2021.11.12

ゼロからイチを作る、動画を活用したリード獲得施策の立ち上げ|ビジネス×動画 イベントレポート Vol.1

2021年9月28日〜29日に「ビジネス×動画」をテーマにした国内最大規模のオンラインイベント「VHS VIDEO HELPS SOCIETY」が開催されました。「動画制作・動画広告・動画テクノロジー」の3つをテーマに、動画がビジネスにどう寄与するのかを考えることを目的としたイベントです。
このイベントの中から、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の動画を活用したマーケティング施策の立ち上げについて、株式会社SmartHRの磯翔太氏とブライトコーブ株式会社の市川恵理氏の対談をお送りします。


磯 翔太氏

株式会社SmartHR マーケティンググループ リードジェネレーション デジタルマーケティングユニット
2019年にSmartHRに入社し、イベントマーケティング担当として展示会・カンファレンス・セミナー等でのリードジェネレーションを推進。コロナ禍でのイベントやウェビナー体制を主導した後、2021年よりデジタルマーケティングユニットに異動。現在は、WebやSNS・各種メディアを活用した施策を中心に活動し、ホワイトペーパーや動画などのコンテンツ制作も推進。

市川 恵理氏

ブライトコーブ株式会社 シニアアカウントエグゼクティブ
国内の動画配信事業社にて、約6年半企業での動画活用の啓発から、コンテンツの企画 制作配信分析をトータルでサポート。2016年10月より、Brightcoveにて自社サービスで あるVideoCloudを活用したオウンドメディアの動画マーケティング推進に専念。

目的別にユニットを分けたマーケティング組織で施策を実施

市川 まずは、SmartHRのマーケティング組織全体について教えていただけますか。

 SmartHRには2021年9月現在で478名の従業員が在籍しており、そのうち42名がマーケティングを担当しています。SmartHRのマーケティンググループの特徴のひとつが、マーケティング組織の中で目的別にユニットが分けられていることです。認知獲得、リード獲得、ナーチャリング、商談、受注、カスタマーサクセスという流れの中で、マーケティングの組織・施策がそれぞれ関わっています。
今回のトピックである「動画」を活用しているユニットは主に、ブランドマーケティングユニットとリードジェネレーション・ナーチャリングのユニットです。

(1)ブランドマーケティング
ブランドの認知や、SmartHRブランドを好きになってもらうことを目的に活動。テレビCMを中心としたマスプロモーションやブランドムービー、ブランディングイベントを担当。

(2)リードジェネレーション・ナーチャリング
新規リード創出、保有リードのナーチャリング、商談化促進を目的にプロモーション施策を実施。イベントはウェビナーや展示会、カンファレンスを行う。デジタルではWebやSNS広告、各種媒体への出稿などがメインの施策。ナーチャリングについては、ハウスリストへのメルマガを中心に、イベント・デジタルそれぞれの施策のオペレーションに関わる。

このなかで私は、リードジェネレーションのデジタルマーケティングユニットに所属しています。

市川 では今回のテーマであるSmartHR社の動画活用の歴史に関して教えていただけますか。

磯 今回は、あくまでも「リード獲得のための動画活用」についてお話をします。少し遡って2019年、実はこの時点では、動画活用をほとんどしていませんでした。サービスの概要や機能を紹介するための動画が1つあっただけです。この動画をYouTubeとサービスサイトに掲載したり、見込み顧客へ参考資料として送付していました。
それ以外では、展示会などのオフラインイベントで、来場者に対してサービスを説明するときに動画を利用することくらいだったと思います。テレビCMに合わせて同じ内容のYouTube広告を展開していましたが、リード獲得という観点では、動画活用施策はほとんどしていなかったと思います。

市川 意外ですね。

 現在では多くの企業が実施しているウェビナーについても、2019年は実施しておりませんでした。自社単独で実施した「オフライン」のセミナーも、2019年の1年間で3回しか実施していません。そのころは、展示会やWeb広告などの施策で十分にリード獲得ができていました。そのため、動画を使ってリード獲得するという発想すらなかったように思います。

市川 2019年の時点では、テレビCMやYouTube広告、サイトや展示会来訪者への機能説明だけに動画を展開していたんですね。テレビCMのイメージも強いだけに、昔から動画を活用していたと思っている人も多いかもしれません。

