2019.03.28

釣りマンガの傑作『釣りキチ三平』が45周年!  イブニングでは、大人気キャラクターを主人公にして新たな命が吹き込まれた『バーサス魚紳さん!』を連載中!

日本中に釣りブームを巻き起こした釣りマンガ『釣りキチ三平』の誕生から45年。マンガ家としては今年50周年を迎える矢口高雄さん。昨年は「イブニング」で釣りキチ三平外伝『バーサス魚紳さん!』の連載が始まり、1月にはこれまで描いてきた名作の一場面を集め、超細密スキャンによって複製した『矢口高雄大原画集 1973-2018』が刊行された。故郷の秋田県で名誉館長を務める横手市増田まんが美術館は、今年の5月1日にリニューアル・オープンする予定だ。話題が続く矢口さんに、担当編集の土屋俊広があらためて作品にかける思いを聞く。

『釣りキチ三平』の大人気キャラクター魚紳とは

土屋 矢口先生の代表作である『釣りキチ三平』が45周年を迎えたのを機に、昨年から「イブニング」で『バーサス魚紳さん!』の連載をお願いしました。三平が兄のように慕った鮎川魚紳が主人公。矢口先生原作、漫画は立沢克美さんというタッグです。

矢口 この魚紳、最初は僕もちょい役のつもりで『釣りキチ三平』に出したキャラクターなんですよね。

土屋 最初に登場したときは、その後と印象がだいぶ違いますよね。

矢口 最初は無精ひげを生やし、サントリーのダルマ(サントリーオールド)をラッパ飲みしながら、たばこをプカプカ吸っているような、やさぐれた旅の風来坊釣り師でした。しかし腕だけはあって、マナーはきっちりしているし、抜群に優しい。ストイックで寡黙、やることはかっこいいから、三平の連載中から女子中学生や女子高校生の間で大変な人気になってね。そうなると僕も「え、そうか」と思って、描き進むにつれて、だんだん顔は小さく、肩は広く、脚は長くなっていったんです(笑)。

土屋 ファンの声から変化したんですね(笑)。

矢口 バレンタインデーには三平くんに負けないぐらいチョコレートがたくさん届くものだから、連載のなかで「俺は、甘いものは苦手なんだよ」と言わせた(笑)。チョコレートがパタリとこなくなりましたよ。

土屋 リアルとごちゃまぜだったんですね(笑)。いい時代です。そんな魅力あふれる魚紳さんを主人公にして、外伝の連載となったわけですが。

矢口 まあ、今回は新しい人がやってくれるわけだから、作画の立沢君には「自分の作品だと思って描いて」とお話ししたんですよね。

土屋 そこまで言っていただけて、立沢さんがびっくりして感激していたのをよく覚えています。それまでずっと緊張していたのが、ふっと解けたような顔をしていました(笑)。もちろん、私もですが。

矢口 釣りマンガというのは、よっぽど大きな釣り大会などがない限り、あまりキャラクターが出てこないのですが、『バーサス魚紳さん!』はその究極で、タイトル通り一対一の対決になっていきます。一話目から、釣り雑誌の編集者やらカメラマンやら美人の秘書やら、たくさん出てきて、とり巻きにはあまり不自由しないだろうなと思いました。立沢君が、やっぱりとても絵の上手な人ですから。魅力的な人物を描くしね。彼は長いこと、すごい先生のもとで稽古してきて。

土屋 井上雄彦先生のところで、長年チーフアシスタントをされてきた方です。

矢口 僕も『バガボンド』は読んだほうですから。

土屋 先生も読まれていましたか。

矢口 はい。「ああ、ここの枝ぶりは俺のやつを参考にしているな」とか思いながら(笑)。

土屋 ははは(笑)。自然物描写で『釣りキチ三平』に敵うものは思いつきませんね。

超極細部まで再現! 1億画素データで原画を複製

土屋 昨年、『釣りキチ三平』の45周年にかけて、先生の原画の複製を45枚セットにした『矢口高雄大原画集 1973 -2018』の受注も開始しました。大日本印刷でも最高のスペック、1億画素のデータで取り込んで、ネコヤナギの産毛の描き込みもわかるほど超極細部まで表現したものです。これだけの描写力、画力がある矢口先生だからこそというか、どれも、すさまじい。芸術の域です。

