2022.09.09

最適なプラットフォームから始める、顧客データ活用【toC/toB】 |デジタルマーケティングとデータの"越境"<第4回>

本連載では、デジタルマーケティング業界の最新動向について、"越境"をテーマに解説します。昨今はマーケティングを越えた領域でのデータ活用が進んでおり、マーケターが負う業務や役割の境界が曖昧になりつつあります。顧客データを軸にしたマーケティングを実現するためには、組織の枠組みや自らの役割を"越境"した戦略が必要です。
今回のテーマは「顧客データの活用」です。個人情報保護の観点から、デジタルマーケティングにおけるデータ活用の前提が変わりつつある昨今のトレンドを踏まえ、顧客データをどのように活用すべきか、そしてそのためにはどのような越境が必要か考えていきます。

どのデータを活用するか ── デジタルマーケティングの「常識」の変容

デジタルマーケティングに関わる人々にとって、個人情報の扱いに関わる法制度の話題は、ここ数年でより身近に迫ったものとなりつつあります。2018年に施行されたGDPR(EU一般データ保護規則、General Data Protection Regulation)や、2022年4月に施行された改正個人情報保護法など、個人情報を取得する企業にとっては理解を深めなければならない新たなルールが国内外で次々と制度化されています。本記事ではそれらのルールの解説は割愛しますが、マーケティングで利用されるデータの扱いを見直すべき時代である、ということは前提として述べておきたいところです。

企業はマーケティングの中でさまざまなデータを取得しています。Webサイトの訪問・閲覧履歴、アプリの利用記録、ECサイトでの購入履歴など、入力フォームに記入される個人情報以外にも多岐にわたるデータがあります。そしてそれらを組み合わせ、分析することで、極めて解像度の高いユーザー像を描くことが可能です。

直近までのマーケティング・テクノロジーは、これらのデータを最大限に乗算し、デジタル広告を最適化することに注力してきました。この「最大限の乗算」にはデータの量が求められるため、他社が取得したデータ群を掛け合わせる手法は自然な選択でした。サードパーティデータ(第三者が提供する外部データ)を前提とするマーケティング・テクノロジーも、この前提のもとで進化を続けてきました。

しかし、紐づけかたによっては個人を特定する情報にもなり得るデータが、広告最適化の目的で乱用されることは、個人情報保護の観点で以前から問題視されてきました。先に述べた法制度もこうした課題意識に根付くものであり、企業は改めてデータの扱いを見直す必要が出てきています。

自社の顧客データについて考えよう

法制度の刷新についてキャッチアップしながら、従来の手法に則ったマーケティングを違法にならないよう続けるのもひとつの手段ですが、多くの企業がそれ以上に期待の目を向けつつあるのは、ファーストパーティデータ(自社の顧客や社内のデータ)の活用です。

個々のユーザーの許諾を得て自社で取得したデータは、その旨を伝えていれば自社のマーケティングに活用することが違法になることはありません。また、データ活用のための準備にかかる初期投資を除けば、第三者のデータのためにかけていたコストも抑えられます。

そして何より、自社の顧客データを基軸としたマーケティングに舵を切れば、近年重視されるOne to Oneマーケティング実現に向けた戦略を立てることもできます。生活様式やニーズが多様化するいま、個々のユーザーの視点に立つことの重要性は年々高まっています。そのためのマーケティング戦略の大きな見直しは、喫緊に取り組むほどではないと捉えていても、将来的な経営存続を考えるならば避けて通れない道なのではないでしょうか。

顧客データを活かすために必要な準備

しかし、ただ顧客データを取得・蓄積するだけではマーケティングに結びつきません。自社の顧客データを活かすためには準備が必要です。各社の状況にもよりますが、必要なステップを下記にまとめます。

  1. 顧客データの取得ポイントの棚卸し
  2. データの紐づけ
  3. カスタマージャーニーの設計
  4. 顧客ニーズの可視化
  5. それに基づくマーケティング施策の検討

おそらく多くの企業が立ち止まるのは、1と2のステップです。3と4についてはマーケティングの専門家の支援を受けつつ進められるところですが、1と2がうまくいかないと、たとえ専門家の知見を取り入れても、方向性にズレが生じてしまうことがしばしば起こります。逆にそこさえ順調に進めば、5以降は従来のマーケティングでも行われてきたPDCAを回し、より精度の高い施策に向けて改善していけるでしょう。
1と2を成功させるためのヒントとして、ここからはtoCとtoBに分けてデータの扱いかた、及び棚卸しの考えかたを解説していきます。

【toC】「売る」だけがゴールではない。データで信頼関係を築こう

まずtoCのビジネスモデルにおける顧客データの扱いについて考えていきましょう。toCにおける顧客データの棚卸しで考えたいのは、オンライン・オフライン双方を網羅する顧客接点の見直しです。

自社サイト(PC、スマホ、タブレットなど複数デバイスからのアクセス)、アプリ、店舗、コールセンター、SNS、DM発送......。toCのビジネスではユーザーとの顧客接点が非常に広範であるゆえ、多くの企業がその統合・データ管理に苦戦しています。データの棚卸しと言っても部分的なものになってしまうことが多く、顧客体験を完全に描き切ることは容易ではありません。

