2023.05.17

純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

4月に京都駅界隈や立山黒部アルペンルートに行く機会があり、外国人観光客がだいぶ復活していることを実感しました。日本がインバウンドに注力した頃から京都などで顕著だったオーバーツーリズムへの対策も、新型コロナの5類移行後にあらためて考慮せねばなりませんが、日常が戻りつつあることを、今は素直に喜びたいです。

前回までの3回にわたって、筆者が共同研究などで大変お世話になった大阪公立大学の荒木長照先生、荒木先生のもとで学んだ辻本法子先生、田口順等先生との共著「コンテンツの、コンテンツによる、コンテンツのためのマーケティング」(大阪公立大学出版会:2023年2月発刊)で記した、マンガ原作系キャラクターファンのマーケティング活用効果に関する研究結果を紹介しました。
前回は以下のような内容でした。

  • 注目・親近感・好意・記憶が顕著な、キャラクターの活用効果
  • キャラクターを使うことで商品・広告の探索や共有が促進される
  • キャラクターの持つ体験価値が、プロモーション活用効果を増幅する
  • 名場面や名セリフで、プロモーション活用効果がさらに増幅される

今回からは、最近実施した「キャラクター定量調査2023」で得られた幾つかのトピックを紹介していきます。

まず、純粋想起による2023年キャラクター好意度ランキングのうち、「キャラクター全般」と「企業オリジナルキャラ」に関する調査結果を紹介します。


「キャラクター定量調査2023」は、日本国内に居住する男女3~74歳の1,150名を対象として、2023年2月24日(水)~3月1日(水)に実施しました。調査実施機関は「楽天インサイト」で、園児・保育園児~小学生(+中学生の一部)は、母親が子どもの回答を聞きながら代理記入しています(図表1)。

図表1.  「キャラクター定量調査2023」調査概要

「スヌーピー」「ポケモン」「ドラえもん」が安定して高い支持を獲得

作品単位で集計した、男女3-74歳全体での純粋想起トップは「スヌーピー」でした。2020年9月に1位、2021年11月に2位と、安定して高い支持を得ています。2位は「ポケットモンスター」で、2020年9月に3位、2021年11月に1位。3位の「ドラえもん」は、2020年9月、2021年11月とも2位でした。これら上位3キャラは幅広い層に人気の国民的キャラクターとして、ここ数年変わらず4位以下に大きく差をつけています(図表2)。

図表2. 男女3-74歳全体:純粋想起による「好きなキャラクター」ランキング

Q. あなたが好きな「キャラクター」は何ですか。好きな順に「3つ」までお書きください。

「ちいかわ」が大躍進、「ONE PIECE」「すみっコぐらし」も着実に上昇

前回の2021年11月調査から大幅上昇したキャラクターとして筆頭にあげられるのは「ちいかわ」です。
2021年は純粋想起者がゼロだったのが、今回8位にランクインしました。かわいさと奥深さを兼ね備えたキャラクターたちの魅力に加え、「めざましテレビ」番組内アニメ放送や数多くのコラボ展開が奏功した結果だと思われます。

そして2022年8月から2023年1月まで劇場公開された「ONE PIECE FILM RED」が国内興行収入197億円を記録し、原作マンガも最終章に突入した「ONE PIECE」(4位)や、2021年11月に劇場版第2弾が公開された「すみっコぐらし」(5位)も、着実に支持を伸ばしています。

また、2022年に初のテレビアニメ化で話題となった「SPY×FAMILY」(18位)や「チェンソーマン」(35位)などのニューカマーや、新作アニメが作られた「スラムダンク」(33位)「進撃の巨人」(35位)も、一定の支持を集めています。一方、前回(2021年11月)4位だった「鬼滅の刃」は今回13位、18位だった「呪術廻戦」は73位と、ともに順位を落としています。

