2020.07.02

「物心ついたころには、もう世界にセーラームーンがいた」宇垣美里──マンガから学んだことvol.2

さまざまな分野で活躍する人から「マンガから学んだこと」を聞く、シリーズ連載。
第2回は、元TBSアナウンサーで、現在はフリーアナウンサー、執筆活動や多数のCM出演など、幅広く活躍中の宇垣美里さんによるエッセイをお届けします。宇垣さんが「マンガから学んだこと」とは?

文:宇垣美里

人間の持つ物の中で何より強いのは"希望"

物心ついたころには、もう世界にセーラームーンがいた。それまでの、ただ可愛くか弱く、王子様に守られることを待ってるだけのお姫様とは違う、戦うお姫様。

ひらひらの短いスカートを翻し、宝石のようなコスメのような可愛い道具を使って変身する姿に、私はもう夢中だった。屈託なくみんなを受け入れるうさぎちゃんや、知的で優しい雰囲気の亜美ちゃん。中でも神社で働くクールな霊感少女・レイちゃんに憧れて、一時期黒い髪のストレートヘアを腰まで伸ばしていたくらい。自分よりよっぽど弱い王子様や、今自分たちが生きている世界、未来の地球を、傷だらけになって守るセーラー戦士たちの姿をみて育った私は、いや私たち世代は、自分たちが戦えることを知っている。自分の一番大切なものは、たとえどんなにつらくとも、自分自身で守らなければならないのだと、骨の髄まで叩き込まれたような気さえする。気の強くたくましい友人が多いのは、もしかしたら、幼少の頃からアニメによって従来のものとは違う価値観のアップデートをなされていた、からなのかもしれない。単に類は友を呼ぶなだけの可能性もあるけれど......。

『美少女戦士セーラームーン』には次から次へと新しい敵が登場する。セーラームーンの持つ幻の銀水晶の力や、美しい地球を狙った、より強く、より邪悪なそれらに、うさぎちゃんは「私さえいなければ狙われなかったのだろうか?」と強すぎる力を持て余し、自分を守って傷つく仲間たちの姿に涙する。だって、彼女はまだ10代だ。それでも何度となく立ち上がり、戦い続ける彼女の姿勢に、人間の持つ物の中で何より強いのは"希望"なのだと教えられた。生き続けるたびに困難も生まれるけれど、希望とその先の未来がある限り、絶対に負けやしないのだと。

今でもおしゃれで無敵なセーラームーンの世界観が大好きだ。ドラッグストアでセーラームーンのコスメを見つける度に買い集め、ガチャガチャがあると即財布の紐が緩む。「この服、あやかしの四姉妹のコーアンみたい!」なんて理由で手を伸ばしたりする。タブレット入れとして持ち歩いているのはガチャガチャでみつけた"コズミックハートコンパクト"。これさえあればいつでも変身できる気がする。いつだって、私は無敵だ。強いと可愛いは両立できるのだ!

「美少女戦士セーラームーン 完全版」(1)(2)(3) ⒸNaoko Takeuchi
左から、月野うさぎ/セーラームーン 水野亜美/セーラーマーキュリー 火野レイ/セーラーマーズ


自分の力で手に入れた幸せは、何よりも尊い。

強い女の子は少女漫画だけじゃない、少年漫画にも登場する。
たとえば、言わずと知れた大人気作品『進撃の巨人』もそう。

この作品の中で強い女の子といったら、皆真っ先にミカサの姿を思い浮かべるだろう。誰よりも高い戦闘能力を持ち、幼馴染のエレンを守ることこそを使命として戦う女の子。

けれど、あえて私はヒストリアというキャラクターをあげたい。妾の子として育ち、生きるため"良い子"であることに必死だった彼女。決して肉体的に強いわけではないけれど、誰よりも強い心を持っている。そのきっかけとなったのが、兵団の同期で大切な存在となったユミルにかけられた、「胸張って生きろよ」の言葉だ。呪いのように"いい子"であることに固執していた彼女が、その言葉や、ユミルとの友愛にどれだけ救われたことか。それは、小さな一コマでサラッと描かれていたそのシーンが、ヒストリアの回想の中では2ページの見開きになっていることにあらわれている。ユミルが裏切ったかのように見えた時にも、「話せないことがあっても 何があっても 私はあなたの味方だから」と叫ぶ姿に、人は大切な人のためなら、どこまでも強くなれるのだと知った。

現実よりもずっとずっとハードな世界で戦う彼女たちを見るたびに、心が鼓舞されるのを感じる。泥だらけになりながら自らの足で立ち、戦うその姿のなんと美しいことか。傷だらけになろうと、血にまみれようと、この手で豊かな未来を切り開いてみせる。自分の力で手に入れた幸せは、何よりも尊い。

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