2020.10.02

人々の孤独の解消を目指す分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」が目指す"制約のない"社会──SDGs取り組み事例⑮

日本のSDGsを推進する若手の代表として、官民連携プロジェクト『ジャパンSDGsアクション推進協議会』の「SDGs People」にも選定されたオリィ研究所。自分の困りごとを解決した先にあったという「分身ロボット」誕生の経緯や、ロボットに込めた思い、実現したい未来について、共同創設者 COO 結城明姫さんにお聞きしました。

分身ロボットOriHimeを持つ、オリィ研究所 共同創設者 COO 結城明姫さん

SDGsの認知に比例して、自社事業への理解も深まった

──分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」は、距離や障害などの"制約"を解決するロボットとして注目されています。SDGsとのつながりも深い事業といえると思いますが、御社として「SDGs」を、どのように捉えていますか。

結城 「OriHime」を開発する際に、SDGsを意識していたかといえば、そうではありません。しかし、昨今SDGsという言葉が広まったことで、当社の活動に対して理解されやすくなったように思いますし、SDGsは当社にとってプラスに作用していると感じています。

また、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない社会の実現」は、"孤独"を経験した当社のCEO・吉藤と私にとっては、深く共感できる目標でもあります。

──過去に体験した"孤独"が、「OriHime」開発のきっかけ、ということでしょうか。

結城 はい。私は子どもの頃から科学が好きで、高校生の時には流体力学の研究を行い、2006年の「高校生科学技術チャレンジ」(JSEC)でアメリカの科学技術フェアに出場するチャンスをいただきました。しかし、アメリカ行きの直前に結核を患い、入院と自宅治療のため出場できなくなってしまったんです。精神的には元気だったので、「もうひとつ体があったらアメリカや学校に行けたのに」と、ひとり"孤独"や"悔しさ"を感じていました。その経験がOriHimeに関わる原動力となっています。

だからこそ、翌年、同じ大会に再出場してアメリカ行きを叶えることができたことは、とてもうれしかったです。そこで、当研究所のCEOである吉藤健太朗と出会い、「分身ロボット」のコンセプトやアイデアに共感して、一緒にやっていこうという話になりました。

──分身ロボット「OriHime」は、普通の「ロボット」と何が違うのでしょうか。

分身ロボットOriHime Biz(オリヒメビズ)

結城 OriHimeのコンセプトは、自分の代わりに動ける「分身ロボット」です。たとえ自分の体が動かなくなっても、いつでも行きたいところに行き、会いたい人に会い、自分の行為によって人から「ありがとう」と言ってもらえる社会の実現を目指しています。

分身ロボットOriHimeは、人間の"もうひとつの体"になるものだと私たちは考えています。他のロボットとの"違い"として、人口知能を内蔵していない点が挙げられます。ですから、「自分一人で何でもできるAIロボット」とはコンセプトがまったく異なります。人工知能には、学習して分析する能力がありますが、OriHimeは"つなぐ"という視点で生まれたものですから、人の気持ちに寄り添ったアップデートをすることで、結果として業務の効率化につながる視点を大切にしたいと考えています。

その背景にあるのは、吉藤の思いです。彼は子供の頃から入退院を繰り返し、また、不登校で引きこもっていた経験もあって、そこから人間の"孤独"という問題を解決したいと考えるようになったといいます。

私も結核による長期治療で、半年間誰にも会えず学校にも行けなかった経験があります。"人間のもうひとつの体になる"分身ロボットは、まさにあの時の私が欲しかったものであり、今もこれを必要としている人たちはたくさんいます。そういう方たちがOriHimeを使って「ありがとう」と言われる場を増やしていくことが、今の私たちの目標です。

──OriHimeの利用者を「パイロット」と呼んでいるのも、あくまで「自分の代わり」としてOriHimeを遠隔操作するという意識からですか。

結城 その通りです。「能面」と「猫の目」を意識したフォルムデザインにしたのも、老若男女誰が操作しても違和感がないようにするためです。能面のような顔にすることで、動きによってさまざまな感情が表現でき、あたかも自分が"その場にいる"ような感覚が得られます。

OriHimeが動き回るタブレットと違う点は、この、"その場"にいるような感覚を、自分も周囲も持てることです。タブレットのように平面のモニターに操作者の顔を映すロボットでは、他の場所をつなぐための『窓』として受け取られてしまいがちで、どうしても『窓』のこちらとあちらで話している感覚になってしまいます。

ところが、OriHimeのように三次元的な物体が目の前で動いていると、周りの人が触ったり気軽に声をかけたり、その場にいるような感覚でコミュニケーションができるんです。操作に慣れてくると、同じOriHimeでも利用者によって、その人らしさが見えてくるなど、より「生身の人間」に近い感覚が得られます。

