2020.02.28

【第4回】サステナブル・マーケティングにフィットするZ世代

<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ

「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。今回は、社会課題に強い関心があると言われるZ世代とサステナブル・マーケティングの親和性について考えます。

Z世代とは? 次世代の傾向をつかむ

Z世代とは1996年〜2012年に生まれた世代を指す言葉で、マーケティング業界ではよく語られる消費者グループのひとつです。米国で生まれたこの消費者グループの区分は、1960年~1974年生まれのX世代、1975年~1995年生まれのY世代と併せ、さまざまな消費傾向を捉えるためによく用いられます。
Z世代はよくミレニアル世代と混同されやすい言葉ですが、それぞれが指す生年は若干ずれがあります。ミレニアル世代は2000年代に成年を迎える世代のことを指すため、生年は1980年~2000年初頭です。
トレンドに敏感な若者として、一括りにされやすいミレニアル世代、Y世代、そしてZ世代。それぞれの特徴は重なる部分もあります が、詳細にその思考パターンや消費行動を観察したとき、その差は意外と大きいことがわかります。

Z世代の特徴のひとつが、社会課題に対する強い関心です。CSRに特化した米国PR会社コーン・コミュニケーションズ の調査(Z世代の男女1000人対象)によると、Z世代の約94%が『企業は社会的・環境的課題に取り組むべき』と考えています。特に地球環境に対する問題意識が強く、彼らのうち98%は地球環境の保護に関心を持つということがわかりました。



Z世代について語るとき、マーケティング業界では彼らの消費行動やデジタルネイティブ性にスポットをあてがちですが、彼らの根底にあるこうした問題意識を知らずして、彼らの心を動かすマーケティング戦略は生み出せないでしょう。
サステナブル・マーケティングの視座は、まさにこれからの時代を担うZ世代の心に届くマーケティングの基本とも言えるかもしれません。

事例1: エルメスが始めた持続可能な商品戦略とメッセージ発信

フランスのハイブランド『エルメス』は、2020年2月、詰め替え可能なルージュを発表しました。
同ブランドはこれまで化粧品のラインは販売しておらず、本格参入の第一弾として本商品を掲げました。あえてサステナブルであることを強みとした商品を新ラインの第一弾として発表したことには、今後の化粧品業界の在り方に対する強いメッセージ性を感じます。

世界各国の大手化粧品・日用品メーカーでは、プラスチック容器を減らすための商品開発・改善が進んで います。環境問題のなかでも大きなテーマである海洋プラスチックごみ問題は、商品からの排出を減らすことが有効な解決手段だからです。
その一方、化粧品は、品質維持や消費者のニーズ(多数の種類を集めたい、衝動的な購買意欲による購入も多い)の観点から、詰め替え式の商品をスタンダードにすることが難しい商品でもあります。今回、発信力のあるブランドがこの課題に取り組む姿勢を示したことで、化粧品業界はよりサステナブルな商品開発に注力する必要性が生まれたのではないでしょうか。

※写真はイメージで商品ではありません

エルメスがサステナブルな化粧品で新たなビジネスを始める裏側には、Z世代の定着を期待している側面があるかもしれません。Z世代は企業が環境問題に取り組むことが極めて重要であるという視点を持ち、自身の消費行動にもその信念が結びついています。
まだ学生が多いZ世代に対し、プラスチックごみを減らす化粧品を発信するブランドとして『エルメス』を認知させることは、今後の化粧品業界各社のポジショニングに大きな影響を与えるはずです。
また、別の側面から見て、詰め替え可能な商品はサブスクリプション・サービスのようにファンを定着させやすい特徴を持ちます。化粧品業界は、近い将来、詰め替え可能な化粧品を基軸にしたファンの奪い合いを始めなければならないかもしれません。

ファッション業界をけん引してきたハイブランドが挑む、サステナブルをキーワードにしたメッセージのシフトチェンジとターゲットの変換。エルメスのサステナブルなルージュ発表は、そうしたサステナブル・マーケティングの視点から見て興味深いニュースと言えるでしょう。

事例2: ナイキが体現するZ世代の視点に立った多様性

※引用元:Twitter│NaomiOsaka大坂なおみ


Z世代が関心を示すもうひとつの大きなテーマが、多様性です。
Z世代の支持率が高いアパレルブランド『ナイキ』は、Instagramの公式アカウント(@nikewomen)で肌の色や体型、年齢層や背景の異なるモデルを起用しています。その起用バランスは均等で、どんな人がそのアカウントを見てもイメージから排他されない、いわゆる"インクルーシブ"な情報発信に注力していることが伝わります。

