コミュニティというキーワードに注目が集まりつつある中、2021年1月22日(金)に250名の参加者が集まり、無料のオンラインセミナーが開催されました。テーマは「ファンが主役のコミュニティの創り方」。〔ミモレ編集室〕の川端里恵がホストを務め、ユーザー主体のコミュニティの先駆者的存在「コルクラボ」を運営する佐渡島庸平氏、川島崇氏をゲストに迎え開催された様子をレポートします。
川端里恵(以下、川端) 司会進行を務める講談社 ミモレ編集室の川端里恵です。ここ数年、「ファンベース」やファンを巻き込んでサービスやコンテンツを創っていく「共創マーケティング」がマーケティングのトレンドとして注目されています。さらに昨年のコロナ禍において、サービスがいっきにオンラインに移行したこともあり、オンライン上でお客様とコミュニケーションを取ろう、コミュニティを作ろうというムードが高まっているっていうように感じています。
ただ実際にコミュニティを作ろうとした場合、疑問やハードルもありますよね。『mi-mollet(ミモレ)』は2020年の4月に、〔ミモレ編集室〕というコミュニティを立ち上げました。おかげ様で大変好調なスタートを切ることができましたが、さまざまな試みの途中で、主に4つの課題と向き合いながら試行錯誤を繰り返しています。
【4つの課題】
1.コミュニティの目的と、コミュニティは収益に繋がるのか
2.どうのように熱量の高い人を集めればいいのか
3.継続するために必要なことは
4.その先に何があるのか
そこで本日は、2017年にユーザー主体でコミュニティをスタートさせた先駆者的な存在でもあり、今も熱量高く進化を続けていらっしゃる「コルクラボ」さんをお招きして、この4つの疑問について聞いていきます。
まずは簡単にそれぞれのコミュニティを紹介できればと思います。
(左上)川端里恵 講談社 ミモレ編集次長・ブランドマネージャー、(右上)川島 崇さん 『コルクラボ』運営リーダー、(下)佐渡島 庸平さん 株式会社コルク代表取締役
川島 崇(以下、川島) コルクラボは2017年の1月に、コミュニティプロデュ―スを学ぶコミュニティとしてスタートしています。「あなたが好きなあなたになる」を理念に、
1.自分の安全安心を知る
2.自分の言葉を紡ぐ
3.好きなことにのめりこむ
4.人の頼り方を知る
の4つを行動指針として、メンバーが主体となって活動しています。今年4年目に入ります。
川端 『mi-mollet』は2015年に講談社初の紙媒体を持たない女性向けのWEBメディアとしてスタート。2020年に5周年を記念して〔ミモレ編集室〕を立ち上げました。キャッチフレーズが「好きを伝え、つなぎ、つながる」で「ミモレを通じてつながった仲間たちとのやりとりを通じて自分をもっと好きになる」というメッセージで運営しています。月額会費が5,000円で、現在会員数は約150名です。
1.コミュニティを作る目的は?
〜挑戦するための足場となるサードプレイス〜
川端 最初にコミュニティを作る目的ですが、何のために立ち上げたのか? コミュニティって儲かるの? ということをお伺いできたらと思います。
佐渡島 庸平(以下、佐渡島) コミュニティを作ろうと思った理由のひとつに、僕の部署移動に合わせて作家の方もが雑誌を移動したとき、書店の本棚もお客さんもぜんぜん異なるため、ヒットしなかった、という経験があります。ファンは作家ではなく、メディアや書店の本棚につく傾向がありますが、僕が一緒に仕事をする作家さん自身にファンがついて、自由に作品を書けるようになったらいいなって思ったんです。それでSNS上でファンコミュニティを作りたいとなったときに、その方法が全くわからなくて、勉強する仲間を探そうと始めたのが「コルクラボ」です。
川端 『mi-mollet』は大草直子編集長創刊当初から、読者との距離が近くてエンゲージメントの高いメディアということを大事にしてきました。5周年を記念して〔ミモレ編集室〕を立ち上げたのですが、そのいちばんの目的は、本当にそうなのかを可視化した方がいいと考えたからです。
加えて、今のままでは、自分もメディアも成長が止まってしまう。読者の方もいつか離れてしまうのではないかという危機感を感じていました。これまでとは違う関係性を作らないといけないと思いました。「儲かるか」ということについては、どう考えていますか?
