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若い女性に響く施策を打ちたい。その想いに応え生まれた「ViVi SPORTS まるごと一冊鹿島アントラーズ」
茨城県鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市をホームタウンに活動するプロフットボールクラブ、鹿島アントラーズ。1993年のJリーグ創設当初から闘い続け、国内外の主要なタイトル20冠を誇る名門だ。
これまで、クラブへの興味・関心を喚起するさまざまな施策を展開してきたアントラーズ。しかし、「若い女性をターゲットとした施策ができていない」という課題を感じていたという。そこで着目したのが『ViVi』の若年女性への発信力だ。女性ファンの満足度を高め、若年女性へのアプローチを実現した『ViVi』とのさまざまなコラボレーション施策について、広報の松本隆吾さんに話を聞いた。
試合での勝利を追求するだけでなく、マーケティング、クラブ運営に関しても強い情熱で挑み続けている鹿島アントラーズ。マーケティング施策の指標としているのは、Jリーグの会員IDサービス「JリーグID」の情報だ。来場者の属性やスタジアム来場履歴、チケット購入履歴など、蓄積されたさまざまなデータを分析し、クラブの価値向上、ファンとの関係性を深める効果的な施策を数多く打ち出してきた。
「データを分析するなかで見えてきた特徴のひとつが、『女性来場者数の多さ』でした」と語るのは、松本隆吾さん。アントラーズの広報としてPR戦略に携わり、クラブを支えてきた中心人物だ。
「アントラーズは、スタジアム来場者のうち30~40%が女性で、Jリーグクラブのなかでも高い水準を誇っています。こうしたデータを見て女性向けの企画が効果的だとわかってはいたのですが、数年前までは具体的な施策ができていないというのが実情でした。
同時に、アントラーズは『硬派』なクラブイメージがあります。Jリーグ加盟当初から一途に勝利を追い求め、タイトルを積み重ねてきました。そのストイックさに惹かれるファンも多いですし、クラブとしてもそこに強いこだわりを持っています」
女性へのアプローチに課題を感じていたなか、アントラーズは2022年にスタジアムイベント「Dear Ladies」を2回開催。限定グッズの販売やフォトスポットの設置など、来場した女性たちが楽しめる企画を豊富に盛り込んだイベントだ。開催を通して松本さんは、施策にたしかな手ごたえを感じたという。
第1回の「Dear Ladies」は2022年4月17日の名古屋グランパス戦で開催。同年8月14日のアビスパ福岡戦にも第2回「Dear Ladies」を実施した。Photo ©︎KASHIMA ANTLERS
「『Dear Ladies』は、女性をはじめとした来場者に楽しんでほしいという思いから生まれたイベントです。グッズの売り上げもよく、SNSの反応を見ても大きな手ごたえを感じました。同様の施策はこれからも継続していかないといけないと考え、同年8月には2回目の『Dear Ladies』も開催しました」
この時点でスタジアムイベントだけでなく、さらなる施策が必要だと感じていたアントラーズ。注目したのは、メディアとのコラボ施策だった。
「私たちはこれまでにさまざまなメディアと提携してきましたが、女性誌に取り扱ってもらえるような機会はなかなかありませんでした。そこで2023年に挑んだのが、『Oggi』とのコラボです。『Oggi』の読者ターゲットである20~30代の女性に向けてクラブや選手の魅力を伝えるために企画を持ち込み、特集冊子とグッズを制作しました。女性誌とのコラボは初めてだったのですが、これまでフットボールに触れたことのなかった層にもアントラーズに興味を持ってもらうことができたと思います」
立て続けに女性向けの施策を実施してきた2022年。次なる施策として考えていたのが、10~20代の若い女性に向けたアプローチだった。
「女性のなかでも若い層にアプローチすることができれば、長くアントラーズに関わり、愛してくれるサポーターやファンを増やすことができる。10~20代というターゲットを考えたとき、一番にイメージに浮かんだのが『ViVi』だったんです。読者層がぴったりはまったのはもちろんですが、SNSのフォロワー数や発信力も含め、若い女性に大きなインパクトがあると思いました。『ViVi』編集部には、資料を作ってクラブ、選手、こちらが実現したい企画を売り込みました。その資料を見て、ViVi担当者が熱心に動いてくれたのは今でも印象に残っています。『一緒にいいものを作りたい』という想いを強く感じましたね」
