2024.03.05

人気キャラクターを起用する際のポイントは? データ・事例から読み解く講談社IPのタイアップ戦略 ── 「Cross Insights Hub」セッションレポート

2月6日・7日にオンライン開催された、インサイトマーケティングイベント「Cross Insights Hub」。2日目のセッション「データ・事例から読み解く 講談社IPのタイアップ戦略」では、講談社の人気キャラクターを起用したプロモーションのポイントを、データと事例から読み解きました。

マンガやアニメのライセンス事業を手がける、株式会社トキオ・ゲッツの清水邦一氏(右)と、数多くのアニメ版権に携わってきた、講談社 ライツMD部/IPビジネス部 伊藤洋平が本セッションに登壇。『進撃の巨人』の事例を中心に、IP活用のヒントを届けた

この10年でファン層が拡大。アニメはサブカルからメインカルチャーに

清水 講談社では『進撃の巨人』『東京リベンジャーズ』『ブルーロック』などのヒット作を起点に、企業とのタイアップを数多く実施されていますね。本セッションでは、キャラクターのどのようなところが深くターゲットに刺さっているのかなどの視点で、タイアップ事例を紹介しながら成功の秘訣を探りたいと思います。

伊藤さんがライツのお仕事を始めてから10年ほどと聞いています。この間に、アニメを取り巻く環境はどのように変化してきたのでしょうか?

伊藤 あくまで個人の感覚的な話になってしまいますが、10年前は、アニメは深夜のテレビ、しかもいわゆる独立系のテレビ局で放送されるのが主でした。アニメを視聴する環境も基本的にはテレビで、配信は今ほど浸透していませんでした。現在のように、いつでもどこでも、気軽にアニメを視聴できるようになったことは、非常に大きな変化のひとつです。

また、ファン層に関しても、10年前ですと、グッズを購入するのは「男性」が多かった印象です。ですから、『進撃の巨人』が放送されてすぐの頃「一番くじ」(※)を展開させていただきましたが、目玉であるA賞は、ミカサという女性キャラクターのフィギュアだったんです。当時、いちばん人気があったのは、リヴァイという男性キャラでしたが、フィギュアが欲しいファン=男性ファンは、女性キャラのフィギュアが欲しいであろう、という前提があったように思います。

そうした決めつけが間違っていたという話ではなく、当時はそういう環境だったという話です。現在は、フィギュアだけでなくアニメグッズを購入される女性も多くいらっしゃいますし、アニメを視聴される方の層も拡大しています。それを象徴するように、近年は「NHK紅白歌合戦」でも、アニメの主題歌を歌うアーティストが多く選出されていますよね。

※一番くじ:BANDAI SPIRITSが販売するキャラクターくじ

企業タイアップが、ファンの熱量維持に寄与

清水 本日の事例のメインとなるのが『進撃の巨人』です。あらためてご紹介させていただくと、2009年9月から2021年4月まで連載され、すでに原作もアニメも完結しています。世界累計発行部数1.4億部を突破(2023年11月時点)し、全世界18言語・180ヵ国以上で出版されている、人気作品です。同作品について、「IPタイアップ」の視点で振り返っていただけますか?

伊藤 はい。テレビアニメーションの制作というのはすごく時間がかかります。本作は、シーズン1が2013年、シーズン2はその4年後(2017年)とかなり間が空いてしまいました。その間、新しいコンテンツを楽しみたい、消費したいというファンの人たちの熱量を、どうやって冷まさずにいられるかということが、課題のひとつでした。

しかし幸いにも、その間に多くの企業さまとコラボレーションさせていただき、ファンの方たちにも、新しいコンテンツとして楽しんでもらえたと感じています。このあと事例を紹介しますが、10年間ずっと、さまざまな企業がタイアップしていただいたことが、『進撃の巨人』の人気を支えていただいたと考えています。

進撃の巨人(1) 著:諫山 創。TVアニメ放送は2013年にスタートし、2023年に完結。さまざまな企業と多種多様なコラボを展開し続けてきたことも、10年間ファンの熱量を維持し続けられた要因のひとつ