コロナ禍で一転、情報収集から2カ月でウェビナーを開催

 そして2020年、SmartHRにとっても新型コロナウイルスの感染拡大による影響はかなり大きなものでした。予定していたオフラインイベントはすべて中止や延期になりました。
そんな中で、『コロナ禍だからこそSmartHRを広めていく必要がある』と全社が一丸となりました。マーケティングにおいても、アプローチの手段を状況に応じて素早く変化させないといけないと考え、ウェビナーに関する情報収集を始めました。

当時、他のグループが既にzoomでのウェビナーを実施していたこともあり、まずは社内でヒアリングを行いました。また、ウェビナーを早くから実施している同業他社に話を聞いたり、撮影スタジオを構えている企業を見学するなど、地道に情報を集めてから、自社で運用が可能か検証を行っていきました。
他にも、他社が主催しているオンラインイベントに出展したり、視聴者として他社のウェビナーに参加したりもしました。講演する側と視聴する側ではそれぞれ気がつくことも異なるので、そこで得た知見を自社ではどのように展開していくか考えながら準備を進めました。最終的には実際にやってみないとわからないと考えて、失敗から学んでいくつもりで2020年の4月頃にウェビナーを開始しました。

情報収集を開始してから1回目のウェビナー開催までにかかった時間は約2ヶ月。その期間に大切にしていたのは、気づきやノウハウのアウトプットです。情報共有ツールにノウハウをまとめて社内展開したり、気づいたことはすぐにチームメンバーに共有することを意識しました。
ウェビナーの立ち上げまでの準備段階では、下記のフローを実施しました。

  1. 情報収集・ツール選定・環境整備
  2. ツール学習・他社ウェビナーに参加しての情報のアウトプット
  3. 社内オペレーションの構築
  4. ウェビナーの運営方法構築

準備がある程度整ったあとは下の流れを繰り返し、PDCAを回しました。

  • 企画/制作/リハーサル
  • 集客
  • 当日運営
  • ノウハウのアウトプット
  • 改善/拡張

市川 このサイクルを立ち上げられるまでの中で、大変だったことはどういったことですか。

 今までウェビナーをやったことがなかったので、暗中模索していくのは大変でした。さらに3月からはテレワークとなり、情報交換もしづらくて精神的な支えが必要でしたが、一緒に取り組んでいるチームメンバーには助けられました。とにかく色々試しながら早くアウトプットして、チームの共有知にしていくことが大事だと思います。

また、徐々にウェビナーの回数が増えてくるとリソースの負荷が大きくなります。これを解消するために、同じ内容のセミナーを何回も開催したり、1回の集客をできるだけ増やすなどの対策を取るようにしました。目標のリード数を達成するためには、施策数と集客数をさらに増やす必要がありましたが、ウェビナー形式だと準備や運営にどうしても負荷がかかる状況でした。

そこで、工数削減の1つの策として、ウェビナーの「録画」を利用したアーカイブ施策を実施することを決めました。
実施した背景としては、他にもウェビナー欠席者からの「後から見たい」という声や、参加者からの「後日社内展開したい」という声があったこと、メルマガなど施策で使えるコンテンツを拡充したいという思いなどもありました。録画はホワイトペーパーと同じように、良いコンテンツであれば何回も活用することが出来る点がポイントで、見せ方や届け方を変えるだけでコンテンツのリサイクルができます。

アーカイブ配信からもリードを獲得

市川 アーカイブ配信はライブと比較して視聴者が伸び悩むこともありますが、工夫されている点はありますか?

磯 視聴数を増やすために、見せ方や届け方を変える取り組みを行いましたが、そのために実施したことの1つが「SmartHRセミナー ベストセレクション」です。過去の録画を一挙再放送という形式で、異なるテーマの動画を複数同時展開する企画です。
企業や担当者によって見たいコンテンツや課題は異なるので、それがバラバラになっている状態から探すのは大変です。また、都合の良いときに自分のペースで見たい方もいます。録画コンテンツを1つにまとめて訴求するのが効果的ではないかと思い、このようなアーカイブ施策を実施したところ、想定以上にリードの獲得数がはねて、ここからの商談も数多く生まれました。
またここでできる集客の工夫として、コンテンツに他社との共催セミナーがあれば、その企業に集客協力をお願いするという手法があるかと思います。

市川 いつでもどこでも見られる状態であるアーカイブ配信は、逆になかなか見てもらえないというケースもありますが、工夫されている点はありますか。

 そうですね。視聴期限を設けた上で、リマインドメールを送るなどして忘れられないような工夫はしています。コンテンツにも人気のあるものとそれほどでもないものがあると思うので、人気のコンテンツを強調するなども有効かもしれません。