「売る」ことを目標とするならば、従来のマーケティングであったように、部分的なデータをもとに効率的な戦略を立てることもできます。しかし、本質的なユーザーニーズに応えるためには、商品購入前の体験価値の向上や、購入後のフォローなども重要です。そして、それを実現するためには全ての顧客接点におけるデータを集約し、一連の顧客体験を可視化しなければなりません。

これを実現するための機能を備えているのが、近年注目されるCDP(Customer Data Platform)です。CDPは顧客データを収集、統合、分析できるプラットフォームで、IDに紐づけて個々の顧客ごとにデータをまとめることができます。

CDPは、自社で取得したデータを顧客起点で活用していくには必要不可欠とも言えるツールです。また、3以降のステップで必要になるデータ分析の機能も備えているため、的確なカスタマージャーニーの設計やニーズの可視化もできます。

顧客データ活用の第一歩を踏み出せずにいる企業の担当者は、その課題を一度「CDP導入の準備」と捉えなおすと、スムーズな道筋が見えてくるかもしれません。自社データの棚卸しとCDPの利活用を重ねてみると、「企業全体でどのようなデータを取得し得るのか」というテーマにたどり着くはずです。

CDPについては過去の記事で解説していますので、こちらをご覧ください。

【toB】アカウントを細かに分析し、的確なメッセージングを

一方、toBにおいて重視されるのは、対企業を前提とした戦略的アプローチです。toBの場合、データを取得したユーザーと決済者・プロジェクトリーダーが異なることもあり、「人」を起点とするデータから立案したアプローチでは成約効果が薄れてしまうことが少なくありません。

こうした課題を解決するために覚えておきたいのが、ABM(Account Based Marketing)と呼ばれるマーケティング手法です。ABMとは具体的な団体・企業(=アカウント)をターゲットとして捉え、人ではなくアカウントに対する戦略を立てる考えかたを指します。

ABMを起点として先に挙げたステップ1と2を見直すと、アカウントごとにデータを紐づけることになります。すると、一人のユーザーではなく企業単位のニーズを把握することができ、優良顧客の選別やそれに基づいた戦略立案が可能になります。

このアカウントベースのデータ収集や分析を可能にするのが、ABMプラットフォームです。ABMプラットフォームは国内外の企業データベースを有しており、そのデータベースと自社の取得データを掛け合わせることで、各企業がどの程度自社サービスに対して興味を抱いているか可視化することができます。ABMプラットフォームを導入することで、潜在顧客へのアプローチが容易になるだけでなく、マーケティングと営業のシームレスな連携が実現します。

顧客データ活用のポイントは基盤と準備、そして連携

toC、toBそれぞれのデータ準備段階で押さえておきたい考えかたを解説しつつ、そこに抱き合わせでCDPやABMプラットフォームを紹介したのには、理由があります。

デジタルマーケティングの見直しに乗り出した企業がツールの導入を急ぎ、そのツールを「なぜ」利用するか曖昧なままプロジェクトを進めてしまうケースをよく見かけます。CDPやABMプラットフォームに限らず、DMPやCRM、MAとさまざまなマーケティング概念が乱立する中で、選択肢を見誤ってしまうことが多いのです。

誤った手段を選び、そこに紐づけてデータを棚卸ししようとすると、そのあとのカスタマージャーニーの設計やニーズの把握で失敗します。多くの場合、ステップ1と2を進めるためにツールが必要になり、マーケティング担当者はツール導入を迫られるのですが、この準備段階での決断がいかにその後の戦略に関わるかということが、本記事で伝えたいポイントのひとつです。

まずはデータ管理のためのプラットフォームを適切に選ぶことが、顧客データ活用の礎となります。明確な意図に基づき、正しい選択ができれば、そこに紐づけたデータ取得ポイントの棚卸しをスムーズに進めることができるでしょう。

また、データの取得ポイントの棚卸しをする過程で、マーケティング部門だけでは完結しないこともあるはずです。プラットフォームを基軸に、データ取得に関わる各部門との連携を強めていくことが必要です。組織やデータ管理の在りかたそのものを見直す機会と捉えつつ、顧客起点の施策づくりに挑む姿勢を示すことが、顧客データ活用を成功させるために大切なことかもしれません。

顧客データを主語として、デジタルマーケティングのルールを考え直そう

今回テーマとした顧客データの活用は、すなわち従来のマーケティング手法を見直し、企業活動そのものを改善していくことでもあります。

そして、あらゆるデータは「売上アップのために活用すべきもの」というよりも、「顧客との適切な関係性を築くための素材」と捉えたほうが、本質的なマーケティングにつながるはずです。

おいしい料理を誰かに提供するためには、素材の調達と適した調理が必要です。それと同じように、顧客視点のマーケティングを実現するためには、データという素材の準備に時間をかけ、それぞれを最適な形で分析するプロセスが必要です。

そのはじめの一歩となる自社データの棚卸しは、アウトソーシングが難しい工程ではありますが、ツールの導入支援を基軸にコンサルティングを行っているマーケティング専門企業もあります。もしも社内で取り組みを進めていくことに困難を感じた場合は、CDPやABMプラットフォームの導入といった切り口からプロの手を借りてみるのもひとつの手段です。

今回の記事をヒントとしつつ、眠れる宝である顧客データを最大限活かしたマーケティング手法を検討してみてください。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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