2021.11.18

ABC特別フォーラム2021「雑誌由来のデジタル広告最前線〜ナラティブ化する装置としての出版社メディア〜」開催レポート

9月30日(木)、日本ABC協会主催による、出版社の広告事例やパネルディスカッションを通じて、雑誌メディアのさらなる可能性について追求するフォーラムがオンラインにて開催されました。その一部をご紹介します。

ファンマーケティングに活用される「出版社メディア」の現在

日本ABC協会は、新聞・雑誌・専門紙誌・フリーペーパーの部数を、公正な立場から一定のルールに則り公査(監査)・認証し、部数データを公開。2016年春からは、雑誌ブランドがもつメディアパワーをアピールすることを目的に、雑誌ブランド指標(WEB・SNS数値)も公開しています。

協会は会員制の組織で、広告の売り手である発行社、買い手である広告主、仲介する広告会社の3者で構成。10年ほど前からは交流を目的に、本ウェビナーのような特別フォーラムも行っています。

今回のテーマは「雑誌由来のデジタル広告最前線」。エントリー者数が700名を超えるという盛況で、関心の高さがうかがえました。

協会理事で、開発委員会・委員長を務める資生堂ジャパン株式会社 メディア戦略部エグゼクティブマネージャーの小出 誠氏は、冒頭の開会挨拶で雑誌広告の現状と展望をこのように語りました。

「紙の雑誌は部数の面でも広告の面でも苦戦が続いていますが、これは雑誌のパワーを紙の部数のみで判断した場合。いまや雑誌はさまざまなデジタルメディアで展開され、各雑誌はファンマーケティング広告に活用されています。すなわち、広告主は各雑誌の持つ資産を多角的にとらえ、雑誌社の総合的な力とともに組ませていただく時代になったのです」

デジタルで変わる出版社メディア

続いて、協会の雑誌ブランド指標ワーキンググループ リーダーを務める講談社ライツ・メディアビジネス局次長の長崎亘宏が、「デジタル広告市場における、出版社メディアの可能性」と題し講演を行いました。

長崎 まず、出版社メディアをとりまく5つのトピックについてご紹介します。

メディア接触時間の伸長
近年頭打ちだったメディア接触時間が、コロナの影響もあって昨年は約40分伸長。おもにオンライン接続が伸びました。

雑誌市場の再編
出版業界全体が「ビジネストランスフォーメーション」の中にあります。コロナの影響で100誌ほど休刊が出ましたが、単に「消滅」ではなく、多くはデジタル基盤のメディアとして再スタートしているか、これからする予定になっています。そしてその進化に対して、読者も、広告主の期待も高まっています。

日本の広告費
2020年度、インターネット広告費がマスコミ4媒体の広告費と並んだのは大きなニュースでした。
雑誌広告費は前年比73%ということで大きく低下しましたが、公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の調べによると、2020年の推定出版市場(紙+電子)は、前年比4.8%増で、2年連続の成長となっています。これが出版メディアの実態です。

「デジタルシフトにより、『雑誌』の定義は拡張している」と語る長崎

4媒体由来のデジタル広告費
マスコミ4媒体の中では、雑誌広告が最もデジタルシフトが進んでいます。マス4媒体のデジタル広告費の約過半数は、雑誌メディアが由来です。出版業界のデジタル広告比率は26.7%で、4媒体のなかではいちばん大きく、出版社によっては過半数を占めているところもあります。

雑誌広告の価値再編
2021年9月30日にリリースされた「新M-VALUEプレ調査」では、出版社6社(講談社、光文社、小学館、集英社、文藝春秋、マガジンハウス)、広告会社3社(電通、博報堂DYメディアパートナーズ、ADKマーケティング・ソリューションズ)による共同プロジェクトとして、20年11月から21年3月にかけて、各出版社の本誌とデジタルメディア(計10ビークル)を対象に調査手法の開発と実査を行いました。これはメディアブランドの価値を可視化するものであり、出版業界において初めての取り組みです。

雑誌メディアが抱える「デジタル広告の課題」

長崎 課題は2つあります。1つは「SNS」です。これはまだ検討中になっています。コンテンツメディアであり、ファンをもつメディアであるコミュニティメディアである雑誌がSNSでどういう影響をもっているか。これが課題です。

