2021.04.26

アメリカのOTTに見る、今後の動画市場のゆくえ|動画マーケティング 効果最大化のための知識と手法<第5回>

コロナ禍以降、いっそう重要性が高まった動画を活用したマーケティング。
グローバルで動画配信プラットフォームを提供する「ブライトコーブ」の日本法人代表・川延 浩彰氏が、日本のマーケターが動画をどのように活用し、効果をあげていくべきか、実践的な解説をお届けします。

新型コロナウイルス感染拡大によるSTAY HOMEによって、急激な成長を遂げている OTT※市場。
Netflixの有料会員数が世界で2億人を突破(2021年1月)したり、Disney+の有料会員がサービス開始からわずか1年4カ月で1億人を突破(2021年3月)するなど、最近でも成長に陰りは見られません。これは、コロナ以前からすでにOTT先進国であったアメリカでさえ、例外ではありません。
今回は、アメリカ在住でOTT事情に詳しい、ブライトコーブ主席アナリストのジム・オニールとの対談を通じて、アメリカのOTTトレンド、日本を含む世界における今後のOTT市場の動向、これからのOTTのビジネスモデルのあり方について話を聞きました。

※OTT:Over The Topの頭文字を取ったもの。コンテンツをユーザーに届ける手法として一般的であった電波放送、衛星放送、ケーブル放送などをバイパスし、インターネットを経由してコンテンツを配信すること

大きな転換点を迎えたアメリカのOTT事情

川延:現在、OTT市場は非常に拡大しています。Spotifyのような音楽配信サービスやNetflixやHuluのような映像配信サービスなどが代表的なOTTのサービスですね。

ジム:音楽でも映像でも、それがオープンなインターネット上で配信されるものであれば、広義のOTTであるといえますが、一般的にOTTといえば、ライブストリーミングや、サブスクリプションモデルや広告モデルのビデオオンデマンドサービスを指します。
OTTはメディア企業だけでなく、一般企業でも活用されています。例えば、アメリカやヨーロッパへの旅行に関する映像を制作し配信している旅行会社があった場合、これもOTTと言えます。つまり、彼らは放送局のように振る舞っているのです。私は、今後OTTが一般企業にもより一層広がりを見せてくると考えています。

ただ現時点では、OTTは大きなブランドや映画スタジオのような、消費者に直接届くストリーミングを意味することがほとんどです。OTTはコンテンツの配信をコントロールし、配信先や配信方法、見せ方を指定することができます。パーソナライズされた映像配信によって、視聴者の購買行動に対しても訴求力があると考えられています。

Brightcove Inc. DIRECTOR, STRATEGIC CONSULTING/PRINCIPAL ANALYST Jim O'Neill


川延:視聴者はスマートフォンやタブレットなどさまざまな種類のデバイスを持ち運んで、どこにでも行けるようになりました。そのため、いつでもどこでもコンテンツにアクセスできる。だからこそ、複数のデバイスで視聴履歴を共有できるOTTは、非常に重要になっています。
OTTサービスプロバイダーの観点では、ターゲットとなる視聴者にコンテンツを配信する方法は、自分たちでコントロールしたい。そのためのテクノロジーが重要になってきます。

ジム:OTTが新しい常識だと認識することも非常に重要です。米国の大手放送局は、今後の映像配信方法としてストリーミングを採用するとしています。それが最優先事項なのです。
ミレニアル世代などの若い人たちだけでなく、最近では年配のユーザーもOTTサービスを利用するようになってきました。年配の人も若い世代と同じようにオンラインビデオを視聴しています。時間や場所を問わず、様々なデバイスからアクセスできるからです。

例えば、私はアイスホッケーの大ファンですが、外出中にホームチームの試合を見たいと思ってもテレビ放送ではそれができません。しかし、OTTサービスであれば、パソコンでも、スマートフォンでも、タブレットでも、どこにいても、デバイスを横断しながら見ることができるのです。

