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島耕作が副知事に就任!? 佐賀県を盛り上げる公務に挑んだ!
佐賀県の情報発信を通じて地方創生に取り組むプロジェクト「サガプライズ!」。企業やゲーム、アニメ、マンガキャラクター等とコラボしたプロジェクトを数多く手掛け、佐賀の魅力を驚きとともに全国の人々に届けている。
2023年、サガプライズ!が次なるコラボ先として選んだのが、講談社の人気ビジネスマンガ・『島耕作シリーズ』。主人公・島耕作が副知事として、佐賀県のスポーツビジネスや半導体産業を発信していくというプロジェクトだ。一体なぜ島耕作だったのか、実際にどのような施策を行い、どのような効果をもたらしたのか......。サガプライズ! でプロデューサーを務める池田 匡孝さんに話を聞いた。
"情報発信による佐賀県の地方創生"を目指し、企業やコンテンツ等とのコラボレーションを通して佐賀の魅力を発信し続けているサガプライズ!。2013年の活動開始以来、スクウェア・エニックスの『サガ』シリーズや、TVアニメ『ヴィンランド・サガ』、セレクトショップを展開するBEAMSといった多様な企業・コンテンツ等と手を組み、11年間で39ものプロジェクトを手掛けてきた。
「ただコラボして『話題化』するだけでなく、佐賀を知らない人たちが佐賀に対して何らかのアクションを起こすきっかけとなることを狙ってプロジェクトを企画しています」と語るのは、プロデューサーの池田匡孝さん。そもそもなぜ"コラボレーション"に力を入れているのだろうか。
佐賀県 広報広聴課 サガプライズ! プロデューサー 池田匡孝さん
「特産品や観光名所など、佐賀県にはさまざまな魅力があるのですが、全国的にはまだまだ知られていないものも多いんです。ですが、魅力的な地域資源を持つのは他県も同じ。ただPRしただけでは、全国の人に情報を届けるのは難しいと感じていました。そこで注目したのが、人気の企業やコンテンツ等とのコラボレーションです。コラボによって話題を生み出し、戦略的に情報発信をしていこうと考えたのがサガプライズ!の始まりです。なかでも、アニメやマンガ、ゲームといったコンテンツは、根強いファンが多く、SNSでの情報発信・拡散力も高いです。そうしたファンの方々を巻き込んで全国で話題をつくり、佐賀県の魅力に触れて、最終的には佐賀県のモノやコトを選んでいただきたいと考えています」
流行の発信地でもある東京・表参道に拠点を構えるサガプライズ!。首都圏のトレンドを取り入れながら、話題性のあるプロジェクトを数多く生み出している
大手電機メーカーに勤める主人公・島耕作の活躍を描く、弘兼憲史氏によるビジネスマンガ『島耕作シリーズ』。その島耕作が佐賀県の「副知事」としてさまざまな公務を行うというのが今回のコラボの大きな特徴だ。 しかも、なぜ公務員のなかでも「副知事」だったのか。プロジェクトのコアとなるこのアイデアは、企画会議を重ね講談社とともに形にしていった部分だと語る。
「知事は選挙が必要ですが、副知事というポストは、ヤフー!の社長から2019年に東京都副知事に転身された宮坂学さんのように、民間で活躍された方が副知事に就任するケースも現実にあるんですよね。そうしたリアリティを追求し、講談社の担当者と何度もブレストを重ね、島耕作の次の役職を副知事にすることを決めました。
また、『副知事に就任した』というだけでは佐賀県がコラボする理由に乏しいので、島耕作との親和性が高く、かつ、佐賀県が力を入れて取り組んでいる事業を実際に公務としてPRしてもらうことにしました。それが、「スポーツビジネス」と「半導体産業」です。
「スポーツビジネス分野では、佐賀県は2018年から、世界に挑戦するアスリートの育成を通してスポーツ文化の裾野拡大を目指す『SAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)』に取り組んでいます。昨今は、SAGAアリーナや県内プロスポーツチームの躍進などの影響もあり、県内のスポーツシーンが盛り上がりを見せているんです」
2023年5月にオープンした「SAGAアリーナ」。県内2つのプロスポーツチームの本拠地になっているだけでなく、2024年10月に開催を控える『SAGA 2024 国スポ・全障スポ』の会場にも指定されている。
「半導体事業に関しても、佐賀県は半導体の基盤材料であるシリコンウェーハの出荷額が全国1位。半導体製造の関連企業も多数立地しており、日本の半導体産業を支えています。佐賀県の『スポーツビジネス』と『半導体産業』をもっと多くの人に知ってもらいたい......そう考えたんです」
