2021.06.22
Cookieレス時代の理想的な広告配信に向けて、今マーケターが考えるべきポイントとは?──「ADVERTISING WEEK ASIA 2021」セッションレポート③
業界を超えたオープンイノベーションの場「Advertising Week Asia 2021」のセッションレポート。
昨今、個人情報保護の観点から「Cookie規制」の動きが加速しており、近い将来、3rd Party Cookieを使用せずにターゲティング広告を実施する「Cookieレス時代」が訪れると言われています。日本国内でもデータ利用条件を厳格化する動きが急速に広まり、デジタル広告業界にも変革が求められています。
そのなかで今、マーケターはどのようなことを考慮しなければならないのでしょうか。Cookieレス時代に、適切かつ効果的な広告配信を継続していくヒントを探ります。
電通・メディアレップ・媒体社の目線からディスカッションを展開
Googleなどの「Walled Garden」と、パブリッシャーの「Open WEB」というデジタル広告の二極化
Dentsu Group General Manager 青木圭吾(以下、青木) 本セッションのテーマは「Cookieレス」です。
ここ最近、ディスプレイ広告がなかなか見られない、広告ブロックが増えているという傾向に加え、3rd Party Cookie(第三者提供のCookie)がいよいよ使えなくなることが話題になっています。3rd Party Cookieが使えなくなると、ターゲティングがしにくくなるともいわれていますが、そもそもユーザーは追跡型の広告を歓迎していたわけではありません。
また、デジタル広告の二極化も進み、今後は、膨大な1st Party Data(自社取得のデータ)を持っている「Walled Garden」(※)と、パブリッシャーが手がける「Open WEB」に二極化されていくのではないかとみられていますが、こうした変化について、岸岡さんと甲田さんはどう思われますか。
※ クローズド・プラットフォームのこと。本セッションでは主に、GoogleやYahoo!などを指す。語源は「壁に囲まれた庭」。
二極化するデジタル広告の考え方
株式会社サイバー・コミュニケーションズ メディアソリューション・ディビジョン ディビジョン・マネージャー 岸岡 勝正(以下、岸岡) 「Walled Garden」で行われている、自社サービス内に極力ユーザーをとどまらせようとするアプローチでは、本質的にクライアントが求めている情報(ユーザーの趣味嗜好など)はなかなか取得できないのではないかと思っています。
一方、パブリッシャーが手がける「Open WEB」は、コンテンツに何かしらの目的を持って接触している人が多いので、リアルなユーザー情報があふれていると思います。商品開発やマーケット視点でも、「Open WEB」のメディア情報は非常に重要視されています。
株式会社 電通 メディアビジネス局 メディア・ビジネスクリエーション部 アーキテクト 甲田春樹(以下、甲田) プランニングの観点からいうと、「Aのプラットフォームで、Bのターゲティングをすれば効率がいい」とわかっている場合は、「Walled Garden」のメディア、いわゆるプラットフォーマーやSNSを使うケースが多いです。
青木 ユーザーの滞在時間ということで見てみると、「Walled Garden」よりも「Open WEB」の方が長いですよね。武井さんは、この現状をどう捉えていますか。
DAS株式会社 チーフソリューションエバンジェリスト 武井 明(以下、武井) 広告は、接触機会の数と接触時間の長さが大事です。
ユーザーは、はじめは「Walled Garden」と呼ばれるメガプラットフォーマーから入るのですが、実際には「Open WEB」での滞在時間の方が長い。つまり、ユーザーが「これなら時間を割いて読んでみたい」と思えるようなコンテンツを「Open WEB」に出しておくことが大事になってくると個人的には思っています。
青木 「Open WEB」は有望な領域ですが、普通にバナー広告を出せばいいわけではなく工夫が必要です。
そういう意味では、2013〜2014年くらいから日本にも入ってきたネイティブ広告は、ブランドとユーザーの新しい接点になると感じていました。300億とか500億とかすごく大きな市場になるのではないかと期待していたのですが、そこまでいかなかった原因はどこにあると思われますか。
岸岡 「Walled Garden」の売上げが伸びてきて、そことの競争においても課題があったからだと思います。でも、コロナ下でかなり状況が変わりました。今は逆に、「広告出稿になるべくリスクを負いたくない」と考える企業が増え、リスクなくコンテンツの力をフル活用できる「Open WEB」のプラットフォーマーが注目されていると感じています。
「Open WEB」の課題を解決する「ネイティブオーシャン」
