2021.06.02

動画マーケティングの最適解の見つけ方は、マーケティングファネルとHHH戦略を組み合わせる|動画マーケティング 効果最大化のための知識と手法<第6回>

動画マーケティングを成功させるためには、動画施策の目的を明確にして、マーケティング施策とバランスの取れた動画戦略を立てることが重要です。
動画マーケティングにおける戦略フレームワークのひとつに、Googleが2014年に提唱したHHH(スリーエイチ)戦略があります。この考え方と、マーケティングの基礎的な概念である「ファネル」を組み合わせて考えることで、マーケティングに動画を利用する際の最適解を見つけることができます。
今回は、動画マーケティングへの投資対効果を最大化するために理解しておきたいフレームワークを解説していきます。

HHH戦略とマーケティングファネルを組み合わせる

HHH戦略では、視聴者に好まれる動画を3種類の「H」に分類して整理しています。
「Hero動画」(より多くの注目を集めるための動画)、「Hub動画」(相手との継続的な関係を築くための動画)、「Help動画」(相手が知りたいことを伝えるための動画)をそれぞれ適切に配信することで、動画マーケティングにおいて成果を上げることができる、という考えかたです。
この3つの分類をマーケティングファネルと組み合わせることで、目的に合わせてどのような内容の動画をいつどうやって配信すればよいのかが理解しやすくなるでしょう。

マーケティングに携わる方であれば、「ファネル」について一度は聞いたことがあるはずです。消費行動を逆三角形に図式化したもので、一般的には、「認知→興味・関心→比較・検討→購入」の順にターゲットの母数が減っていく様子を表します。
一概には言えないところもありますが、ファネルの一番上の「認知」に当たるのがHero動画、続いて「興味・関心」と「比較・検討」の部分がHub動画に該当する場合が多いでしょう。ファネルの一番下の「購入」や「顧客維持」にはHelp動画を関連付けることができると思います。

マーケティングファネルとHHHの関係

出典:ブライトコーブHPより抜粋

認知を得るためのHero動画

「Hero」動画は、幅広い認知獲得を目的とした動画です。力強いメッセージを打ち出し、視聴者の感情を動かしてブランド認知の拡大を狙います。NIKEの"Just Do It" キャンペーンや、AppleのiPhoneキャンペーンで見るような動画がこれにあたります。
アメリカの一大イベントであるスーパーボウルでは、テレビ中継の際に放映されるCMも毎年話題になります。ここで放映されるようなCMもHero動画の一例です。

私が個人的に印象に残っているHero動画は、本田技研工業(HONDA)が2012年に制作したCMです。歴代のホンダ製品が一台ずつ映し出される様子に、本田宗一郎氏の言葉をナレーションで重ね、最後に大きく「負けるもんか。」と現れるのが非常に印象的なこの映像は、テレビCMでは少ししか放映されなかったのですが、その後YouTubeを通して話題が拡散し、多くの人の共感を得ました。
トヨタ自動車が昨年発表したWoven City構想を伝えるイメージ映像もHero動画と言えます。「モビリティカンパニー」という新しい価値観や世界観を伝えるために、高品質なCG動画が一役買っています。

このようにHero動画は、幅広いターゲット層に対して、世界観やメッセージを強く訴求し、印象を残して認知を獲得するための動画です。そのため、クリエイティブは作り込んでいく必要があり、制作コストも比較的大きなものになるでしょう。

Hub動画で見込み顧客にアプローチする

「Hub」動画の役割は、自社サイトや自社メディアを繰り返し訪問してもらうことにあります。マーケティングファネルにおける「興味・関心」「比較・検討」段階のユーザーをターゲットにした動画だと考えればわかりやすいでしょう。自社に興味を持った人に対して、さらに自社の製品やサービスの魅力を伝え、購入につなげる(コンバージョンを獲得する)までのプロセスをブリッジすることがHub動画の目的です。
具体的には、次のような用途の動画が挙げられます。

