2020.05.28
調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係| [新連載]マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情
いまや日本人に欠かせない「キャラクター」という存在。その意義や役割は、そして活用によって、どのような効果が期待できるのか。
キャラクターマーケティングの専門家が、調査結果や事例を交えながら解説する連載です。
空気や水のように存在している「キャラクター」
皆さんはじめまして(ごく一部の皆さん、お久しぶりです)。
マーケティングリサーチ会社に11年、広告会社に20年勤務して、マーケティングリサーチやプランニング、キャラクターコンテンツ全般、特に企業キャラやご当地キャラの企画開発・運営に関わってきた野澤智行と申します。
新型コロナウイルス対応で、世界中で外出自粛などの行動変容が求められています。
この時期の自宅での楽しみ方として、撮りためておいたTV放送や、OTT(Over The Top)と総称されるサブスクリプション型動画配信サービスで、気になるアニメや映画・ドラマ(最近はマンガ原作が多く見受けられます)を一気見し、その勢いで原作のマンガ単行本や関連グッズをネット通販で大人買いした...という方もいるのではないでしょうか。
気軽に接触できて、登場人物に感情移入することで泣いたり笑ったり気分が高揚して、恰好の癒しや気分転換になる。コロナ時代にも実感できる、マンガやアニメ、グッズなどのキャラクターコンテンツが持つ大きな効用です。
この連載では、いまや空気や水のように、私たちの生活で当たり前に存在している「キャラクター」について、人が生きていく上でどんな意義や役割を担っているのか、どんな活用効果が期待できるのかを、これまでの調査結果や事例を交えながら語っていきます。
世間がもう少し日常の落ち着きを取り戻してからになるかと思いますが、現在筆者が企画中の新しい調査についても、結果がまとまり次第ここで発表していく予定です。
なお一般的には企業・商品の告知やイメージ向上のため広告などに起用されるタレント・有名人や、学生・若者同士のコミュニケーションの場で各人が類型的に演じる役割も、キャラクターあるいはキャラと呼ばれますが、ここでは、「アニメやマンガ、ゲーム、絵本・童話・小説、インターネット、街角、商品パッケージや各種グッズ、広告などで見かける、架空の人物や、人に見立てた動物・植物・ロボット・宇宙人などの総称」のことを「キャラクター」と定義します。
日本人はこんなに「キャラクター」が好き
最初に、日本国内で「キャラクター」を好きな人がどのくらい存在するかを見てみましょう。
図表1は、2018年3月に日本国内在住の男女3~74歳4,500名を対象として、楽天インサイトへの委託で実施したキャラクターパワーリサーチで、「キャラクターが好きなほうである」と回答した人の割合です。
図表1. 2018年に「キャラクターが好きなほうである」と回答した人の割合
男女3~74歳全体では、「かなり当てはまる」と「まあ当てはまる」を合わせて52.8%と、"キャラクター好き" の人が約5割を占めています。性・年齢別にみると、"キャラクター好き"(「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」)は、男女園児・小学生と女子中学生-19歳、男女20-34歳で特に多くなっています。
男子は中学生から高校生の頃に"キャラクター好き"が一旦減少しますが、大学生になると再び増加に転じる点が興味深いです。
また50-74歳になると、特に男性で"キャラクター好き"と公言する人が少なくなりますが、今の50代は物心ついた頃にはテレビアニメが放送されており、浴びるように名作コンテンツを見ながら育った世代です。筆者の同年代の友人知人をみる限り、実は隠れファンも多いのでは、と睨んでいます。
この調査結果は、全体的にキャラクターが大好きな日本人がいかに多いか、日本の生活者にとってキャラクターがどれだけ重要な存在になっているかを示す結果だと言えるでしょう。
誰が、どんなキャラクターを好んでいるか
さて「キャラクター」と言っても、幅広い層に愛される人気キャラや昔から存在するレジェンドキャラ、最近ではゆるキャラ・ご当地キャラやLINEスタンプのキャラまで、数多くのものが並存しています。また性別・年齢、個人の嗜好や過去接触経験によって、思い浮かぶ(想起される)キャラクターの内訳は大きく異なってきます。
