2018.09.20

「勝てるやり方で勝ちにいく」だから海外進出時の罠を回避できる│サンワカンパニー社長インタビュー(後編)

「勝てるやり方で勝ちにいく」
だから海外進出時の罠を回避できる

夏目:海外では、アジア圏から進出を始めていますね。たしか、中国とか......?

山根:中国企業と代理店契約を結んでいます。私と同い年の社長が経営している企業です。中国では、80年代生まれを「80後(バーリンホウ)」、90年代生まれを「90後(ジョウリンホウ)」と呼び、キャラクターがわけられています。そして「80後」に生まれた世代は、我々とビジネスのスピード感など、感覚が近いんですね。

夏目:例えば......?

山根:商品選定の方法が象徴的です。歴史ある会社は、過去のデータを持ってくる、もしくは大規模なマーケティングリサーチをして組み立てていきます。一方、彼らは我々の商品をひとつひとつSNSにアップし、反応がよかった商品を仕入れる、という手法をとりました。速く、正確で、かつ経費も必要ありません。このあたりの感覚が我々と近いんです。

夏目:ITリテラシーが高く、時代にマッチした方法を見つけてくれるんですね。そんな彼らと、今後どう売り上げを伸ばしていくお考えですか?

山根:当社としては初めて、(amazonや楽天のような)モール型のショップである「T-mall」に出店します。中国では非常にメジャーなショップです。実を言うと日本国内では、モール型のショップへの出店は見送っていました。魅力的なのですが、ブランドイメージと価格のコントロールがきかなくなる可能性があるからです。しかし中国のパートナーは「中国市場ではT-mallに出店したほうがいい」「ちゃんとT-mallの審査に通っていないとユーザーに"これバッタもんなんじゃないの?"と思われてしまう」と言いました。そこで「彼らが言うならそうなんだろう」とT-mallの審査を受けています。現状、2019年に販売を開始する予定です。

夏目:現地の事情に対応する必要があるんですね?

山根:その通りです。海外進出時には、2つの方向性があると思っています。「自分たちがやりたい方法でやって失敗するのか」「勝てるやり方で勝ちにいくのか」です。私は迷わず後者を選択します。

夏目:なるほど。

山根:だから現地の方と組むんです。現地の方はその地域のバックグラウンドを理解しているから、商品の見せ方もよく知っています。また、現地の実力者を起用すると、その方の人脈も使わせていただくことが可能になるんです。「自分たちの方法に固執せず勝ちに行く」これが、慣習も何もかも違う場所でビジネスをするにあたって大切なことだと思います。

夏目:逆に「日本ならでは」のリードを活かした部分はありますか?

山根:iFデザイン賞やドイツデザイン賞を受賞した「SPINNING(スピニング)」という洗面ボウルでは、「ヘラ絞り」と呼ばれる日本独特の金属加工技術を使っています。金型を使わず、高速回転する軸に少しずつ金属を押し当てて曲げる手法で、型がいらないから金属で大型の曲線を描くときに使われます。これが、ボウルの部分を非常に美しく見せてくれるんです。ミラノデザインウィークに出展したとき「新幹線の先端の部分に使われている技術を応用しました」と伝えたら、海外の方々が「おおっ!」となりましたよ。日本の技術や日本人の感性が、海外の方たちを驚かせる部分は非常に多いと思うんです。

夏目:ほかには?

山根:我々は最近、ミラノサローネでコンパクトキッチンを展示しました。幅が1メートル前後の、日本の住宅事情にマッチした商品です。しかし、これがイタリアだけでなく世界の業界関係者の方たちから高く評価されたんですね。最近、世界中の都市の住宅面積が狭小化していて、これに対し空間を美しく見せるソリューションがなかったんです。

人気のオリジナル・ステンレスキッチン「グラッド45」。
高級感のある外観はもちろん機能性も美しさも洗練されている

夏目:将来的には欧米市場への進出もお考えですか?

山根:もちろんです。住宅市場の大きさは世帯数に比例します。では世帯数は何に比例するかといえば人口です。すると単純な話、人口が伸びている国、もしくは人口が多い国に出て行かざるを得ません。パートナーを見つけた中国のほか、インドネシア、アメリカがこれにあたると思うんですが......なかでも私はアメリカが面白いと思っています。

夏目:なぜでしょう?

