2020.10.27

エシカル視点で考えるこれからの代理店とパートナーが果たしていく役割──「AW2020ASIA」レポート②【読者限定 無料視聴パス進呈!】

これまでの広告業界をふり返りながら、「ethical(エシカル)」をキーワードに、これからの代理店の責任と、パートナーに期待されることについて考えるセッションをレポートします。これからの代理店とパートナーが果たしていく役割とは、一体どんなものなのでしょうか。

※記事の最後に、本イベントのアーカイブ視聴ができる「C-station読者限定無料パス」を配布しています。

DAS株式会社 武井明(以下、武井) このセッションでは電通の青木さん、TBWA博報堂の岡安さんとお話しを進めてまいります。はじめに、代理店の役割はどう変わって来たのか、というところから教えてください。


代理店の果たす責任が変わって来た

株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ 青木圭吾(以下、青木) 「デジタルマーケティング」といわれる市場が勃興して20年くらい経ったなかで、メインデバイスがモバイルへシフトしたというのがここ10年くらいの変化です。もちろん、これまでのレガシーというのは基盤にしていかなければいけませんが、大きな変化が起きている時代のなかで、マーケティング戦略の変化に伴って代理店の役割も変化してきています。

武井 「代理店が果たす責任」も変化してきましたよね。
キーワードでまとめると、1つは、個人情報(PII)の管理運用がセンタライズ(社内規制)からディセンタライズ(外部規制)へシフトしたこと。2つめは、100%インハウスマーケティング時代におけるテクノロジー戦略をどう考えていくのか、というところ。
そして3つめに"エンドユーザーファースト"思考の重要性。こういったところをどう捉えていくのかも、今後非常に大事ではないかと思うのですが、岡安さん、どう思われますか。

TBWA博報堂 岡安由樹(以下、岡安) ここで列挙されている3つはかなり重要なポイントだと思っています。
ITP(ユーザーのプライバシー保護を目的としたトラッキング防止機能)や、GDPR(EU一般データ保護規則)、CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)など、次々と個人情報保護に関する法規制ができている流れのなかで、今流動的になっている「個人情報をどこでどう管理するか」は、代理店側が気にしなければいけないところになってきたと思っています。

今までの代理店の「責任領域」は、いい枠や、いいオーディエンスをどう捕まえるかというメディアの領域に限られていたものが、個人情報保護が厳しくなるなか、データやテクノロジーという2つの視点も代理店が考えていかなければいけない領域になってきていると思っています。

青木 これまで代理店は、ブランドのメッセージデリバリーに対し、エンドユーザーの最適なコンタクトポイントを設計するというところに注力してきました。しかし、法規制やテクノロジーの規制などによって、ブランドが自分自身でやらなければいけない部分が増えてきて、代理店の役割も分散化せざるを得ない流れになっています。
2つめの「100%インハウスマーケティング」についてですが、ブランドが自社でマーケティングをする流れは避けられないと思います。そうすると、「代理店はいらないのでは」となるのですが、そうではなく、バリューの作り方が大きく変わるのではないかと思っています。

岡安 法規制だけじゃなくて、昨今の人種瀬別抗議運動「BLM(Black Lives Matter)」やTikTok利用禁止令のように、社会情勢までも代理店が管理しないといけない、みたいな部分もかなり広がっていますよね。

青木 クライアントは、その業界においては非常に詳しい知見をお持ちですが、インハウスマーケになればなるほど見方が狭まる部分もありますので、「世の中の流れをみると、こういくべきなんじゃないですか」という外部からの声は逆に大事になってくると思います。
また、これまで代理店はクライアントファーストでやってきましたが、そのクライアントの顧客であるエンドユーザーがどう関わってきて、その方々が何を求めているのかということをきちんと把握することから、クライアントに対するアドバイザリーができていくのではないかと考えています。

岡安 マーケティングがすごい複雑になってくると、自分たちが思いも寄らないブランドセーフティーの新しい事案が出てきますよね。このタレントの同じ事務所の人が不祥事を起こしたから、ここは広告出さない方がいいといったセンシティブなこととか、「時代の空気を読む」ことの重要性、難しさも感じています。

「エシカル」は重要なキーワード

青木 最近のコンテンツの飽和というかスピードの速さはおそるべきものがあります。コミュニケーションでは「エシカル」「ポリティカルコレクトネス」(政治的・社会的な公平表現)は重要なキーワードになってくると思います。一方で、マーケティング戦略の大きなひとつの条件は顧客をいかに獲得していくことだと考えると、感度を高くするために、先ず代理店がいろいろ学ぶべきだと強く感じています。

岡安 空気感とかフリークエンシー(配信頻度)とか、わかりやすいデジタルマーケティングワードではなく、もうちょっと倫理観というか、エシカルな広告体験とかコンテンツ体験みたいなところは、どこがやるべきかというのは、僕もまだ見えていない感じですね。

青木 デジタルマーケティングというのがこの20年、特にこの10年ものすごい勢いで加速したわけですけれども、テクノロジーの要件として重要なポイントに「エシカル」のような、ポリシー面の有無みたいなものもちゃんと見ていかなきゃいけないというのはあると思います。「できるんだから何をやってもいいでしょ」という発想から脱却しなきゃいけないということですよね。
武井さんたちが最近コンセプトとしてお持ちになっているソリューションも、非常に面白いですよね。