図表2は、キャラクターに特化したリサーチやコンサルティングをしている株式会社キャラクター・データバンクが、毎年6月に日本国内在住の男女3~65歳2,000名を対象に実施しているキャラクター・イメージ調査のうち、2018年6月の純粋想起※1による「好きなキャラクター」上位一覧です。
※1 純粋想起:ブランドや広告の認知度調査を行う時などに、名称や画像などのヒントを与えずに、思い出したブランド名や広告名(ここではキャラクター名)を自由に回答してもらう方法
ここでは、マンガ、絵本、ゲーム、ファンシー雑貨など、どのコンテンツや接点から誕生・発展していったか、出自で色分けしています。分類に悩むところですが、著名な童話系原作以外のディズニーキャラはファンシー系にしました。
図表2. 純粋想起による2018年「好きなキャラクター」上位一覧 (%)
男女3~65歳2,000名が回答した上位キャラクターは、1位「ドラえもん」と3位「スヌーピー(ピーナッツ)」はマンガ原作系、2位「ポケットモンスター」と6位「それいけ!アンパンマン」は絵本・ゲーム原作系、4位「ミッキーマウス」と5位「ハローキティ」と7位「リラックマ」はファンシー系と、それぞれ出自が異なります。
また、上位10位以降でも様々なタイプが共存し、男性、女性、キッズ、ヤング、アダルトなどの特定層で絶大な人気を誇っているキャラクターが数多く見受けられます。
図表3は、性・年齢別に見た2018年の純粋想起による「好きなキャラクター」上位一覧です。
男性は3-6歳で「ドラえもん」、7歳から30代まで「ポケットモンスター」、40-65歳で「機動戦士ガンダムシリーズ」が第1位となっており、全般にマンガ原作系が上位を占めています。成人層では、大人になった今でも子どもの頃に接触したマンガ原作系が上位を維持しているのが共通する特徴です。おそらくキャラクターに限らず、少年期に好きだったものへの思い出をいつまでも忘れない男性の特性を示す結果ではないでしょうか。
女性は3-6歳で「プリキュアシリーズ」、7-12歳で「すみっコぐらし」、13-19歳と40-65歳で「スヌーピー(ピーナッツ)」、20-39歳で「リラックマ」が第1位で、全般にファンシー系が上位です。男性よりも年代による好みの違いは少ないですが、女性13-19歳での「名探偵コナン」など、劇場版映画の好調を支える熱心なファンが存在することをうかがわせる結果もみられます。
そして男女とも中高年層では、「くまモン」「ふなっしー」のご当地キャラもランクインしています。ブームが落ち着いて久しいご当地キャラですが、この二強キャラへの支持は定着しているようです。
図表3. 性・年齢別:純粋想起による2018年「好きなキャラクター」上位一覧(%)
図表4は、2018年の純粋想起で上位にあげられた「好きなキャラクター」がどのタイプに該当するのか、性・年齢別に各タイプの構成比(シェア)を算出した結果です。
図表4. 性・年齢別:純粋想起による2018年「好きなキャラクター」のタイプ構成比
男女3-65歳全体では、「絵本・ゲーム等原作系」「ファンシー系」「オリジナル系」「マンガ原作系」のシェアが高く、「企業キャラ」「ご当地キャラ」のシェアは僅かです。
「マンガ原作系」のシェアは、7歳以上の男性全般で高く、特に男性40-65歳の中高年層で際立っています。かつてマンガは子どもが読むものだという時代もありましたが、今やマンガは大人の男性の共通言語になっている様子がうかがえます。
また、全般に「ファンシー系」のシェアが高い女性のうち、7歳から19歳の学生層では「マンガ原作系」のシェアも高めです。少女・女子向けマンガが原作となったアニメやドラマ、映画が人気を博し、また少年マンガ誌の読者としてもこれらの女子層が確固たる地位を築いており、原作マンガの評判や単行本の売れ行きに多大な影響を及ぼしていることを反映した結果だといえるでしょう。
今回紹介したデータはいずれも2018年時点のものです。
日本中の老若男女が長期に及ぶ自粛社会を経験した2020年にどんなキャラクターが上位に来るのか、キャラクターやマンガに対する意識や実態にどのような変化が生じるのか、今後の情勢を見守りたいと思っています。
今回はまず、日本人とキャラクターの関係性を調査データで紐解いてみました。次回は「キャラクターの提供体験と活用効果」について語ります。どうぞお楽しみに。
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授として、現在は法政大学経営大学院で学びながら、駒澤大学や福井工業大学で講師も務める。