーザーの購買情報、趣味や属性データを利用することが個人情報保護の観点から問題があるという考えから、Cookieの仕組みに規制をかけようとする動きを指します。
日本では、2020年6月に個人情報保護法が改正され、来年2022年に全面施行が予定されています。詳しくは、C-stationの以下の記事をご参照いただくと理解が深まると思います。
日本では今後どのようなCookie規制が行われるのか? その背景と広告や同意などの対策
<一部引用>
自社サイトの構成やコンテンツを強化し、サードパーティーCookieへの依存度を軽減する体制を強化することは、今後どの企業も力を入れるべき取り組みといえるでしょう。
自社サイトを充実させることによってサイトの価値を高め、ファンを増やすことは、同時にデータを蓄積する機会を増やすことにつながります。そして、そのデータを最大活用していくことが、サードパーティーCookieに頼らない独自のマーケティング手法へと育っていくはずです。
このように、今後はオウンドメディアの開設やオンラインコミュニティの構築によって、ファンと向き合う主戦場を自ら築き、運用していく動きにシフトしていく必要が出てきます。ロイヤリティの高いファンの属性情報やアクティビティデータを自社で蓄積し、あらゆる事業活動にフル活用することが求められているのです。
だからこそ、ちょっと先の未来「ファンマーケティング2.0」では、信頼をベースに個人とフェアに向き合いフォーカスするマーケティングが、より重要度を高めてくるはずなのです。
パーソナライズ化の促進
さらに今後のマーケティングの流れとして、「パーソナライズ化」が一層進んでいくようになると考えています。以前、この連載でも触れていますので、こちらも一部引用してご紹介します。
第6回 :ファンマーケティングの成功に欠かせないオンラインコミュニティ
<一部引用>
またパーソナライズという概念も昨今のマーケティングでは重要な考えとして浸透してきています。パーソナライズとは、「一人ひとりに個別に合わせる」といった意味があります。ユーザーの顧客属性やアクティビティ、興味関心などに合わせて、個別に施策を講じることで、施策自体のコンバージョン率を向上させる効果が期待できます。
パーソナライズの機能もオンラインコミュニティにはマスト要件で、ファンにはさらに喜んでもらえるような限定コンテンツを配信したり、まだ日の浅い初期フェイズの顧客には、導入的な情報を個別配信したりと、効果的な施策を講じることができます。
アメリカのデータ調査会社IDCの予測では、世界のAI市場は2024年までに年率17%以上で拡大するという見込みを出しています。これまではパーソナライズのために、ユーザーアンケートを実施したり、購入履歴や訪問したWebサイトの情報を分析したりと、あちこちに散らばったデータをかき集めて個人の趣味嗜好をカテゴライズしていました。それがテクノロジーの進歩、特に圧倒的なAIの進化によって自動でできるようになる日が近づいています。
例えば、UCC上島珈琲株式会社は、個々の嗜好に合わせたコーヒーを提案する「My COFFEE STYLE」を展開し、毎月好きなコーヒーをサブスクリプションで購入できるサービスを提供しています。このサービスでは、ECと店舗でのコーヒー体験を味覚評価としてデータ化し、それに基づいて「個」の嗜好に合わせたコーヒーを提案するというパーソナライズ化に着手しています。
UCC上島珈琲株式会社:My COFFEE STYLEの世界
なんとなくだった「自分らしさ」を自然とAIが分析してくれて、より生活自体が潤っていく。こういった動きが、日常生活のあらゆる場面においてナチュラルに取り込まれていくと想像すると、人生が豊かに楽しくなるイメージが湧きますよね。
ただ一方で、パーソナライズ化が促進することで生じる弊害もあると思っています。パーソナライズの究極は自動化ですが、それは過去の経験や思考を前提としてAIが行う分析です。それを信じることで、まだ見ぬ自分を知ることなく可能性を縮小してしまうことがあるのでは、と感じるのです。
それに、コンピュータが人と同じレベルに到達するには、まだまだ時間がかかるでしょう。人とコンピュータが融合し、双方の強みを活かしながら「個」を鮮明にしていくことが求められている点に留意が必要です。
シナジーを生むクロスコミュニティの活発化
そしてもう一点、さまざまなコミュニティが互いに交流(クロス)し、シナジーを生み出す「クロスコミュニティ」が活発になっていくと予想しています。
クロスコミュニティとは、AとBという異なるサービスのファンコミュニティがそれぞれの特徴や強みを活かし、新たな価値を創出するコラボレーション施策です。昨今、企業間のコラボレーションが活性化していますので、皆さんも日々生活する中で聞いたことや実際に体験したことがあるかもしれません。
例えば、多くのファンを有するキリンとグリコが面白いコラボレーションをして、SNSでバズった施策があります。
