2018.06.21

あえて大金を払って失敗を買え!│ツインバード工業社長インタビュー(前編)

あえて大金を払って失敗を買え!
今後の家電業界を牽引する
「ニッチトップ」商品開発術

パナソニックやソニーの売り上げ高は、2017年の連結決算で8兆円前後、社員数はパナソニックが27万人で、ソニーが13万人弱だ。一方、同じ家電メーカーのツインバードは、売り上げ高約130億円、従業員は約300名と中規模だが、最近、数多くのヒット商品を飛ばし、株価も6年間で約5倍にあがっている。同社・野水重明社長にその理由を聞くと"今、躍進する会社"が持つべき思想が明確に見えてきた。

たった10分で洗える
快速モード搭載洗濯機!

夏目:御社は本社が新潟の燕三条で、上場市場は東証二部、しかし世界的な家電メーカーと同じ市場でいい勝負を繰り広げていますよね。なぜなんでしょう?

野水:一言でいえば、ツインバード「だけ」で、かつ個々のニーズにぴったりフィットする商品をつくっているんです。

夏目:以前は、いわゆる普通の掃除機や電子レンジを大手より安く売っていた印象があります。「ツインバードだけ」「個々のニーズにぴったり」とは真逆でしたよね?

野水:ええ。昭和の頃は人口も増え続け、かつモノがなかったんです。だから当社は、一般的な機能を持った家電製品を極めて良心的な価格で販売し、支持を得てきました。しかし平成に入ると、日本のマーケットは人口が減り、モノが余り、ニーズは多様化し、もう"安くて皆が使えるもの"は売れなくなってきたんです。
しかし我々はこの状況を受け、逆に "個々のニーズにぴったり寄り添えるメーカーの時代が来たのではないか"と気付き始めたんですね。

夏目:具体的な商品を例に挙げると?

野水:例えば2017年に発売した、たった10分で洗える快速モードを搭載した全自動洗濯機です。5.5㎏まで洗えますが、内蔵プログラムに工夫を加え、1㎏以内の衣類なら10分で綺麗に洗えます。
運動して汗で濡れたTシャツとか、放っておくのって嫌ですよね?

夏目:香ばしくなりますしね(笑)。

野水:実は「毎日洗濯したい」というニーズはあったんです。しかし、洗濯に1時間近くかかると面倒だし、水や洗剤がもったいない。そんなニーズがある方には、この洗濯機がぴったりなんですよ。ほかには『2ドア冷凍冷蔵庫 ハーフ&ハーフ』も「個々のニーズにぴったり」の商品です。名前の通り、冷凍室と冷蔵室が半分半分で、冷凍室の大きさは73L。200L以下のクラスでは最大級ですよ。(※2017年9月時点)

夏目:あ、これ、いい。

野水:週末に冷凍食品を買い込んだり、料理を冷凍保存しておく一人暮らしの方に最適です。そして、こういった特徴がある商品をつくると、お客様から指名買いしていただけるんですよ。

夏目:ラーメン屋さんと同じですね。大規模なチェーン店は、繁華街に店を出し、「醤油ラーメン」「味噌ラーメン」といった多くの方が好む品を出します。たくさん売るビジネスモデルだからです。一方、ラーメン二郎のような油っこくて濃厚なラーメンは......私は食べられないけど、好きな方にとっては"それでなきゃいけない"味です。だからお客さんは駅から遠くても、行列に並んででも食べに行く"指名買い"をする。お店も、僕の好みなど関係なくファンの方だけが喜ぶ一杯を出せばいい。この構造に似てますよね。


今後は「マーケットイン」
より、「プロダクトアウト」!

夏目:ほかにも、開発のポイントがあれば教えてください。

野水:「健康」は大きなトレンドです。当社では、2017年に発売した『ブランパン対応ホームベーカリー』は年に9,000台ペースで売れる大ヒットを記録しています。主原料に小麦の外皮を使った糖質約80%カットのブランパンが焼けるのは、当社製品「だけ」ですよ。

夏目:実は私も、ブランパン、ローソンで買ってよく食べるんです。家族がいればホームベーカリーもほしいんですけどね(笑)。野水さんも毎日のように食べるんですか?

野水:もちろんです。

夏目:もしかして、ちょっとやせました?

野水:運動もしていますが、じつは1年間で10㎏やせました。当社内でもブームになっていて、みんなスタイルがよくなり始めてます(笑)。糖分にかわって食物繊維をとる形なので健康的な身体をつくることができますよ。

夏目:開発のきっかけは......?