川延:あるテレビ局では「おそらく今後のテレビ局にとって、ビジネスの未来はストリーミングだろう」と言っていましたよね。

ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰

ジム:はい。ディズニーのCEOも、将来的にはストリーミングで視聴者を獲得すると言っています。それがこれまでとの違いですね。
興味深いのは、NBCユニバーサルを所有するコムキャストのCEOが「これまで我々は消費者が何を求めているかにあまり注目してこなかった」と語ったことです。「自分たちが提供できるものを提供してきたが、いまや消費者がストリーミングを求めていることは明らかです。私たちは変わるつもりです」と言ったのです。これは、5年前とは比べものにならないほどの大きな転換点だと思います。

オンライン配信された世界最大のテクノロジーとカルチャーの祭典「SXSW」のインパクト

川延:今年のSXSW※は完全オンライン配信されました。OTTによって、650時間ものコンテンツを5つのチャンネルでリアルタイムに配信しました。オンライン化されたSXSWについての見解とその影響について教えてください。

※SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト):1987年にテキサス州オースティンで設立された、インタラクティブアート、映画、音楽業界の融合を祝うカンファレンスとフェスティバルとして知られ、コロナ以前では毎年40万人を動員した世界最大規模のイベント

ジム:コロナ禍以降、これまでと全く同じ「普通」はもう戻ってこないのではないかという認識が広がっています。東京オリンピック・パラリンピックでも海外からの観戦者は入れないことになりそうです。ニューノーマルのもとで、どうやってより多くの人々にアプローチするかが課題です。

これまで、SXSWは40万人を超える人々が来場し、何日もかけて大勢の人が行き交いました。しかし、オンラインのほうが実際に会場に足を運ぶよりも多くの人にリーチできるのです。ある人は、自宅でソファに座りながらコネクテッドTVで視聴したり、ある人は外出先からスマートフォンで視聴したかもしれません。これを実感した今、世の中が新しい正常な状態に戻っても、バーチャルな体験は継続されると思います。

川延:そうですね、未来はオンサイトとオフサイトのハイブリッドになると思います。現地へ足を運ぶファンもいますし、オンラインでコンテンツを視聴する方法ファンもいる。OTTはハイブリッドフォーマットのための良い手段です。

これからOTTがホットになる地域はどこか

川延:世界各地で、OTTは非常に重要になっています。日本も例外ではありません。世界全体でのOTTの勢いをどう見ていますか。

ジム:過去7年間、ビデオストリーミングの量は急激なスピードで増加しています。新型コロナウイルスのパンデミックがOTTの導入と普及を加速させたことは容易に想像がつくでしょう。パンデミック前にもすでに加速度的な成長が見られていましたが、パンデミック後の1年間で36〜48ヵ月分の成長がありました。それは今後も続くでしょうし、パンデミックが終わったからといって、急激に成長が止まるようなことはありません。

これはアメリカや日本に限ったことではなく世界的な流れです。アメリカ、日本、ヨーロッパ、アジアの一部、オーストラリアといった先進国では、長期にわたって非常に力強い成長を遂げています。これから大規模な成長が見られるのは新興国の市場です。東南アジア、ラテンアメリカ、中東、アフリカなど、さまざまな地域でインターネット配信されるビデオが見られるようになるでしょう。特にインドやパキスタンをはじめとする地域の急速な成長は、まさに目を見張るものがあります。

川延:デバイスの観点から見て、OTTにおいてどのデバイスがより重要になってくるのでしょうか。

ジム:スマートフォンやタブレットは、若者がコミュニケーションやコンテンツの消費に使用するデバイスなので重要です。実際、ブライトコーブで作成したビデオインデックスレポートを見てみると、スポーツ映像の60%以上が、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスで視聴されていることがわかりました。
そして、他のデバイスと比べて割合は非常に小さいのですが、前期比で急成長しているのが、コネクテッドTVです。これからもシェアが拡大するのは、モバイルとコネクテッドTVでしょう。
ただし、パソコンでも、スマートフォンでも、タブレットでも、どこにいても、デバイスを横断しながら見ることができるというOTTの特徴を考えるならば、OTTにおいてはもはや全てのデバイスが重要だと言えるでしょう。

