2022.09.01

#4 社内に動画配信環境を整え、マーケティングに活用したNECの事例|効果を生む動画マーケティング戦略と、その手法

この連載では、ビジネス向け動画配信プラットフォームのグローバルリーダーであるブライトコーブの Product Marketing Director 森貴浩氏が、動画をマーケティングに活用するための実践的なノウハウをお伝えします。


コロナ禍以降のBtoBマーケティング施策として、リアルイベントからウェビナー開催などへのシフトは大きな潮流となりました。その一方で、「コンテンツを用意するのが大変だ」という声も少からず上がっています。

コンテンツ制作には、動画制作会社に委託する方法や、AIサービスを活用する方法、自社でスタジオや機材やスタッフを揃えて内製化する方法など、多くの選択肢がありますが、その中から自社に合う手法を見出していくことは重要です。

今回は、自社でスタジオを持ち、積極的にウェビナーやオンラインイベントを開催している日本電気株式会社(以下、NEC)の取り組みを紹介します。

常にウェビナー配信が可能な環境を整備し、恒常的なKPI達成をねらう

新型コロナウイルスの感染拡大でリアルイベントの中止が相次ぐ中、NECも2020年7月に初めてオンラインイベント「NEC iEXPO Degital 2020」を実施しました。Zoomを使用したウェビナー形式かつライブ配信のみでの実施でしたが、それ以前に開催していたリアルイベントと比較して10倍以上となる、のべ3万人の参加を記録。リアルイベント開催時の3倍もの新規リードを呼び込むことにも成功しました。オンラインで開催により場所の制限がなくなったことで、全国各地から新規顧客を集めることができたのです。

翌2021年にオンライン開催した「NEC Visionary Week2021」では、目標申込者数2万人に対して2万6,000人が参加。重点企業視聴者数も850社、約6,000人の参加と、高水準の成果があがりました。

オンラインイベントが恒常的にKPIを達成していくうちに、社内から次第に「単発的な大きいイベントだけでなく、顧客をクロージングできるような定常的なウェビナーやオンラインセミナーをやっていく仕組みが必要だ」という意見が出てくるようになりました。一定の成果をふまえ、本格的にオンラインイベントへのシフトを加速させていくこととなったのです。

この方針を受けて、NECではいち早く定常的に配信ができるよう、オフィス会議室を改装。2020年10月には、常時ウェビナー配信が可能な環境を整備しました。当初は、会議室の壁面をバックパネルに変えて、バーを取り付けて照明を吊るし、会議室にあった机を活用して設置するなど、突貫工事でつくった簡易的なスタジオでした。

2020年10月に整備された最初のスタジオ。

自社で動画撮影や配信のための設備を用意するにあたって、「映像についての知見がないため、どのような機材を揃えれば良いのかわからない」ことは、多くの企業でネックとなっています。しかし、NECでは知見のある技術者から機材や設備に関するアドバイスを得て、5人までのセッションが可能な機材を配備しました。

その際の選定のポイントとなったのは、社内で共有した「オンラインイベントに求める期待値」でした。

自社製品として放送機材などを扱っていることもあり、映像のクオリティーは高めに設定しているそうですが、プロジェクトの目的は「きれいな動画を作ること」ではなく「動画を配信してビジネスに貢献すること」。特に、マーケティングの一環としてウェビナーやオンラインイベントを開催するためであれば、機材の品質にこだわりすぎる必要はない、という意識を共有したそうです。

その後2022年4月には、新しい社内スタジオを2つ開設しました。ウェビナーだけでなく、オンラインでの商談プレゼンなどにも活用できるスタジオです。

2022年4月に新たに整備されたスタジオ。

今ではスペースや機材といったハード面を整えるだけでなく、収録前の事前ヒヤリングシートや台本の雛形などを含めた「ウェビナー運営ツール」などのソフト面も充実させているそうです。ウェビナースタジオ配信メニューや感染症対策を明記した「スタジオ利用ガイド」など、ウェビナーに関するガイドラインや必要なツールも揃え、効率的な運用を図っています。

