2022.02.21

パーパス、その概要と効果|顧客との約束からはじまる利益の最大化[第1回]

今回から、コミュニケーション領域すべての統合プロデュースを行う株式会社イグナイトの代表取締役で、Advertising Week Asiaのエグゼクティブプロデューサーとしてもご活躍中の笠松良彦さんの連載が始まります。
企業理念と一致したマーケティングがより重視される時代に欠かせない「パーパス」や「顧客体験」について、じっくりと解説していきます。

語り:笠松良彦 構成:C-station

機能的な価値だけでは差別化が難しい「現代」

世界的なレベルで商品サービスの成熟化・コモディティ化(同質化)が進み、機能的な価値だけでは差別化が難しい時代になりました。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、顧客である生活者が、企業姿勢を重視する傾向も強まっています。

こうしたことから、すべての企業・ブランドにおいて企業理念と一致した全方位でのマーケティング活動が強く求められるようになっています。

これに伴い、最近はよく「パーパス」という言葉を聞くようになりました。みなさんもセミナーなどで「企業やブランドのパーパスが大事」とお聞きになったことがあるのではないでしょうか。

初回はこのパーパスがなぜ大事なのか。そして、よいパーパスとはどういうものかなどについて、詳しく解説します。


パーパスが大事な理由

「パーパス」は直訳すると「目的」です。企業やブランドが存在する「理由」や「使命」と表現するほうが理解しやすいと思います。そこで本連載ではパーパスを、企業・ブランドの「存在理由・目的」と定義して進めていきます。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、生活者は企業がウイルス感染を防ぐためにどのような対策を講じているかなど、いままで以上に企業やブランドが社会に対して責任ある行動をしているかどうかを注目するようになりました。

これは、顧客である生活者にとって、商品やサービスを選択する理由にも変化をもたらしました。コロナ以前は、商品やサービスの機能的な付加価値や価格が"重要な選択基準"とされることがほとんどでした。ところがいまは、企業・ブランドの存在理由・目的も商品選択の重要な指標になっています。

もちろん革新的な機能価値がある商品であれば選ばれることは間違いありません。けれど世界中で商品・サービスのコモディティ化が進んでいるいま、明確な機能的価値の差は生まれにくくなっているのが実状です。

パーパスとミッション・ビジョンの違い

パーパスは、これまでいわれていた「ミッション」や「ビジョン」とは、何が違うのでしょうか。いろいろな考え方がありますが、私なりに整理するとこうなります。

●ミッション:使命・天命・存在理由
●ビジョン:成し遂げたい未来像(短期的・期限がある方がわかりやすい)
●コアバリュー:ビジョンを成し遂げるために自分が持っている付加価値・武器

わかりやすい事例として、日本童話の「桃太郎」で考えてみたいと思います。

桃太郎といえば鬼退治が有名ですよね。
では、彼にとっての鬼退治はミッションでしょうか? それとも、ビジョンでしょうか?

「ミッション」というと映画のイメージもあり、短期的な特殊任務だと思う方もいらっしゃると思いますが、本連載ではミッションを使命や存在意義と定義しますので、鬼退治はミッションではありません。なぜなら、桃太郎は鬼退治をするために生まれたわけではないからです。

ならば、桃太郎のミッションとビジョン、コアバリューは何でしょうか。答えはこちらです。

桃太郎の場合

・ミッション(使命・天命・存在理由):村人が平和に暮らすこと
・ビジョン(成し遂げたい未来像):鬼退治
・コアバリュー(武器):剣と勇気と家来たち

桃太郎にとって、鬼退治は「成し遂げたい未来」であり、ミッションは「村人が平和に暮らすこと」と整理できます。ですから、たとえばもし天災やほかの災いが起きた場合には、「鬼退治」ではない別のビジョンが生まれるということです。

この整理はあくまで一例ですが、ここでお伝えしたいのはこの2点です。
・ミッションの本質は永遠に変わらない(言葉の変更はOK)
・ビジョンは成し遂げた後には変更できる
 (あるいは、ミッションを果たすために途中で変更できる)

こう考えてみると、パーパスは従来のミッションとビジョンが合わさったものだと捉えることができます。そして、ビジョンがより具体的でわかりやすい表現であることが重要なように、パーパスもより具体的であればあるほど、社員や顧客にとってわかりやすいものになります。

よいパーパスの共通点

では、よいパーパスとはどんなものなのでしょうか。
先ほど、「具体的でわかりやすい」ことが重要と申し上げました。これは、簡単に言うとわかりやすい日本語で書かれている、ということです。

ミッションやビジョンに英語やカタカナを使うケースを多々みかけます。英語やカタカナ言葉は一見かっこいいのですが、日本人全体の平均としては、「英語が苦手」な人が多いので、何となくわかったような、わからないような状態になってしまいます。

これでは、どこかで聞いたことがあるようなきれいごとが並んでいるだけの言葉の羅列に終わってしまい、誰の心にも刺さらないものになってしまいます。

まずは自社の社員に向けたメッセージとしてわかりやすい日本語でパーパスを整理する。そうすることで、社員一人ひとりがそのメッセージに共感できるようになります。

結局、パーパスは、何のために存在するのか(ミッション)、そのためにどうありたいのか(ビジョン)という想いを明確にして社内に浸透させるメッセージなのです。そのため、ただきれいな言葉を並べることに意味があるのではなく、社員に確実に浸透し、その想いを自分に対しても顧客に対しても発信していけるものであることがもっとも重要です。

こうした視点でみると、講談社の「おもしろくて、ためになる」というパーパスはとにかくわかりやすく、非常によいパーパスだと言えます。

伝えたいメッセージがシンプルに伝わり、言葉に共感もできるので、パーパスを社員自らが共有して実践しやすいのではないでしょうか。

講談社のブランドストーリー動画 「おもしろくて、ためになる」を世界へ Inspire Impossible Stories

よいパーパスの3条件

1) シンプルでわかりやすい日本語
2) パッション(情熱)が伝わる
3) 語りたくなるストーリーがある

ビジネスは理念と利益のバランスが重要

ここで真逆のことを言うようですが、ビジネスである以上、利益の継続性も考えなくてはいけません。企業・ブランドが社会への存在理由と目的をしっかりと定義することと、利益を追求することは表裏一体です。両方がバランスよく機能してこそ、ビジネスとして継続できるという点は忘れないようにしたいものです。

P&Gの元グローバル・マーケティング責任者としても有名なジム・ステンゲル氏は、著書『本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』のなかで、すばらしいブランド理念を掲げて実践している企業は、その他の企業と比べると平均4倍もの投資利益率の伸びを示していると記しています。

ブランド理念でとくに優れていると判断した50のブランドの10年間の投資利益率(ROI)の伸び率と、
アメリカを代表する株価指数「S&P500」の構成企業の平均との比較

このデータから、すばらしいブランド理念(パーパス)があれば、利益は後からついてくることが見て取れます。つまり、「先利後義(利益が先で道義・仁義は後)」ではなく、「先義後利(先に道義・仁義があって、利益は後からついてくる)」が重要であることがわかります。

次回は、パーパスとともに重要なキーワードになっている、顧客への接点(顧客体験)をテーマに、解説していきます。

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