2018.01.18

ストップウォッチを片手に穴子を揚げる社員たち│テン コーポレーション社長インタビュー(後編)

ストップウォッチを片手に
穴子を揚げる社員たち

夏目:「てんや」のシステムってすごいらしいですね。

用松:一番重要なのは「オートフライヤー」です。素材に衣をつけ、コンベアに置くと、油の温度を自動で制御しつつ揚げてくれる機械があるんですね。当社独自開発です。

夏目:海老とか野菜とかいろんな素材があるのに、よく自動化できましたね?

用松:揚げ時間は天ぷらの王様である海老がおいしく揚がるように設定されていて、ほかの素材は海老と同じ時間で揚がるように、厚み、大きさを調整してあります。これにより、以前は職人さんが揚げていた天ぷらが、誰でも同じ品質で揚げられるようになったんです。もちろん、食材も効率的です。野菜は工場でカットしたものを仕入れています。

夏目:これによって天ぷらの業界が変わりましたね。以前は高級料理だったのに、最近は逆で「あの店でてんやの感覚で食べたら3000円した」なんてグチを聞いたことがあります。

用松:それが「サイエンス」の威力なんです。私たちは「TT管理」と呼ぶのですが......温度(Temperature)と時間(Time)を管理して、美味しい商品を創り出す、これが「調理」です。だから当社では期間限定メニューを創るときなど、担当者が温度計を見ながらストップウォッチ片手に「ネタで温度が低くなった!」などと言いながら最適な温度・時間を計測しています。
これは笑い話ですが、弊社は何でも揚げますよ。牛たん、チーズフォンデュ......サメの肉や高麗人参を揚げ「薬膳天丼」として売ったこともあります。どれも自信を持って「おいしい」と言えるメニューだったんですが、やってみると「キワものは話題になってもあまり売れない」とわかりました(笑)。

夏目:これまた、実際やってるから言葉に重みがありますね。そんなてんやさんを、用松さんは長期的に成長させてきました。既存店売上高は、2012年から2016年にかけ、さつまいもの天ぷらのようにジワジワあがってます(2012年が既存店前年比102.2%、'13年は106.4%、'14年は108.1%、'15年は103.6%、'16年は100.2%)。この秘訣は?

用松:それは例のごとく「細部に神宿る」です。例えばてんやに行ったらお箸をご覧下さい。以前は先が丸い箸を使っていたんですが、現在は箸の先が五角形です。この形だと、ごはんをうまくかきこめるんですね。また、お持ち帰りの容器も見てほしいですね。蓋の形に一工夫加え、湯気のしずくが極力天ぷらに落ちないようにしてあるから、あとで食べても衣が適度にしんなりしていて、ベチャッとせずおいしいんです。
言いだしたらきりがありません。ある日、ビアガーデンで保冷タンブラーを見て、これだと思いました。天ぷらの衣をサクッと揚げるためにはバッター(フライを揚げるときにつける液)の温度が重要です。なら保温タンブラーの素材でバッター用のボウルをつくれば! と思ったんですね。本当に、こうして改善を繰り返していくと、少しずつ売り上げが伸びていきます。お客様は本当に鋭いですよ。
だから、これからの飲食店に重要なのは、賢く、鋭いお客様の気持ちをいかに汲み取るかです。そのポイントはいくつかあります。

2013年4月20日、テン コーポレーション創立25周年を祝して撮影された一枚。
前列右から2人目が用松社長


繁盛店は、基本を大切にしつつも
「時代の流れ」についていく

夏目:ぜひお聞かせ下さい!

用松:まずは、選択肢が多く、カスタマイズできること。当店は期間限定の天丼を出しています。例えば北海道猿払産の天然帆立を使った「冬の海幸天丼」や、佐賀の銘柄鶏を使った「ふもと赤鶏天丼」です。現在は選択肢が多い時代、だからいつものメニューに変化球を加え、飽きさせないことが重要です。また、いまはテーブルに天丼のタレや漬物を置いています。

夏目:あ、言われてみれば私、しょっぱめが好きなんで、いつも人に驚かれるくらいタレと唐辛子をぶっかけて食べてます。

用松:実は唐辛子も、さりげなく浅草「やげん堀」の七味を置いているんですよ。コストは高くなりますが、風味がいいんです。

夏目:そんなものをバカバカつかっちゃってすみません。

用松:いえ、それが正しいんです。さっきも言いましたが、今は「カスタマイズ」の時代なんですね。ライフスタイルが多様化し、天ぷらをつまみにお酒を飲む方もいれば、「炭水化物抜きダイエット」のためか、お米を食べない方もいらっしゃいます。だから、みんなが「自分ピッタリ」のものを求める時代なんです。

夏目:選択肢が多くなると「自分ピッタリ」を選ぶようになりますよね。

用松:ええ。だから、贅沢したいときは季節の天丼、お酒を飲むときはタレを多めに......とカスタマイズしていただけばいいんです。なかには天ぷらに漬物をのせて食べる方もいらっしゃいます。また、てんやは女性のお客様も多いんです。あまり店内では召し上がらず、7~8割はお持ち帰りなので、ご家族用に購入されているんでしょう。もちろん、天ぷらだけお持ち帰りされ、うどんやそばにのせる方もいらっしゃるでしょうね。こんなふうに「これが天丼」という王道のほか、様々な選択肢もご用意しています。あとは「健康」、これも外せないトレンドです。

夏目:失礼ながら、揚げ物には「太りそう」という印象があるんですが......?

