2021.10.13

ファンマーケティングの成功に欠かせないオンラインコミュニティ| ニューノーマル時代のファンマーケティング教室[第6回]

ファンマーケティングのコミュニティマネージャーとして活躍する株式会社Asobica・CCOの小父内信也(おぶない・しんや)氏の連載です。
ニューノーマルの世の中でますます重要性を高める「ファンマーケティング」。その実践のために欠かせない考え方と手法について、じっくりと解説していきます。


今回は、ファンマーケティングにとって切っても切れない関係にある「オンラインコミュニティ」について、大きく3つのパートでご説明していきたいと思います。
まずはコロナ禍のいまオフラインとオンラインが融合しつつある状況を、次にオンラインコミュニティの特徴と種類について、そして最後にオンラインコミュニティで提供したい機能について、ご紹介します。

コミュニティはオフラインとオンラインが融合していく

これまでの連載でもたびたび触れてきましたが、ファンマーケティングを効果的な施策として成功させるためには、ファンである顧客に信頼感や安心感を持っていただく必要があります。そこで、ファンに適切な情報を提供したり、ファン同士がサービスや商品を語り合ったりする「居場所」としてコミュニティが登場します。

そもそも「コミュニティ」とは何かという点については、「第3回:ファンコミュニティをデザインする」で詳しくご説明していますが、その中から一節をご紹介します。ここではファンマーケティングの根底として、顧客との信頼関係で成り立つコミュニティが不可欠であることを述べています。

コミュニティ(Community)の語源は、ラテン語の「Communitas」です。
そして「Communitas」は、2つの単語から成り立っています。1つは、共同や共通という意味の「co」。そしてもう1つは、貢献や任務を意味する「munus」です。もともとの言葉の成り立ちでは、「共同の貢献」という意味になります。
ここで「共同の」という意味が示しているように、コミュニティは複数の人が集まって形成される集団です。私の場合、3人以上が共通の目的のもとに集った際に、コミュニティが始まっていると考えています。

(中略)

さて、私は「ファンコミュニティとは何ですか?」と問われた際には、「ファンコミュニティとは、企業がファンに提供する信頼の場である」と答えています。
顧客やファンとの向き合いは、中長期的な関わりであり、流行に乗った一過性の営みではありません。いかに強固な「信頼」が築けるかがポイントで、顧客に安心と安全を感じてもらう場が必要です。

総務省が発表した「情報通信白書」における、2017年度の日本の20~70代のコミュニティ参加状況でも、何らかのオンライン&オフラインコミュニティに参加している割合が全体の90%近くに上っていることがわかりました。10年前の同調査の結果よりコミュニティ参加の割合は着実に増加しており、その概念が浸透してきている証拠といえるでしょう。読者の皆さんもほとんどの方が、すでに何かしらのコミュニティに所属しているのではないでしょうか。
コミュニティには、実際に特定の場所に集まる「オフラインコミュニティ」ネット空間で有機的に関わる「オンラインコミュニティ」が存在しますが、インターネットやスマートフォンの普及により、ネットの世界を中心とするオンラインコミュニティが活性化してくる動きも出ていました。

そして2020年初頭から始まったコロナ禍。これによって、世の中の流れは大きく変わりました。
コミュニティに関しては、これまで各地でファンミーティングやミートアップ、展示会などでファンや顧客と顔を合わせて密なコミュニケーションに注力してきた企業などが大打撃を被ることになりました。オフラインでの集まりが一瞬にして困難な状況となるなか、企業はどうにかしてファンとの関係を繋ぎ止めようと、オンラインでのイベントやカンファレンスなどにシフトせざるを得なくなりました。半ば強制的なオンラインシフトが加速し、一気に数年先の未来へタイムリープをしたような感覚を持った人も多いでしょう。

私がCCOを務める株式会社Asobicaではオンラインコミュニティに特化したサービスを提供していますが、コロナ禍に突入してからの1年半で、問い合わせが実に3倍ほどまで急増しています。以前は先進的なIT系ベンチャー企業からのニーズが多かったのですが、最近では日本を代表するような大企業や老舗企業からの問い合わせも急増しています。

ただ実施が難しくなっとはとはいえ、面と向かってファンと向き合うオフラインの濃密な時間はかけがえのないものです。そこでやり取りする情報量も違いますし、何より相手の細かな表情の動きや温度感、互いの相性というものが感覚的に感じ取れることは大きなメリットでした。コミュニティには、「オフラインファースト」という考え方がありますが、これはコミュニティマーケティングで有名な元AWS小島さんがコミュニティにとって優先すべき重要事項の1つとして挙げていた要素です。