青木 ネイティブ広告の課題を解決する新しいソリューションとして伸びている「ネイティブオーシャン」について教えてください。
武井 ひと言でいうと、「ネイティブオーシャン」はネイティブ広告に特化したDSP(Demand-Side Platform:広告主側のプラットフォーム)です。今後Cookieレス時代を迎えるにあたって、非常に注目度が高まっています。
「ネイティブオーシャン」は5つの「1(1本化)」を掲げ、これまでの課題解決を目指しています。
「ネイティブオーシャン」は、ネイティブ広告の課題解決策と期待される
1) いろいろな媒体に出すのではなく、1本の媒体にオーダーを集中させる
2) 媒体SSPの配信を1本のダッシュボードで見ていく
3) 複数あるSSPプラットフォームを統合したアルゴリズムで配信
4) 複数あるSSPプラットフォームを1本化
5) 1本のレポートにまとめ、1本のダッシュボードで全部見れる
今、日本に上陸して6〜7ヵ月経っている状態ですが、非常に引き合いが強い部分として、Googleアナリティクス(GA)、アドビアナリティクス(AA)と連携しての配信が可能というところがあります。
来年から3rd PartyのCookieが使えなくなりますが、クライアントサイトを訪れた1st Party Dataを活用しますので、GA、AAのデータを解析し、新規ユーザー比率やセッション単価、サイト滞在時間、コンバージョンなどの自動最適化することができます。
つまり、「1st Party Dataを使ってCookieレスで枠に配信をしていく」というところが、多くの広告主様や代理店様から引き合いが増えている理由だと考えています。
ネイティブオーシャンの3つのメリット
青木 設定とか接続の手間は大変なんですか。
武井 GA連携の場合、やる作業としては非常にシンプルで、即日あるいは1営業日以内には接続が完了できます。
ネイティブオーシャンをご利用いただくと、約40のSSP(Supply Side Platform)、約30万のパブリッシャーに対して、認知から獲得までのKPIに対して最適化ができます。媒体計測をもとに進むのではなく、クライアントが取っている1st Party DataのGA/AAをもとに最適化していきます。
最近では、「コンテキストターゲティング」というワードも話題ですが、ネイティブオーシャンもカテゴリ単位でのコンテキストターゲティングが可能です。冒頭お伝えした通り、多数のパブリッシャーがいますので、各カテゴリに対応するようなホワイトリストをつくっていけばコンテキストターゲティングにもしっかり対応できるような形になっています。
ネイティブオーシャンのGA/AA連携配信の設計例
「安かろう悪かろう」にならないネイティブオーシャン
武井 NativeOceanはいろいろな事例がありますが、いちばん引きが強いGA/AA連携の事例をご紹介いたします。
まずは、人材支援会社様の事例をご覧ください。
人材支援会社の例
GAベースで、新規ユーザー単価40円で取りたいというクライアントのご希望に対し、ネイティブオーシャンでGA連携配信を行い、目標の40円に対して1/3の13円で新規ユーザーの獲得ができました。
また、「安かろう悪かろう」にならないよう、滞在時間も見ながら運用させていただいたところ、50秒という数字が記録できました。「新規ユーザーが10円ちょっとで獲得できて、1分近く滞在してもらえる」ということで大変喜ばれ、恒常メニューとしてお取り扱いいただいております。
続いて、電子部品メーカー様の事例です。
電子部品メーカーの例
多くのクライアントが悩まれているところだと思いますが、こちらの企業様でも媒体計測のクリック数とGA計測のセッション数の乖離が最近どんどん大きくなっているという課題がありました。
「乖離率が高いからこそ、GAのセッション単価ベース60円で集客したい」というご相談を受け、ネイティブオーシャンであればGA連携すればセッション単価で最適化できますとご提案し、実際に配信頂いたところ、「24円」という目標の半分以下のコストと、非常に高いクリック率を記録でき、継続的にご配信をいただきました。
この数字は相対的にも誘導効率、滞在時間などでほかのSNSやディスプレイ広告、ネイティブオーシャン以外のネイティブ広告と比較いただいても、いちばんいい数字だったと大変ご満足いただきました。
青木 ありがとうございます。甲田さん、電通の調査のなかでもこういった方法が大事になってきていますよね。
甲田 レコメンドウィジェット(RW)と呼ばれるソリューションはターゲティングせずに配信するものが多かったりしますが、通常のタイアップのみだけではなく、そこにRWによる誘導を加えた方が、PV単価が下がるという実績は多数出ています。
タイアップだけより、RWとの併用の方が高い効果を発揮
単価が安くても質のよいユーザーを集められている証拠として、しっかりコンバージョン単価も抑えているのを示したのが右の赤いグラフです。ただ安く連れて来るだけではなく、しっかりと相性のよいユーザーを連れてきているので、コンバージョン単価も下げられているということがわかります。