山根:3つあります。まず、アメリカ市場は単一の言語――英語だけでマーケティングができるため、必要なコストに比べリターンが大きい。次に、ITインフラが整っていて、国民のITリテラシーが高い。我々は建材という一般消費財でない商品をネットで販売しているので、消費者のITリテラシーや「ネットでモノを買うのが当然」という意識が高い国と相性がいいはずです。そして最後に、実を言うとアメリカの市場にはシステムキッチン・バスが存在しないんですよ。

夏目:聞いたことがあります。お風呂もユニットを置くのでなく、タイルをはって浴槽を据え付けるような「在来工法」でつくられているんですよね。

山根:ええ、ユニットを据え付けるという概念がないんです。だから我々が日本からソリューションを持ち込み、イノベーションを起こしていけます。現在はリソースが足らず、距離も遠いので時期としてまだ早いと思っていますが、将来的にはこれを実施しなければ1兆円企業は目指せないと考えています。

将来の夢は
"社長の座を奪われること"

夏目:そう、最後に今後どんな道筋で売り上げ1兆円を達成するのか伺わせてください。

山根:いま、日本の一般消費市場は約280兆円、うち住宅設備の市場は約15兆円です。私たちはここから1兆円とりたい。当社は毎年15%~20%程度の成長を続けています。しかしこれでは成長のスピードが遅く、1兆円から逆算すると、毎年25%~30%の成長が必要になります。

夏目:そのためには......?

山根:次々とブレイクスルーを繰り返していくしかありません。例えば我々はいま、工務店さんとのマッチングを行い、住宅設備の取り付けまでサポートしています。実はお客様から「サンワカンパニーの商品を買いたいが、工事をしてくれる業者が見つからない」というお問い合わせが毎日4~5件あったんです。これまではお断りするしかなかったのですが、やはり申し訳なく、経営課題になっていました。自前でも無料で工事業者を紹介するサービスも行っていますが、昨年、リフォームのポータルサイト「リノコ」を運営する企業と業務提携を結びました。
さらにはIoTです。将来、住宅は確実にスマートホームになっていきます。住宅が住人を見守り、生活消費財の自動注文を行い、何かが壊れたら業者に連絡して修繕を行う――そんな未来が必ずやってきます。そこで我々は、アメリカのシリコンバレーで日本人が創業した「HOMMA, INC.」と提携し、将来アメリカの住宅市場にイノベーションを起こしていこうと考えています。

夏目:なるほど、自社が得意な分野は自社が行ない、それ以外の分野では次々と優れた企業と業務提携を結んでいくわけですね。企業買収に比べスピードがある、現代的な方法だと感じます。

山根:我々は「住宅建材の業界がこうだから、これはできない」とは考えません。お客様と向き合い、新しい市場の構造をデザインしていくべきだと考えているんです。
実を言うと、住宅の建材の卸は、業界のなかで最も立場が弱かったんですね。これまで住宅建築の順番は「土地を買って、家を建て、空間をつくる」でした。そんななか「空間づくり」は最後になるためお金が足りなくなりがちで、かつ選択肢も少なかったから、お客様に「これでいいか」と妥協されてしまうことも多かったんです。当社はここを変えようとしています。お客様は我々と接点を持ち、空間づくりから楽しんでいただく。そして、望んだ空間を実現できる土地で、家を建てていただくのです。
時代は変わります。しかし、それについていくのでなく、時代の変化を創り出す企業が伸びていくのではないでしょうか。

夏目:どの業界の取材をしても、人の多くは「現状」から発想していると感じます。しかし山根さんは現状にまったくとらわれないんですね。

山根:逆に、それが経営者の役割なのだと思います。実は私、将来、そうなったらうれしいことがもうひとつあるんですよ。

夏目:何ですか?

山根:社長を辞めさせられたらいいな、と(笑)。いつか、私の施策が時代遅れになって、どこかで現状維持バイアスにもとらわれる面が出てきて、周囲の頼りがいある役員やスタッフに「もっとこうすればうまくいきます」「経営権を渡してください」と言われ、私も「そうだな、もうみんなに任せるべきだ」と勇退していく......。今は、そんな組織をつくればもっと新しいことができるのかな、と思っています。

【プロフィール】
山根太郎(やまね・たろう)/1983年、兵庫県生まれ。2008年に関西学院大学経済学部を卒業し、伊藤忠商事に入社。'14年に株式会社サンワカンパニーに入社し、代表取締役社長就任、以来現職。東京の南青山など全国の一等地にショールームを展開することや、ミラノサローネへの出展など「異例」づくめの施策で業界をリードする

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。
著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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