『進撃の巨人』における、3つの共創のポイント

清水 まずは、『進撃の巨人』における、ファンや企業との「共創」について、ポイントをまとめてみました。

ポイントは大きく3つです。「共創型」、「コラボ総数は200本超」、「コラボしやすい体制づくり」。10年で200本(年間20本超)はなかなか見ない数字ですよね。コラボする企業の業態もさまざまで、内容が被らないように、趣向を凝らしてらっしゃるのが、見て取れます。

伊藤 振り返ってみると、キャンペーンやタイアップ用に描き下ろしたものも多いですね。コラボする企業のピザやお弁当を食べたり、企業のロゴや店舗が映り込む形だったり......。ちなみに描き下ろしは、まるで新しい話がアニメでリリースされたかのように(新しいコンテンツとして)、ファンの人たちもポジティブに反応して喜んでくれる傾向にあります。

『進撃の巨人』とのコラボ例。多様なアプローチでコラボ数は200本超。描き下ろしも多数

清水 ポイントのひとつにある「コラボしやすい体制づくり」という点では、他の案件であまりないことですが、いろいろなモノを貸し出していますよね。

伊藤 はい。アニメの宣伝を兼ねて、当然、販促物もいろいろ作るのですが、その資産を1回限りのものにせず、興味があれば、どんどん使っていただくようにしていました。運送費や設置費用は負担していただいてますが、貸出は無料です。

講談社では、着ぐるみやバルーンなど、『進撃の巨人』関連の販促物を積極的に貸し出している

『進撃の巨人』タイアップ事例

清水 次に、伊藤さんが特に思い出深かったという事例をご紹介します。

IPコラボの成功例:日本中央競馬会「進撃の有馬記念」

伊藤 このタイアップでは、『進撃の巨人』のキャラクターたちが馬で駆けていくシーンを、競馬に見立てる、という映像を制作しました。実際に競馬実況を担当されているアナウンサーの方に実況をお願いしたことで、非常にリアルな仕上がりになりました。また、有馬記念に出場するキャラクターを投票形式で選ぶという企画を、キャンペーン内に組み込んでいたのですが、「2ちゃんねる(現 5ちゃんねる)」でハンネスというキャラクターを盛り立てる動きがあり、投票が集まって1位になったんです。

清水 わりと脇役のキャラですよね。

伊藤 しかも僅差とかではなく、67億票を集め、圧倒的1位。しかしハンネスが馬で駆けるシーンは、Season1にはそもそも存在しないんです。本タイアップは、すでにアニメで放送した馬で駆けるシーンを活用して制作されたものでしたから、本編にないものは制作できない。そこで、実際の有馬記念も「出場辞退」ができるということで、ハンネスには「出場辞退」してもらいました。このオチまで含めて非常におもしろがられて、結果的にキャンペーンは大きな話題となりました。

今も感じていることですが、ファンの人たちの面白がり方って事前に予想できないものなんです。だから楽しめる余地、余白を多く作っておくことも、大切だと個人的には思っています。

選ばれても有馬記念には出場できないキャラもエントリー。想定外の盛り上がりが生まれた

IPコラボの成功例:進撃の巨人in HITA~進撃の日田~

伊藤 原作者の諫山先生の出身地が「大分県日田市」。地元に何か恩返しができないかと言われていたところに、日田市の関係者の方たちから日田市を聖地みたいな感じにできないか、という相談をいただいてこの企画は始まりました。『進撃の巨人』はファンタジーなので、いわゆる聖地は現実に存在しませんが、この企画をきっかけにファンの人たちが行って楽しめる場所ができました。ほかにも、ダムを壁に見立てて銅像を作ったり、「GPS位置情報型アクションゲーム」が楽しめたり、地元の特産品とのコラボ商品もたくさん出させていただきました。ちなみに、銅像はファンの皆さんからのクラウドファンディングにも支えていただきましたので、まさに「共創」と言えますね。

清水 半年で7万人の来場者、経済効果が年間20億円とはすごいですね。次に、講談社さんとコラボレーションした弊社の事例をご紹介させていただきます。

IPコラボの成功例:極楽湯「お風呂の民〜The SENTO Season〜」

告知動画再生回数は72万。解禁ツイートは2.6万いいね、1.1万リツイート。多方面で話題に

清水 こちらは、「極楽湯」さまの事例です。さまざまな情報番組で取り上げられ、告知動画が72万回再生されるなど、大変盛り上がった事例です。

IPコラボの成功例:東リベ×完全メシ(日清食品)

