2020.08.03

専門誌の強みを活かして、PV50倍の大躍進を実現! 自動車専門メディア『ベストカーWeb』のデジタル戦略とは?

老舗自動車専門雑誌『ベストカー』のウェブ版として、月間2500万PVを記録する『ベストカーWeb』。2年半前の大規模リニューアルによって、アクセス数を爆発的に伸ばしました。その秘密はどこにあるのか。寺崎彰吾編集長にお話を聞きました。

言葉の端々から"クルマ愛"があふれる、寺崎彰吾『ベストカーWeb』編集長

実はインターネットと相性がいい「自動車業界」

──編集長に就任されてから、アクセス数が50倍に伸びたそうですね。どんな「魔法」を使ったのか、教えてください。

寺崎編集長(以下、寺崎) 雑誌とウェブでは読者の"性質"が違うということ、そしてウェブサイトでは紙媒体とつくりかたが違うということ、この2点から抜本的にサイトを見直しました。

まず、読者です。料金を先払いして情報を購入する紙の雑誌と、基本的に無料で情報が見られるウェブサイトでは、読者の「熱量」が異なります。それは興味の高さ、本気度ともいえるかもしれません。そのニーズに長年応えてきた専門誌『ベストカー』のコンテンツは、ウェブ読者の期待にも必ず応えられるという自信がありました。しかし以前は、雑誌読者に配慮して、重複しない内容を中心に掲載していました。

ですが、雑誌とウェブでは読者が求めているものは異なります。であればと、思い切って雑誌の情報を『ベストカーWeb』用にアレンジして掲載し始めました。もちろん、雑誌でしか読めない情報も残すことで、有料媒体としてのプレミアム感は維持し続けています。

その後、クルマ関連のニュースやスクープ情報はもちろん、ウェブオリジナル記事のほかにも、本誌『ベストカー』で掲載しているカー用品や社会ネタまで、バラエティに富んだ情報を配信したことで、着実にアクセス数は増加していきました。

さらに、記事の面白さ以外の要素、SEO(オーガニック検索)の影響が圧倒的に大きいウェブサイトの特長を強く意識。SEO対策の専門家に相談して、サイト設計を一から見直し、再構築しました。現在も二人三脚で運用することで、コンテンツのクオリティとSEO対策の両立を図っています。

クルマ雑誌No.1 『ベストカー』のウェブ版、『ベストカーWeb』

──SEOの専門家には、どんなサポートをお願いしたのですか。

寺崎 キーワード選定からタグの構造化、サイト表示速度の調整といった基本的なことから、広告の見せ方、サイト内のデザインなど、ウェブの特性を最大限に活用するための、あらゆるサポートをお願いしました。

実は、「自動車業界は検索クエリがしっかりしているので、SEO対策の効果が出やすい」のです。その優位性を専門家の協力を得ることで、最大化したわけです。

ちなみに、最近の検索クエリを見ていると、コロナの影響を受けて、市場が二極化している様子がうかがえます。「中古」というキーワード検索が増える一方で、「レクサス」など高級車の検索回数が非常に増えており、心理的にコロナの影響を受けているユーザーと、そうでないユーザーがはっきりと分かれているといえます。

こうしたトレンド(ユーザーニーズ)を捉えて記事を作成すると、アクセス数は増加しやすい傾向にあるため、ウェブ版では、雑誌の誌面構成とはまったく別のやり方で運用しています。その背景には、雑誌にはない、PV数が収益に影響を与える「運用型広告」への意識もあります。自動車業界の広告というのは、非常に良質で単価が高い傾向にあり、自動車の専門メディアは「実はインターネットとの相性がいい分野」といえます。

クライアントフレンドリーであり、読者フレンドリー

──雑誌とウェブでは、つくりかたも見せ方もまったく違うのですね。

寺崎 はい。ところが、雑誌でもウェブでも「クルマ好き・男性・40代」という読者のペルソナは変わらないんです。異なるのは、さきほども申し上げた「熱量」です。これは、近年ニーズの多様化が進んだことで、もはや読者を年齢層や性別、年収、居住地などで絞る従来のセグメンテーションでは、"真のユーザー像"を把握できないことを意味をしています。

私たちもその点を意識し、読者の年齢や性別ではなく、「興味関心」に応える記事づくりを、雑誌・ウェブともに、重視しています。

『ベストカーWeb』では、現役レーシングドライバーがSUVのクルマを乗り比べる「プロ目線」の企画など、
読者の"知りたい"に応える記事が展開されている

──現在のPV数が月間2500万と聞きました。相当な数字ですが、さらにPV数だけでなく、セッション数も意識されているそうですね。

寺崎 ウェブサイトの閲覧状況を分析するのに、これまで「PV数」を指標にすることが多かったのですが、PV数が多いということは、サイト内の回遊性(滞在時間)が高いという可能性もあります。そこで、PV数だけでなくセッション数も分析してみると、非常に高い水準にあることがわかりました。これは「ユーザーが当サイトの記事に興味を持って、しっかり読んでいる証」でもありますから、最近では、クライアントにPVとセッション数を提示し、いかに当サイトの記事がしっかりと読まれているか(クルマ好きの心を掴んでいるか)をご説明しています。

ちなみに、PV数を上げるためには、ひとつの記事を複数ページに分割する手法も存在します。ですが、果たしてこれが本当に読者にとって親切な構成かというと、そうではないこともあります。ですから、当サイトでは、記事を最後まで読むと、そのまま次の記事が表示される「無限スクロール」を採用しています。これは、"関心のある記事を読みたいだけ読める"構造であり、読者にとってだけでなく、クライアントであるメーカーにとっても「親切」な設計だと考えています。

そこには、自動車専門メディアは、読者とクライアント、双方がハッピーでなくてはならないという信念があります。なぜなら、私たちにとってメーカーは、広告主であると同時に記事の情報提供者であり、どちらが欠けても成立しないからです。

その結果、自動車専門メディアは、クライアントフレンドリーでありながら、読者フレンドリーでもあるという絶妙なバランスを生み出しました。これも専門誌から派生したメディアならではの強みのひとつ、といえるかもしれません。

これからも、3者にとっての「いいカタチ」を模索し続けたい

──最後に。今後の目標や計画について教えてください。

寺崎 ここ最近、あおり運転厳罰化や、豪雨など自然災害時の車の冠水被害など、社会的な問題に自動車が登場するケースが増えています。そのなかで役立つ情報は、「シェアしたい」と考えるユーザーが多く、非常にソーシャルメディア向きです。ですから、時勢にあった情報については、古い記事でも積極的にSNSで発信するようにしています。これによって、「検索」だけでなく、「SNS」もユーザーとのタッチポイントとなり、新規ユーザー獲得にプラスに作用すると考えていますので、今後さらに力を入れていけたらと思っています。

加えて、もっとインターネットの可能性を広げることにも挑戦していきたいと考えています。

たとえば、自動車が欲しい人と自動車メーカーのディーラーをマッチングさせたり、クルマのキャラクターやマンガのIPを活用した施策を考えたりするなど、これまでとは別の方向に目を向けていくと、もっと面白い取り組みができる可能性もありますよね。そこでも重要なことは、当サイトに関わるステークホルダー全員にとって、「いいカタチ」であること。それをこれからもずっと、模索し続けていきたいですね。

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