用松:油というと十把一絡げにされやすいんですが、いろんな種類があるんです。なかでも日本人は、脂質の過酸化を防ぐと言われるビタミンEのおよそ2割を植物油からとっていて(補助食品を除く、テン コーポレーションの計算値)、油も健康に欠かせない食材です。そんななか当社は、揚げ油を日清オイリオさんと共同開発してオリジナルのものをつくりました。衣への吸収率が少なく、ビタミンEが多く、コレステロールはゼロ。そして、これを導入したときもちゃんと売り上げは伸びています。
あとはタレです。さっき、じゃばじゃばかけるとおっしゃいましたが、少し塩分を下げているのはご存じですか?

夏目:気付いてませんでした!

用松:だしの感じを強くすると、塩分が少なくてもおいしく感じていただけます。こうして、健康に配慮することで、同じ揚げ物でも安心して召し上がっていただけるんです。

夏目:例えばリンガーハットさんにも、野菜を国産に変えたら値段が高くなったのに売り上げが伸びた、という話があります。
食べるスタイルは一人ひとりカスタマイズしたい、でも「健康」はみんなの願い、こういった世の中の流れについていくのが大切なんですね。

用松:その通りです。お客様は鋭く、賢いんです。

天丼が世界に出て行けるのは
「ふっくら盛りぞう君」のおかげ!?


夏目:最後に、御社はいま、海外進出されていますね。また、インバウンドでも大人気です。このあたり、どんな戦略をお持ちですか?

用松:和食の人気が確実に高まっているのは本当にありがたいことです。またSNSで海外の方が「安くておいしい」と広めて下さっていることもありがたい。上野や浅草など観光地では外国人のお客様の比率が......私の実感では半分位になっています。
意外だったのは「旨い・早い」ことも評価されていることです。

夏目:観光客は忙しいんでしょう。

用松:あとはダイバーシティを進めたことも評価されています。首都圏では、1店舗平均、5人の外国人が働いていて、中国、韓国、ベトナムなど国籍も様々なんですね。英語、中国語、韓国語のメニューは全店にあるんですが、これに加え母国語が話せるスタッフがいると、インバウンドの方が安心されるんです。もちろん、日本人の働き手が足りない時代なので「必然」だったとも思いますが......外国人のスタッフが外国人のお客様に天丼を出している光景を見ると、時代の流れについていくことの大切さを実感します。

夏目:海外進出はいかがですか?

用松:2013年10月、タイ・バンコクに1号店を出店し、その後、'14年6月にインドネシア、'15年3月にフィリピンと、1年1カ国のペースで3カ国に出店しました。

夏目:よく「現地化が重要」と言いますが......。

用松:もちろんです。どの国でも日本の「ワンコイン天丼」にあたる「キープライス」を見つけること、あとは、ここにはまるアイキャッチとなる商品をつくることが大切です。例えばタイでは、現地でよく食べられる「なまず」を天丼にし、現地のキープライスである79バーツで出すと、売り上げが一気に伸びました。また、天ぷらとトムヤムうどんのセットもあります。

夏目:食べてみたい!

用松:またフィリピンでは、数人でわけて食べられるシェアメニューも用意しています。日本とは文化が違って、食事に行くとき、みんな「一緒に行こう」となって、次第に人数が増えていくらしいんです。なので、大きなセットがウケるんですね。
一方、日本と変わらない部分もあります。まず、揚げ物は世界各国の皆さん、みんな好きです。あとは海老。海外に出店するたび「うちの国はみんな海老が好きだから」と言われますが、これ、どこの国でも言われます(笑)。また、油は現地の好みに合わせますが、あのサクッとした食感を出すための天ぷら粉は絶対に変えません。

夏目:変化をつける部分とつけない部分、その見極めがポイントなんですね。

用松:ええ。変化させちゃいけない部分は、天丼・天ぷらが持っている本質的なおいしさです。素材の味を活かした口溶けがいい衣、サクッとした食感――これらは変えちゃいけないものだと思っています。しかも、この点、当社は有利なんです。元々、オートフライヤーがありますからね。当社のようにサイエンスがあると「どこで食べても、誰がつくってもおいしい」を実現しやすいんです。実はフライヤーだけでなく「自動飯盛り機」まであります。「ふっくら盛りぞう君」という呼び名なんですが、誰が盛ってもご飯をつぶさずふっくら盛れます。

夏目:なるほど、わかってきました。前回、セントラルキッチンなど、会社だからこそできる強みがある、という話がありました。それは「天丼のスタンダードはこれ」とデザインできる、だから世界に打って出られる、というところにつながっていたんですね。

用松:おっしゃるとおりで、当社はこれを武器に、日本の食文化の代表選手である天ぷら・天丼を世界に広げていこうと夢を描いています。これはロマンがある仕事ですよね (笑)?

夏目:ありますね。安倍首相がオバマ元大統領を招いた「すきやばし次郎」のような店もすごいけど、その対極にある「いつもの味」をつくる技術もすごいとわかりました。ところで用松さん、マスコミ的にはこの際オートフライヤーの呼び名も「サクッと揚げ山さん」とかにしてほしいんですけど、それは無理ですかね?

【プロフィール】
用松靖弘(もちまつ・やすひろ)/1955年、大分県生まれ。'77年3月に同志社大学経済学部を卒業し、ロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。2011年にロイヤルホスト常務へ就任し、'12年より現職

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。
著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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