コロナを機に、人との"つながり"方が変化するなかで、「ファンマーケティング」への注目が高まっています。
「雑誌編集部の知見をアイデアの発火点にする」ことを掲げ、雑誌編集者の知恵でクライアントの課題解決を目指すMATCHが、有料会員を持つ『mi-mollet』、『MERY&』とともに「コミュニティ熱の高め方」について語り合いました。
『MATCH』プロデューサー 下萩千耀(以下、下萩) 『MATCH』は雑誌編集部の持つ知見を活用して、クライアントの課題解決を目指しています。
編集者を抱える雑誌は、最大のマーケティングパートナーになる
雑誌編集者はさまざまな人や業界の専門分野に知見があり、専門家やインフルエンサーなどのネットワークもあります。これまでのメディアビジネスでは、雑誌編集者の力を「出稿」という形で提供してきましたが、編集者の知見こそ、新しいインサイト発見に価値があると感じています。
そこで『MATCH』では、たとえば金融系のクライアントに対して女性誌やママ雑誌とのコラボで投資信託の新規ターゲット攻略を提案するなど、<企業と雑誌編集者>とのコラボによって、新たな価値を創造しています。
高いコミュニティ熱量を維持する〔ミモレ編集室〕と『MERY&』
『mi-mollet』編集長 川良咲子(以下、川良) ウェブマガジン『mi-mollet(ミモレ)』は6年半前にスタートした、講談初のウェブオンリーのメディアです。
ミドルエイジ女性向けウェブメディアNo.1に成長した『mi-mollet』
創設時から読者とのコミュニケーションや関係性作りも大切にしてきた『mi-mollet』は、2020年4月に有料コミュニティ〔ミモレ編集室〕をオープン。オンラインコミュニティという特徴を活かし、これまで距離的に参加できなかった読者の方なども気軽に参加できる機会が生まれたことで、「コミュニティメディア」を掲げる『mi-mollet』らしいカタチが生まれました。会費は税込5500円(月額)、現在153名のメンバーが所属しています。
有料オンラインコミュニティ〔ミモレ編集室〕
MERY『MERY&』コミュニティマネージャー兼ビジネスプロデューサー 木綿裕美(以下、木綿) 『MERY』は20代をターゲットに、SNSを中心に展開しているメディアです。
5月からは新しく有料コミュニティ『MERY&』も始めました。有料コミュニティのコンセプトは、「"好き"を見つけて、なりたい私に」です。
自己紹介ブログを書いてもらい、記事を『MERY』で紹介するなど、メンバーと一緒に『MERY』を盛り上げています。オンラインでのキックオフパーティーや、スペシャルゲストを招いた月1イベント、「おしゃべり会」というフォーラムなどで頻繁にメンバーと交流することで、着実にコアメンバーが育ちつつあるのを実感しています。
2021年5月にスタートした『MERY』の有料ファンコミュニティ『MERY&』
「狭く深く」つながるコミュニティが熱量を高める
下萩 『mi-mollet』、『MERY&』がそれぞれ、「狭くて深い」コミュニティを立ち上げた理由を教えてください。
『mi-mollet』ブランドマネージャー 川端里恵(以下、川端) とにかくたくさんの人を集めるというよりは、モチベーションが高く、編集部にコミットしたいという人を集めるために、「入り口を高く、出口を低く」しました。
通常サブスクは、入り口を低くして出口を高くするのがセオリーです。〔ミモレ編集室〕は月会費5000円という高額な金額設定と、「3ヵ月に1度しか入会できない」というハードルをあえて設けることで、入りたい気持ちを十分に高めて入っていただくようにしました。
ミモレ編集次長 川端里恵
年会費にして、一度入会した方には1年間メンバーでいていただくことも検討したのですが、「いつでも辞められるし、またいつでも戻って来れる」という、常に心地よい温度感で保たれるコミュニティであることを意識し、月会費としました。
結果的に、育児や仕事の関係で一時的に離れても、再入会される方も多く、居心地のよい距離感が維持できていると感じています。
木綿 『MERY&』も熱量の高い人を集めたいという思いから、あえて入会にハードルを設けています。コンセプトに共感する方に入会していただくために、わざと長いLPを作り、さらに入会の条件として事前説明会への参加も義務付けています。
MERY『MERY&』コミュニティマネージャー兼ビジネスプロデューサー 木綿裕美さん
サードプレイス的ポジションでつながりを深める
下萩 熱量の高いメンバーを集めた、それぞれのコミュニティは、どのように運営しているのでしょうか?