課題を明確にしながら動画施策を続ける

 2021年には、さらにリード数を増やすことを目的に大きく3つの取り組みを実施しています。
一つ目は、先程の録画をまとめるセレクション施策を半年に1回継続して行うことです。この企画はインハウス向けの施策として反応が良く、ナーチャリング施策として有効であると実感しています。

二つ目は「自社主催の大型オンラインカンファレンス」です。2021年6月に開催したカンファレンスイベントは、3日間の配信と事後1カ月程度のアーカイブ施策を展開しました。
オンラインイベントでは事前撮影が出来るため、登壇者のスケジュール調整がしやすく、良いセッションを作りやすい点がメリットです。このイベントでは、著名な方々を登壇者としてアサインすることができたことと、集客にもかなり力を入れたことで、新規リードの獲得で成果を出すことができました。

三つ目は「録画の2次利用を増やす」です。今年は自社ウェビナーの録画だけでなく、協賛型のオンラインイベントでも、録画の二次利用が出来るように主催側に交渉しています。
協賛イベントは登壇者が豪華なうえ、映像としてのクオリティも高いため、二次利用費を支払うことで、コスパ良くリード獲得につながるコンテンツが作成できると思っています。また、万が一出展したイベントでの集客が思うようにいかなかったときも、録画の二次利用による自社コンテンツとしてリード獲得やナーチャリングに活用することができるのもメリットだと思います。

市川 この一年半でさまざまな施策を続けてきたと思いますが、いま現在、何か課題に感じていることはございますか。

 日々、新たな課題が見つかりますが、直近では大きく4つの課題解決に向けて動いています。そのために「動画のプラットフォーム」の導入をしました。
まず、録画コンテンツを展開しているなかで、お客さまが視聴するまでの導線をシンプルにしたいと考えています。SmartHRでは、録画施策を展開するときは各コンテンツごとに専用のランディングページを立てて、申し込みフォームを埋め込む展開をしています。お申し込みをされた方のメールアドレスに、視聴用のURLを送付している運用なのですが、お客様が視聴するまでの導線が長くなってしまいます。そこで、直近で導入した「動画プラットフォーム」を活用することで、ランディングページの中に動画のWebプレーヤーを直接埋め込むという解決策を取ろうとしています。お客さまが訪問いただいたら、動画プレーヤーの再生ボタンをクリックし、そこに表示されるフォームに必要情報を入力するだけでそのまま動画が視聴できるようなフローになります。

続いて、コンテンツ視聴のためのランディングページを一元化したいという課題です。弊社では、今のサービスサイトの構成上、それぞれのコンテンツ用のランディングページが独立している状況になっています。そのせいでコンテンツの回遊が発生しにくく、施策ごとの繋がりが作りにくい状態です。コンテンツを一覧化できるアーカイブサイトを立ち上げることで、関連動画の回遊がしやすい状況を作ることができると考えています。

三つ目は、コンテンツの視聴ログを取ることです。これまでYouTubeを活用していたのですが、リードごとに視聴ログが取れない点が懸念でした。取得できる情報は申し込み時点のものになるため、「申込後に視聴しているか」「どこまで視聴しているか」の視聴完了率がわからず、リードの質を判断することが難しかったのです。そのため、インサイドセールスに納品する条件が曖昧となり、架電するための優先順位づけが難しい非効率な運用になっていました。
この課題を解決するために、動画プラットフォームを使ってリードごとに動画の視聴ログを取得しようとしています。視聴ログのデータとリード情報をセールスに渡すことで、温度感の高いリードの識別であったり、顧客の興味度合いを測ることが可能となります。今後は、視聴をトリガーにして、興味が高いときにはすぐ架電ができるようなオペレーションを整えようと考えています。
最後の四つ目は、制作する動画のコンテンツ力を高めたいと考えていますが、これは動画施策を走らせながら模索中です。

市川 まさに動画の活用が急速に進んだ一年半だったことがわかりました。最後にこの1年半の振り返りを簡単にお願いします。

 これまでご説明したように、新しいことを始めるのは地道なアウトプットの繰り返しで、いきなり解決できるような裏技などはありませんでした。組織が抱える課題を整理して、成果が期待できることからチーム全体で取り組んできたからこそ、今に至っているのかなと思います。
動画は、訴求力が強いコンテンツですし、動画自体に関心を持つ人も増えていると思います。今後は、いかに動画をリード獲得や商談化につなげていくか、そのためにコンテンツとしての価値をどう高めていくかが課題です。

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