シリコンウェーハ市場で世界2位のシェアを誇る株式会社SUMCOの久原工場(佐賀県伊万里市)。
『島耕作シリーズ』とのコラボが決定したとき、スポーツビジネスや半導体産業を公務としてPRさせると、取り組みの認知度が上がるのではと期待が膨らんだという。
「『島耕作』シリーズは、作中でスポーツビジネスに言及したり、半導体ビジネスを手掛けていたりと、まさに佐賀県が推し進める取り組みについて発信してもらうのにぴったりだと感じました。さらに、島耕作は役職が変わることで話題をつくってきたキャラクター。私たちも話題づくりは重要な使命ですので、民間企業で昇り詰めてきた島耕作の次のキャリアが副知事となれば、大きな話題につながるのではないかと考えました」
加えて、『島耕作』シリーズが2023年に40周年を迎えるという話題性も加味され、プロジェクトは進んでいった。
島耕作が佐賀県の副知事に就任したことを知った方から『なぜこの人はマンガの肖像画しかないの?』と聞かれたこともありましたね。その方は、本当に島耕作という人間がいて、副知事に就任したと思ったそうです。そうした反応をいただけるほど、リアリティと話題性のあるプロジェクトをつくれたのだと思います」
リアリティを追求し、佐賀県人事課協力のもと作成された副知事就任の辞令書。記者会見の場で実際に島耕作へと交付された。
島耕作が佐賀県の副知事に就任したというニュースは瞬く間に拡散され、テレビやSNSなどを通じて全国で大きな話題となった。
「『島耕作シリーズ』のX公式アカウントでも佐賀県副知事への就任について大々的に取り上げていただきました。さらに、東京都副知事・宮坂学さんがSNSでこのコラボに対して反応を見せてくれるなど、SNSやメディアでも大きな話題をつくることができたと感じています」
『島耕作シリーズ』公式Xアカウントでも、佐賀県副知事への就任を大々的にアピール。
今回のプロジェクトで島耕作が取り組んだ公務のテーマは主に3つ。佐賀県が取り組む「スポーツビジネスの認知拡大」、「半導体産業の情報発信」、そして「副知事 島耕作の執務室大公開展の開催による佐賀県の紹介」だ。これらを軸に、さまざまな施策を展開していった。
今回のコラボで特に目を引くのが、作者である弘兼憲史氏・講談社監修のオリジナルマンガ「副知事 島耕作」だ。佐賀県副知事に就任した経緯や公務として取り組む佐賀のスポーツビジネスを、『島耕作』の世界観でわかりやすく紹介する内容となっている。特設サイトでデジタル版を公開しただけでなく、スポーツイベントや佐賀県庁が実施するさまざまな事業などで冊子が配布された。
表紙のメインビジュアルは、弘兼氏の描き下ろし。右手でガッツポーズを作る「佐賀さいこう!」ポーズを決める島耕作の後ろには、昨年5月にグランドオープンした新時代のエンタメアリーナ「SAGAアリーナ」が描かれている。
「佐賀県のSAGAスポーツピラミッド(SSP)構想やスポーツに関する取り組みは、県のホームページでも紹介しています。しかし、アクセスしてもらうのはハードルが高いですし、文字情報だけでは伝えきれない部分も多いので、マンガであれば読んで知ってもらえるのではないかと考えました。また、『島耕作シリーズ』は、さまざまなビジネスや難しい事柄をわかりやすく伝えてきた作品で、スポーツビジネスも半導体産業も島耕作が関わったことがある分野です。その世界観であれば、幅広い世代に我々の事業を伝えることができると思いました」
冊子は全部で21ページ。マンガ内に登場する山口祥義佐賀県知事のビジュアルは描き下ろし。
「内容はSSP構想やプロスポーツチームの紹介など多岐にわたるので、ストーリーを違和感なく繋げていくのにはとても苦労しましたが、ページ構成やストーリーなどは講談社のサポートを受け、良いものをつくることができたと思います。私自身、マンガ制作に関わるのは初めてだったのですが、文字やセリフの校正でも私たちが気付かないようなところまで細かく確認いただき、ありがたかったですね」
「読者からは、『佐賀のスポーツ事業を楽しみながら知ることができた』、『佐賀県政に興味を持った』という声をいただきました。また、県庁内からは『わかりやすいのでSSP構想を説明するときに配りたい!』と声をかけてもらえたり、『営業回りをする際の会話のきっかけとして活用したい!』と言ってもらえたりと、各課からの評判も高かったです。多くの県民、そして全国に佐賀県や佐賀のスポーツ事業を知ってもらう良いきっかけになったと実感しています」