『ViVi』へ持ち込んだアントラーズの企画提案書。アントラーズの特徴や注目の選手などを40ページ超の資料で、アピール。
こうして『ViVi』とのコラボレーションがスタート。3回目となる「Dear Ladies」の開催に合わせ、ムック本『ViVi SPORTS まるごと一冊鹿島アントラーズ』、オリジナルグッズの制作だけでなく、「Dear Ladies」でフォトスポットを設置するなど、盛り上がりを見せることとなった。
『ViVi SPORTS まるごと一冊鹿島アントラーズ』は、女性ファッション誌のノウハウを活かした撮り下ろし写真や、選手の素顔を覗くことができるインタビューなど、アントラーズの魅力がふんだんに伝わる内容となっている。「ViVi編集部への要望は『選手のキャラクターが活きる形で誌面作ってほしい』ということでした」と、松本さん。ViVi編集部とのやりとりや制作におけるポイントについて聞いた。
クラブカラーであるアントラーズレッドに、デニム衣装に身を包んだ9人のイケメン選手たちが印象的。数々のイケメンをプロデュースしてきた『ViVi』のスタイリング力が光る
「アントラーズではここ数年、広報で各選手のセールスポイントをまとめたり、発信の際は選手個々のSNSと連携するなど、選手の『個』を広く発信する売り込むプロモーションにも力を入れています。そうした背景もあり、このムック本でもそれぞれの選手の人となりを知ってもらえるような内容が欲しいと考えていたんです。人選はこちらで行い、ViVi編集部には選手の詳しいプロフィールを共有。あがってきた企画を最初に見たときは、こちらの想いを見事に叶えるものばかりでさすがだなと思いましたね。
スタイリングにおけるクオリティの高さももちろんですが、女性誌の編集・ライターだからこその誌面作りも好印象でした。選手個人のページも、フットボールの専門的な内容ばかりではなく、生い立ちから趣味、考え方などの話を盛り込むことで、フットボールを知らない層にも興味を持ってもらえる内容になっていると感じました」
選手一人ひとりにフォーカスした企画「アントラーズ、9人のストーリー。」。各選手の個性を見極めたスタイリングと、ファンにはたまらない話題が盛りだくさんの内容
「もう1つ要望したのが、選手たちが一番映える姿ともいえる『ユニフォーム着用写真を使ったページがほしい』というものでした。その要望をどう料理してくれるんだろうと期待していたところ生まれたのが、セルフシャッターの見開きページです。
選手たちの自然な表情を引き出してくれたこの1枚の写真は、第3回「Dear Ladies」のメインビジュアルやフォトスポットにも使用しています。個人的にもこのページが一番好きですね。『ViVi』が団体撮影に慣れているからこそ生まれたアイデアだと思います」
選手間の仲の良さを感じさせるセルフシャッターのカットを使った、イベント当日のフォトスポット。自分たちでシャッターを切ることで緊張感がほぐれ、自然な笑顔が引き出された1枚。 Photo©︎KASHIMA ANTLERS
「Dear Ladies」当日に販売された同誌は、試合開始前に完売するほど反響も上々。いまでもこの冊子を手に、サインをもらおうとするファンの姿が見受けられるという。しかし、本撮影が行われたのは、シーズン真っ只中。
「実は当初予定していた撮影日とアントラーズの成績が振るわない時期が重なり、撮影を延ばしてもらったということもありました。アントラーズはプロフットボールクラブですので、やはりフットボールが第一。編集部の方たちには本当に申し訳なかったですが、今は撮影をすべきではないと判断し、別日に撮影をしてもらいました。ようやく実施できた撮影当日は、ヘアメイク、撮影、取材を含めてトータル3時間というスピード感でご対応いただきました。そういったクラブの事情にも理解していただけたことはありがたかったですね」
ViViコラボ商品が発売された、イベント当日のグッズ売り場。多くのファンが訪れたという。 Photo©︎KASHIMA ANTLERS
今回のコラボでは、オリジナルの限定グッズも複数展開。ViVi編集部とアントラーズ内の女性スタッフがアイデアを出し合い生まれた、ファンにはたまらないラインナップとなっている。どのグッズにも、誌面に登場するデニムを基調としたスタイリング写真を使用しているのが特徴だ。
オリジナルグッズのアクリルキーチェーン、フレークシールセット、インスタントフォトカード
「通常発売しているグッズは、ユニフォーム写真を使ったものが多いんです。私服写真のグッズはなかなかないので、今回のグッズはファンにとってもうれしいものだったと思います。なかでもキーチェーンはほぼ完売。アントラーズ内でも好評で、選手やその家族から『ほしい!』の声も上がるほどでした」