米国Qualtricsによる調査 では、Z世代のSNSユーザーのうち77%が、SNS上でジェンダー平等に触れる企業発信を「より好意的に受け止める」と答えています。
さらに、同調査で集めた個別回答から、彼らは性別がもたらす先入観を問題視しており、女性と男性の平等性に共感しているわけではないことが明らかになりました。こうした微妙なニュアンスの違いは、Z世代を意識した企業メッセージングでは極めて重要なものです。

Z世代が多様性を重んじ、インクルーシブな企業の姿勢を肯定するのは、Z世代の当事者自身が多様性のなかに生きている背景があるのかもしれません。
同社の調査レポートによれば、Z世代のSNSユーザーが広告の内容に対して「自分が表現されている」と感じるのは45%。あらゆる人生や考え方にアクセス可能であり、選択できるZ世代の視点に立たなければ、この45%のユーザーの心を動かすことはできません。

※引用元:Instagram│niketokyo

ナイキに話を戻します。2019年春、ナイキから発表された公式キャッチフレーズは『世界を変える、自分を変えずに 』で、そのアイコンとして選ばれたのはアメリカと日本双方の背景を持つテニス・プレイヤー、大坂なおみ選手でした。
本CMの編集を行ったのは自身もまたカルチュラル・ハーフであると語るAika Miyake であり、連動して公開されたキャンペーンCMには多種多様な人々が等しくスポーツに挑む姿をテンポよく描いています。YouTube、Instagramなど各種SNSを通じて発信されたメッセージは、Z世代を中心に多くの共感を呼び、評価されました。

Z世代の心に届くメッセージングに必要なのは、あらゆる視点から見た当事者を、表面上の理解に留めず内面まで掘り下げ、包括することです。サステナブル・マーケティングとZ世代の交点を考えるとき、この視点での理解の深度が問われるでしょう。

データ紹介:日本のZ世代の独自性と、マーケティングチャネル

こうしたZ世代の特徴をふまえたうえで、日本国内のZ世代の独自性についても触れておきます。
モバイル市場データプラットフォームを提供する米国企業アップ・エニーより発表されたZ世代のモバイルアプリ利用の調査(2019年12月)によると、日本のZ世代ユーザーが特に利用するアプリは他欧米各国と違った様相を見せていることがわかります。

たとえば、ソーシャル・コミュニケーションアプリについては他国で人気を誇るSnapchatよりも日本のZ世代はInstagramを利用しており(上図参照)、ショッピングアプリについても国内発のメルカリを愛用しています。

※上記2図引用元:アップアニー、Z世代の顧客理解・エンゲージメント強化に役立つレポートを発表

また、日本国内のZ世代のゲームユーザーは利用時間が長いだけでなく、ゲームアプリのアクセス回数が世界平均より80%多いという結果が出ました。
こうした日本のZ世代の特徴を考えたとき、どこでZ世代との接点を持つかが重要になってきます。彼らが日常生活の多くの時間をスマートフォンに費やす世代であることは言うまでもありませんが、特にどんなアプリに関心を寄せ、何を求めてそれらを使っているかまで理解を深めることも、戦略の一端を担うポイントです。

Z世代への理解を深め、サステナブル・マーケティングのヒントに

これからサステナブル・マーケティングに取り組もうと考えている企業にとって、今後の消費活動の中心を担うZ世代への理解は重要なテーマです。Z世代は彼ら自身だけでなく、祖父・祖父母の世代(=高齢者)に対しても間接的な影響力を持つと考えられています。
また、彼らが生来のテクノロジー依存の気質を持つ以上、デジタル・マーケティングの戦略を構築するとき、その影響力は無視できないものとなるでしょう。

彼らは社会課題や環境問題が自分の生活に影響をもたらすものとして認識しており、それに取り組む企業を好意的に受け止めます。また、価値観の変化をいちはやくキャッチし、柔軟な姿勢を見せる企業やインフルエンサーに信頼を寄せる傾向もあります。
今回紹介したZ世代の特徴をふまえ、どのような企業メッセージを編み、彼らに伝えるのか立ち戻ってみると良いかもしれません。

>【第1回】サステナブルなマーケティングとは? 戦略立案のための3つの主軸
>【第2回】話題性ではなく持続性のために―ARで拡張する「現実」のネクストステップ
>【第3回】地方創生とサステナブル・マーケティング その交点とは

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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