2022.02.25
#5 デジタルマーケティングの未来 ― これからのインハウスマーケターと強いチームに必要な人材像|マーケティングを成功させる チームビルディングの強化書|マーケティング超入門
本連載では、インハウスマーケターが外部マーケティング企業や個人事業主とのパートナーシップをどのように築くべきか、チームビルディングの視座から紐解いてきました。最終回となる今回のテーマは、今後マーケターが求められていく領域の変化と、それにチームで向き合っていく必要性です。デジタルマーケティング領域の現状を振り返り、時代の変化に即した強くしなやかなマーケティングチームを作るヒントを解説します。
マーケターに集中する諸業務―デジタルマーケティングのこれから
SNSの興隆やデジタルコンテンツプラットフォームの普及、そしてコロナ禍の生活変容などに伴い、ここ数年、デジタルマーケティングの重要性はいっそう高まってきました。
デジタルマーケティング領域の成熟は、データ活用手段の発展に支えられてきました。デジタルマーケティングによって得られたデータは、いまやセールスやユーザーサポートなどの領域にも多大な影響をもたらしています。あらゆる顧客接点から得たデータを統合するCDP(カスタマーデータプラットフォーム)が急速に浸透し、データ活用の裾野は拡大しています。
この流れと並走するように、個人情報保護の観点からサードパーティーデータの規制が進んでいます。ファーストパーティーデータに軸足を置いたマーケティング施策への移行や、Webサイトやアプリにおけるデータ取得の許諾対策などは、マーケターにとって急務の一つとなっているでしょう。
こうした諸々の要因が重なり、今後のマーケターはより俯瞰した戦略構築を求められるとともに、多忙な日々を迫られることが容易に想像できます。特にインハウスマーケターは、社内の部署を越境し、データマネジメント改革のリーダーシップを取ることになるかもしれません。
こうした新たなニーズに加え、従来のマーケティング施策のPDCAも回し続けなければならないことを考えると、チームビルディングの必要性がさらに高まってくることが予想できます。
社内外メンバーでマーケティングチームを組むメリット
将来性の観点から、改めてマーケティングにおけるチームビルディングのメリットを見直してみましょう。
先に述べたように、今後のインハウスマーケターには、これまで以上に多角的な視野と横断的な戦略が求められます。その分、各施策に対する専門知識や知見といった部分のフォローは、マーケティングに特化した専門企業や個人事業主に任せるほうが効率的な運用が実現するはずです。
それぞれの専門分野に特化した外部パートナーと、一元管理したデータを束ね俯瞰した視点から戦略構築に励むことが、今後のインハウスマーケターに求められる主要な役割になるでしょう。
外部パートナーと連携することは、属人化しないデータ管理やシステム構築の足がかりにもなります。外部パートナーに対して社内の状況やデータを伝えることで、暗黙の了解で握られがちなスケジュールや意思決定などのリスク要因を減らすこともできます。
信頼できる外部パートナーを見つけるまでには試行錯誤が伴いますが、強力なマーケティングチームは持続的かつ多大な効果をもたらします。特に今後マーケターが求められる仕事の量や領域の広さを考えれば、社外の知見を利用しない手はないでしょう。
強くしなやかなマーケティングチームに必要な人材像
では、抜本的な改革に向き合っていくためには、チームにどのような人材が必要なのでしょうか。それぞれ条件に分けて解説します。
人材1: トレンドに敏感かつイノベーティブ思考をもつ外部マーケター
まず、業界を横断してデジタルマーケティングの先端を見据えるイノベーターを外部パートナーとして迎え入れましょう。データ活用の手段や、効果的なメッセージ訴求の最適解は、技術進化やトレンドの変化と共に目まぐるしくアップデートされています。企業の課題とそれらを結びつけ、固定概念にとらわれず、既存のルールやシステムを刷新できる人材は今後のマーケティングチームに必要不可欠です。
人材2:法的観点からのリスクヘッジに強い外部マーケティング・コンサルタント
先ほど個人情報保護について触れましたが、そのほかにもデジタルマーケティングに関わるリスクは多くあります。たとえば、マーケティング施策でも取り入れられるNFTやメタバースといった領域の法整備は、現状十分ではありません。万が一施策によってなんらかのトラブルが生じた場合、法的に解決することが難しい可能性もあります。また、包括的データ管理の裏側にあるデータの漏洩リスクについても、問題視する声が上がっています。
