2022.09.27
【MCL】新時代の先端層「未来行動ファミリー」のインサイトから見る、課題解決のヒントとは ── 博報堂キャリジョ研「共働きファミリーの将来・未来への意識調査」
読者コミュニティを活用して、企業の課題解決に挑む新プロジェクト「講談社メディア・コミュニティ・ラボ(略称MCL)」。その第1弾として2022年7月に「共働きwith」と博報堂キャリジョ研の共催セミナーを実施しました。今回は、セミナーでも取り上げた、博報堂キャリジョ研の「共働きファミリーの将来・未来への意識調査」を深掘り。共働き世帯のインサイトや課題解決のヒントなどについて、セミナーにも登壇した博報堂DYメディアパートナーズの瀧川 千智さんが解説します。
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 博報堂キャリジョ研 瀧川 千智さん
未来に向けた行動を実践する「未来行動ファミリー」
──先日、「共働きwith」との共催セミナーでも紹介された、博報堂キャリジョ研の「共働きファミリーの将来・未来への意識調査」について、あらためて教えてください。
瀧川 2022年の2月、「共働きファミリー」に関するアンケート調査を実施しました。20~49歳の有職者(※)で、結婚して子どものいる男女のサンプルを集めました。そのなかから、未来に向けた課題解決のために行動を移している先端層を「未来行動ファミリー(フューチャーファミリー:以降、FF層)」と私たちは定義しました。
日本は男女格差後進国と言われていますが、総じてFF層はジェンダー平等の意識が高く、「FF層を見れば、未来のマーケットが予想できる」と考えました。なお、FF層とは、3つの課題に対して未来に向けた行動を実践している先端層「家事先端層」「キャリア先端層」「教育先端層」の総称です。
※:総合・一般職・派遣・フリーランスなどは問わず。パート・アルバイトは除く。
未来行動ファミリー(フューチャーファミリー:FF層)は、共働きファミリー全体の27.4%を占める先端層
調査から見えた、家事・育児の分担の理想と現実
──「共働きファミリーの将来・未来への意識調査」の結果から見えてきた、今後のビジネスやマーケティングに活かせるファインディングス(発見や気づき)について教えてください。
瀧川 本調査では、男性にもアンケートを取っています。まず「家事・育児分担」ですが、進んできているとはいえ、調査でもやはり理想と現実には大きな差があり、現状は女性に負担が偏っているという結果でした。
家事・育児の分担の理想は「1:1」と回答する人が男女ともに多いのですが、現実には「女性が6~9割(半分以上〜ほぼすべて)やっている」という回答が約7割でした。
では、家事・育児の負担を減らすための商品・サービスをどう活用しているかといえば、家事代行サービスやベビーシッターなど人的サービスの利用経験は多くありません。
その背景には、"いい母親であるべき""人に頼ってはいけない"という無意識の思い込みがあるのではないでしょうか。
一方、FF層に絞って、同じ設問の回答を見てみると、効率を重視し、外注の家事代行サービスなど利用している人が多くいることがわかりました。
今後はFF層だけでなく、日本全体として、パートナーとだけ家事を分担するのではなく、視野を広げて、外注することで負担軽減するという選択肢も浸透していくのではないかと予想しています。
未来行動ファミリーは、さまざまなグッズを駆使しつつ、ベビーシッターサービスやファミリーサポートなど「人的サービス」も積極的に活用している
家事・育児の分担を人的サービスで補完する「FF層」
──FF層は所得があるから外注サービスを利用できるのでしょうか?
瀧川 それもありますが、人的サービス利用のもうひとつの壁として、人が家のなかに入ることへの抵抗感があるかと思います。お金だけの問題ではない部分もあると見ています。
一方で、その課題を解決するための新しいサービスもあります。たとえば、作り置きの料理を配送してくれるサービスもそのひとつです。知らない人を家に入れずに、家庭料理を自宅で楽しめる。こういった新サービスの利用が増えることで、社会全体で家事・育児を分担するような未来につながると私は考えています。
──家事・育児の分担は、もはや社会問題と言えるほど、多くの家庭が抱えている課題ですよね。
瀧川 はい。家事・育児の分担が上手くいかない理由として、「自宅にいる時間が違う」「忙しさが違う」など物理的な問題が挙がります。次いで「家事の知識とかスキルの差がある」「自分の役割だと思っていない」「やるべきタイミングの認識に差がある」などが挙がっていました。
「他に頼れるだけのお金がないから」を挙げる人は少数であり、家事・育児の分担は、金銭面がネックではないことがうかがえる
──このデータから見えた、FF層にアプローチするためのポイントがあれば、教えてください。
瀧川 共働きファミリーは人的サービスなども利用する、合理的な思考を持っています。同時に、サステナブルへの意識も高い傾向にあります。具体的には、サステナブルな家事に対して、興味関心にとどまらず、実践したいという気持ちを持っています。
これまで共働きファミリー向けの商品やサービスの訴求は、「時短」「ラク」だったかもしれませんが、今後はSDGs的な文脈も重要になると考えています。
FF層の女性は、環境に良い生活や家事に興味がある、子どもの将来のためにもSDGsやサステナビリティが重要だと意識している人が多い
FF層の共感を生むキーワードは「SDGs」
──未来志向のFF層は、やはりSDGsへの関心も高いのですね。
瀧川 「SDGs」を知識として意識しているだけではなく、実践したいというレベルまで到達している人が多いのもFF層ならではの特徴のひとつです。
FF層のなかには、地球の将来・未来について考えるだけでなく、行動し始めている人も多い
──具体的にFF層が求めている、環境や社会に配慮したサービスには、どのようなものがあるのでしょうか?