プラスチック製の「ViViコラボ 鹿免許証」。選手のプロフィールが端的に書かれている
さらに、購入特典グッズも用意。免許証風に選手を紹介する誌面内の企画を活かした「ViViコラボ 鹿免許証」は、スマートフォンの裏側やカードケースに忍ばせることができる、推し活にぴったりのアイテムだ。関連グッズを含め4,000円(税込)以上の購入者に、ランダムで1枚ずつ配布された。
「これまで購入特典といえば、シーズン開始時に制作したポスターを特典にしたり、既存写真を使ったグッズを配布したりすることがほとんどでした。対して今回の鹿免許証は、撮り下ろし写真かつ、1枚のカードで選手を知ってもらうことができるオリジナルグッズです。コラボだからこそ、これまでにない新しい特典を作ることができたのだと思います」
コラボの一環として、アントラーズ、ViVi双方のSNSアカウントでオリジナル動画も制作している。なかでもViViのTikTok公式アカウントで公開されたスタジアムツアー動画は、試合の様子だけでなく、スタジアムグルメやグッズ売り場など、スタジアムでの楽しみ方を紹介。トレンドに敏感な世代に向けて発信した。
https://www.tiktok.com/@vivimag_official/video/7274880894320561426
本動画に登場するのは、ViViの担当編集、スタッフ。同年代女性のリアルな体験を動画で発信することで、若年女性の興味を惹きつける狙いだ。なお、ViViのTikTok公式アカウントのフォロワー数は、約25万人(2024年3月現在)。その約半数が18~24歳の女性であり、アントラーズがアプローチしたい層とも合致している。
「アントラーズが推しているスタジアムグルメなどを紹介し、より多くの若い人にスタジアム観戦に興味を持ってもらえる内容だと感じました。アントラーズも動画コンテンツに力を入れているのですが、最初の数秒で興味を惹きつける仕掛けや、若い人が離脱せずに見てもらえるテンポの良さなど、コンテンツ作りの参考にもなりましたね」
女性来場者を喜ばせたい、若い女性ファンを増やしたいという想いで取り組んだ今回のコラボ。実際に、女性へのアプローチは成功したのだろうか。
「売り上げや反響は上々だったのですが、来場のきかっけになったかといえば手放しでは喜べない部分もあったと思います。ただ、今回のコラボで選手たちの個性をアピールし、多くの人に選手を知ってもらうことができたのは大きな成果。ムック本やSNSを通して、鹿島アントラーズ自体を知ってもらうきっかけを作ることもできたはずです。そうした、数字に表れない効果は大きいと感じています。
また、うれしいことに他クラブから『この企画どう実現したの?』と問い合わせが来ることもありました。これからもアントラーズが先導してメディア施策に取り組み、Jリーグ全体を盛り上げていくことができたらいいですね」
「『ViVi』とのコラボは、継続的に取り組んでいきたいです」と、今後も女性向けの施策に意欲を示す松本さん。今後の展望についても聞いてみた。
2024年は、ホームゲームのイベントカレンダーを初めてシーズン前に発表。個性豊かなスタジアムイベント企画を今年も数多く予定している ©︎KASHIMA ANTLERS
「クラブの掲げるミッションは『すべては勝利のために』。競技面でリーグでのNo.1を目指すことはもちろんですが、メディアやコンテンツにおいてもJクラブNo.1になりたいという目標があります。そのために力を入れていきたいと考えているのが、『コンテンツの質の向上と収益化』、『ファンベースの拡充』です。30年先のロードマップを描きながら、さまざまな施策を考えています。今回のViViとのコラボも勝利のための施策のひとつ。アントラーズとしてはチャレンジングな取り組みでしたが、新たな事例を作り、PR主体の企画からグッズを通じて収益にもつなげることができました。
『コンテンツの質の向上と収益化』については、2024年の夏に『アントラーズモバイルプレミアム(仮称)』という、有料会員向けサイトを新たに開設します。会員でしか見られない試合の厳選フォトなど、よりファンのみなさんに楽しんでいただけるコンテンツを発信していく予定です。今後もファン、サポーターの皆さんのご意見に耳を傾けながら、より良い施策を追求していきたいと思っています」
株式会社鹿島アントラーズFC マーケティングディビジョン コンシューマーグループ コミュニケーションチーム 広報担当 松本隆吾氏
ポートレート撮影/村田克己 取材・文/室井美優(Playce) 編集・コーディネート/川崎耕司(C-statiion)