さまざまな業界のトップに、その企業が実施した課題解決や将来展望をヒアリングして好評を博したインタビューシリーズ「業界未来図」。「流通・小売業」という業種からは、ジャパネットグループの髙田旭人氏に取材に応じていただきました。過去人気だった回を再編集してご紹介します。
商品93%減でも業績絶好調! 「ジャパネット流」を大研究
小売業では、通販大手「ジャパネットグループ」を取材した。2015年、長崎弁をまじえ名調子で商品をすすめていた創業社長・髙田明氏が惜しまれつつ退任。しかし社業を継承した髙田旭人氏は「クルージングを扱う」「商品点数を一気に減らす」などの大改革を実施し、なんと創業以来初となる売り上げ2000億円超えを達成している。人口減、Amazon等の躍進にも屈しない同社の原動力はいったい何なのか――?
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実は長崎だからこそ、当社は成長できたんです
夏目 御社は会社や学校にいる「すすめ上手な人」のような企業ですよね。何でも「これいいよ!」ってすすめて流行らせちゃう人っているじゃないですか――。
髙田 そうありたいですね(笑)。父は長崎の小さなカメラ屋の店主だった頃から、いいものを手にすると、お客様だけでなく社員にまで「これすごいよ!」と話して流行らせていました。実は今も、その思いが根本にあるんです。私たちは商品を扱うかどうか決める時、必ずみんなで使って「このカメラは反応が良いね」「この洗濯機、たくさん入れても汚れが落ちる」などと議論して厳選します。だから自信を持っておすすめできるんです。しかも商品をどう紹介するか議論する"制作議論"の時間にも、よく「友達や親に紹介するならどう言う?」と原点に帰ります。「テレビショッピングなんだからまずスペックを伝えなきゃ」などとかしこまらず、「この商品に惚れた、だからおすすめしたい!」 という本音を話そうよ、と。
夏目 旭人さんは子どもの頃からお父さんの働きぶりをご覧になっていたんですよね?
髙田 はい「カメラのたかた」の二階に住んでいた頃から両親を見ていましたよ。
夏目 今のジャパネットにつながるDNAはあったんですか?
髙田 いつも「何をしたらお客様に求めてもらえるか」を考えて、思いついたことはすぐ試す両親でした。ある日、両親が「宴席で盛り上がって、朝、写真が並んでたらうれしいよね」と話し合っているのを聞いたんです。すると、次からもう業務フローが変わっている。社員旅行で長崎にいらした団体さんがいて、父が宴席の写真撮影を頼まれたとします。すると、夜中のうちに母が現像して、翌朝、ホテルの朝食会場に昨晩の写真が並んでいるわけです。「何日か経ってからよりすぐのほうが売れるんじゃないか」と考え、思い立ったらすぐ試していたんですね。
夏目 その後、通販に進んだのは?
髙田 これも、父がいろいろ試したなかの一つでした。きっかけはたまたまで、1990年に父が地元のラジオ局さんから「番組でものを売りたい」と声をかけられたんです。私は小学生で、姉や妹と一緒に家に走って帰って、3人で寝転びながら父の話を聞いた覚えがあります。
夏目 その市場で成長できたのは?
髙田 今振り返ると、長崎にいたことがよかったんです。
夏目 なぜ?
