2020.05.27

<番外編>新型コロナの中、新たなファンを獲得した"神対応"企業に学ぶ|夏目幸明の「ヒット商品ぶらり旅」

今回は番外編として、コロナ禍の中、企業がどのような顧客対応、広報対応を実施したかを特集したい。中には甚大な影響を受けたにも関わらず、めげずに販売方法を変えたり、消費者の心を掴んだたくましい企業もある。どんな戦略、思いを持ち、この事態に立ち向かうべきなのか、参考になる事例を集めた。

苦しい時期の支援は心に残る「RIZAPの事例」

最初に紹介したいのは、この企画に最近登場した「RIZAP(ライザップ)」の例だ。同社は4月22日〜5月6日の間、トレーナーが画面越しにトレーニング法を熱血指導する動画「おうちでライザップ」(全9回)を無料配信した。

会員でなくとも視聴可。ライブ配信後はアーカイブでも視聴できる。
チャンネル登録者数は2万を超え順調に伸びている。

ライザップは緊急事態宣言を受け、4月24日から全店舗を休館。すると顧客から、テレワークや外出自粛で運動不足になったが「普通のトレーニング動画では物足りない!」という声が寄せられた。そこですぐ動画の企画・製作にとりかかったという。

「内容は、音楽に乗って楽しく運動できる動画のほか、ライザッププロデュースの暗闇フィットネス『EXPA』のレッスンや、ライザップ管理栄養士による栄養講座、Q&Aコーナーなどです。毎日、日替わりで配信しています」(ライザップ広報担当者)

売り上げがゼロになれば支出は抑えたいはず。そんななか顧客への思いを優先させた背景には、ライザップの「三日坊主をなくすため、結果にコミットする会社」というコーポレートミッションがある。結果にコミットするためには、こんな時期こそ顧客にしっかり寄り添うことが必要だったし、実際に寄り添えばその姿勢は顧客に伝わるのだ。お客様を喜ばせ、企業の姿勢を伝える、これぞ「ブランディング」ではないか。

また、会員以外も視聴可能である理由の背景には、別の戦略もあった。

「当社は、日本全国の皆様の健康をサポートしてゆきたい、と考えています。そこで、この機会にライザップをもっと知っていただきたい、と考えたのです」(同担当者)

ネット経由でライザップのメソッドを公開することにより、「いつかやってみたい」と思っていた潜在顧客にアプローチができるのだ。同時に同社は、オンラインショップ「RIZAP COLLECTION」もリニューアル。"ステイホーム太り"をした方への低糖質パン、低糖質総菜の販売を強化している。しかも開館後は新たなオンラインサービスも提供すべく、急ピッチで準備を進めているともいう。その上で、広報担当者はこう語る。

「早く皆様とお会いできる日を、トレーナー一同、楽しみにしています」

どこか泣かせるではないか。人間関係でも、苦しい時期に応援してくれた恩は忘れられないもの。企業も同じで、苦しい時期に何をしたかは、通常時よりブランド価値に大きな影響を及ぼす。YouTubeの「RIZAP(ライザップ)公式チャンネル」の登録者数が伸びているのは、その証拠といえるだろう。

インナーブランディングが顧客を巻き込んだ「コラボの事例」

次に紹介したいのが、ベビーカー、チャイルドシートなどベビー用品を製造・販売する「コンビ」の例。同社はホームページ上でぬりえやお面のデータを提供している。


お面、ぬりえのダウンロードページはこちら
くまくんのほか、コンビのキャラクターの絵柄が無料でダウンロードできる。これぞ「紙対応」?