ターゲットは20代女性で、午後の紅茶とポッキーを食べ合わせるとティラミスの味が楽しめたり、パッケージを横に並べると1つの絵になったりと、ファンが楽しめるコラボレーション企画を展開しています。この両社のコラボレーションの背景には、顧客を大切にするあるキーワードが存在していました。
そのキーワードとは「Happiness」で、それぞれの商品が元々掲げているスローガンでした。この偶然の出会いによって、既成概念を打ち壊す新たな価値が創出され、結果的にSNSを中心に口コミが広がり、大きな話題を生むこととなりました。
まさにお互いの特徴や強みを活かし、シナジーを生み出した好例と言えるでしょう。
その他にも、私が運営している名刺アプリEightのコミュニティと会計ソフトのfreeeのコミュニティで、ビジネスイベント(ミートアップ)を開催した事例をご紹介します。この時もお互いのシナジーを発揮し、普段Eightを利用していないfreeeユーザーの方が新たにユーザーになってくださったり、その逆もあったりという成果を得ることができました。
ビジネスという共通項(コンテキスト)を軸に大変有意義なイベントになったわけですが、ファンコミュニティがあることで、企業側が必死になって売り込むことが不要となり、ファンユーザー同士が嬉々として自分の使い方やメリットなどを話してくれる事実を目の当たりにしました。
この先の未来は、このようなコミュニティ同士のコラボレーションがアメーバ式に無数に拡がっていくと予想しています。皆さんも、ご自分が関わっているコミュニティとシナジーが発揮できる商品やサービスがないか、思い浮かべてみるといいですね。ヒントは至る所にあると思いますので、ぜひ行動に移してみてはどうでしょうか。
終わりに
いかがでしたか。これまで全8回にわたり、ファンマーケティングの教室を展開してまいりました。
第一回目の記事の冒頭で述べた、「ファンマーケティングとは何か」という問いにご自身なりに答えられるようになりましたか?
それぞれの企業の歴史や歩み、置かれた状況などから、それぞれ異なるファンとの向き合いかたが存在するはずです。ぜひ、あなたにとっての「ファンマーケティング」の答えを追求してみてください。
ちなみに私は一貫して、以下のように考えています。
「ファンマーケティングとは、自身のサービスやプロダクトを愛してくれるファン(顧客)とともに、事業活動全般を、よりよい状態へと昇華させる営みである」
このことを頭の隅に置いていただき、企業ごとの「らしさ」を発揮したファンマーケティング/ファンコミュニティを実践していってもらえれば嬉しいです。それが皆さんのお客さまのワクワクを呼び起こし、喜んでいただくことにつながり、ひいては世界がより良くなっていくことになると信じています。
もちろん私も、引き続きファンマーケティングに真摯に向き合っていきたいと思います。ファンマーケティングやコミュニティのご相談はいつでもお受けしておりますので、遠慮なくメッセージしてください!(ぜひクロスコミュニティしましょう!)
この連載の本編はこれで終了です。長きにわたりご愛読いただき、ありがとうございました。このあとは番外編として、ファンマーケティングのさまざまなキーマンとの対談をお届けする予定です。お楽しみに!
ファンマーケティングのおすすめ本:8冊目
デイヴィッド・ミーアマン・スコット、ブライアン・ハリガン 著
ロックバンドとして有名なグレイトフル・デッドが、どのようにファンに愛され、向き合ってきたのかをマーケティング視点で綴った書籍です。
現代マーケティング(ファンマーケティング、バズマーケティング、フリーミアム、コミュニティ、カルトブランディング)において模範と言える戦略を、ロックという音楽を通して実践してきた様は圧巻です。
今のエンタメ業界に照らすと、韓国のBTSがまさに似たような戦略を描き、世界中で多くのファンに愛される存在になっていると思います。それを数十年前からやってきたという事実は、改めてすごいことです。ビジネス視点とは少し違ったところから、ファンマーケティングやファンコミュニティを見つめるのに適した良書です。
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筆者プロフィール
株式会社Asobica CCO 小父内信也(おぶない しんや)
20歳から工事現場で働きながら、日夜、音楽活動に没頭。25歳、結婚を機会に大手電子機器メーカーへ入社。社員5000人のうち0.5%しか選出されない社長賞を2度受賞。在職中に中小企業診断士を取得し、2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に参画。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。
現在は、カスタマーサクセス/コミュニティに特化したツールを提供する株式会社Asobicaで、CS責任者として数十のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。