もう1つの課題は「比較」です。従来のビークル間比較に、本誌とデジタルというメディア内比較と、雑誌・新聞・テレビのメディア間比較も必要になってきます。

雑誌メディアの従来の価値というのは、ターゲットは個人、ゴールはリーチでした。今後はコミュニティを付加価値として、リーチの先にある共感や信頼をゴールに目指すことが重要となります。

今回、新たな定義として「ナラティブ化する装置としての出版社メディア」というのをワーキンググループで提案しています。

メディアプランニングで担う役割としては、以下の4つを考えています。

1) メディアブランドへの信頼と、コンテンツ体験がコミュニティを形成する
2) 企業・ブランドとユーザーを文脈でつなぐことができる(ミッドファネル効果)
3) 一方的なストーリーテリングではなく、ユーザーを巻き込んだ対話を生み出す(ナラティブな状態をつくりだす)
4) OMO(オンラインとオフラインの融合)構造でリアルでのアクションも喚起する。オフラインからオンラインへ、オンラインからオフラインへ
5)広告主の求める成果と対価を提供する

今回のセミナーを通じて、「雑誌の広告の強みとは何か」を考えていきたいと思います。

3社の雑誌広告事例

基調講演に続いて、3社の雑誌広告事例が紹介されました。

【事例1】共感できるライフスタイルを広告で提案

光文社『VERY』、小学館『Oggi』、CCCメディアハウス『FIGARO japon』 × トヨタ自動車
スピーカー:瀧川千智氏/博報堂DYメディアパートナーズ メディアプロデューサー

瀧川 女性ターゲットの共感を得るため、読者層の異なる女性誌3誌での合同タイアップを実施。従来の「モノ発信」のタイアップではなく、女性のインサイトをつかんでいる女性誌の視点で、読者が「自分ゴト化」して共感できるライフスタイルを描くところに注力し、「ヤリスクロスのある生活」を打ち出しました。

トヨタ×女性3誌のウェブタイアップ+Instagram企画

瀧川 「私だったらこう使う」というリアルな反応を共通のハッシュタグをつけて公式インスタグラムから継続的に情報発信。Instagramを最初から想定し、Twitter、Instagram、誌面それぞれの文脈にあったコンテンツを提供しました

結果として以下の4点を実現できました。

  1. TVCMとの相乗効果で、ミドルファネルである「興味・関心」「検索・来店・購入意向」にも貢献できた。
  2. ブランドイメージ&企業イメージに大きく貢献。ヤリスクロスでワンランク上、おしゃれというイメージを獲得。トヨタ自体の企業イメージにも寄与できた。
  3. 女性からは「おしゃれ」「かっこいい」イメージを獲得。
  4. 雑誌編集部内でも「編集部の力を信頼していただけた」と企業への好意が高まり、企業と雑誌メディアの関係性も強化できた。
課題としてあげるとすれば、デジタルは早いので、紙のスケジュールとデジタルのスケジュール感のギャップが難しい点ですが、今後も広告主様に編集部の価値を感じていただけるよう、広告主様の編集部ファンを増やしていきたいと思います。

【事例2】出稿ではなくメディアをともにつくる

日経BP『日経ビジネス電子版』 × NTTアーバンソリューションズ
スピーカー:新村尚貴氏/株式会社 日経BP 広告本部長

新村 2019年10月から継続的に展開している「ひとまち結び」は、お客様と一緒に展開しているメディアです。

地域の人々のサポートのため、「まちづくりの種」を知り、それを多くの人と享有し、まちと人をつなげていくような場としています。

出版社はニュースを伝えてリーチを稼ぐというよりは、コミュニティをつくっていくところが特長です。専門的な分野の記者を使い、まちづくりのヒントになるようなコンテンツを更新していこうとサイトを立ち上げ、メディアの知見を活かした特集やコラム、事例紹介など、毎月5〜10本の記事を公開しています。

ただのタイアップではなくメディアを立ち上げた「ひとまち結び」

新村 NTTアーバンソリューションズ様のタイアップ記事も一部入っていますが、自分たちのPRをするというよりはまちづくりのヒントを知ることで何らかのビジネスを起こすチャンスをつくろうと、コンサル会議も毎月行っています。