それもあってか、コロナ禍以降はまずオンラインで先に出会って良好な関係を続けながら、時間を経てオフラインで二度目の出会いを実現するなど、今までとは異なるコミュニケーションが目立ってきました(私の関わるコミュニティでも、北海道のファンと沖縄のファンが画面越しに出会い、意気投合する様を目の当たりにしています)。本連載でもたびたび登場するクラフトビールのヤッホーブルーイングでは、「おうち超宴」と題して、これまでオフラインで実施していた大規模イベントをオンラインに移して実施しています。
コロナが収束に向かうにつれ、オフラインでの活動も戻ってくると思いますが、私はこの流れは当面続き、これからのコミュニティはオンラインとオフラインのハイブリッド型、つまりいいとこ獲りの時代へ突入すると考えています。

現代マーケティング界の父ともいわれるフィリップ・コトラー教授は、著書「マーケティング4.0」の中で、次のように述べています。

「オンラインの世界とオフラインの世界は、ゆくゆくは共存し、融合するだろう。技術はオンラインの世界にもオフラインの物理的空間にも影響を及ぼし、オンラインとオフラインの究極の融合を可能にする。」

(朝日新聞出版:コトラーのマーケティング4.0より)

この書籍はコロナ禍の前に出版されたものですが、まさに現代を予見するような内容です。コトラー教授としても、まだしばらく先のこととして捉えていたと思われますが、コロナ禍により一気にその状態が実現してしまったのです。

極めて価値の高いオンラインコミュニティの特徴とは

それでは、コロナ禍以降主役となりつつあるオンラインコミュニティの特徴とは何か、ご説明していきましょう。
オンラインだからこその特徴は、大きく以下の3つに集約できます。

  • ストック性(シェア/検索/資産)
  • スケーラビリティ(物理的な制約を受けない)
  • 分析の容易性(デジタル化→アナリティクス)

まず、「ストック性」とは、情報を貯める性質があることを意味します。オフラインの場合は、その場の雰囲気や温度感を生で感じ取ることができますが、参加していないとその恩恵を享受できないというデメリットがあります。しかしオンラインでのやり取りは、その場にいなくとも録画などで残すことで、いつでもシェアすることができます。情報をアーカイブすることで、容易に検索できるようになるなど情報の資産価値も高まります。
ただ、FacebookやLINEなどSNSでオンラインコミュニティを形成した場合はストック性には乏しく、どちらかというとリアルタイムをメインとしたフロー型になります。
短期的なキャンペーンコミュニティなどは、FacebookやLINEのような即時性、利便性の高いSNSを活用し、中長期的にファンとの関係を繋ぎ止めるには、ストック型のオンラインコミュニティツールを活用するなど、その目的に応じてプラットフォームを使い分けるようにすると良いでしょう。

2つ目の特徴「スケーラビリティ」は、日本語では「拡張性」と訳されます。オンラインコミュニティでは、物理的な制約を外すことができるため、コミュニティ自体の規模をスケールしやすくなります。
たとえば、キャパシティはネット空間では無限といえます。パーティー会場に100人までというレベルではなく、いつでもどこでも数千、数万人のコミュニティを自由に設計することが可能です。
また距離を越えられることも特徴的です。先ほどお伝えしたように、北は北海道、南は沖縄というように、同じタイミングで「場」を共有することができます。これは国内に限らず、時差はあれど地球規模ともいえます。
さらに異なる捉えかたをすれば、オンラインコミュニティは「時間」の制約も受けません。1つ目の特徴であるストック性により、同じタイミング、同じ場所に集う必要がなく、後から好きな時にほぼ同じ体験をすることが可能になりました。
このように、オンラインコミュニティはその場限りの瞬間的な集まりではなく、そこに所属するという形で、参加者の数が累積されていくのです。

最後の「分析の容易性」は、オンラインコミュニティでの行動履歴がデジタル化されることで、データとしての価値が飛躍的に向上することを意味します。オフラインでの展示会におけるアンケートの手集計など、その作業だけで数日要するようなこともなく、オンラインアンケートによって瞬時に回答結果をグラフ化したり、コアファンとなりうるユーザーの原石を発見したりすることができるようになります。
企業の購買データであるPOSデータと連携することで、オンラインコミュニティでの活動と購買関係の相関性を明らかにすることも可能です。たとえば、あるオンラインコミュニティにおいて○%のログイン率で、イベント参加数が○回以上の顧客は、売り上げの上位○%であることが分かるなどです。かの有名な「パレートの法則」(2割のトップユーザーが売り上げ全体の8割を占めていたという経験則)を実際に証明できたりします。
特に売り上げとの相関を示すことは、ファンマーケティングの施策そのものを評価をする上でも非常に重要な視点で、担当者が頭を悩ませるKPIの算出に大変貴重なデータになります。