髙田 アイデアマンの父が自由にいろんなことを試せたからです。
東京は情報が豊富で、コンサルタントの方もたくさんいらっしゃいます。この方たちは「通販ならこういう売り方が普通ですよ」とか「スタジオはここを借りて」といろいろ手を貸してくださるはずです。もちろん、事業を早めに展開したい時などには大いに助かるはずですが......でも、一般的にこうするはず、という情報を聞き過ぎると、結果も「今まで通り」に収束していくんですよ。
しかし長崎にはそういう情報が少ないので「どうやると売れるのかな?」と自分で考えるしかなかった。その結果、カメラ屋時代に昨晩の写真を朝並べたように、自分たちで「こう売ってみよう」「こう仕入れてみよう」と仮説を立て、試して、やってみて、また振り返って......とPDCAサイクル※を繰り返して「マスメディアを使って個人的にすすめる」といったオリジナルの手法を確立していけたんです。
※PDCAサイクルとはPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を繰り返し、業務を継続的に改善することを指す。
夏目 以前、お父様の取材をした時「人間も企業もPDCAサイクルを繰り返した回数で到達点が決まる」とおっしゃっていました。その原点は「カメラのたかた」時代にあったんですね。
会議中の髙田社長。「商品を通して
お客様の生活を豊かにし、感動をお届けしたい!」
という想いは今も変わらない
「それ、わかってた」に、意味はまったくない
夏目 旭人さんも、長崎弁こそ出ませんがアイデアマンですよね。
髙田 家族からは「父そっくり」と言われます(笑)。
夏目 業績好調に大きく影響したアイデアは何でしたか?
髙田 当社は今、バイヤーが選んだ商品を数万台単位で買い取って販売しています。もし売れなくても、メーカーさんに返品はしません。すると、当社が在庫リスクを抱えるかわり、スケールメリットを活かして商品を安く仕入れ、販売することができるんです。しかも、ご注文をいただき次第すぐ発送できます。
これは商品の目利きに絶対の自信があるからこそ実現できた好循環ですね。この案を社内で検討した時、バイヤーたちに商品に自信があるかどうかを聞いたら、みんな「ある」と言う。じゃあ買い取ってしまおうかと聞いたら「いやいや、それはリスクが」と言うんです。「それ、意味わかんないよ(笑)」と言って実現した覚えがあります。
夏目 チャレンジングだなぁ。その後、商品の大胆な絞り込みも行いましたね?
髙田 以前は約8500点もの商品を扱っていたのですが、これを約600点にまで絞りました。約93%減です。しかし、これが今の業績に結びついているんですよ。
夏目 なぜ!?
髙田 膨大な商品を抱えていると、現実的にすべての商品を熟知して、売り方を検討していくことは難しいんです。一方、商品点数を絞れば、社員は商品を熟知した上で丁寧に紹介できます。また、商品を厳選しているからこそ、大量に仕入れ、スケールメリットを活かすこともできます。
夏目 なるほど。
髙田 しかも、アフターサービスも当社で行えるようになりました。以前は、故障したら当社が商品をお預かりし、メーカーさんに修理を依頼してお客様にお戻ししていました。しかし現在は修理の約70%を当社で対応しているから、お預かりの期間を短縮でき、修理代も下げられ、顧客満足度が大幅に上がったんです。
しかも、修理の時などに、お客様から「この機能はいらない」「なぜこれができないのか」といった声が集まってくると、当社がメーカーさんと一緒にオリジナル商品を開発できます。これもご支持をいただいているんですよ。
夏目 わかってきましたよ。旭人さんは以前、別のインタビューで「ものを仕入れて売る、という四面四角になりがちな商売に血を通わせた」とおっしゃっていました。その言葉通り、商品点数を絞ることで紹介からアフターサービスにまで血が通い、具体的に言えば販売だけでなく商品の企画にまで踏み込めた、というわけですね?