スポーツビジネスに関する公務では、講談社の人気スポーツマンガ30タイトル以上を積んだトラック「スポーツマンガ号」の運行を実施した。
『島耕作シリーズ』に加え、約750冊ものスポーツマンガを無料で楽しむことができる「スポーツマンガ号」。東京・港区に出張運行しただけでなく、県内も巡行した。
「『スポーツマンガ号』は、マンガを通してスポーツに興味を持ってもらい、スポーツ文化の裾野を広げていきたいという思いで生まれました。講談社はこれまで多くのスポーツマンガを送り出していますし、佐賀県には県庁新館の地下1階にスポーツの魅力を伝えるためにスポーツマンガを設置しているコーナーがあるんです。これは『国体』から『国スポ』に変わる初めての大会が2024年10月に佐賀県で開催されることを受け、みんなのアイデアで新しい大会づくりを進める『IDEA SAGA2024』プロジェクトの一環なんですが、「スポーツマンガを活用してスポーツの魅力を伝える」という共通のファクトがある企画ができたことは嬉しかったですね」
講談社はこれまでにも、キャラバンカーにたくさんの絵本をのせて全国に絵本の楽しさを届ける「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」など、子どもたちと物語の出会いの場をつくる活動を行っている。そうした経験を生かし、今回のプロジェクトでは講談社のスポーツマンガを通して、スポーツの楽しさや可能性に触れてもらうきっかけをつくりたいと考えたという。双方の思いが一致し、生まれたスポーツマンガ号。マンガのラインナップについても特徴があったと、池田さん。
「長年愛されている『はじめの一歩』や子どもたちに大人気の『ブルーロック』など、老若男女楽しめる仕様となっていたのが印象的でしたね。そのおかげか、多くの家族連れが訪問してくれたと思います。なかには、2時間以上も熱心にマンガを読んでいた子がいたほどです。マンガを通してスポーツの楽しさに触れてもらうことができました」
佐賀県の歴史や現在の取り組みなどを、旧知事室等を活用しながら広く紹介している施設「県庁CLASS」では、旧知事室を島耕作副知事の執務室仕様とした期間限定の展示イベントを開催。佐賀県の歴史と島耕作のこれまでの歩みをまとめた年表や、弘兼氏描き下ろし複製原画の展示、Live2D技術で実際に動いて話す島耕作に会うことができるなど、ファンにも嬉しい内容であった。
2023年11月27日~2024年2月29日まで開催された企画展。モニターには、県産品の魅力のほか、公務として情報発信に取り組むスポーツビジネスや半導体産業について、島耕作が語る様子が映し出された。
「『島耕作シリーズ』の魅力はもちろん、県政に触れていただくきっかけになればと思い企画したイベントです。実際に県庁の中に執務室があり、島耕作副県知事に会えるという企画全体のリアリティにもつながったと感じています。来場者には、オリジナルマンガ『副知事 島耕作』と島耕作副知事の名刺を配布。名刺に書かれたメールアドレスにメールを送ると、実際に島耕作から返信される仕掛けになっていたんですよ」
「副知事 島耕作の執務室大公開展」にて配布された、島耕作の名刺。
もともと「県庁CLASS」の来場者数は1日30人程だったと話す池田さん。しかし期間中は、この展示を目的に訪問する人が増えたのだという。
「県庁CLASSには、初日と2日目は通常時の10倍以上となる1日約300人が来場されました。島耕作ファンの方も多く、なかにはこの展示のために東京から日帰りで来たという方もいらっしゃいましたね。当初は2023年12月末で終了する予定でしたが、好評を受け、開催期間を2024年2月末まで延長。累計来場者数は、5400人以上にのぼりました。アンケートでも97%の人から『満足した』と解答いただき、展示を楽しんでもらいながら、県政に触れてもらう良いきっかけになったと思います」
11月から始まった島耕作コラボ。大きな話題となったことで、県庁内の別の部署や県内プロスポーツチームからも「私たちもコラボしたい」と、声がかかるようになったという。「私たちだけの取り組みではなく、佐賀県全体の取り組みとして広がっていったのは嬉しい効果でした」と池田さん。コラボに関心をもった県庁内各課や県内プロスポーツチーム、講談社の柔軟な対応から生まれた派生プロジェクトをいくつかご紹介いただいた。
「島耕作コラボが話題となってしばらくしてから、サッカーJ1リーグで活躍する『サガン鳥栖』、V1リーグ女子で8度の優勝を誇るバレーボールチーム『久光スプリングス(現:SAGA久光スプリングス)』、2023年にB1リーグ昇格を果たしたバスケットボールチーム『佐賀バルーナーズ』のいずれも県内にある3つのプロスポーツチームから、島耕作コラボを一緒にできないかとお声かけいただきました」