佐渡島 やり方次第ですよね。メンバーから言われて「なるほど」と思ったことがあります。金は天下のまわりものっていうじゃない? その天下って実は世の中じゃなくて自分のいるコミュニティを指している。そのコミュニティの中でお金を回していくことが幸せにつながるよねという話で、僕も本当にそう思います。
だから「コルクラボ」ではできるだけ、集まってきたお金が「コルクラボ」の中で使われる仕組みにしています。デジタル空間にサードプレイスを用意して、そこで安心できるようになってほしい。ただ、そのサードプレイスをどのように作ればいいのかは、実は誰も知見を持ってない。お互いに話し合いながら居心地をよくしていこうとしています。
川端 そのあとに話すのも恐縮ですが、〔ミモレ編集室〕は決して儲かっているとは言えませんが、副産物としての商品開発など、『mi-mollet』自体を磨いていくためには、必要なコストと関わりなのではないかと考えています。
佐渡島 リアルな世界って、何かをすぐお金と交換して、その瞬間に儲かったかを判断しますが、玉突きみたいに回っていくことがすごく重要なんです。とにかく回り出すこと、動き出すことが大事。みんなにサポートされて挑戦する準備をして、面白いこと始める人もいます。
でも起業やSNSの勉強会をしているわけではなくて、それを謳い文句にして入ってもらおうとも思ってない。気が付くと周りに刺激されて自分に合った場所に転職しようとか、起業しようという雰囲気なんです。
人に滑らかな変化を起こすためにどうコミュニティを使えばいいか、リアルなコミュニティの中で苦しさを感じている人たちに、どうやったらサードプレイスを提案できるのか、が最優先です。変化が起きるということは僕のやっていることを深く理解してくれているからで、お金よりもそれを世の中に正しく伝えてくれることの方が重要だと考えています。
『mi-mollet』の媒体資料の請求、〔ミモレ編集室〕に関するお問い合わせはこちら
2.熱量の高い人を集めるには
〜コミュニティは現代版の互助組織。その価値に気付いた人が残ればいい〜
川端 次に熱量の高いメンバーを集めるにはというテーマに移りたいと思います。大きく分けるとカリスマサロン型かメンバー主体型かの2つかなと思っています。
コルクラボさんは現在、メンバー主体という印象です。ラボも「佐渡島編集室」としてしまった方が分かりやすいはずなのに、なぜ「コルクラボ」としたのでしょうか?
佐渡島 「佐渡島編集室」にすると、僕がみんなを楽しませないといけない。僕がやりたいことはみんなが感動する作品を作ること。「コルクラボ」は中学生から年配の方までタメ語で話します。そこで気付いたのが、自分はそれまで何か壁を作ってコミュニケーションしてたんだなってこと。壁のないコミュニケ―ションの中で、僕の社会とのかかわり方がすごく変わったことで、同じように変わる人を増やしたいと思うようになりました。完全にメンバー主体型にしようって思ったのはそこからです。
川端 メンバーは選抜しているのですか?
川島 以前はしていましたが、選抜するという行為自体に違和感を感じるようになりまして。基本的にはしていません。
佐渡島 僕が独立して思うのは、完全なる個人だと社会は不安だということ。何かあったときに助け合える場を持っておくっていうことは、挑戦するときにぎりぎりまで行けるんだよね。その価値に気づいている人だけが残ればいい。現代的なゆるやかな互助組織のようになれればと思っています。
3.熱量高く継続していくために必要なことは?
〜一瞬の盛り上がりではなく、リラックスできる場所であること〜
川端 では次に、その熱量を高く継続していくために、「一体感を生み出す工夫」と「アクティブ>非アクティブにならないために」という2つの切り口でお伺いしたいと思います。まずは一体感を生み出す工夫について、事例をあげて紹介してもらってもいいですか。
川島 いくつかのシーンを写真で紹介しますね。
左上の写真のように、毎回みんなでお決まりのポーズをとったり、みんなでオンライン年越しする企画をしたり、みんなで何かを待つとか何かを企てるとか、メンバーの出会いを作ることはよくやっていますね。
川端 ミモレは編集・ライティング講座をやっていて、いろいろな人に出演してもらっています。この授業は放課後を楽しんでもらう、放課後に仲良くなってもらうためいう意味もあって。放課後と自由時間だけだと仲良くなるのは難しい。共通の体験とか一緒に学んでいく時間を持ったからこそ、それぞれの個別の時間が楽しくなるってことは考えています。
川端 次にもうひとつの切り口ですが、ある程度時間が経つと参加率が高い人や発言が多い人と、そうじゃない人がはっきりしてきて、それがヒエラルキー化していかないための工夫は何かありますか?