MERY『MERY&』コミュニティマネージャー 望月菜穂子(以下、望月) 『MERY&』は、「学校や職場、友だちとは違うサードプレイス的な場所」として着実にメンバーの中で大きな存在になっている印象です。
価値観は人によって千差万別なので、誰にとっても居心地のよい場所となるように、事務局側もさまざまな角度から価値を作っています。
MERY『MERY&』コミュニティマネージャー 望月菜穂子さん
川良 〔ミモレ編集室〕は「好きを伝え、つなぎ、つながる」をコンセプトに運営しています。お母さんでも奥さんでもなく、職場の誰々さんでもない職場の肩書きもない「個人」として参加できる場所の重要性を感じています。「好きをうまく伝える」ための研修や講座はもちろん、オンラインでフラットに話ができる場も多く設けています。
20代から60代までと幅広い年代層のメンバーがいますが、「この場を作ってくださってありがとう」と感謝されることも多くあるのは、うれしいですね。
〔ミモレ編集室〕のメンバーだけが参加できる「編集ライティング講座」のイメージ
コミュニティを作るとき、まず考えるべきことは
下萩 最近は、クライアントさんからも、「コミュニティを作りたい」「自社でIDを抱えたいので会員を作りたい」というご相談が増えています。コミュニティを作る時にまず考えるべきことは何でしょうか?
川端 コミュニティは、実は会費ではそれほど収益があがるわけではないので、商品開発につなげるとか、ブランドとしてお客様にどうあってもらうのが理想なのかというゴールを持っておくというのが意外に大事だと思います。
コミュニティを作るムーブメントの高まりや、自社のブランドのファンと直接つながっておくべきという考えから、コミュニティ作りの需要も高まっていますが、「コミュニティを何のために作るのか」という思いは、運営チームはもちろん、意思決定権のある上層部にもしっかり共有しておく必要があります。
ブランドの価値とコミュニティをストーリーやメッセージで伝えるという部分は、私たち編集者の得意分野でもありますので、自分たちのコミュニティだけではなく、企業様のコミュニティ作りや、コンセプトワークのご相談やお手伝いもさせていただいています。
木綿 コミュニティをどんな場所にしたいのかというコンセプトを作り、それをどう伝えるかというのは、非常に重要だと思います。メッセージによって全然違う人が集まってくるので、コンセプトワークをしたうえで仲間を集めるというのが、コミュニティの鉄則です。
コミュニティが会社にどういう価値を生み出すものなのかを中長期的な目線で考え、上層部がそれを理解した上で運営していくというのも、とても大事です。
コミュニティは最初の労力が大きいので、担当者がモチベーションを維持できなくなるケースがあるからです。担当者のモチベーションが下がると、参加者にも伝わってしまうので、担当者がモチベーションを維持できるような環境を整えるのも上層部の役目だと思います。
コミュニティは「生き物」という前提が大事
下萩 コミュニティを作るのは比較的簡単ですが、運営し続けていくのは大変ということですね。具体的に会員と接する時に、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。
川端 コミュニティは生き物なので、イベントやコミュニティの内容なども、最初に決めたルールに縛られることなく、メンバーの反応を見ながら柔軟に変えています。
B to Bビジネスの場合、相談が来て回答が1週間後というのはよくありますが、対個人相手のコミュニティでは、コメントをいただいた方全員に、素早く返信ができないと不満を持たれてしまいます。関わる人数は多くても構いませんが、個人の気持ちが冷めないようにすばやいレポンスを心がけています。
木綿 『MERY&』では、日々運用していくなかで、「こういう場所にしていきたい」と言い続けることを意識しています。運用側が仕切っていると思われがちなので、「みんなで一緒に作ろう」と気持ちを伝え続けています。
望月 誰でも、コミュニティに対してすごくやりたいタイミングとそうでもないタイミングがあるのは当然なので、そういう気持ちの波を見逃さないよう、日ごとに施策を変え、盛り上がりを見ながら判断しています。
コミュニティのゴールは「自走」
下萩 最終的にはコミュニティはどこを目指していけばいいと思われますか?
木綿 現在は編集部でたくさんイベントを立てていますが、編集部がイベントを立てすぎると、コミュニティに「上下関係」も生じてしまいます。コミュニティはフラットであることが理想なので、最終的にはコミュニティのメンバーが自発的にイベントを立ててくれることを目指しています。
川良 編集部がコンテンツを提供し続けている限り、コミュニティの成長は望めません。そこで〔ミモレ編集室〕でも、繰り返しメンバーに「みなさんが作る場所にしていきたい」とお伝えしてきました。現在はメンバー主催のイベント数も増え、編集部主催のイベントと同じくらい人が集まって盛り上がっています。
それぞれのなかで「私の好きを伝える」イベントがあり、それに共感する人が集まっている印象を受けています。
コミュニティにおけるコンセプトは、しっかり設定しますが、こうだと決めつけるのではなく、集まった人や状況に応じて変えていく。変化をおそれることなく、"気持ちのいい"コミュニケーションを重ねていくことが、コミュニティ運営の正しい在り方ではないかと考えています。
開催日時:2021年7月15日(木)
テーマ:「オンラインコミュニティの育て方」
ファシリテーター:
博報堂DYメディアパートナーズ『MATCH』プロデューサー/下萩千耀
博報堂DYメディアパートナーズ『MATCH』プロデューサー/瀧川千智
登壇者:
『mi-mollet』編集長/川良咲子
『mi-mollet』ブランドマネージャー/川端里恵
MERY『MERY&』コミュニティマネージャー兼ビジネスプロデューサー/木綿裕美
MERY『MERY&』コミュニティマネージャー/望月菜穂子