10月に立ち上げ、12月までの2ヵ月で合計20万超PVを獲得。現在は毎月10万PVを超えるサイトに成長しました。

2021年3月には、地域ごとにどんな記事があるかを検索できる機能も追加しました。

会社のPRにこだわらず、全国各地の「面白い」「参考になる」「元気になる」ところに終始した結果、BPマーケティングアワードのグランプリを受賞するなど、高い評価を得ています。

ファーストパーティーデータと日経BPの閲覧履歴を使うことで、コンテンツの付加価値と誘導効果をあげ、お客様にとって有効なサービスになっています。

【事例3】編集部ならではの高いコンテンツ力

東洋経済新報社『東洋経済オンライン』 × アウディ ジャパン
スピーカー:佐藤朋裕氏/株式会社 東洋経済新報社 ビジネスプロモーション局 部長

佐藤 東洋経済には、東洋経済と名のつくブランドと会社四季報の2ブランドがあります。四季報をつくるために、すべての企業に担当をつけているため、企業情報に強い出版社です。

今回は高級車の「Audi A8」と、「Audi Q8」というSUVでそれぞれのタイアップ記事を東洋経済オンラインに掲載。同時にタイアップ広告の内容に、追加コンテンツを加え特別冊子『Toyo Keizai prime』(アウディブランドの真実)を制作し、上場企業役員宛にダイレクトメールで送付するという施策を行いました。

雑誌の編集力を活かしたスタイリッシュなデザイン

佐藤 東洋経済オンラインは編集記事風で違和感なく自然に読んでいただけるレイアウトにし、冊子は『歴史とキーワードから読み解くアウディブランドの真実』という記事を追加し、高級感のある紙を使用しました。

広告案件を専門に手がけるスタッフが手がけ、

  1. 上場企業の役員3800社4万人にダイレクトに冊子を届けることができた。

ダイレクトメールは捨てられることが多いが、東洋経済の封筒で送っているので開封率が高かった。

  1. 高いクオリティ。
  2. 東洋経済オンライン読者にはアウディの顧客になりうる層が多く、リーチしやすい。

という成果が得られました。

メディアコミュニティーの力──パネルディスカッション

最後は、「実証された雑誌・デジタル・リアルでのメディアコミュニティーの力」と題し、集英社『MAQUIA』と資生堂ジャパンのタイアップ事例と効果検証についてのパネルディスカッションが行われました。

事例と効果検証について熱いトークが交わされたパネルディスカッション

佐藤朋裕氏(株式会社 東洋経済新報社) 『MAQUIA』の概要と、どのようなタイアップが行われたかについて教えてください。

古賀 路氏(株式会社 集英社) 『MAQUIA』は2004年に創刊した美容専門誌で、本誌、オンライン、公式SNSでのトータルリーチ数が約505万。『MAQUIA』独自の発信に共感する熱いファンコミュニティが形成されています。

今回は、リニューアルしたdプログラムのアレルバリアシリーズ商品理解とブランド認知拡大を目的として本誌、『MAQUIA』オンライン、さらに動画も制作した立体的な取り組みを行い、ビデオリサーチ様に効果検証をお願いしました。

平池綾子氏(資生堂ジャパン株式会社) 対象の商品はdプログラムのアレルバリアシリーズです。メイクアップ製品と異なり、スキンケア製品で、しかも複雑な内容なので、雑誌の編集部の力で効果を実感していただく仕掛けが必要と、本誌とデジタルを想定した企画をお願いしました。

効果検証を実施した事例の概要

中山不尽子氏(株式会社 ビデオリサーチ) 今回の調査では、『MAQUIA』本誌 公募比率57%(トータル閲読者数117サンプル)、『MAQUIA』オンライン 公募比率94%(773サンプル)という閲読者の方が評価してくださいました。

「広告を見た・読んだ(気がする)」という広告接触の割合は、本誌純広、タイアップ広告ともに約9割の高い比率(オンラインは約6割)。『MAQUIA』掲載による魅力度が高まるのと、商品・ブランドへの好感度が高いのは本誌タイアップがいちばん高いものの、認知から購入に至った数値は『MAQUIA』オンラインがいちばん高く、利用移行の変化もオンラインがいちばん高いという結果でした。