こういったリスク管理について、法的観点からアドバイスできるコンサルタントはキーパーソンとなるはずです。IT企業に特化し、マーケティング施策に寄り添った対応が可能な顧問弁護士の起用も一つの手段です。リーガルに強い人材をマーケティングチームに迎え入れることで、最低限のリスクヘッジをしつつ飛躍的な施策に挑戦することができるでしょう。
人材3:オペレーションの最適化に強い外部マーケター
最後に、あらゆる業務を効率化する外部マーケターの重要性についても解説します。生産性向上や業務自動化といった言葉は、マーケターに関わらずビジネスパーソンの多くが十分聞いてきたと思いますが、ある程度リソースに余裕がないと、これらの業務は後回しになりがちです。
また、ほとんどのマーケティングツールには、こうしたオペレーションの最適化を促す機能が備わっているのですが、その機能や仕様を最大限に活かせている企業はそう多くありません。自社に適したツール活用を模索する際も、さまざまな形のオペレーションやツール活用の事例を知る外部マーケターの視点は役立ちます。
インハウスマーケターが担うべき3つの仕事
強くしなやかなチームを担う人材を起用することは大事ですが、そのチームを柱として支えるのは、インハウスマーケターです。外部マーケターの専門性や機動力を活かし、インハウスマーケターはどのような視座で今後のマーケティング業務に取り組んでいくべきなのでしょうか。そのポイントを解説します。
部署を横断し、ファクトベースのコミュニケーションを浸透させる
まず、顧客データを介して結びつくセールスやユーザーサポート、経営企画といった社内チームと円滑なコミュニケーションを取り、架け橋となっていくのがインハウスマーケターの役割です。
もとよりマーケティングは社内全体と有機的に結びつく仕事ではありますが、デジタルマーケティングにおけるデータ活用の視点が加わることで、今後はより強固な社内の関係性が必要になるでしょう。
その際に重要なのが、「マーケターが率先してファクトベースのコミュニケーションを取っていく」ことです。忖度や主観に基づいた意見を排し、真摯な議論をリードする立場を意識して行動しましょう。部署を横断して自社データを活用していくことが企業の生存戦略として必要だと伝えることができれば、マーケティングを起点にした社内改革が進むはずです。
データで売るのではなくデータで貢献する「サステナブルなマーケティング」
次にインハウスマーケターが意識したいのは、「自社データを何のために使うか」という根本的な課題です。
マーケティングは従来顧客へ価値を届けるための取り組み全般を指す概念であり、最終的な目的は「価値提供(=売る)」にあると考えられます。しかし、近年は顧客ニーズよりもさらに俯瞰した視座において、社会全体の課題解決に対応することもマーケティングの役割になりつつあります。
SDGsに象徴される、持続可能な社会を作るための営みは、すべての企業が事業と併せて取り組むべきものです。もちろんマーケティング面でもこの取り組みを支え、加速していかなければなりません。
今後インハウスマーケターは、取得データをもとに販売促進施策を考えるだけでなく、取得データで社会貢献する方法を検討する役割も担うことになるはずです。「サステナブルなマーケティング」を意識しつつ、データ活用の方向性を広く模索していくと良いでしょう。
マーケティングチームの持続性をコミュニケーションで高める
マーケティングチームの持続性を高めることは、インハウスマーケターの極めて大切な仕事です。長期的なパートナーシップを組めれば、マーケティングチームのメンバーは企業課題をより深く理解する時間を得ると共に、最適解のスコープを絞りやすくなります。
日ごろから透明性の高いコミュニケーションを意識することや、チーム全体の方向性がぶれないよう適切なゴールを定めること、社内外のメンバーの温度感にギャップが生じないようカルチャー面でのフォローを入れることなど、あらゆる観点からこまめなフォローをすることで、マーケティングチームの持続性を高めましょう。
強くしなやかなチームと共にサステナブルなマーケティングを目指そう
社内の各部署、社外の専門的マーケター、そして社会。それぞれレイヤーの異なるステークホルダーとの多様な交点の中で、インハウスマーケターは橋渡し的存在として活躍していくでしょう。
時代の変化に応じて柔軟に変化できるしなやかさと、確実な成果をもたらす知識と手段を掛け合わせられる強さ。この双方を持ち合わせたマーケティングチームを構築し、信頼関係を築くことで、インハウスマーケターの立場から時代をリードしていくことができるはずです。
筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。