野水:もともと当社は、10年以上前からホームベーカリーを製造していました。そんななか「ブレイクスルーがほしいね」とアンテナを立てていると、九州の鳥越製粉さんが機能性の高いパンミックスをつくられたという情報を得たんです。すぐに訪ねて「ホームベーカリーでも焼けるようにしましょう!」と、当社のエンジニアが開発を始めました。

夏目:「アンテナ」の部分を詳しく聞きたいんですが。

野水:元々「食」や「健康」をテーマに何かできないかとお医者さんからご指導をいただいていて、その方が鳥越製粉さんをご紹介くださったんですね。

夏目:出会いから生まれた、と。トレンドにあわせて情報収集するって大事だなぁ。

野水:このパターンならほかにもありますよ。当社は2006年に、世に先駆けて頭皮洗浄ブラシ『モミダッシュ』という商品を販売していました。ところが競合他社さんからも似た商品が出て、マーケットシェアが下がっていたんです。そんななか、カリスマヘッドセラピストの山本幸恵先生と巡り会い、2015年に『セレブリフト』というヘッドケア機を出しています。

夏目:頭を揉むわけですね?

野水:気持ちいいだけでなく、フェイスラインをすっきりさせることができますよ。頭の筋肉と顔の筋肉は1枚でつながっていて、加齢によってゴムがへたったような状態になりやすいんです。先生の施術を受けると、この筋肉がほぐれて弾力性が回復します。そこで我々は、3Dモーションキャプチャーで先生の手の動きをデータ化し、お肌と接する部分の形状、素材を研究し尽くし、可能な限りこれを再現しました。先生も「私の技術を伝えるのだから」と熱心にお付き合いくださって、4年越しで先生のお墨付きを得ています。

夏目:評判はいかがですか? 3万円だと、皆さん購入前に調べますよね?

野水:上々ですね。リラックス効果だけでなく「お風呂のなかで使えるのがうれしい」といったお声を多くいただいています。いまは皆さん忙しいので、新たに美容に使う時間をとるのが難しいんでしょう。これは発売から2年半で1万5,000台売れています。

夏目:わかってきましたよ。「健康」といった時代のキーワードについていくのも大切ですが、ヤバい誰かを見つけて速攻でコラボすることも重要なんですね。

野水:ポイントはほかにもあります。"マーケットインでなくプロダクトアウトでいい"ということです。皆さんが欲しがっている商品は、すでに存在するんですよ。だからこそ我々は「こんなすごいものをつくっちゃいました!」という提案型の製品をつくっています。これも、当社のような中規模メーカーのほうがやりやすいことかもしれません。100万台、1,000万台売る会社ではありませんので。

春フェス 2018 in Tokyo「ヘルシースイーツづくり教室」会場にて。
お客様、スタッフとの記念写真(前列右から4人目が野水社長)

10回に1回は、あえて
「大暴投」を選択せよ


夏目:ただ、プロダクトアウト中心だと開発が難しくないですか? 開発担当は「俺は世の中にこういう商品がないからつくりたいんだ」と世に問わなきゃいけない。売れるかどうかは賭けだから、普通、怖いですよね。

野水:まさに私は社長就任以来、そこを変えてきたんです。毎月2回開催している商品企画会議などで、僕はいつも「失敗してもいいよ」「極論を言えば"誰か一人のためにつくる"感覚でいいよ」と話しています。

夏目:誰か1人のためっておもしろいですよね。私がしゃべりすぎて申し訳ないんですが、キングジムの社長が興味深いことを仰っていました。同社に「ポメラ」という商品があります。キーボードに白黒の液晶がついた"テキスト入力専用マシン"です。メールもできず、画像も表示されない。そのかわり、長時間、乾電池でも動く上に、軽くて価格も安い。開発時、社長は開発者に「絶対にメールできるようにしちゃダメだよ」と言ったそうです。「そこそこ安くて、そこそこいろいろできる」商品は、誰にとっても「そこそこほしい」から、誰にとっても優先順位の1位にはならず、売れないからです。社長は「10人中9人が"いらない"と言って、残りの1人が"ずっとこれが欲しかった"と言う商品こそ販売すべき」とも話していました。

野水:私もそう思います。だから会議でよく話すんです。「全力でマン振りしてみないと、何がいけなかったのかわからないし、いい経験にもならない」と。これを言い続けなければ、社員は思い切ったアイデアを提案できなくなってしまいます。

夏目:なるほどなぁ。では、アイデアのなかで、これは採用、これは見送り、といった基準はありますか?

野水:それが極めてさじ加減が難しいところなんです。全然違う所にボールを投げたら大ヒット、ということもありますし、ストライクだと思ったらそこには全然答えがなかった、ということもあります。
むしろ意識しているのは、10個商品を開発するなら、1個はあえて"暴投"することです。それくらいの思い切りがないと、組織から「ストライクめがけて投げなきゃ」という意識が払拭できません。これは経営者としてはガマンが必要なところですが、やはり"自分たちは何年もこの業界で生きてきたんだ。これが正解に違いない"という感覚を強く持ちすぎると、"社内の常識は世の中の非常識"になってしまったとき修正できません。
だから、あえて暴投も必要なんです。

夏目:昭和期、小さかった頃のソニーの逸話を思い出しました。失敗作をつくると幹部が通称「デデスコ部屋」に集まって「こんな経緯で失敗しました!」「聞いてくれよ俺は!」と笑い話にしていたらしいんです。あえて失敗も買う――いい話ですよね。
では「暴投」してみた商品も教えてほしいんですが?

野水:ありますよ。例えば......。

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