なお、本誌純広のイメージは「おしゃれ」なイメージがいちばん高く、タイアップでは「心地よい」という親和性、『MAQUIA』オンラインでは「わかりやすい」といった印象をユーザーに与えているようです。

認知拡大からアクションにつながる

佐藤 タイアップの効果について教えてください。

平池 購入意向が8割を超え、10ポイント以上の底上げ効果があったことは、タイアップの目的を果たしたといえます。口紅のような視覚に訴えるメイク商品と違い、「よくわかったので見てみたい」というアクションにつながったと実感しています。

今回の効果検証では、雑誌、オンラインを問わず、広告主接触者の「購入意向」はおよそ8割という結果となった

古賀 ブランド認知はもともと平均より高かったのですが、購入につなげることができました。サイトと本誌の複合的に広告展開したことでよい結果につながりました。

平池 雑誌には、読者にとっての価値を見いだし、読者の共感を得る表現に変換するという「インサイト発見力」と「コンテキスト力」があると考えていた仮説が証明されました。

雑誌は、難しい知見をメーカー視点で語るカタログとは異なり、生活者に寄り添って伝わるように変換できる力があります。また、読者の側も雑誌に対する信頼・絆があるため、情報として受け入れる素地を持っています。このもともと雑誌と読者の間にある「共創」がより高い効果につながったのではないかと見ています。

古賀 コミュニティの価値は媒体が一方的につくるのではなく読者と一緒につくるもの。「美容イコール人生」という読者の熱量が生の声として感じられました。

今回の調査では、『MAQUIA』オンラインのサイトを見ている人の半分くらいが『MAQUIA』本誌も見ており、サイトはほしい情報を探すときや、商品の色見本を確認する時に使うなど、オンラインの特性をうまく使いこなしていることがわかりました。

「じっくり読みたい、時間があるときは本誌」
「すき間時間、早く読みたい、いつでも読みたい時はオンライン」

という使い分けも顕著に表れていました。これまでは雑誌よりオンラインの方が読者は若いと思っていたのですが、ライフスタイルやその人の置かれている環境でわかれていることがわかったことも発見でした。

佐藤 今後メディアに期待することや目指していることを教えてください。

平池 読者と雑誌メディアの絆 編集者、美容家、ヘアメイク、読者モデルなどコンテンツに関わる一人ひとりが美容のKOLになりうる方々と思っていますし、その方々と良質なコンテンツをつくることができるのが雑誌メディアの力だと思っています。

それを支えるのは本誌やオンライン、SNS、雑誌公式アカウント、個人アカウントなので、いちはやく公式SNSを含めた雑誌のパワーを見ていきたいです。

中山 雑誌が持つコンテンツ力と編集力は人をつなぐ強さと高い信頼性があり、その価値は読者の言葉や行動で広がっています。SNSを含め、雑誌がつなぐウォーターマークな絆やプランニング、マーケティングに資する評価価値をしっかり伝えられるよう、これからも尽力してまいります。

古賀 出版メディアに期待される役割が量的なリーチを競うということだけでなく、よりセグメントされたライフスタイルにそった文脈で、情報を届けることができるコミュニティの価値に変わって来ているなかで、雑誌ブランドはより際立った個性、唯一無二のブランド力が重視されるようになりました。ポストCookie時代に向けても量的質的ともに高めていくことが大事だと思っています。

<登壇者>
平池綾子氏 資生堂ジャパン株式会社 / メディア戦略部メディアバイインググループ グループマネージャー
古賀 路 氏 株式会社 集英社 / 広告部 部長代理
中山 不尽子氏 株式会社 ビデオリサーチ / メディアコミュニケーション局 課長
佐藤朋裕 氏 株式会社 東洋経済新報社 / ビジネスプロモーション局 部長


最後に、日本ABC協会 理事 雑誌業務推進委員会 委員長を務める、株式会社 小学館 取締役 兼 広告局ゼネラルマネージャー 竹原 功氏は、以下のように話しました。

「デジタルという力強い伴侶を得て、広告活用の可能性はさらに広がっていくと思います。そういった意味ではまだ雑誌ブランドの力を出し切っているわけではないと言えるでしょう」

デジタルにおいてはPVやUUだけでなく、広告表示の在り方から記事の質も問われるようになっています。新しい指標の開発もさらに期待されるところです。

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