2019.06.20

新時代のマーケティング戦略論 <第1回>SNSマーケティング(前編)

マーケティングの様相の変化をキーワードと共に考えるコラム連載。初回のキーワードは「SNS」です。
SNSマーケティングへの注目が高まった平成後期、認知拡大や顧客との接触法は多様化しました。ある種の戦略が定型化した令和時代、マーケターはどのような意識でSNSやオンライン上の戦略を構築すべきかを考えます。

自己承認欲求をどう料理するか/令和時代のSNSマーケティング戦略を考える

(前編)持続可能なSNSマーケティングとは? トレンドに執着しない戦略を探る

サステナブルなSNSマーケティングとは?

国民の7割強がスマートフォンを持つ時代となり、SNSマーケティングは消費者向けの商材を持つ企業にとって極めて重要な手法となりました。この言説はマーケターにとって既に聞き飽きたものでしょうし、各SNSにおける企業アカウントの存在も珍しいものではありません。また、数年で定着したインフルエンサーの定義とその活用についても、企業規模の大小問わず挑戦事例が見受けられます。

SNSマーケティングはコンテンツが平坦化されやすく、マーケターの考え方も一種の定型が存在します。企業ブランドを全面に出し、フォロワー数を引き上げる方法はリーチ増加に対しては有効ですが、投稿に対する興味関心を持続させることや、顧客との対話には直結しません。

形骸化せず、持続可能なSNS運用を実現するにはどうしたら良いのか? この疑問への答えを導き出すために、今回のコラムではSNSの主役であるSNSユーザーのニーズに再注目します。そして、マーケターが意識したい「トレンド」、「インフルエンサー」、そして「ゴール」の3点について、令和時代を象徴する変化の傾向をご紹介します。

ユーザーとマーケターがSNSに求めるものの差異

ICT総研の調査によると、SNSユーザーがSNSを利用する理由は「知人の近況が知りたい」39%、「人とつながっていたい」36%、「自分の近況を知ってほしい」22%という3つが上位を占めました。彼らがSNSに望んでいるのはあくまで身近なコミュニティ形成であり、ムーブメントの創出や商品との出会いではないのです。

SNSがユーザーに対して提供している価値のひとつは、所属欲求や承認欲求を満たすことです。マズローの欲求5段階説で高次な欲求として掲げられる2つの欲求は、SNS普及以前、組織に属することやパートナーとの関係を構築すること、その結果として生じる信頼や尊敬から得られるものでした。SNSは、容易にそれに代わる満足感を生み出します。

それが真の充足感を生み出すかについてはここで言及しませんが、多くの人が困難に感じる課題に対して、SNSが解決の糸口を見せてくれていることは確かです。SNSユーザーが自発的な発信や高頻度なアクセスを続け、自らの影響力を高めるための努力を惜しまないのはこのためです。

SNSユーザーの根幹にあるニーズを考えたとき、SNSを主戦場としてマーケティングを成功させるためには下準備が必要であることがわかります。彼らがSNSに求めている所属や承認を満たすのは、企業ではなくユーザー間のコミュニケーションのみだからです。彼らが企業の訴求に必要性を感じるとすれば、それは商品をもとに自己実現に向けた活動をしたいと願うときです。

したがって、企業はマーケティングを始める前に、ターゲット層の所属欲求や承認欲求を満たすサポートから始めましょう。個々のユーザー間の信頼が生まれ、お互いの意見を尊重しあう状態になるまで、その親密性を補助するための施策を間接的に続けるのです。

そうして初めて、彼らは自己実現欲求を見出す潜在的な顧客になります。自らのライフスタイルや強みに目を向けるようになった彼らは、改めて商品やサービスの活用を検討し、その情報を発信することにアイデンティティを見出すでしょう。現在注目されるインフルエンサーが、SNSによって段階的に欲求を満たした先に自己実現欲求を手に入れた成功例であることも着目すべきです。

では、企業がマーケティングを通じ、ターゲット層の所属欲求や承認欲求を満たすサポートは具体的にどのような手法があるのでしょうか?

SNSユーザーの自由度を高め、共に遊ぶ感覚を持つ

第一に、マーケティングをトレンドや手法から考えないことが成功の鍵を握ります。SNSマーケティングなる定義が普及した昨今、どのツールを使うか、あるいはどうフォロワーを増やすかという議論が注目されますが、今後立ち返るべき点は「企業がどのようにSNSユーザーと協力するか」です。

SNSマーケティングの定型は、SNSを活用する多くのユーザーにとって既におなじみのものとなっています。感度の良いSNSユーザーはマーケターがどのようにSNSユーザーをカテゴライズし、何を期待しているかまで見通せるでしょう。

