2024.04.15

行政×異業種コラボの仕掛け人、柴田晃典さんに聞く「地方創生×マンガIP 活用のポイント」 ── 熱量でつながる、マンガとリアル

企業やコンテンツなどとのコラボレーションを通して、佐賀県の魅力を全国に発信している情報発信プロジェクト「サガプライズ!」。マンガIPを活用したプロジェクトも多く手がけている、同プロジェクトリーダー・柴田晃典さんと、講談社 IPビジネス部の岩切秀一が、マンガIPが地方創生に果たす役割について、語り合いました。

佐賀県 政策部 広報広聴課 サガプライズ! プロジェクトリーダー 柴田晃典さん(左)、講談社 ライツ・メディアビジネス本部 IPビジネス部 副部長 岩切秀一

話題を創出し、佐賀県の魅力を発信する「サガプライズ!」

──「サガプライズ!」の概要と、これまでの講談社とのコラボレーション事例について簡単に教えてください。

柴田 「サガプライズ!」は2013年に、情報発信による地方創生の推進を目的としてはじまったプロジェクトです。佐賀県が世界に誇る本物の地域資源の魅力を、企業やブランド、メディアとのコラボレーションで発信し、話題づくりやファン獲得につなげてきました。

講談社さんとは2019年の『ヴィンランド・サガ』とのコラボレーション企画「ヴィンランド・佐賀」で初めてご一緒させていただき、マンガIPの効果・反響の大きさを知りました。

今回の『島耕作シリーズ』とのコラボレーションにおいても、マンガIPの力の大きさを実感しています。

佐賀県×『ヴィンランド・サガ』のコラボビジュアル。本プロジェクトでは、関連動画が累計10万回再生を突破するなど、大きな話題となった プロジェクト詳細はこちら

岩切 私と柴田さんは、「サガプライズ!」38番目のコラボレーション事例、「副知事 島耕作」プロジェクトをご一緒させていただきました。ニュース番組や新聞にも取り上げられるなど、すごい反響を生みましたね。

柴田 おかげさまで多くのメディアに取り上げていただき、X(旧Twitter)では2400万リーチ超えという結果を生み出しました。

サガプライズ! プロジェクトリーダーの柴田さん

──『ヴィンランド・サガ』とのコラボレーション経緯と内容を、あらためて教えてください。

柴田 私がIPの力を実感したのは、2013年に3番目のプロジェクトとして行ったスクウェア・エニックスの人気ゲーム『ロマンシング サ・ガ』とのコラボレーションでした。

佐賀と同音の「サガ」シリーズとのコラボによって、これまで関連性のなかった自治体とゲームが突如つながり、強烈なインパクトを生み出し、大きな反響がありました。そこで2019年に、同じく「サガ」でつながるマンガ『ヴィンランド・サガ』とのコラボレーション企画「ヴィンランド・佐賀」を展開。イベント期間中は秋葉原にコラボ旗艦店をオープンし、「ヴィンランド・佐賀」オリジナルグッズや佐賀県の名産品などの販売も実施し、観光客やアニメファンに広く佐賀県をPRすることができました。

佐賀県副知事就任というリアリティを追求した「副知事 島耕作」

──IPコラボによって、IPのファンと佐賀県をつなぐことができたのですね。『島耕作シリーズ』とのコラボレーションでは、島耕作が佐賀県副知事に就任するという意外性、企画のおもしろさによって、ファンだけでなく、さらに広いユーザにリーチすることに成功しました。

Ⓒ弘兼憲史/講談社

岩切 今回の『島耕作シリーズ』とのコラボは、もともとは柴田さんと私の雑談から始まりました。「もし『島耕作』と『サガプライズ!』がコラボしたらどんなことができるか」というブレストから、いろいろご相談させていただきました。

「これまででいちばん思い入れのあるコラボができた」と振り返る岩切

柴田 ちょうど島耕作が連載40周年を迎えるタイミングだったんですよね。島耕作の次の役職は決めていないということでしたので、「ならば次は、公務員はどうか」というアイデアから、島耕作が佐賀県の副知事に就任するという企画が生まれたんですよね。プロジェクトのスタートは東京で、大々的な副知事就任式を開催。中川翔子さんや原作者の弘兼憲史先生にもご登壇いただき、非常に話題となりました。

その後、佐賀県庁内に「副知事 島耕作の執務室」をつくり、期間限定で公開。さらに、オリジナルマンガ「副知事 島耕作」を制作し、島耕作が佐賀県の副知事に就任することになった経緯や想い、公務として取り組むスポーツビジネスについて、特設サイトでご紹介するなど、さまざまな発信を行いました。