瀧川 たとえば、私も利用しているのですが、通常は廃棄される「未利用魚」を調理済みのカタチで届けてくれるサブスクサービスがあります。
規格外や市場に出すほど数が獲れないといった理由で捨てられる「未利用魚」は、2020年のFAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界の大半の地域で全漁獲量の約30~35%が廃棄されているそうです。そんな背景があるなか、時短・便利だけでなく、おいしくて、さらにフードロス対策でSDGsにも貢献できるのがこのサービスです。そしてそこに共感が生まれているから、FF層は利用しているわけです。
つまり、商品やサービスを訴求する際も、「この商品・このサービスだとSDGsにどう貢献できるか」まで伝えることで、FF層に支持されるブランドになり得る可能性があります。
博報堂と三井物産が取り組む共創型プラットフォーム「Earth hacks」では、商品やサービスの排出CO2相当量の"削減率"を「デカボ スコア」として可視化しています。そういった数字でSDGsへの貢献を伝えることで、商品の魅力度が増すようなことも考えられます。
教育熱心なFF層が求めるのは、「生きる力」や「価値観の教育」
──SDGs以外にも、注目のキーワードがあれば、教えてください。
瀧川 FF層は「教育」にも熱心です。英語力だけでなく、子どもの自立心を育てる「モンテッソーリ教育」や、性差にとらわれない視点を育む「ジェンダー教育」など、生きる力や価値観の教育ができる場のニーズがより高まっています。
最近では「教育移住」「保育園留学」などの注目度が高まっています。
「教育移住」はその名の通り、子どもの教育環境を充実させるために、拠点を移すことです。それくらいFF層の教育への関心は高いと言えます。
「保育園留学」はもう少しカジュアルで、私の知っているサービスで、首都圏から離れたところに1〜2週間程度滞在しながら、子どもは自然いっぱいの環境でプログラムを楽しみ、親は日中リモートワークで仕事に従事する、というものもあります。
FF層は、学力や英語力だけでなく、「生きる力」や「価値観の教育」への意識が高い
一方で、教育を受けられる場や人が限られているのは不平等ですよね。ならば、子どもたちが生きる力を学べる場を、企業やメディアが協力することで提供できたら、これもまた、社会課題の解決の一助になれるのではないかと考えています。
これも「講談社メディア・コミュニティ・ラボ」との協業で、実現したい夢のひとつです。
社会課題解決型のソリューションを提供していきたい
──先日の共催セミナーでは、ここまでご紹介いただいた調査・分析データを、講談社メディアの読者調査と組み合わせて、さまざまな企業の課題解決、社会課題の解決につなげていくというお話でした。あらためて、博報堂キャリジョ研が「講談社メディア・コミュニティ・ラボ(MCL)」と協業することになった経緯を教えてください。
瀧川 博報堂キャリジョ研は、博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの⼥性メンバーにて、2013年に立ち上げた社内プロジェクトチームです。女性のインサイトを中心に、さまざまな調査・分析を実施していますが、昨今は特に、女性の社会課題として注目される「夫婦間ジェンダーギャップ」「キャリア」「ヘルスケア・フェムケア」を3大テーマに据えて活動しています。
そのなかで、共働きの女性を応援したいという「共働きwith」のローンチ時に、私たちと同じ方向を見ているメディアというシンパシーを感じました。そして、MCLの発足。社内横断プロジェクトで企業の課題、そして社会課題の解決に取り組むという姿勢に共鳴し、今回の協業へとつながりました。
──最後に。博報堂キャリジョ研と講談社メディア・コミュニティ・ラボが協業することで、どのような可能性が生まれるとお考えでしょうか?
瀧川 講談社さんと協業することで、より広く、さまざまな課題解決に寄与できると考えています。たとえば、共働きファミリーや女性の悩みを知ることで、新しい商品やサービスの発想につなげることもできますよね。
そしてその商品やサービスを通じて、社会課題の解決に寄与する。調査・分析から発信までをトータルでサポートする、社会課題解決型のソリューションを提供したいと考えています。課題の大きさはそのまま市場の大きさにもつながります。ぜひ、多角的な視点から企業の課題解決のサポートができたらうれしいですね。
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共働きファミリーの未来・将来に対する意識調査
<調査概要>
●調査地域:全国
●調査対象者: 20~40代の既婚子あり共働きファミリー 5,794名(男性1,951名、女性3,843名)
※総合・一般職・派遣・フリーランスなどは問わず。パート・アルバイトは除く
●調査手法:インターネット調査
●調査期間:2022年2月
●調査委託先:H.Mマーケティングリサーチ
「博報堂キャリジョ研」とは
「働く女性(キャリジョ)」有志で立ち上げられた、博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの社内プロジェクト。働く女性が生きやすいニュートラルな社会づくりを活動パーパスとして、①家庭内ジェンダーギャップの解消②女性特有のへルスケア課題の解決③女性活躍支援の3つのテーマを掲げ、キャリママのサポート、フェムケアの啓発、女子大生の早期キャリア教育などを行っている。
https://www.hakuhodo.co.jp/career-woman-lab/
講談社メディア・コミュニティ・ラボでは、企業の課題に合わせて、メディア(読者コミュニティ)を選定し、調査・分析、発信をトータルでサポートする 詳細はこちら