矢口 僕はマンガでも絵でも、アカデミックな教育というのはまったく受けたことがなくて、我流です。描いているときは、ただ無我夢中で。ある意味で、絵の面ではマンガの可能性を広げたというふうに思う。

土屋 そうですよね。先生の絵はその一枚の中でもう物語性があるんです。三平くんが砂防ダムに立っているだけで、彼がどういう気持ちでここへやってきて、佇んでいるのかというドラマが感じられます。

矢口 おそらくね、あの時代の手塚治虫先生だとか、トキワ荘のメンバーは、キャラクターをつくることがまず先決だったんです。鉄腕アトムから、リボンの騎士から、ジャングル大帝から、キャラクターをつくって、ドラマを後付けで考えていくような方法で。それを見習った人たちは、キャラクターを一生懸命につくった。

土屋 なるほど。

矢口 トキワ荘ではそうやって切磋琢磨していろいろなキャラクターが生まれたわけだけれども、僕はそういう道をまったく通らなかったのね。田舎で銀行員をしていて、月刊誌を見ているマンガ好きな青年だったわけで。「こういうテーマでこういうドラマが描きたい」となれば、ドラマを先行させて、それに必要な登場人物を考えるタイプだった。オバケのQ太郎やドラえもんから始まれば、こういう絵は描かないですよ。どちらがいいと言っているわけではなくてね。

土屋 自然の風景は、やっぱり先生の故郷、秋田県横手市の山野がベースになっていますか?

矢口 記憶の中のね。当時はまだ田んぼや畑がたくさんあって、その山道を村人たちがしょっちゅう肥料や鍬なんかをしょって上り下りしていたんだけれど、今はあまりの過疎化でね。僕の集落は村として84軒あったんだけど、今は40軒ほど。しかも世帯数が半分になっただけじゃなくて、10人くらいが一世帯だったのが、今はおばあちゃんが一人で暮らす時代になっているんです。限界集落もいいところだよ。

土屋 今は失われてしまった、貴重な景色が原画集には残っているんですね。

故郷の増田まんが美術館もリニューアル・オープン!

矢口 今年で平成は終わりますが、新しい元号の初日に当たる5月1日に、秋田県の「横手市増田まんが美術館」がリニューアル・オープンします。これまでは複合施設でしたが、今回のリニューアルでまんが美術館単体になります。開館当初と比べると約10倍の広さになるんですよ。

土屋 先生が名誉館長をされて、今回のリニューアルに際してもさまざまな意見を出されていたと伺いました。まんが美術館では矢口先生や他の有名な先生たちの原画を見ることができますよね。

矢口 5月1日は、日本ではさまざまな行事があるでしょうが、この日は純粋に一般のマンガファンだけのためにオープンするんです。

土屋 それはいいですね。しかも世の中は10 連休になるようですから、ぜひ先生の故郷まで足を運んでいただきたいですね。

やぐち・たかお
1939年秋田県生まれ。1969年に「ガロ」でデビュー。翌1970年に『鮎』( 小学館)でメジャー誌デビューを果たす。1973年7月に「週刊少年マガジン」で『釣りキチ三平』の連載を開始、大ヒットとなる。ほかの作品に『マタギ』『おらが村』など。昨年より、「イブニング」で釣りキチ三平外伝『バーサス魚紳さん!』(原作・矢口高雄/漫画・立沢克美)の連載開始。超極細部まで再現された複製原画を45枚セットにした『矢口高雄大原画集 1973 - 2018』(完全受注生産)を刊行。

つちや・としひろ
1973年神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業後、1997年に講談社に入社。週刊現代編集部、ヤングマガジン編集部、週刊少年マガジン編集部を経て、2017年よりイブニング編集部に在籍。


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※弊社広報誌「News Clip」Vol.305よりの転載です。この対談には続きがあります。続きはこちら

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