製品デモ動画

自社製品やサービスをわかりやすく伝え、興味を持っている見込み顧客の検討材料となる動画です。

インタビュー動画

業界のエキスパートやインフルエンサーへのインタビュー動画も興味・関心を惹くのに効果的です。

テスティモニアル動画

テスティモニアルには「お客さまの声」という意味があります。自社製品やサービスがどのように役に立つのかをお客さま自身の言葉で語っていただく動画は、見込み顧客への説得力が上がります。

イベント動画

オンラインでのカンファレンスやイベントが増えた現在では、イベント動画のアセットが社内に蓄積されているのではないでしょうか。こうした動画を活用することで、自社サイトを繰り返し訪れてもらうことが期待できます。

日本HPの運営する「Tech&Device TV」というウェブメディアは、Hub動画を上手に活用されている一例です。ITテクノロジーの最新トレンドを紹介するポータルサイトとして、文章中心の記事だけでなく、ライブ配信などの動画コンテンツも多く提供されています。

顧客の課題を解決するHelp動画

「Help」動画は、具体的に解決したい目的があって探している人に向けて、必要としている情報を届けるという役割を持っています。主にマーケティングファネルの「購入」「顧客維持」に当たるターゲットに向けており、具体的なノウハウを含んだ内容の動画です。

たとえば、名刺管理サービスのSansan では、自社サイトの「活用メソッド/使い方動画」のページで、サービスの詳しい使い方を解説した動画を公開しています。メール配信の方法やタグの使い方、アクセス権限の設定方法といった操作マニュアルのような動画も用意されています。
また、測量機や計測機器のレンタル業務などを行うソーキでは「SOOKI Movie Studio」というサイトで、1000本以上の動画コンテンツを配信しています。その内容は、多種多様な計測機器の設定方法や利用手順を示したものです。機器ひとつひとつについて丁寧に動画が制作され、カテゴリごとに分類されています。ユーザーが必要なときに検索で簡単にたどり着けるHelp動画です。

Help動画は顧客のニーズに合わせて、課題解決を支援することを目的に制作するため、必要な動画の数は多くなる傾向があります。ただし、Hero動画のように認知獲得のための作り込みは必要ありませんから、1本あたりの制作コストは抑えられるでしょう。

HHH戦略の効果をどう分析するか

このように、マーケターの方が動画を活用しようと考えるときには、マーケティングファネルにおける役割に沿って考えていくことが大切です。ファネルのどの部分を強化する必要があるのかを分析し、不足するパーツを補うような動画を制作していきます。
認知を獲得する必要があるならHero動画を、見込み顧客に訴求したいのであればHub動画を、既存顧客の満足度を高めるためにはHelp動画を制作するというわけです。

動画施策の効果測定についても、動画の役割に応じた考え方が必要です。動画のKPIには、インプレッション数、再生回数、再生時間、視聴完了率、エンゲージメントスコアなど多くの項目がありますが、たとえばHero動画であれば再生回数が最大のKPIとなることが多いでしょう。Hub動画であれば再訪率や動画のリピート再生率、Help動画であればエンゲージメントスコアなどが考えられます。
もちろんそこだけに注目するのではなく、そこから自社サイトへの流入数が増加しているのか、購入につながっているのかを見ることが大切です。単純に動画関連の数字だけをKPIにするのではなく、その動画がどんな役割を果たすべきなのかをマーケティング視点で理解し、波及効果を分析する必要があります。
より具体的な動画活用については連載第3回でも詳しくご紹介していますのでご覧ください。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰(かわのべ ひろあき) 

合計で15年以上のビジネス経験を有し、そのうち約10年にわたり動画配信プラットフォーム事業に携わる。
ブライトコーブでは、マーケティング兼アカウントマネージャーとして入社し、ブライトコーブ株式会社第一号のアカウントマネージャーとして、日本のブランド並びにメディア企業の動画配信プロジェクトに従事。その後、2016年には、アカウントマネジメント統括としてブライトコーブ株式会社の既存ビジネスの総責任者に着任。2018年よりVice Presidentとして韓国事業並びに日本市場におけるセールスを統括。2019年9月より現職。
下関市立大学経済学部卒業。カナダビクトリア大学 Peter B. Gustavason School 経営学修(Entreneurship専攻)。

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