髙田 そうかもしれません。あとはやはり綺麗事でなく「チャレンジ」が大切だったんです。お客様のことを考え抜いて「こんなことしたら喜んでくださるかも」と思っても、人の意見を聞き、一般的な数字を見るうちに自信をなくして、それを他の人がポン! とやった瞬間「ああ、わかってたのに!」というシーンってありませんか? 実は、思いつく人はいっぱいいて、それより思い切ってやってみるかどうかが大切なんですよ。
夏目 とくに小売業は、棚の配置やPOPを少しいじるだけで結果が大きく変わりますからね。なるほど「ジャパネット流」の根っこが理解できてきた気がします。
クルージングの販売は、多角化でなく厳選集中だった
夏目 ジャパネットは新商品も投入していますね。例えば日本と海外をめぐるクルージングは非常に売れ行きがいいとか。
https://www.japanet.co.jp/shopping/cruising/
高田 桁ちがいの売り上げを記録しています。商品販売のお声がけをいただいて、私自身がクルージングを体験し"当社のお客様におすすめできるのでは?"と思ったんです。あと最近「モノ消費よりコト消費」と言われていますよね。これも肌で感じていたので......。
夏目 旭人社長のアンテナにかかったんですね。
髙田 はい、そこで「この分野でPDCAを繰り返してみよう」と考えたんです。まず、当社の社員たちと一緒に乗船しました。すると改善すべきポイントが山ほど見えてきて「これは行ける!」と。
今も乗船するたびに面白い改善をしていますよ。イタリア人シェフと「日本人はこんな味付けを好むから」と打ち合わせして料理が少し変わっていたり、気づけばマヨネーズやしょうゆが日本製に変わっていたり、案内板が見やすくなっていたり。一流のシェフに「味つけをこうしましょう」と打ち合わせを行い、実現するためには労力も必要ですが、こういう工夫の積み重ねが当社の価値なんです。ひとつ一つはとても地味で、繰り返すのは地道な作業です。しかしこれを続けると確実に満足度も上がっていきます。
夏目 では逆に「ジャパネットがやらない分野」ってあるんですか? 例えばウォーターサーバーは既に人気ですが、これが売れるなら、保険や化粧品を売ってもいいじゃないですか。
髙田 そこがポイントなんです。ジャパネットは自分たちが磨く余地があるものは扱いますが、ほかは売りません。例えば保険も化粧品も、ありがたい話、オファーをいただいたことはあります。しかし保険商品も化粧品も既に磨き抜かれていて、お客様が「あえてジャパネットで買う理由」はつくり出せないと判断したんです。
一方、クルージングは皆さんがあまりその魅力をご存知でなく、私たちが乗った時「すごくいいけど、まだこうしたほうがいい、と思える気づきがいっぱいある」状態でした。しかも当社のお客様にも合っています。そこで、ここにチャレンジしたらぴったりハマったんですね。
夏目 なるほど、最初、クルージングの話を聞いた時「ジャパネットは多角化したのかな?」と思ったんですが、これ、むしろ得意分野に集中する「厳選集中」だったんですね。
「長崎スタジアムシティプロジェクト」
新会社設立・地域創生ビジョン発表会にて、
スポーツ・地域創生事業への想いを発表する髙田社長
世の定石を覆すのは「愛」なのかもしれない
夏目 では、ある意味「日本トップクラスの商人」である旭人さんに質問です。旭人さんは「売る」という行為のなかで何を大事にしていますか?
高田 実は「売り込む」感覚をあまり持たないようしています。
夏目 えっ!? あれだけ商品を売り込んでおいて!?
髙田 商品のよさを伝えることと「売り込む感覚」の間には大きな差があるんですよ。詳しく言えば「無理に手にとってもらおうという感覚を持たない」ということです。お客様には「買いたい臨界点」があります。例えばそれが100なら、100を突破すればお客様は買ってくださるんです。なら120の商品を仕入れて、全部を伝えられなくても100伝わればそれでいい。逆に80の商品を100に見せるようなことは絶対にしちゃいけないと思っています。
だから、よく「ジャパネットは売り方が上手い」と言われますが、そうじゃないんです。もちろん、一番伝わる売り方は研究します。価格優位性から伝えたり、メーカーの特徴から伝えたり。場合によっては「去年これだけ売れました」と実績から伝えるなど、常にトライアンドエラーを繰り返しています。でも、商品を大きく見せるようなことは絶対しません。数年後に必ず悪い反響として返ってくるはずですからね。
夏目 御社が長くお客さんから愛される理由がよくわかりました。
髙田 実は私自身も、それはもういろんな商品を買って試しているんですよ。父と違ってテレビで商品を売ることはしませんが、家族に「あなたほどよくものを買う人はいない」と言われるほど自分で試しています。そうでなければ、お客様にとってハッピーな売り方はできないんです。
夏目 そんな強い思いが世の常識を打ち破ったのが御社の歴史なのかもしれませんね。
では最後に、JリーグのV・ファーレン長崎(ヴィファーレン長崎)の話もお聞かせください。お父様が社長になってから強くなって、人気もうなぎ登りですよね。しかもジャパネットホールディングスとして長崎にスタジアム、アリーナ、ホテル、マンション、オフィスなどの複合施設を500億円以上かけて建てるとか......。
高田 ええ、実は今、私たちは「スポーツ・地域創生」というもう一つの事業領域をつくっているんです。
夏目 これもやっぱり「ジャパネット流」ですか?