以上のように、オンラインコミュニティは「やり取りされる情報の資産価値を高め」「より多くの顧客や参加者を集めることができるようになり」「その中から熱狂的なファンや売り上げに貢献している顧客を早期に見つけ出すことができるようになる」極めて価値の高いコミュニケーション手法です。
ファンマーケティングにおいては、一過性の施策を散発的に実施するのではなく、オンラインコミュニティというベースをしっかりと構築し、デジタル化した情報をフル活用し成果に結びつけていくことが重要なのです。ファンマーケティングでファンの心に火を灯し、オンラインコミュニティというキャンプファイヤーにつなげていくことの大切さを理解していただけたのではないでしょうか。

さまざまなタイプに拡がりを見せるオンラインコミュニティ

オンラインコミュニティといっても、その目的によってさまざまな種類が存在します。代表的なものをご紹介しますので、それぞれのニーズと役割を理解し、今後の取り組みの参考としてください。

ファンコミュニティ

ファンコミュニティとは、サービスや商品、または人物やブランドなど特定の事柄に関するファンが集うコミュニティです。熱狂的な盛り上がりを見せる傾向が強く、ファン同士の交流や応援が活発に行われる特徴があります。SNSとの連携など、ファンマーケティングとの相性は抜群です。
(例)
グリコ(withグリコ)
カインズ(Cainz DIY Square)
ネスカフェ(ネスカフェアンバサダー)
アディダス

ビジネスコミュニティ

ビジネスコミュニティは、特定企業の情報発信や顧客同士の交流、Q&Aサイトとして利用されるコミュニティです。オープン型かクローズド型かによって参加する人ややり取りされる内容が異なる傾向があります。サービスに関するTipsや最新のリリース情報などを取得できるメリットがあり、顧客のエンゲージメント向上や口コミの誘発、新規顧客の獲得に効果的なコミュニティです。企業ごとにSNSのビジネスアカウントを利用することもあります。
(例)
サイボウズ(キンコミ)
Sansan(Builders Box)
AWS(JAWS-UG)
Adobe(JMUG)

ナレッジシェアコミュニティ

ナレッジシェアコミュニティは、参加者同士が質問しあったり、回答しあったりするQ&Aサイトの側面があります。回答者はベストアンサーとして選ばれるとポイントを付与されるなど、承認欲求が満たされるゲーミフィケーションの仕組みが特徴的です。Yahoo!知恵袋やWikipediamなどが有名なサービスです。

(例)
CSカレッジ
Yahoo!知恵袋

オンラインサロン(個人コミュニティ)

オンラインサロンは、SNSやWebサイトを中心にサブスクリプション(月額定額制)で提供される会員制コミュニティです。限定的な情報やメルマガでここでしか見聞きできないリッチな情報を取得したり、メンバー同士でプロジェクトを実行したり、議論しあったりする内容の濃さに特徴があります。堀江貴文さんの「HIU」や西野亮廣さんの「西野亮廣エンタメ研究所」などカリスマ性を持った有名人のサロンが注目されています。

(例)
堀江貴文イノベーション大学校
西野亮廣エンタメ研究所
コルクラボ

ローカルコミュニティ

ローカルコミュニティは、特定のエリアを中心とする地域に根付いたコミュニティです。地域課題への対応や季節ごとの催事の中心的な役割を担うことなどで、地域の安定と活性化に寄与しています。インターネットの普及により、自治体独自のサイトやSNSはもちろん、地域の有志でもオンラインによるコミュニティが活発になってきています。

趣味コミュニティ

共通の趣味を軸とした集まりで、FacebookやLINE、SlackなどのSNSを中心とすることが多いコミュニティです。最新情報や意見交換、自分ならではのこだわりを披露するなど、互いの趣味を共通項するため、ポジティブな雰囲気になりやすい特徴があります。オフ会と称して、オンラインからオフラインの出会いへ発展するケースが頻繁に起こる傾向にあります。

オンラインコミュニティツールのススメ

最後に、オンラインコミュニティでファンや顧客に提供することで効果を発揮する機能をご紹介しましょう。
私がCCOを務める株式会社Asobicaでは、オンラインコミュニティ専用のプロダクト「coorum(コーラム)」を開発・提供しています。