今回、『サガン鳥栖』の開幕戦では、実際にスタジアムの巨大スクリーンに島耕作副知事が登場。『久光スプリングス(現:SAGA久光スプリングス)』の試合では、島耕作副知事がプリントされたオリジナルTシャツが先着で配布され、観客が着用して応援する姿が見られたという。
写真提供:佐賀バルーナーズ
「なかでも印象に残っているのは、『佐賀バルーナーズ』とのコラボ試合『島DAY!』です。この日は、『島』や『嶋』の字が名前に入っている人、島に住んでいる人、そして全国の副知事が無料招待され、実際に500人程が来場されたそうです。流石に全国から副知事は来なかったそうですけどね(笑)。
嬉しかったのは、このイベントが来場者の増加につながったこと。バルーナーズが『B.LEAGUE PREMIER』に所属するためには、平均来場者数4000人という条件をクリアすることが必要でした。『島DAY!』が開催された時期はちょうどその査定がされる勝負のシーズン。平日はどうしても来場者数が減ってしまうなか、島耕作副知事とのコラボレーションで多くの人が訪れ、来場者数の増加に貢献できたことは本当に嬉しかったです」
東京・品川駅に設置された大型広告
「企業立地課からは、佐賀に企業を誘致する交通広告を展開したいと声かけがあり、弘兼先生と島耕作の出身校である早稲田大学の創始者 大隈重信と、島耕作副知事とが並ぶ広告を品川駅に掲示。『企業立地』に関する意思決定を行うような、企業の経営層として活躍する方の中には50-60代の方も多いですよね。島耕作のファン層ともぴったり合致するため、広告効果も大きかったのではないかと考えています」
「佐賀県職員採用サイトには、期間限定で島耕作副知事のプロフィールや民間出身職員と島耕作の対談記事を掲載しました。佐賀県庁は、民間企業出身の行政職職員の割合が15%と全国1位。民間企業で働く島耕作が今回副知事に就任したということで、民間経験者採用のPRにも登場していただきました」
県内全体に広がりを見せた、一連のプロジェクト。広告換算額は約12億円を達成。「数あるサガプライズ!のコラボプロジェクトのなかでも1・2を争うほどの成功事例となりました」と、池田さん。さらに、作者・弘兼憲史氏から嬉しいプレゼントがあったという。
「当初、『島耕作』本編に佐賀県を出してもらえたらとお願いしていたのですが、さすがにそれは難しいとのお返事でした。それでも弘兼先生には、ぜひ佐賀に来ていただき、佐賀に触れていただきたいと考えていたんです。先生は週刊連載を抱えてお忙しい方なので訪問は難しいと思っていたのですが、講談社のアテンドにより佐賀訪問が実現しました。嬉野茶のティーツーリズム体験や、先生と島耕作の母校である早稲田大学の創始者・大隈重信の記念館、先生が深い関心を抱かれていた半導体企業SUMCOの視察など、佐賀の魅力に存分に触れていただけるよう考えました」
作者・弘兼憲史氏の佐賀県での現地取材の模様は、現代ビジネスにて掲載中。
「弘兼先生には『島耕作の執務室』にもお越しいただきました。そこで山口祥義佐賀県知事と面会していただいたのですが、その時に『マンガの中で佐賀県を展開したい』とおっしゃっていただいて。実際に発売された『モーニング』に、佐賀県が誇る嬉野温泉や佐賀県の半導体産業などが描かれていて驚きました! 関係者一同大変喜びましたね」
2024年5月23日発売の『モーニング25号』。弘兼氏が視察した佐賀県伊万里市に工場を構えるSUMCOをモデルに、島耕作一行が半導体材料のシリコンウェーハ製造を見学する様子が描かれている。
今回の島耕作副県知事の働きぶりについても池田さんは、「さすが、ビジネスマンとして結果を残してきたキャラクターだな、と思いましたね。我々が設定していたKPIを遥かに上回る結果を出していただきました」と振り返った。
また、今回のコラボを通して、新たな可能性も見えてきたという。
「今やIPコラボは当たり前となっていますが、そのなかでも今回のプロジェクトが話題となったのは、"行政でしかできないこと"と"IP"の掛け合わせ、その独自性が大きかったのだと思います。企業の社長でもなく、広報部長でもなく、『副知事に任命する』というのは、行政でしかやれないことですよね。そこに大きな可能性を感じました。今後も、行政でしかできないことは何かを模索し、IPを掛け合わせながらさらなる佐賀の魅力発信につながる施策を考えていきたいです」
撮影/村田克己 取材・文/室井美優(Playce) 編集・コーディネート/川崎耕司