2019.01.31

「失った足」こそが持っている無限の可能性──重松成美『ブレードガール 片脚のランナー』

女子高生と技術者が「義足で走る"楽しさ"」を押し広げる希望の物語

義足で走るランナーを見たことがあるだろうか? 彼らの義足はみな、人間の足を模した義足ではなく、湾曲した平べったい板でできている。バランスを取りづらい板を地面に打ち付けて、アスリートたちは風のように走っていく。

「走るための義足なのに、なぜ人間の足を真似る必要があるのか?」「地上最速のチーターに、ただの人間はかなわない」「機能には最適の形状がある」。義足技術者の風見はそう言い放つ。

事故や病気など、さまざまな原因で足を切断することは「失う」ことだと思われやすい。けれど、『ブレードガール 片脚のランナー』の中では違う。「失った足」こそが無限の可能性をはらんでいる。

この物語は、右膝から下を切断した女子高生・鈴が不愛想な技術者・風見と出会うところからスタートする。出会った当初は風見も冷たいが、鈴の逆境を楽しむ心や粘り強さ、そして走りの可能性を見て、少しずつ変わっていく(クールな風見が鈴にデレるところはニヤニヤ必至。作者の重松成美先生渾身のアプローチで楽しませてくれます)。はじめての大会を迎えた二人がどうなるのか、ぜひ作品を読んで見届けてほしい。

もうひとつの見どころは、健足での走りとは違う、義足で走ることの難しさだ。そしてそれは、楽しさでもある。たとえばスポーツ用義足──通称"ブレード"には、足首もかかともない。だから走りが安定しないとすぐに転んでしまう。そのかわり、ブレードは軽いカーボンでできており、筋肉よりも優れた反発力を持つ。いかに長く空中に浮いているかが勝負の「走り」にとって、義足は使いこなせれば心強い相棒になる。

2020年パラリンピックまであと1年半。パラに興味がないと思っているあなたにこそ、読んでみてもらいたい。

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※弊社広報誌「News Clip」Vol.304よりの転載です。BE LOVE編集チームの担当がまとめました。

ブレードガール 片脚のランナー(1)重松 成美

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