武井 ここで、従来のネイティブ広告とネイティブオーシャンとの違いを簡単にご説明します。
従来のネイティブ広告とネイティブオーシャンとの違い
まず規模感でいうと、従来のネイティブ広告のプラットフォームが数百のパブリッシャー、数千万のユーザーを囲っているのに対し、ネイティブオーシャンはそれを一括でまとめているので、メガ媒体に匹敵する規模感が実現できます。
また、アルゴリズム自体が面や人ではなく、いま表示されている枠のなかで、いちばんクリックされやすいところに寄っていくので、結果的にCTRが上がり、CPCが下がり、誘導効率が非常によくなります。
さらに、クライアントが持っている1st Party DataでGA/AAのデータをもとに最適化できるので、安くて質のいいクリックをどんどん増やすことができ、「安かろう悪かろう」になりません。これは、Cookieレスに対しても、「広さ」という点と「質」という深さの点で対応できているといえます。
エシカル・ソーシャルにも配慮し「三方良し」を実現
青木 非常によくわかりました。ではこのネイティブオーシャンというソリューションを用いて、具体的に何を提供していくのか。これについて、甲田さんご説明をお願いします。
甲田 今後は、ELSI(倫理的(ethical)・法的(legal)・社会的(social)なissuesの略称)という規範が重要になってくるといわれています。世の中のマーケティングとか企業活動において、「ただ法を守ればいい」と考えるのではなく、「倫理的/社会的に問題があるかを考慮すべき」ということです。
具体的には、GDPRや各種整備で法的にやってはいけないことなどのルールが生まれてくると思うのですが、各企業がすべきことについては倫理的、そして社会的なところを考える必要があると思っています。
たとえば倫理的については、とあるグローバル企業の方がカンファレンスで発言されていたのですが、ターゲティング広告ができるからといって、不妊治療者に子ども向けのおむつの広告があたってしまったら傷付けてしまうことになりかねません。
そのためには、正しい人に正しいメッセージを伝えているんだろうかというところをしっかり模索し続けるというところを、1つひとつやっていくことが大切だと思います。
青木 ネイティブオーシャンは「三方良し」を実現したいということなんですね。
武井 はい。本日はネイティブオーシャンの機能面のご紹介をさせていただいたんですが、裏側ではまさにエシカルというところを非常に大事にしております。
この1〜2年は、ネイティブアドがユーザーにとって本当に有益なコンテンツなのかと疑問に思うニュースもあったのですが、あらためてそこをクリーンにして、クライアント、パブリッシャーやメディア、そしてユーザーの「三方良し」を実現していきたいと思っています。
また、ネイティブオーシャンはクリック率が非常に高いため、コンテンツメーカーのメディアに対しては、より高いCPMが還元できます。クライアントにとってはクリック率が高い分、低いCPCをお戻しができます。3社が求めているものをしっかり出せるようなアルゴリズムを搭載しているので、今後はこういった倫理観×広告みたいなところでのきれいな世界観を実現していけたらと考えています。
ネイティブ広告のソリューションとしてOpen WEB領域の活性化を目指すネイティブオーシャン
青木 このネイティブオーシャンをどう活用していけばよいと思われますか。
岸岡 ポストCookie時代の配信に関しては、誰に配信するかというよりは、どうやって顧客とのエンゲージを深めていくところに重きを置いたプランニング、キャンペーンの設計みたいなのがより重要視されてくると思うので、そういう視点においてもこのネイティブオーシャンの仕組みは、お客様にとってもすごくいい仕組みになってくると思います。
青木 ネイティブオーシャンというソリューションは、本当の意味での"価値"を提供できる可能性があると感じています。ネイティブアド領域における新しいブランドの価値を創出することで、多くの方とさまざまな形でお仕事していければと思っています。本日はありがとうございました。
開催日時:2021年5月27日(木)10:30〜11:00
Channel: Creative Showcase
テーマ:Cookieレス時代の理想的な広告配信に向けて、今マーケターが考えるべきポイントとは?
登壇者:
【モデレーター】
Dentsu Group General Manager/青木圭吾
【スピーカー】
株式会社電通 メディアビジネス局 メディア・ビジネスクリエーション部 アーキテクト/甲田春樹
DAS株式会社 チーフソリューションエバンジェリスト/武井 明
株式会社サイバー・コミュニケーションズ メディアソリューション・ディビジョン ディビジョン・マネージャー/岸岡勝正