そういったSNSユーザーは、もはやマーケターの期待した定型には当てはまらないSNSユーザーである場合がほとんどです。彼らは信頼できるクローズドなコミュニティの意見に耳を澄まし、判断基準の更新を続けています。この判断基準の変化はマーケターが利用したいトレンドの移り変わりを加速させ続けており、昨今は把握することすら難しいほど多様化しています。

したがって、トレンドを意識した戦略を提示するのではなく、SNSユーザーが絶え間なく作り上げているコミュニティのルールを認め、関与したいという意志を表明することが今後のSNSマーケティングにおいて重要です。やや消極的な姿勢に見えるかもしれませんが、能動的なSNSユーザーを意図的に従わせようとする戦略はそもそもマッチしていないのです。

SNSユーザーは、お互いの関係性を深める一種の遊びを繰り返しています。それは言葉遊びであったり、分かり合える共通の話題で盛り上がったりと、単純かつたわいないものがほとんどです。その遊びに加わることを意識すれば、自然と先に述べたような関係性が築けるでしょう。

インフルエンサーと対等なマーケター同士としてパートナーシップを組む

インフルエンサーは影響力や活動内容が注目されることがほとんどで、彼らが非常にすぐれたマーケターであるという点はしばしば見過ごされがちです。

彼らは自らを商品とし、ターゲティング、認知拡大、顧客創出、ロイヤルカスタマーとの関係性維持などの価値をワンストップで提供しています。そこに戦略があるかどうかは人によりますが、サステナブルなSNSマーケティングを体現している存在であることは確かです。

マーケターとして優れた感覚を持つインフルエンサーを、ただの看板持ちにしてしまいがちだったのが従来のインフルエンサー・マーケティングでした。

今後は、インフルエンサーを対等なパートナーとして受け入れ、彼らと価値を交換しながら、自分事として商品やサービスを理解してもらうプロセスが重要です。

そのためには、彼らがどのようにSNSを利用し、セルフブランディングを成功させているかに注目する姿勢が大切です。フォロワー数やインプレッションだけではなく、彼ら自身の持つスキルを評価することで、win-winな関係を導き出せるでしょう。

オンラインとオフラインをつなぎ、コミュニティを可視化する戦略を

フィリップ・コトラーはマーケティングのアップデートの様相を1.0(製品中心)、2.0(顧客中心)、3.0(人間中心)と描き出し、現在は4.0(オンラインとオフラインの融合)の定義を唱えています。デジタル・マーケティングが一般化した今、なぜオフラインが再注目されるのでしょうか?

デジタル・マーケティングへの移行はスマートフォンの普及やSNSユーザーの拡大に支えられ、急激に進みました。オンラインの接続性によってのみ成立するマーケティングも、既に珍しいものではありません。

その目まぐるしい成長の背景で衰退したオフライン市場があることは間違いありませんが、オンラインにあふれた情報がユーザーの混乱や懐疑心を招く事例が増えたのも事実です。圧倒的な利便性や拡散力を持つオンラインは、一方でオフラインが持つ信頼性や確実性を強調する存在とも言えるでしょう。

オンラインへの接続性の高い顧客は他者の意見を参考に意思決定する傾向があり、他者とのつながりに強い関心を持ちます。そうしたニーズに寄り添う場であるからこそSNSは普及したのでしょうが、揺るぎない信頼の醸成は、いまだにオンラインでは解決が難しい課題として残されています。

今後SNSマーケティングが担う役割は、彼らの信頼できる身近なコミュニティを擁し、ファシリテートする(参加者の合意形成をサポートし、コミュニティの活性化を図るリーダーシップを執る)ことです。これは従来のセグメントと違い、顧客層が自ら作り上げたコミュニティ全体に商材の魅力を浸透させていくことを指します。

そしてその鍵となるのが、オフラインです。オフラインの環境はSNSユーザーが信頼するコミュニティを可視化し、体験として提供できる点で圧倒的なパワーを持ちます。店舗展開やイベント主催など商材によって様々な手法がありますが、信頼できるコミュニティを育む場作りの観点を主軸に置くことが大切です。

令和時代のSNSマーケティングは、オンラインとオフラインをユーザーがシームレスに行き来するためのチケットのような役目を果たすでしょう。

令和時代のSNSマーケティングの目標は、顧客を自己実現のステップへ誘うこと

ここまでの話をまとめると、ユーザーの傾向やニーズから考えられるSNSマーケティングで意識したい点は、下記の3点です。

1)トレンドを意識せずユーザーの自由度を高める
2)インフルエンサーをマーケターとして取り入れる
3)コミュニティの信頼性を裏付けるオフラインの場をつくる

これらはSNSユーザーを高次の欲求へと導きながら、マーケターが訴求したい商品やサービスを、そのユーザーのアイデンティティの礎として認識してもらうための着実なステップとなります。

では、これらの具体例についてどのようなものがあるのでしょうか? 後編では最新の事例をご紹介します。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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