手前味噌で恐縮ですが、ファンマーケティングとファンコミュニティについての多くの知見とノウハウがプロダクトの至る所に散りばめられている、と自負しています。以下はcoorumの機能の一部になりますが、すべてが顧客との関係性を改善し、体験を最良のものにするという思想で設計されています。
ファン同士が交流するコミュニケーション機能はもちろんのこと、承認欲求を満たすリアクション機能、ポイント制度によってランクアップしたり、バッジを付与されたりするゲーミフィケーション機能など、顧客のロイヤリティを向上するための仕組みが用意されています。

また昨今のマーケティングで重要な考え方として浸透しつつある「パーソナライズ」の概念も取り入れています。パーソナライズとは、「一人ひとりに個別に合わせる」といった意味で、ユーザーの顧客属性やアクティビティ、興味関心などに合わせて個別に施策を講じることで、施策自体のコンバージョン率を向上させる効果を狙うものです。
このパーソナライズの機能もオンラインコミュニティにはマスト要件です。ファンにさらに喜んでもらえるような限定コンテンツを配信したり、まだ日の浅い初期フェイズの顧客には、導入的な情報を個別配信したりと、効果的な施策を講じることができます。

さらに何より重要な、ファンマーケティングの成果を明確に定量的、定性的に示す機能を備えています。これはビジネスである以上、避けられない必須事項です。ファンマーケティングが単純に顧客を喜ばせるだけのものとなってしまっては、事業としての優先順位が下がってしまったり、予算の確保やリソース配分が期待通り得られなくなったりする可能性があります。あくまで事業ということを前提に、顧客の行動を細かに分析し、売り上げの向上やサービスの活性化にどれくらい寄与しているかを客観的に確認できなくてはなりません。
ちなみに私のもとに寄せられるファンマーケターやコミュニティマネージャーに皆さんからの相談でトップ3に入るのが、この悩みです。KPIや成果を具体的に示すための方法や手順に困っている方は大変多いという印象で、ほぼ全員がこの壁に一度はぶつかると言っても過言ではないかもしれません。

オンラインコミュニティに望まれる機能を簡単にご説明しましたが、このような機能を持つコミュニティサイトを自前で構築してはどうか、と考える企業のかたもいらっしゃるかもしれません。
しかしそこは餅は餅屋。ファンマーケテイングやオンラインコミュニティに特化したベンダーに任せるのがベストといえるでしょう。コミュニティではセンシティブな情報をやり取りすることも多いですし、活性化するための仕掛けやノウハウも必要です。単なるコミュニケーションツールではなく企業とファンの信頼を構築する場である以上、必要な機能の選定やさまざまな準備、構築の手順などに成功法則もあるのです。
また上記のようなユーザー分析基盤やCRMデータ連携などを自作することは、実は非常に難易度が高いのです。生半可な知識や機能でコミュニティ運用に手を出すと、思わぬやけどをする可能性が高いといえます。ブランドの公式サービスとしてコミュニティを構築した場合、失敗したからすぐに「では辞めます」とは言えません。ファンの想いを踏みにじるような取られかたもしかねなく、それこそ信頼の失墜につながるリスクがあるのです。


以上、オンラインコミュニティについてさまざまな視点から解説し、オンラインコミュニティにはどのような機能が望ましいかまでご案内しました。ただ、前提として忘れてはいけないのは、ファンマーケティングもファンコミュニティも企業と顧客、双方のためにあるということです。
ファンを支え、ファンに支えられる。そんな素敵な関係を築くための手段として、「ファンマーケティング」こそが今この時代に求められている、と私は考えています。

ファンマーケティングのおすすめ本:6冊目 

「コトラーのマーケティング4.0」
フィリップ・コトラー著

現代マーケティングの父と呼ばれるコトラー教授のシリーズの中の最新作。前作の「人間中心のマーケティング3.0」をベースに、最新動向を反映しバージョンアップさせたファンマーケター必読の書です。本書では、この連載のテーマである「コミュニティ」というワードが頻繁に登場してきます。
カスタマージャーニー(認知〜検討〜購入〜推奨の顧客の歩む道筋)が、デジタル社会によって変化してきていることを解説しています。具体的な手法として、「コンテンツマーケティング」「オムニチャンネル」「ゲーミフィケーション」などをわかりやすく説明しており、明日からのビジネスシーンに大きなヒントを与えてくれる良書です。


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筆者プロフィール
株式会社Asobica CCO 小父内信也(おぶない しんや) 

20歳から工事現場で働きながら、日夜、音楽活動に没頭。25歳、結婚を機会に大手電子機器メーカーへ入社。社員5000人のうち0.5%しか選出されない社長賞を2度受賞。在職中に中小企業診断士を取得し、2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に参画。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。
現在は、カスタマーサクセス/コミュニティに特化したツールを提供する株式会社Asobicaで、CS責任者として数十のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。

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