身体的・精神的・距離的な「移動の制約」を克服し、
「その場にいる」ようなコミュニケーションを実現する、分身ロボットOriHime

OriHimeで誰もが働きがいのある社会をめざす

──OriHimeは何種類かタイプがあり、用途や目的によって使い分けができるとお聞きしました。実際に、どのようなことが実現できているのですか。

結城 現在、プロダクトとしては、リモートワークやテレワークに最適化された卓上型の「OriHime Biz」、文字入力や合成音声でのスピーチや、メールの送受信ができる意思伝達装置「OriHime eye+switch(オリヒメアイスイッチ)」のほか、実験機として遠隔操作型分身ロボット「OriHime-D」の3タイプを開発・提供しています。

「分身ロボットカフェ」で働くOriHime-D

法人向けにOriHimeのレンタルサービスも提供しており、最近では人手不足の解消と社会貢献の実現を目指すモスバーガーさんで実験的に導入していただきました。

店内にOriHimeを設置した「ゆっくりレジ」を設け、応対は難病によって外出が困難な方がパイロットとなり、遠隔操作で注文を受け付けました。今回、お子さまや車いすご利用の方に目線を合わせた低い台にもOriHimeを併設し、パイロットがお客様にあわせて対応したところ、大変好評だったそうです。8月末までの契約でしたが、9月以降も継続が決まりました。

店員と同じ制服を着て働く分身ロボットOriHime(モスバーガー大崎店)

──大手企業の受付担当としてもOriHimeは活躍しているそうですね。

結城 はい、分身ロボットカフェを見た企業担当者から「うちの受付で働けるのではないか」とご相談を受けることもあります。例えば、OriHime-Dを導入していただいたNTTグループでは、外出困難な障がい者2名をパイロットとして雇用。新型コロナウイルス感染リスクの減少や、障がい者の社会貢献機会の拡大という面だけでなく、「OriHimeとのコミュニケーションによって、アイスブレイクでき、スムーズに会議に入れる」など、社内の空気を和ます役割も担っています。

受付業務をこなすOriHimeの大型版OriHime-D(日本電信電話株式会社)

OriHimeは目に見える「SDGs」

──OriHimeはとてもわかりやすいアウトプットなので、「SDGs」を意識する企業が率先して導入されているように思います。一方で、日本ではエンドユーザーの意識は「まだまだこれから」という見方もあります。そのあたりのギャップについて、どう思われますか。

結城 決して、高いとはいえない状況だとは思います。だからこそ、OriHimeを導入いただいた共和メディカルの運営するチーズケーキ店からさんから、「これまでSDGsと言ってもピンと来なかった従業員が、実際に障がい者の方と一緒に働くようになって、どうすればもっとパイロットが輝けるようになるだろうと自発的に考え、提案してくれるようになった。売上げ貢献はもちろん、ダイバーシティ教育の観点からもOriHimeを導入してよかった」と、うれしいお声をいただくこともあります。

このような活動に共感してくれる方が増えることで、世の中の多様性は強化され、個々の「SDGs」への意識も高まることで、自然に持続可能な社会は実現に向かうと私は考えています。自分たちがやっていることがSDGsだと認識せずにやっている方も多いと思いますし、「SDGs」という言葉にこだわる必要はないのではないでしょうか。

──OriHimeが広がることは、SDGsが広がることにもつながりそうです。

結城 ありがとうございます。ただ、今はトレンドとして「SDGs」という言葉が1人歩きしている部分もあると感じています。

私たちの役割は、OriHimeが広がることで、「体に障害があって今まで働いたことがなかったけど、自分も働いてみたい」と思ってくださる方が増え、活躍しているパイロットを見た企業の方に、もっと障がい者の方たちが活躍できる場があるということを知っていただくことだと思っています。

オリィ研究所は「すごいロボットがつくりたい」と思っているわけではありません。むしろ、すごい技術があるならそこと協力して、パイロットたちの活躍の場やできることを増やしていき、誰もがやりたいことが達成できる社会の実現を目指していきたいと思っています。

──誰もがやりたいこと達成できる。その先に「持続可能な社会」もあるように感じます。

結城 将来的に、自分の介護を自分でできる社会になると私たちは考えています。たとえ寝たきりになっても、OriHimeを操作して自分で朝のコーヒーを入れ、OriHimeに介助してもらいながら自分で着替えや食事をすませ、仕事をする。そんな世界がOriHimeで実現できると信じています。

もちろんさらなる技術革新も必要ですし、さまざまなスペックやスキルを持った方たちとの協力も欠かせません。OriHimeの導入事例を増やし、OriHimeがいることが当たり前の世の中をつくることも重要なミッションです。

ただ、いちばん重要なのは、OriHimeのサポートによって、一人ひとりが誰かに「ありがとう」と言ってもらえる場を増やすことだと考えています。

そのために必要なデバイスを、ロボットやツールで提供していくのが私たちの使命でもあります。身体的な能力が欠けることでできなくなってくる部分をOriHimeが助けていくことで、その人の"居場所"をつくる。そんなプロダクトをこれからもつくりつづけていきたいと思っています。


「できる」ことを増やし、未来に対してポジティブな自分になれる分身ロボットOriHime。誰かの役に立つことで自己肯定感を高め、人々の孤独を解消するOriHimeが、これからの日本、そして世界をどういい方向に変えてくれるのか、その動向から目が離せません。

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