髙田 そうですね。スタジアムビジネスもスポーツビジネスも、やはり研究するほど定番に収束していきます。「長崎の市場規模だとこのスタジアムは大きすぎる」とか様々なデータがあって、スタジアムビジネスにもプロの方たちから「現実的にこうしないと無理ですよ」といった情報もいただきます。でもそこが戦うポイントなんです。
夏目 具体的には......?
髙田 例えばホテルのオペレーションは全部、自分たちでやろうと思っています。普通、海外の有名ホテルを誘致して、そのノウハウを利用しますよね。でも、それで起こることは一般的なつくりの部屋ができ、一般的なサービスをご提供でき、収益は定番通りに収束していく、という未来なんです。
そのため当社は自分たちでやります。例えばスタジアムの中にスイートルームを10室くらいつくって、部屋から試合を観ることができて、朝食会場はスタンド、なんてできたら面白くないですか? また自分たちでやることによって施設とチーム運営のシナジーを出すこともできます。例えばスタジアムには選手の家族のための席もつくろうとしています。理屈を言えば、特等席は売ってしまった方が利益は出るでしょう。でも自分が選手だったら奥さんや子どもが落ち着いて見られる場所がほしいですし、リスペクトを感じてもらった方が選手のモチベーションもあがるはずです。こうして細やかに人の気持ちを想像しながらスタジアムやホテルを設計し、チームを運営していけば何かが起こるんです。そして、こんなアイデアをいくつ実現できるかが勝負なんです。
夏目 簡単に言えば「愛が世の定石を変える」ってことですね。
髙田 しかも、これを長崎につくることに意義があるんです。東京で成功しても、大阪、名古屋くらいまでしか横展開できません。でも長崎で実現して収支が合えば日本中のあらゆる場所で横展開できます。一極集中という国全体の問題もありますが、解決のきっかけになれるかもしれません。
夏目 わかってきましたよ。御社はあえて「ノウハウ」にとらわれず「ジャパネット流」を築く企業なんですね。すると、クルージングのような「コト消費」の市場でも、スポーツビジネスのようなまったく別の市場でもうまくいく......。
髙田 そうかもしれません。私たちは小売の業界に「マス媒体を使って自信を持っておすすめする」という企業とお客様の新たな関係性を築きました。そして次は、このノウハウを持って小売以外の分野にも進出しようとしている――そんな段階なのかもしれませんね。
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【プロフィール】
髙田旭人(たかた・あきと)
1979年、長崎県生まれ。東京大学を卒業し、証券会社に入社。その後、株式会社ジャパネットたかたへ入社、商品開発推進本部長などを歴任し、2010年、株式会社ジャパネットコミュニケーションズ設立時に社長就任。その後、2015年に、株式会社ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任し、以来現職。
取材・文
夏目幸明(なつめ ゆきあき)
経済ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経て現職。「技術、マーケティング、マネジメントが見えれば企業が見える」を掲げ、ヒット商品の開発者、起業家、大手企業の社長などを精力的に取材。『週刊現代』の「社長の風景」は長期にわたる人気連載、著書も多数。
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※この記事は2019年7月に前編後編に分けて掲載したインタビューをまとめて1記事に再構成し、再掲載したものです。インタビュー本文は、取材当時に掲載したものから変更はございません。