【連載】中性化するニッポン 〜なぜ男女マーケに「異性のココロ」が必要なのか〜
こんにちは。マーケティングライターで世代・トレンド評論家の、牛窪(うしくぼ)恵です。
早いもので、もう12月。今年は、元号が「令和」に変わったこともあり、例年以上に1年がアッという間だった印象があります。皆さんはいかがですか?
NHK総合「所さん!大変ですよ」のスタジオより
今年のトピックス、爆発的なタピオカブーム
さて、「中性化するニッポン」をテーマにした連載も、残すところあと2回。1年の終わりにふさわしく、今回は今年2019年に大ブームを巻き起こした「タピオカブーム」と、本テーマ・中性化との深~い深い関係をご紹介したいと思います。
「"タピオカ男子"にドン引きする女子たち」――今年6月、『日刊SPA!』(扶桑社)は、そう題した記事を、ネット上に公開しました。
紹介されたのは、某有名店でタピオカドリンクを買いながら、SNS用の写真を撮った直後に「ポイ捨て」する男性や、Lサイズのタピオカを10個近くまとめ買いし、女子にドン引きされる"タピオカ男子"の姿。
そう、いまや女子はもちろん、男子にまで広がった「タピオカ」ブーム。今年夏、東京商工リサーチが、タピオカ関連の事業を行なう企業の数を調査したところ、3月から8月までのわずか半年足らずで、関連企業がほぼ2倍に急増していることが分かりました。
私も先日、シンガポールに行ってきましたが、現地でもタピオカドリンクは「Bubble Tea」と呼ばれ、大人気(写真)。日本と同じように、カフェでドリンクの画像を撮ってSNSにアップする男子の姿も目立ちました。日本だけのブームではないのです。
香港のメディアは、世界におけるタピオカの市場規模を、2016年の時点で「約2000億円」としていました。これが、2023年には約3500億円にまで達する、との見方もあります(「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」より)。
「座りっぱなし」な日本人
ところで、「タピる」「タピ活」など、タピオカドリンクをSNSにアップする際に、欠かせないモノといえば、ケータイ(スマホ)やパソコン。
前回、「ストレスや睡眠不足、さらにケータイやパソコンの『電磁波』によって、男性の精子の質や運動量が低下した」との学説をご紹介しましたが、実は男性の「男らしさ」や寿命に影響を及ぼすのは、ケータイやパソコンの「電磁波」だけではありません。
思えば、世界じゅう(先進国)でパソコンが急速に普及したのは、1990年代後半のこと。実はその直後の2000年代に入ると、各国で「座りっぱなし」が問題視されるようになりました。
便利なパソコンが普及したことで、当然ながら人々はその画面の前で「座って」作業する時間が増えました。欧米ではちょうどその頃から、いわゆる「生活習慣病」などの病いを併発する人たちが目立つようになった。
そこで、「これはもしかすると、『座りっぱなし』と何か関係があるのでは?」と様々な研究者が実証研究を行なった結果......、なんと座りっぱなしは、肥満や糖尿病、さらに高血圧症や心筋梗塞、脳梗塞、そしてガンなどの病気を誘発し、死亡リスクを上げることが、次々と明らかになってきたのです。
例えば、オーストラリアの研究機関が行なった研究によると、「1日に座っている時間の合計(総座位時間)」が4時間未満の人に比べて、8~11時間の人は、死亡リスクが15%増え、さらに11時間以上だと40%も増えることが分かりました。
しかもこのパーセンテージは、WHOが推奨する1日30分以上のウォーキングやランニングなどの運動を週5日実施していても、相殺できないほどのリスク増だと言います。
また、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授によると、ガンについても「座っている時間」が長いほど、ガンの罹患リスクが高くなる、とのこと。
顕著なのは大腸ガンと乳ガンで、座りすぎによって大腸ガンは30%、乳がんは17%も罹患リスクが上がるそう。
さらに怖いことに、シドニー大学の研究者たちが、世界20か国の成人における「平日の座位時間」を調査したところ......、その時間が最も長いのは私たち「日本人」で、1日平均420分=7時間もの長時間にのぼったのです。
実は、先の岡教授の研究では、40~64歳の日本人の総座位時間/日(平均)が「8~9時間」と、さらに長い。
皆さん、「自分はそんなに座っていないよ」と感じるかもしれませんが、例えばデスクワーカー(残業なし)の場合、デスク(おもにパソコンの前)や昼食時に座っている時間の合計が、およそ「6~7時間/日」とのこと。
その後、18時前後に会社を出たとしても、帰宅後には皆さん、テレビの前に座るだけでなく、スマホやパソコンをいじる際にも「座ったまま」が少なくないですよね。そこでまた「2~3時間」が加算されると考えると、「確かに、自分も8~9時間ぐらい座っているかも」と気付くのではないでしょうか。
筋肉と男性ホルモンの関係性
なぜ「座りっぱなし」がまずいのでしょう。これには、おもに2つの側面があります。
1つは、ご存じの方も多いかと思います。座ったまま脚の筋肉がほとんど動かないと、「第二の心臓」と言われるふくらはぎの活動が、停止状態に陥ってしまう。