さらに、Zoomで実施していた定常的なウェビナーのプラットフォームを、SaaS型イベント管理システム「Cvent」に集約。配信環境を全面的に整えたことで、「スタジオ=デジタルマーケティングを加速させるための場所」とする認識が社内に広がっているといいます。

"見た目"ではなく"中身"を重視した動画作り

動画マーケティングを内製化するにあたり、運用方法に悩んでいる企業は少なくないでしょう。NECでは、機材に詳しいメンバーで構成された内製チームと、オンライン配信に知見のある協力会社のチームが動画配信に携わっています。

内容面では、オンラインセミナーでもウェビナーでも、動画編集は極力していないそうです。ただし、これは動画の質にこだわらないという意味ではありません。時間がかかる編集作業の手間を避ける代わりに、台本をきちんと作り込むことによって動画内容の品質を担保している、ということです。

「動画マーケティングは、ブランディングを目指すのではなく、リードの育成など事業への直接的な貢献のために行うべき」とするNECの考え方は、動画コンテンツをマーケティングに活用したいと考える多くの企業にとって参考となる指針でしょう。

自社スタジオを持つことで、社内外へ配信するコンテンツの幅が広がる

ウェビナー配信のために、自社でスタジオを持つ企業はまだまだ少数でしょう。しかし、専用の配信環境を整備することで、さまざまな活用法に対応することが可能になります。そのひとつが、社内向けのコンテンツです。

実際にNECでは、DXに関する事業を手がけるチームが、事業を社内に浸透させる方法として社内向け情報番組「DXアカデミア」を企画・配信するなど、新しい活用方法も生まれています。

この「DXアカデミア」は、「DXのことがわかっていない営業」と「司会」の2人が掛け合いでトークする形式の番組で、昼休みの15分間を利用して、隔週で生放送しています。専門家や事業部の関係者を招き、DXに対する理解を深める内容で、社内の評判も高いということです。

また、もともと月に1回経営幹部と社員の対話のためのタウンホールミーティングを開催していましたが、それもオンライン化。

スタジオがない時代には広いスペースに人を集め、機材を借りて準備をする必要がありましたが、スタジオを設置してからはその必要がなくなり、効率化やコンテンツのクオリティ向上に注力できるようになったといいます。

ここまで、NECの事例を紹介しました。新型コロナウイルスの感染拡大から2年以上が経過し、オンラインから再びリアルに目を向ける企業も増えてきています。今後はオンラインならではの価値、オフラインならではの価値をそれぞれ明確にし、効果を最大限に発揮することが求められるでしょう。

いずれにせよ、動画コンテンツをマーケティングに活用するためには、動画作りの見栄えばかりにこだわることなく、本当の意味で質の高い動画コンテンツを量産できる体制を整えることが重要です。社内のニーズやリソースを把握しながら、ハードとソフトの両面から環境を整え、動画コンテンツを作成、活用していきましょう。


総合出版社は、近年、動画の制作にも積極的に取り組んできました。雑誌の企画編集力を動画にも活かし、ターゲット層の話題を呼び、強く訴求するプロモーション動画を制作します。SNSなどでバズを呼び、拡散させる展開も得意としています。詳しくはこちらをご覧ください。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 Product Marketing Director Japan
森 貴浩(もり たかひろ) 

株式会社USENでGYAO事業本部のショッピングチャンネル立ち上げと新規顧客開拓に従事し、当時日本初のWEB動画による広告媒体の営業を実施。その後、凸版印刷株式会社へ入社。営業としてイベントプロモーションをはじめとするアカウント先のプロモーション業務全般を担当し、動画制作業務も複数実施。
2019年にブライトコーブ株式会社に入社し、Account Managerとしてエンタープライズ領域の伸長をリード。2021年には新設されたChannelセールスチームのDirectorに就任、日本における販売代理店プログラムの立ち上げを行う。動画配信サービスのチャンネル立ち上げやイベントプロモーション、ブライトコーブでの様々なビジネスにおける動画活用のユースケースを作成してきた経験から、事業会社における動画活用全般に関して精通する。

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