日本国内において日本のキャラクターを使用する際にも、ノウハウがなければ権利問題をクリアするのは難しい。それが海外市場となれば、より煩瑣になるのは明白。さらに、海外市場ならではの商習慣の違いが障壁になることもあるという。マンガ/アニメというコンテンツがもつ魅力ほど、プロジェクトの進捗は、一足飛びに国境を越えられないようだ。その実情について、トキオ・ゲッツの山田奈津子さんにうかがった。
トキオ・ゲッツ インターナショナルマーケティングディビジョン マネージャー
山田 奈津子(やまだ・なつこ)
2005年トキオ・ゲッツ入社。国内事業として映画のタイアップ企画を手掛けた後、2012年の台湾オフィス開設時より海外事業に参画。2015年よりバンコクオフィスの支店長として駐在しつつ、台湾、インドネシア、中国、フィリピン、ベトナムを飛び回り、海外事業を統括する。
――前回お聞きしたオンラインゲームとのコラボレーションは、2017年の夏からプロジェクトが始動したということでした。当初から進捗はなかなか難しかったようですね。
山田 日本の版権元の海外担当者様とは、弊社の海外進出時からお付き合いをさせていただいていて、アニメ放送の情報やおすすめのキャラクターなど、都度情報をお聞きしていたんです。で、それを元に、クライアント側の予算やニーズも踏まえ、キャラクターを選定していただく。そして、概算のロイヤルティ、販売価格、時期、アイテムなどを整え、実施の可否も含め、再度、版権元様へ打診するという流れになりました。そこで折り合いをつけて正式にゴーサインが出たのが2018年の年明けぐらいでしたね。
――約半年の調整期間というのは一般的なのですか。それとも何か問題があったとか。
山田 調整期間としてはけっこう長かったですね。ネックになったのはミニマムギャランティ(MG)。ライセンス契約でMGを支払うかたちになるのは、日本では普通のことなのですが、タイのクライアント側では、今までのコラボレーション施策ではMGの設定がほとんどなかったというのです。なので、MGの設定に対する理解を得るのに時間がかかりました。ようやくご理解いただいたのが半年後だったというわけです。
――クライアントと版権元の両者からゴーサインが出て、実際のクリエーションに移っていくわけですね。
山田 そうです。版権元様から2Dのデザインデータをいただき、それを原型として、クライアント側で3Dのモデリングをする。通常、クライアント側で描き起こした2Dイメージの段階で監修を受けてから、3Dの立体を作り、カラー調整、ゲーム内での動作の確認、ゲーム内での実装状態の確認を経て最終的なローンチとなるんです。
――2Dから3Dへの変換には時間がかかるんですね。
山田 日本では、ラフイメージでOKを頂戴したうえで、2Dの段階でも、しっかりしたデザインで、正面、横、後ろから見たイメージを確認していただきます。3D化はそれから。かなりのプロセスを踏むケースがほとんどなのですが、そのプロジェクトでは、全部すっ飛ばして、最初から3Dでモデリングしたいという話がクライアント側からありました。たしかに、そのほうが楽なのでしょうが、細かい修正が入ったときに見づらいし、そもそも修正のコメントを入れるのも難しくなる。そこの理解を得るのも大変でした。監修内容をひとつずつ理解していただくのにも骨が折れ、そこでも相当な時間がかかっていますね。
――日本と海外ではそんなにプロセスが違うものなんですか。
山田 台湾やインドネシアでも現地のゲーム会社とコラボレーションをやらせていただいた実績がありまして、そのときは日本方式のやり方に沿ってもらえましたので、タイのクライアントがレアケースなのかもしれません。ですが、概ね、アジア各国ではステップをあまり重視せず、最終的な到達点への最短ルートを目指す傾向は感じますね。そこが日本とは違います。
前述のとおり、そのコラボレーションは、トキオ・ゲッツからクライアントにプロモーションを提案して企画がスタートした。しかし、そのような機会がなければ、クライアント側がタイアップを企画しても、商習慣の違いうんぬん以前の段階で頓挫してしまうケースも多い。あるコンテンツを広告使用するとなると、まず、どこに連絡すればいいのかすらわからないというハードルが、国内でのプロジェクトでも厳然と存在する。それが国境を越えるとなると、さらに難易度は高まる。たとえば、日本企業のクライアントが海外市場でキャンペーンを展開しようとした場合、プロジェクトを成立させるためには、日本国内の本社、その現地法人、日本に所在する版権元、現地のライセンス保有者と、4者が錯綜することになる。
――コラボレーションやタイアップをしたいけど、どうすれば良いかわからないという声は、国内でも多いと原さん(トキオ・ゲッツ 代表取締役)がおっしゃってました。同様のケースは、海外でもやはり多いんでしょうね。
山田 たとえば、ある国に現地法人を展開している日系企業で、日本ブランドを強調するために日本のキャラクターを使ったキャンペーンをやりたいという話があったとします。まず皆さんが悩まれるのが、誰に聞けば良いのかということ。現地法人のマーケティング担当はローカルの方が多いので、日本の担当者に聞こうとはせず、現地で解決しようとされるのですが、どの会社がその国でライセンスを持っているのかわからない。とりあえずいろんな人に聞いてみるけど、なかなか相手先までたどり着かないという事をよく聞きます。
――タイアップのキャンペーンなど、広告プロモーションとしてのコラボレーションというビジネスモデルは、東南アジアでどのくらい浸透しているんですか。
山田 海外で版権を持っていらっしゃるマスターライセンサーは、商品化ビジネスをメインにされているケースが多いですね。またノベルティキャンペーンのような施策は徐々に浸透はしてきましたが、企業ブランディングに使うような広告プロモーション方法となると、まだ事例は少ないと思います。
――そこで、トキオ・ゲッツさんの出番となるわけですね。
山田 日系企業の現地法人から、そういうお問い合わせはよくいただきます。こういう企画でプロモーションしたいけど話が通じない、とか、現地のライセンサーには話が通っているけど、そこから進んでいないみたいだから日本の版権元に声を掛けてくれないか、とか。あとは、現地法人でうまく進んでいない企画をサポートしてほしいと、日本法人からご連絡をいただくケースもありますね。日本法人として国内でいろんな版権元様とお取引があっても、日本の版権元様がお持ちなのは日本国内の権利だけ。海外案件となると、現地にアウトプットされているんです。そこの間を取り持ってほしいというご要望です。
広告プロモーションとしてのキャラクタービジネスは、アジア各国において、日本以上に浸透の余地が残されている。だからこそ、タイアップ専門エージェンシーのトキオ・ゲッツが必要とされる。同社はアジア各国の大きな市場において先行者利益を構築している最中だ。しかし、それは、なかなかひと筋縄ではいかない。次回は、各国各様の市場分析について、山田さんに語っていただく。
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