2019.06.19

シンフィールド・社長が語る② 「マンガマーケティングの舞台裏」

企業が自社商品やサービスの訴求ポイントをマンガで表現する。コミュニケーション手法としては適していても、いざ施策として展開する際には、やはりノウハウが必要となる。担当の広告代理店が必ずしもマンガ広告の分野に通暁しているとは限らない。そこで、"マンガマーケティング"という分野を生み出したシンフィールドの代表取締役、谷口 晋也さんに、適切な制作過程とベースとなる考え方について語ってもらった。

シンフィールド代表取締役 谷口 晋也さん
インターネット広告の代理店でキャリアを積み、2006年にシンフィールドを設立。
デジタルを軸にマーケティングツールとしてマンガを活用する"マンガマーケティング"を商標登録。
クライアントの対投資効果向上が同社の事業ミッション。

軸足はデジタルマーケティングなので、課題によって施策は変わる

――2009年の事業開始当初、同業他社は皆無に等しかったとのことですが、現在では"マンガ制作"を謳った業者も増えています。"マンガマーケティング"の登録商標も取得したパイオニアとして、現状をどう捉えていますか。

谷口 同業他社が増えるのは歓迎ですね。このビジネスモデルに可能性を感じている企業が増えているということですし、市場も広がります。その中で、弊社と他社との最大の違いは、マンガを広告クリエイティブとし、デジタルマーケティングの領域で展開していること。クライアントの課題を正確に把握して、マンガを活用してROI(Return On Investment/投資対効果)を向上させることをミッションとしています。

マンガをどのように使えばCVR(Conversion Rate/コンバージョン率)が上がるか、どのようなストーリーだとユーザーのアクション率が上がるかなどを普段から検証して、ノウハウを持った状態でクライアントに最適な形を提案しています。私が見る限りですが、マンガを成果物として納品する制作会社はあるようですが、同じような事業ミッションを掲げている会社はないかと思います。

――施策内容も含め、具体的な実例を教えてもらえますか。

谷口 とあるコンサルティング会社のクライアントで、BtoBにおける見込み客のリードを取りたいという案件がありました。そのプロジェクトでは、マンガの冒頭2割のみを誰でも見られるようにし、続きは興味を持ってアクションを起こさないとダウンロードできない仕組みにしました。そうすることで能動的に行動した見込み客の獲得に成功しています。ちなみにその案件ではCPA(Cost Per Action[Acquisition]/コンバージョン1件当たりの広告費用)を当初の5分の1にすることができました。

投資対効果があれば長いお付き合いにもつながり、実際、同じクライアントの別のサービスでも、マンガを導入していただいています。ただし、そのクライアントでそのような形で実施した際はWeb上だけを見るのではなく、その企業のバックヤード体制、たとえば営業のマンパワーがあるかどうか、なども確認したうえでの提案でした。

つまり、今申し上げたケースは、他のケースにそのまま同じようにあてはめても、必ずしもうまくいくわけではないということです。クライアントの状況に応じた提案は、弊社がクライアントに提供できる価値の1つだと考えています。

軸足はあくまでもデジタルマーケティング。マンガ制作も含めた広告コンサルタントとして請け負ってくれるのは、クライアントのマーケターにとって心強い。

800人以上の登録マンガ家から最適の描画タッチを絞り込む

――では、そのマンガ制作の作業工程を教えてください。

谷口 まず営業担当がクライアントにヒアリングし、その課題を元に、プランナー兼ディレクターが、施策の展開方法とテキストベースのマンガのシナリオを作ります。それらとともに描画タッチもクライアントに確認していただいてから、マンガ家に依頼するという流れです。重要なのはシナリオの設計ですね。マンガLPなどの場合は、同時進行でWEBデザイナーがデザインをします。弊社ではコマ送りのアニメ動画の制作もしていて、専門の担当者もおりますので、アニメ動画制作時には声優の手配やアフレコといった作業を行う場合もあります。