島耕作の佐賀県副知事就任の経緯や公務内容をまとめたオリジナルマンガ(ミニブック)は21ページと読み応えも十分。特設サイトでも同じ内容が公開された

岩切 「副知事」というのも、熟考の上決めたんですよね。

柴田 あくまで本コラボレーションは、佐賀県の情報発信の一環であり、副知事就任はフィクションです。しかし、リアリティは大切にしたいと考えました。

知事は選挙で選ばれないと就任できませんが、副知事は選挙ではない手続きを経て、知事が選任することができます。また、民間からの登用も可能です。実際、東京都の宮坂学副知事は、ソフトバンク取締役、ヤフー会長を経て、2019年9月に東京都副知事に就任されました。宮坂氏のように民間で活躍された方が副知事に就任されるケースは珍しくないですから、島耕作も同様に、「副知事」として県政に関わってもらうことにしました。

こだわったのは、「リアル」との距離感の近さ

──本コラボレーションの完成度は高く、『島耕作シリーズ』作者の弘兼先生が実際に佐賀県庁を訪問され、島耕作の執務室の素晴らしさに「コラボしてよかった」と感想を語られたことも、ニュースになりました。

弘兼先生も絶賛した「副知事 島耕作の執務室」。佐賀県庁内につくられ、一般公開された

岩切 今回のプロジェクトは、「リアル」との距離感の近さをいかに生み出せるかというところに、かなりこだわりました。東京で実際に就任式を行い、さらには佐賀県庁内に「副知事 島耕作の執務室」までつくったのも、リアルへの追求からです。

柴田 就任式で使った任命状も、実際に佐賀県人事課が発行した「本物」です。リアルの副知事が任命されるときと同じ内容で作成し、知事印を押印して発行するなど、細部にまでこだわりました。

また、島耕作と佐賀県をどうリアルにつなぐかも重視したポイントです。弘兼先生が就任式にご登壇くださったことで、「リアリティ」が格段に増したと感じました。

島耕作と佐賀県をつなげた、大隈重信

岩切 島耕作と弘兼先生の母校が早稲田大学で、その創設者・大隈重信が佐賀県出身というのは、大きなつながりになりましたよね。

柴田 そうですね。あれがターニングポイントだったと感じています。「早稲田大学の大隈講堂で副知事の就任式をします」と提案したところ、弘兼先生が興味を持ってくださり、就任式にご登壇いただけることになりました。

岩切 さらに「佐賀県をぜひご訪問いただきたい」という柴田さんの熱意が伝わって、お忙しい弘兼先生の佐賀県訪問が実現しました。本当にお忙しい方ですから、正直、私たちも驚きました。

柴田 弘兼先生には、実際に島耕作の執務室をご覧いただき、島耕作が公務として取り組むスポーツビジネスの拠点「SAGAアリーナ」も見学していただきました。温泉地として名高い嬉野温泉に泊まって佐賀牛も味わっていただき、佐賀をより深く知っていただくことができたと思っています。

岩切 先生が、どれも大変喜んでくださっていて、私もうれしくなりました。

リアルな場とモノで、さらなる盛り上がりを創出

柴田 弘兼先生のご来訪は大きな話題となり、佐賀県庁内の島耕作執務室は、展示期間中5400人以上の方にご来場いただくことができました。

また、県内のプロスポーツチームもコラボに参画し、「副知事 島耕作」のオリジナルマンガやコラボTシャツをVリーグの試合の来場者プレゼントとして配布しました。試合前に選手がSNSで拡散してくれて、さらに盛り上がる展開となりました。

「副知事 島耕作 Vリーグ視察記念」として、佐賀県を本拠地に活動するプロバレーボールV1女子チーム「久光スプリングス」の試合の来場者に、コラボTシャツが配布された

関係者の熱量の重なりが、成功につながった

──地方創生とマンガは相性がいいと言われています。今回の島耕作とのコラボレーションが成功した理由はどこにあるとお考えですか?

柴田 島耕作というIPの認知度の高さはもちろんですが、そこにいろいろな人の思いとお互いの熱量が重なった結果、これだけ大きな結果につなげることができたのではないかと思います。

岩切 今回のコラボレーションは、お互いの熱量がいちばんいい形で着地できたプロジェクトだったと思います。通常のタイアップの枠を超えた新しい形で展開が広がり、私自身すごく勉強になりました。また、本当に島耕作が実在しているのではと思えるほどの高いリアリティを生み出すことができたことも、すごくよかったのではないかと思います。

柴田 スポーツビジネスのように、文字だけでは伝わりにくい取り組みをマンガ「島耕作」の世界観の中で伝えることができたこともよかったです。

このマンガで県政に興味を抱いたという反響もあり、あらためてマンガの力を感じました。弘兼先生もご興味を持っていただけたことでPR効果が高まり、他県からの問い合わせも多くいただいています。

ストーリーから入るコラボも大事ですが、今回のように「もしも島耕作が公務員になったら」というアイデアに、リアリティを加えていくような発想も、おもしろいコラボが生まれるアプローチのひとつだと思います。今後も地方自治体とマンガIPのコラボは増えていくでしょうから、そのなかで、どのような進化を遂げていくのか、私自身もとても非常に楽しみです。

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