「ちいかわ」は女子キッズ・ティーンと男女ヤング・ミドルから、「進撃の巨人」「転スラ」は男女ティーンから支持

図表3は、性・年齢別の純粋想起上位作品です。

「ちいかわ」は女子キッズ・ティーンに加えて、男女ヤング・ミドル層にも幅広く支持されています。また、「すみっコぐらし」は女子キッズの圧倒的支持に加えて母親・祖母世代からの支持も集めています。これらは一見ファンシー系のかわいいキャラですが、各キャラの複雑な性格やストーリーへの共感も人気の根底にある様子がうかがえます。

また「SPY×FAMILY」は男女キッズに、「鬼滅の刃」「進撃の巨人」「転生したらスライムだった件(転スラ)」は男女ティーンにそれぞれ支持されており、アーニャ(作品純粋想起者30人のうち23人が想起)やリヴァイ(作品純粋想起者11人のうち6人が想起)など、魅力的な登場キャラたちの人気による結果だと推察されます。

主人公が女性キャラの新作「水星の魔女」が放送された「機動戦士ガンダムシリーズ」が、男子ティーンでランクインした点も注目です。

図表3.  性・年齢別:純粋想起による「好きなキャラクター」ランキング

企業キャラの上位は定番・古参キャラクターが中心

続いて紹介するのは、企業オリジナルキャラについて質問した、男女3-74歳全体の純粋想起結果です(図表4)。

図表2で記したキャラクター全般の純粋想起では第1位、第2位のスコアが10%超えだったのに対し、企業オリジナルキャラは第1位の「お買いものパンダ[楽天]」が6.7%で、全般に想起率が低いことがわかります。キャラクター全般の純粋想起結果でも企業オリジナルキャラはランキング圏外と、存在感が希薄です。

図表4.  男女3-74歳全体:純粋想起による「好きな企業オリジナルキャラクター」ランキング

Q. あなたが好きな「企業オリジナルキャラクター」は何ですか。好きな順に「3つ」までお書きください

「企業オリジナルキャラクター」 とは、企業や、企業の商品・ブランドの広告やPR活動のために作られ、活用されているオリジナルキャラクターのことを指します

企業オリジナルキャラは、企業やブランドのアイコン・シンボル、識別子(アイディンティファイア)ではあるものの、複雑な設定や世界観がない、空気や水のように、あって当たり前の目立たない存在です。そのため、キャラクターの画像や名前を呈示しての再認でなく、今回のような純粋想起で調査した場合、総じてスコアが低くなりがちです。今回1位だった「お買いものパンダ[楽天]」も、楽天インサイトの登録モニターが調査回答者であった点を考慮すると、他社モニターで調査した場合にここまでの想起率が獲得できたかは疑問です。

上位にランクインした企業オリジナルキャラの顔触れをみると、「ペコちゃん[不二家]」「キョロちゃん[森永チョコボール]」、「ひよこちゃん[日清食品チキンラーメン]」「カールおじさん[明治カール]」など老舗の菓子・食品メーカーや、「ぴちょんくん[ダイキン工業うるるとさらら]」や「SUUMO[リクルートSUUMO]」など歴史や広告・店頭の露出量で一日の長があるキャラたちが並んでいます。プロ野球のチームマスコットでは、「つば九郎[東京ヤクルトスワローズ]」「ドアラ[中日ドラゴンズ]」「トラッキー[阪神タイガース]」がランクインしています。

これらの定番キャラに混じって、コロナ禍で共感を呼ぶテレビCMだと話題となった「キウイブラザーズ[ゼスプリ]」は、2020年(9位)、2021年(3位)と上位を維持し続けています。また、2022年12月に引退発表報道で話題になった「ドンペン[ドン・キホーテ]」が、2020年(58位)、2021年(32位)から、今回13位にランクアップしている点も興味深いです。目立ちにくい企業オリジナルキャラについては、何らかの話題を生むマーケティングコミュニケーション上の仕掛けが有効だということでしょう。

次回は、純粋想起による2023年キャラクター好意度ランキングのうち、「ご当地キャラ」、そして広告コミュニケーション活動におけるエンドーサー(広告内で製品やブランドを宣伝する人)を起用する際の比較検討対象として、「タレント・有名人」、「Vtuber」に関する結果を紹介します。どうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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