――シンフィールドの登録マンガ家は800人以上とのことですが、何人くらいまで絞ってからクライアントに選んでもらうのですか。

谷口 登録しているマンガ家さんが多いのも当社の強みです。事業開始当初は人海戦術で個別に電話連絡をして登録してもらい苦労しました(笑)。クライアントに提案する際には、ターゲットとなるユーザー層が親近感をもてそうなタッチのマンガ家さんを3人ほど選んで提案します。年配の男性ターゲットなら、ひと昔前の劇画風にしたりするケースもあります。

――連載をもっているような有名作家以外にも、マンガを描く意欲をもっている人は多いんですね。そんな文化事業的側面も意識していますか。

谷口 創業当初はビジネスモデルとして成立させること以外に余裕はありませんでした。今は自社運営メディアを作って登録マンガ家さんの作品を発表する場を提供したり、マンガ王国・土佐としてマンガの文化振興に力を入れられている高知県と接点を持たせてもらい「まんが甲子園」「漫画家大会議」などのイベントにスポンサードさせていただいたりしています。

また弊社がマンガマーケティングの市場を大きくすることで、多くの仕事をマンガ家さんに依頼することができるようになります。「昼はマンガ広告を制作して夜は自分の作品が描ける」くらいの環境をご提供し、マンガで生活できる人を増やしてマンガ業界の発展に寄与したいと思っています。

有名作品とのコラボやオウンドメディア施策

――世の中に広く知られた作家や作品との連携については、どのように考えていますか。

谷口 すでに弊社では「有名マンガタイアップ」という施策も行っています。
たとえば、医療マンガの「JIN-仁」の版権をお借りして、本編吹き出しを入れ替えて、企業の商品を訴求している、など多くの事例があります。すでに連載が終了している人気作品を広告として活用させていただくことは、一種の資産運用だと考えています。たくさんの人に認知されている作品は多くのファンが存在します。そのファンの方に確実にリーチできるというのは非常に魅力的です。

また作品が完結したから終わりというのではなく、原作のキャラクターを活かして新たな展開が生まれると、再び話題性が出てSNSなどで拡散するきっかけにもなります。ほかには既存作品ではなく、ヒロカネプロダクションさんや他の作家さんにお願いをしてオリジナルの描き下ろしマンガやイラストも提供しています。

――ほかに新たな取り組みはありますか。

谷口 新たな取り組みとしては、オウンドメディアへのマンガ提供施策を進めています。以前は純広告やリスティングなどの広告配信でのプロモーションが多かったWeb業界ですが、昨今トリプルメディアの考え方が広まり、ペイドメディア、アーンドメディア、オウンドメディアの3つのメディアをマーケティング施策として取り組む企業が増えていることへの対応です。

ペイドメディアは、ITPやアドブロックなどの影響拡大で今後、配信してもユーザーにリーチできない状況が増える可能性があると思っています。ですので、オウンドメディアを持って自社で情報発信をして、顧客や潜在ユーザーとコミュニケーションを深めたい企業に対してマンガの提案を行っています。

──オウンドメディアでのマンガマーケティングに注目しているのは、なぜでしょうか?

谷口 オウンドメディアは定期的に記事を配信する必要がありますが、情報があふれる今の時代、文字だけではなかなか見てもらえない状況になっています。けれども、継続してマンガコンテンツを配信することで、キャラクターを覚えてもらうことができますし、その企業を印象づけることができます。

たとえばGoogleで、自分の興味があるワードで検索したときのことを思い浮かべてみてください。出てきた情報を取得したらすぐに離脱してしまい、どの企業が情報提供しているのか、サイト名は何なのか覚えていないことってないでしょうか? これではせっかく情報コンテンツを提供しても、ユーザーとのエンゲージメントが図れませんよね。

そのような状況を避けるには、マンガでわかりやすく説明する、あるいはユーザーの記憶に残るマンガコンテンツを置いて、他の記事にも誘導し興味を持ってもらう、などの施策でサイト内の回遊率を高めるべきだと思っています。


マンガ大国の日本は作品のレベルも読み手のリテラシーも高い。ディテールにこだわった作品を読むとき、無意識のうちに膨大な情報量が伝達されている。他の表現方法にはないメリットも含め、情報伝達のスピードを重視する現在、マーケティングツールとしてのマンガの活用は、一考してみる価値はあるだろう。

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