川島 出番を作ることはやっぱり大事ですよね。例えばコーヒー好が好き、走るのが好きっていうメンバーがいたときに、コルクラボでは「飲んでみる」「走ってみる」といった乗っかる風土があります。好きのおすそわけが日常的に行われて、その仲でメンバーの知られざる姿が出てきて感動したり、もっとそのメンバーが好きになったりということがけっこうある。
左上の写真は投資企画のプレゼン大会の様子ですが、支持を得たものに会費の10%を限度として資金を提供しました。こういうのがあるとちょっとした挑戦が"大きな挑戦"になっていき、ファンが増えたりするんですよね。
佐渡島 雑誌の場合だと熱量の高まりを、すぐに反応があるか、完売するかで見るんだけど、「コルクラボ」では居心地がよくてリラックスできるかが大切。リラックスできる場所が一瞬でできるわけじゃないから、1年とか2年の単位で考えています。
川端 私も最初は月額5,000円の価値を提供しなきゃって、著名な人を呼んできてイベントを毎月するみたいなこと考えていたんです。でもメンバーが心理的な安全性やリラックスを感じる中で、自由にイベントを立ち上げたり、活躍の場があったり、スポットライトがあたったりする瞬間があることに価値があるのであって、有名人のイベントが毎月あることじゃないんだなということに気付きました。
4.その先のビジネスへの活用、展開は?
〜関係人口が多ければ、自然とお金もまわりやすくなる〜
川端 次に、ビジネスとしてどのような可能性があるかという話を、話していただけたらと思います。
佐渡島 関係人口という言葉がありますよね。例えば『mi-mollet』が何かを宣伝するときに、編集長と担当者と宣伝部の人と代理店とか少人数でがんばって、あとはお金を使って解決、ということがあると思うけど、お金を使わなくても200人、300人が本気で宣伝する方が変化は起き出すと思っています。
「コルクラボマンガ専科」というプロのマンガ家を本気で目指す人たちが学ぶ場所があるのですが、毎週のように誰かが1万いいね! ぐらい獲得して、フォロワーが増えるんです。本当にしっかりとしたコミュニティがあると自然とビジネスになっていくし、お金がまわりやすくなることを感じています。
川端 〔ミモレ編集室〕では、公開前の原稿を読んでもらって、タイトル付けやレビューを書いてもらったりしています。そうすると、どこにみなさんが反応するか分かります。実際に化粧品を使って原稿を書いてもらう「コスメ試し隊」は、ミモレに載るとランキング1位になることも多いんです。
人とつながることの価値とパワー
川端 最後に、コミュニティのこれからと、これまでやってみてよかったことをお伺いできればと。
川島 よかったことは、圧倒的に仲間が増えたということですね。自分自身の挑戦の場も多い。オンラインで新しい挑戦、新しい仲間との出会いをどんどん増やすことによって、みんなわくわくしながらがんばっていこうよというメッセージを込めて「CO-EN」マップを作りました。新しい仲間を増やして新しいメンバーを知っていきたいし、知っているメンバー同士が話をしているところを見るのも好きで、どんどん仲間を増やしてつないでいきたいなと思います。
佐渡島 人と誰かが長くつながっていることの価値ってすごいなと思います。川島君と僕は相互理解が進んでいて、この人間関係にさらに新しい中間が入ってきて、その人間関係の充実してるっていう感覚がいいなと思う。そういう縁が5人とか10人だと社会の中に自分の場所があるって簡単に思えないかもしれないけど、ぜんぜん違う職業の人たちが数百人いるとなると、どうやっても生きていけるなって。この感覚を持てることは重要ですね。
川端 私はつながりみたいなのをすごく感じていて、一言でいうと解像度が上がったみたいな感覚です。どんな服を来て、どんな文体で文章書く人で、どんなことに興味がある人か。一人ずつ顔が思い浮かぶようになったのが、1年前とぜんぜん違うことです。
40歳を過ぎて会社の同僚やママ友以外の友達ができるのは本当に貴重なことだし、友だちとまではいかなくても出会えるってすごいことだと思う。互助精神というか、自分たちの知見や経験をおしげもなく人の役に立たせたいという思いはすごいパワーだなと思っていて。これが日本未来をよくするに違いないと感じています。このつながりはなかなか得難いですよね。
『mi-mollet』の媒体資料の請求、〔ミモレ編集室〕に関するお問い合わせはこちら
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■イベント名 ファンが主体のコミュニティを創り方
■主催 株式会社 講談社 ミモレ編集部・〔ミモレ編集室〕
■登壇者
佐渡島庸平(さどしまようへい)
講談社を経て、2012年クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。株式会社コルク代表取締役。 Twitter: @sadycork / Youtube:【編集者 佐渡島チャンネル】
川島崇(かわしまたかし)
コミュニティを学ぶコミュニティ『コルクラボ』運営リーダー。一般企業に勤めながら、ファンコミュニティの研究・実践をするのがライフワーク。『すないぱ~』の名前で活動中。 twitter:@sp_kawashi / note:https://note.com/kawahao
川端里恵 (かわばたりえ)
講談社 ミモレ編集次長・ブランドマネージャー。WEBメディア「ミモレ」および〔ミモレ編集室〕のUIやシステム、マネージメントを担当。読者からはバタやんの愛称で知られる。Podcast「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」も毎週配信。Instagram:@batayomu