マーケターがチェックすべきOTTサービスのビジネスモデル

川延:OTTサービスのプロバイダーにとって、AVOD、SVOD、TVOD※といったビジネスモデルがあるなかで、どのビジネスモデルが最前線になると考えていますか。

※AVOD:Advertising Video On Demandの略。YouTubeなど、広告を視聴することで動画コンテンツを視聴できるビデオオンデマンドサービスのこと
※SVOD:Subscription Video on Demandの略。Netflixなど、定額制動画配信のこと。 ユーザーは月額や年額などで費用を支払い、その期間中は動画コンテンツを閲覧することが可能
※TVOD:Transactional Video On Demandの略。視聴レンタル制の都度課金型動画配信のこと

ジム:AVODは、長い間コンテンツを収益化してきた方法です。視聴前、視聴中、視聴後に広告を入れる方法が一般的な手法ですが、別の手法として、例えばW杯の試合を見ているときに、CMを流す代わりにスポンサーが登場するといったことがあります。試合が始まると広告は表示されませんが、下の方に小さな広告主のロゴがあったり、スタジアムの壁に広告主のロゴが描かれていたりすることもあります。
AVODの手法は放送局、特に配給会社、サービス会社にとって、これからも手放すことができないものになるでしょう。AVODの収益は2025年までの間に2倍になると予想されています。

一方、SVODモデルは、教育を受けた視聴者や裕福な視聴者、若い視聴者を引き寄せるのに効果的です。特に広告視聴を避けようとする若年層にリーチしたいブランドは、プロダクトプレイスメントと呼ばれる手法を使って、SVODモデルに自社のブランドを組み込む方法を模索することになるでしょう。
その良い例がAppleです。Appleのノートパソコンの背面には大きなリンゴのマークが描かれています。この光景が動画のなかで映し出されれば、AppleはCMを流す必要がありません。今後、SVODではこのようなスポンサーシップやプロダクトプレイスメントがますます増えていくでしょう。
ただし、現実的にはAVODとSVODのハイブリッド型のサービスになると思います。広告を見たくないのであれば、コンテンツと引き換えに個人情報などを提供しなければなりませんというモデルですね。

SVODやAVODの定義や広告配信の仕方などは、将来的に今とは違ったものになるかもしれません。AVODは、プリロール(動画の再生前に表示される広告)、ミッドロール(動画の再生途中に表示される広告)のようなものが主流ですが、今後メーカーやブランド自身が独自のコンテンツを開発して配信していくことも考えられます。
あわせて、メインコンテンツと広告の比率も重要です。コンテンツに広告を重ねすぎてしまうと、視聴者のサービスの定着率が下がってしまう。そこは注意しなければなりません。

川延:広告とコンテンツのバランスは重要ですよね。

ジム:視聴者はそこにとても敏感です。そして、視聴者がコンテンツをどのように見ているのか、どのくらいの時間見ているのか、何を我慢して見ているのかを知ることが、これまで以上に重要になる時代に突入していると思います。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰(かわのべ ひろあき) 

合計で15年以上のビジネス経験を有し、そのうち約10年にわたり動画配信プラットフォーム事業に携わる。
ブライトコーブでは、マーケティング兼アカウントマネージャーとして入社し、ブライトコーブ株式会社第一号のアカウントマネージャーとして、日本のブランド並びにメディア企業の動画配信プロジェクトに従事。その後、2016年には、アカウントマネジメント統括としてブライトコーブ株式会社の既存ビジネスの総責任者に着任。2018年よりVice Presidentとして韓国事業並びに日本市場におけるセールスを統括。2019年9月より現職。
下関市立大学経済学部卒業。カナダビクトリア大学 Peter B. Gustavason School 経営学修(Entreneurship専攻)。

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