武井 ありがとうございます。「NATIVE OCEAN」は、弊社が運営する国内最大級のネイティブ広告プラットフォームです。数年前からネイティブ広告市場が日米ともに伸びていて、非常に高いパフォーマンスを出していますが、この市場は非常に伸びているがゆえに多くのプラットフォームが参加し、ネットワークが分散してしまった部分もあります。そこで弊社の「Native Ocean」では、その一元管理を目指しています。


青木 ネイティブ広告と同じようにインターネット上で公開するマーケティング手法にコンテンツマーケティングがあります。これは、ブランドのメッセージを練り込んだコンテンツをユーザーに届けることで「見つけてもらう」というディスカバリー体験を通じてエンゲージメントを高めるもので、ここ5〜6年で増えてきたように思いますが、岡安さんのチームの方でもこういったコンセプトは結構やっているんですか。

岡安 そうですね、代理店としてはめちゃめちゃ売りやすいですよ、これ。「広告が出てくる記事」というより、記事の中身のなかから合わせて読みたいという感じでレコメンドされた方が最終的に成果に結びつく率も高いので、すごく利用しています。

青木 ただ流行るがゆえの課題もありますよね。

武井 おっしゃるとおりです。プル型でさりげなく見つけてもらう枠だったのに、流行ってしまったがゆえに、クリックさせたいという思いから刺激的なクリエイティブで配信されてしまうということも起こっているので、そういった世界観はよりよくしていきたいなという思いで、今こういったプロダクトを扱っています。

機能としては非常に面白いものを持っているんですが、私たちプラットフォームとしては「三方良し」という世界観を改めて作っていくことに注力していきたいと思っております。
まずはクリーンで中身に質があり、その結果非常にクリックされやすいコンテンツをユーザーに届けることで、クライアントはよりコストを下げて誘導ができます。また、GA(Google Analytics)とAA(Adobe Analytics)を使うことで行動を伴うクリックも獲得できます。さらに、クリック率が高いことによってパブリッシャーにも比較的高いCPMでお金を還元させていただけるというところで、まさに「三方良し」を実現できると考えています。

こういう流れをネイティブ広告で作っていきたいと思っているんですが、青木さんや岡安さんは、こういった新興テクノロジーやパートナーにどのような期待をされていますか。

新興テクノロジーに期待すること

岡安 新しい技術は日進月歩。代理店も学ばなきゃいけないなと思いながら聞かせてもらっているんですけど、新興テクノロジーというかプラットフォーマーには、「代理店がやるべき」「プラットフォーマーがやるべき」という枠組みを超えて、どんどん代理店がやるエリアに越境してきてほしいと思っています。責任領域についても、どちらがやるかというのを互いに会話しながらやっていくというのが結構重要かなと思っています。

青木 エンドユーザーファーストということを考えた時に、どういった価値をクライアントに提供できるのか、何よりエンドユーザーに提供できているのかということが重要ですよね。なので、このソリューションはどんなバリューを受け手の人たちに提供しているのかということを、クリアにしていただけると私たちも活用しやすいと思います。

もうひとつは拡張性とか連携性みたいなことも重要だと思っています。代理店としてはクライアントの要件に合わせて最適なマーケティング策を構築するのは当然ですが、そこにおける連携・拡張というのはキーになってくると思います。特に100%インハウスという流れになったら、代理店の価値は運用やマーケティングの戦略構築という部分重視になるので、そういった面でプラットフォームがどの部分をサポートしてどう拡張できるのかということが明確になると、代理店も受け入れやすくなるかなと思います。

岡安 そうですね。毎月100万円でも1年間で1200万円となると、3つ導入したら3千万円の費用がかかりますから、クライアントにすすめる代理店の責任は重大です。本当にこの購入が必要か、クライアントサイドで完結するようなツールなのかどうか、いまの情勢やいまのレギュレーションの流れに沿っているかどうか、などという判断は、代理店が責任を持って提案しなきゃいけないと思っています。

青木 代理店の役割が変わってきているなかで、電通グループとしてもテクノロジーという武器はどんどん強化していきたいですし、博報堂さんともお互いに切磋琢磨しあえるよきライバルとして、よい意味でのユーザーファースト、エンドユーザーファーストで新しい価値を作っていけるような代理店としてがんばっていきたいと思っています。テクノロジーの方々ともブランドの方々ともぜひご一緒にお仕事していきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

岡安 僕もまったく同じです。今、かなり流動的で誰も先が読めない状態なので、エンドユーザーのためにどちらがやるかというのを決めずに模索しあいながら一緒にやっていけるといいかなと思います。

青木 新しい競合関係になりたいですよね。

武井 いい意味で各ステークホルダーの距離感が近づいているのかなと思います。パートナーサイドも、一歩踏み込んで機能に落とし込んでいくことをしていくべきだと感じました。今日はありがとうございました。

開催日時:2020年10月15日(木)13:30〜14:00
Channel:Rebuilding Channel
テーマ:エシカル視点で考えるこれからの代理店とパートナーが果たしていく役割
登壇者:
モデレーター: DAS株式会社 Chief Solution Evangelist 武井明
スピーカー:株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ R&D推進3部長 青木圭吾
/TBWA博報堂 Digital Marketing Division, Head of Digital 岡安由樹

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