清水 次に『東京リベンジャーズ』とのコラボ事例をご紹介します。これは制作した動画が1000万再生以上されるという、大変な人気でした。

伊藤 有名なシーンを使用し、企業案件であることを、あえてネタにしたストーリーは、非常におもしろいですよね。

清水 はい。日清さんは、キャラクターコンテンツを使われるのがすごく上手です。タイアップした「完全メシ」では、動画の内容に絡めて、「マイキーに案件バックレられました。」と、一行でツイート。それに、「カップヌードル」や「日清焼きそばU.F.O」などの周辺ブランドも反応してくれたことで、さらに注目度が上昇しました。そのやりとりが、企業と消費者というよりも、まるで友達同士のような、親しみやすさに満ちていたのが印象的でした。結果、企業案件でありながら、多くのユーザーの方が、楽しんでコンテンツを消費してくださったように思います。

日清食品の他ブランドも、公式Xにて本コラボについて言及。情報拡散に寄与した

人気急上昇中の注目IPは『ブルーロック』と『WIND BREAKER』

清水 本日は『進撃の巨人』と『東京リベンジャーズ』の事例を紹介しましたが、それ以外に注目している作品はありますか?

伊藤 今だと『ブルーロック』の人気がすごいですね。今年は映画も公開されますので注目していただきたいです。女性に人気の作品は? という質問もいただいていますが、4月からアニメ化される『WIND BREAKER(ウィンドブレイカー)』という作品は、すでに原作の段階から感じている熱量からさらに盛り上がるのではないかと感じています。

今年4月に映画も公開される人気作『ブルーロック』(左)と、4月からアニメが放送される注目の『WIND BREAKER』

タイアップは作品の一部。今後も、多様な「おもしろい」を形にしたい

清水 最後に、今後の企業コラボについてです。まずは講談社さんのタイアップに関する方針について、お伺いできればと思います。

伊藤 繰り返しになりますが、タイアップは作品の一部だと考えています。そして、おもしろいことができるとキャンペーンは成功して、ファンの人たちも楽しんでもらえる。この経験則から「一緒におもしろいことをしたい(おもしろいが成功につながる)」というのが私自身の前提としてあります。ですから、ぜひ思い切った提案をどんどんしていただきたいです。もちろんすべて実現できるわけではありませんが、はじめから躊躇していただく必要はありません。

清水 ビジネス上の立場的なことでいうと、講談社さんはアニメや原作の版権を管理していて、使用方法について許諾を出すという立場ですよね。伊藤さんに相談すれば、アイデアがめちゃくちゃ出てくるということではなく、ぶつけたアイデアが作品の世界観にあっているか否かを判断してもらう。その上でもっとこういうこともできるよと提案していただける、ということでしょうか。

伊藤 そうですね。あとは作品のことはよく知らないけど、人気があるみたいだから何かやりたい、といったご相談でもOKです。その場合は、こういうことが人気の理由ですよとか、こういうシーンが有名ですよとか、このセリフが話題になっていますよ、などはお伝えできると思います。そこからどう料理していくかは、最終的にはクライアント様に考えていただくことですが、精一杯ご協力させていただきます。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。一緒に、おもしろいことをやっていきましょう。

清水・伊藤 本日はありがとうございました。

『進撃の巨人』のIP活用に関する詳細、その他事例、お問い合わせはこちら
https://go.kodansha.co.jp/shingeki/


Cross Insights Hub
データ・事例から読み解く講談社IPのタイアップ戦略〜人気キャラクターを起用する共感型プロモーションの成功事例〜
・日時:2月7日(水)11:00〜11:45
・会場:オンライン
・登壇者:
清水邦一/株式会社トキオ・ゲッツ ライセンシング事業部 執行役員/プロデューサー
伊藤洋平/講談社 ライツ・メディアビジネス局(現 ライツ・メディアビジネス本部) ライツMD部 兼 IPビジネス部 副次長

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