こうなると、下半身に下りた血液を心臓に押し戻す「ポンプ」の働きが止まり、全身に酸素や栄養を送る血流が滞ってしまいます。よく言われる「エコノミー症候群」も、その一つ。
この状態が長引くと、血液がドロドロになって血栓ができやすくなり、習慣化すれば血管トラブルを引き起こすようになる。その結果、ガンを含む生活習慣病を引き起こしやすくなるのです。
だからこそ近年、アメリカを中心に日本でも、立ったまま仕事ができる「スタンディングデスク」が話題に。アメリカではグーグルやフェイスブックをはじめとした大手IT企業が、日本でも楽天グループが本社移転の際にスタンディングデスクを導入するなど、パソコンによる座りっぱなしを防ぐ施策が、次々と取られ始めています。
座りっぱなしが、健康や「男らしさ」を害するもう1つの可能性、それは「筋肉」を動かす場面が激減してしまうこと。
実は、男性ホルモンの代表とされる「テストステロン」は、「筋肉」の運動と大きな関わりを持つことが分かっています。
皆さんは「男らしい身体」と聞くと、がっしりした肩幅や胸板の厚さなど、骨格や筋肉が発達した状態をイメージすると思いますが......、実際は筋肉が発達することで、見た目だけでなく、男性の性欲や「男らしい資質」が伸びるとされるのです。
「でも、NHKの『みんなで筋肉体操』(※「筋肉は裏切らない」のキャッチフレーズで知られる人気番組)を見て筋トレに挑戦したけど、長続きしなかったし、男らしくなった実感もない」という男性もいるかもしれませんが......、大丈夫!
私は、12月18日放映予定の『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でお話ししましたが、男らしさに繋がるテストステロンは、筋トレほど本格的な運動をしなくても、普段皆さんが行なっている「あるちょっとしたこと」の回数を増やすだけで、その分泌量が顕著に変わってくると言います。
しかも、その「あるちょっとしたこと」を習慣的に行なうことで、男性は自分に自信が生まれ、就活や婚活、職場の営業活動など、様々な場面で積極的に行動できるようになる、とも言われているのです(詳しくは、番組をご覧くださいね)。
パソコンやスマホが、中世化につながっている?
ところが、逆に一日中、パソコンやスマホをいじりながら「座りっぱなし」が続くと、男性は健康を害するばかりか、男性ホルモンが減少し、前向きな気持ちも失っていく可能性がある......。
実は2年前、日本でも衝撃的な調査結果が発表されました。
医療法人社団「ウェルエイジング メンズヘルスクリニック東京」が、20~60代の男性500人に、「男性力に関するアンケート調査」を実施したところ、60代→50代→40代→と年代が若くなるに連れ、なんと「男性ホルモン(テストステロン)」が減少傾向にあることが分かりました。
例えば、この調査では「右手の人差し指と薬指の長さ」を回答者に聞いています。
最近よく言われる通り、男性はまだ生まれる前の「お母さんの体内」にいるときから、浴びた男性ホルモンの量によって、薬指の長さが変わると言われます。「多く浴びた男性は、薬指の方が、人差し指より長くなる」のが定説なのですが......。
調査の結果、60代男性では90%が「薬指の方が長い」と回答したのに対し、40・50代で同回答は約8割(80%、81%)、30代では73%で、20代男性ではなんと、68%しかありませんでした。
つまり、生まれた後の環境変化による減少だけでなく、もともと持って生まれた男性ホルモンが少なかった可能性があるのです。
一方で、もちろん後天的な影響もあるはず。
私自身、「草食系男子」の本を書いた2008年ごろから、「1週間剃らなくても、ほとんどヒゲが生えない」などと話す若い男性の声を、よく聞くようになりました。
当時は、それが「彼らの思い込みかもしれない」との疑念もありましたが、こうして様々な研究・調査結果が提示されると、やはり「男性ホルモン減少」の原因の一つが、「座りっぱなし」を引き起こす、パソコンやスマホの長時間使用にある可能性も、否定はできません。
では、パソコンやスマホは、果たして男女の恋愛・結婚にとって「悪」でしかないのか?
そんなはずがないことは、皆さんがすでにご存じの通り。
ただ近年は、恋愛や結婚が、日進月歩のITやAIの影響を受けて、昔とは大きく形を変え、「中性化」に向かっているのも事実です。
次回では、その辺りの「最新恋愛事情」をお伝えします。どうぞお楽しみに!
タピオカブームと「中性化」の深い関係~AIが「恋愛市場」を大きく変える!(後編)
筆者プロフィール
牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)
世代・トレンド評論家。マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。大手出版社勤務等を経て、2001年4月、マーケティング会社・インフィニティを設立、同代表取締役。著書やテレビ出演多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネート。新刊は「なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?」(光文社新書/共著)