きっかけは、商品開発メンバーの発案だったという。

「家族みんなでご自宅にいる時間が増え、どのような遊びができるか悩んでいる方が多いことは容易に想像できました。そんな中"こんな時こそお客様に笑顔を届けられる企業でありたい""数名でもいいので、誰かの安らぎになれれば"と始めた企画です」(コンビ広報担当者)

ぬりえとお面だったのは、プリントすれば簡単に遊べるから。あとは「親子が共同作業できること」こともポイントだったという。ちなみにコンビの社名には"親と子が最高のコンビになれますように"という願いが込められている。すなわちこの施策も、企業が果たす社会的使命を社員が意識しているからこそ生まれたものと言っていい。社内向けのインナーブランディングが顧客を巻き込んだ好例と言えそうだ。

もちろん、企業としての戦略もあった。

「当社にとって、お客様の声は大きな財産です。商品開発の時にお客様から、使いやすかった点や改良の余地がある点を伺うことで、商品は進化していきます。今回の施策を通じて、消費者の皆様と新たな接点を生み出したいと考えたのです」(同担当者)

有名人とのコラボも有効な一手「ネクストベースの事例」

次は、スポーツ系ITベンチャー「ネクストベース」の例。同社はプロ野球の球団向けにデータ解析や動作解析を行うと同時に、ウェブサイト「Baseball Geeks(ベースボールギークス)」を運営している。なお、NHK BS1で放送されている野球を題材とした情報バラエティ番組『球辞苑』に出演している神事努氏は同社の取締役だ。

そんなネクストベースが実施した神企画は、なんと、元ジャイアンツの高橋由伸さんがZOOMを経由し全国の子どもたちのバットスイングにオンラインアドバイスを実施する、というもの。

現在は応募終了。「Baseball Geeks」で広く呼びかけ、子どもたち100名にアドバイスを送った

この例の特徴は、有名人を巻き込むことで関係者全員のブランド価値を上げていることだ。高橋由伸氏に限らず「この機会に何か役立ちたい」と考えている著名人、有名人は多いはず。そして、プロ野球界のレジェンドと触れあえた子どもたちがどれだけ嬉しかったかは想像に難くない。同時にネクストベースも、動画からスイングスピード、スイング角度、打球の推定速度、打球の推定飛距離を算出して子どもたちに教えることにより、自社の得意分野、自社が今後何を変えていくかを広く世に伝えることに成功している。

ちなみに、同社の中尾信一社長は元立教大学野球部の投手で、同社取締役の木下博之氏は慶應大学野球部時代に高橋由伸氏とクリーンナップを組んでいた人物。自社の周囲に社会貢献を考える有名人がいないか探してみるのも有効な一手だろう。

神対応は"速さ"も肝心

神対応は、内容だけに左右されない。例えば明治学院大学は4月21日の段階で、在学生全員に5万円を支給することを公表し話題となった。その後、早稲田大学等も続いたが、やはり最初に一手を打った明治学院大学が、最も「株を上げた」のは間違いない。

また、アフターコロナにも活かせる対応を行ったのは寝具の「エアウィーヴ」。顧客の来店が難しい状況を受け、4月下旬から、スマホのカメラで全身を撮影するだけで体形測定ができ、おすすめのマットレスがわかる「体型測定webアプリ」と、ウェブ会議システムでの接客サービス「リモート・コンシェルジュ」をリリースした。世の中の多くがリモートの便利さに慣れていくなか、アフターコロナにも使えるアプリになるはずで、同社はまだ告知に力を入れている段階ながら「社内の期待感は強い」という。

社会情勢の激変にいち早くついていくためには、自社でアイデアを出し、早い時期に動き出し、PDCAサイクルを回すことが重要だ。どんな業界にも自分たちだけが実施でき、ブランディング、営業にも有効なことがあるはず。今回紹介した事例は、その参考になるのではないだろうか。

取材・文
夏目幸明(なつめ ゆきあき)

経済ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経て現職。「技術、マーケティング、マネジメントが見えれば企業が見える」を掲げ、ヒット商品の開発者、起業家、大手企業の社長などを精力的に取材。『週刊現代』の「社長の風景」は長期にわたる人気連載、著書も多数。

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