2021.09.02
編集者×音声でファンマーケティングを加速! 編集力で生み出す、音声コンテンツの強みとは?
新型コロナウイルスの感染拡大によって、さまざまなカタチで生まれた「距離」。そのなかで今、ファンマーケティングに注目が集まっています。会えない状況において、いかにユーザーエンゲージメントを高めるか。「編集者ラジオ」で音声ファンマーケティングの新たな可能性を拓くコンテンツエージェンシー、Pomaloの高橋崇之さんに、お話を聞きました。
Pomalo株式会社 代表取締役CEO 高橋崇之さん
情報過多な現代で「選ばれる」ためのファンづくり
──コロナ禍の現在、ファンマーケティングへの注目度が高まっています。その理由について、どのようにお考えでしょうか。
高橋 ビジネスもライフスタイルも、この1年で一気にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みました。オンラインでのコミュニケーションが増えるなかで、社会全体に流通する情報量が増加し、「消費される情報を届けること」が困難な時代になったように感じます。
私自身、1日に600通以上のメールが届いています。一方で、LINEの未読は2万件以上になっています(笑)。もはや現代に生きる誰もが「情報過多」であり、すべての情報に対応するのは非常に難しい状況と言えるでしょう。
そのような状況で、ユーザーは「誰からのメッセージならば読むのか」。ファンマーケティングが盛り上がってきている背景には、情報社会の現代において「選ばれる」ことが、さまざまなシーンにおいて重要になっているという状況があるからではないでしょうか。
情報が届く手前の「生活者の気持ち」に寄り添い、どうすればファンになってくれるのか。現在、企業が考えなくてはいけないのは、効率的に多くのユーザーに情報を送ることではなく、本当にその情報がほしい、興味があるという見込み顧客に対して、心が動く内容を届けること。「コミュニケーション」の在り方そのものが見直されていると感じています。
ファン化のためには「ストーリー」が必要
──ユーザーを、企業の「ファン」するためには、何が重要なのでしょうか?
高橋 人は、さまざまな物語の積み重ねによって「ファン」になるのであって、いきなり「ファン」になるわけではありません。この物語(過程)をどう作るかがポイントになると考えています。
たとえば、私はテニスが好きなんですが、まず「テニスというスポーツの存在を知り、自ら取り組む」、次に「有名選手を知り、その生き方に共感し......」といった過程を経て、ファンになっています。これはスポーツだけでなく、商品やサービスについても同様ではないでしょうか。
この「ファン化のストーリー」をどう作ればいいのか悩まれている企業の方は多く、当社にもそうしたご相談をいただくケースもあります。
──どのようなご相談があるのですか?
高橋 たとえば、ある大手メーカー様は、新しい商品の開発を熱心に研究し、年間何億円ものプロモーション費用をかけて、テレビCMや広告などを展開してきました。その結果、何百万という蓄積された会員データを保有していたのですが、その会員の「ファン化」には取り組めていませんでした。
そこで、会員となった方々が「何に困っているのか」「何が心を動かすのか」、そのインサイトを深堀りし、複数のコンテンツ(文脈を変えて)を当てた結果の動向データを検証しました。こうして見えた「会員の悩みや求めているもの」は、ユーザーニーズを的確に捉えることにつながり、最適なコミュニケーション構築へと活かされています。
ほかにも、公式通販サイト「サンヨー・アイストア」を展開している総合ファッションアパレル企業「三陽商会」さんは、モノが溢れる時代となり単体ブランドのみで商品を訴求することの限界をを抱えておられました。当社では2018年より、オウンドメディアによるコト文脈による訴求を支援しています。
注目したいのは、閲覧されている「サンヨー・アイストア」の会員の方々からの「コンテキスト(文脈)」に対する反応が見えることです。物作りに強い企業様は、「商品を売ることのコミュニケーション」が中心です。しかし会員に刺さるコンテキストデータが蓄積されると、顧客に長く愛されるための伝え方やそのタイミング、さらには新たなビジネスモデルの可能性が見えるようになります。こうしたユーザーエンゲージメントを高めるためのサポートをさせていただいた事例もあります。
三陽商会の公式通販サイト「サンヨー・アイストア」
編集者の力がファン化を加速させる
──ファンマーケティングの推進のために、「大切なこと」は何だと思いますか?
高橋 私たちが大事にしているのは「アナログの感覚を忘れない」ことです。
たとえば「G-SHOCK」という時計を知らない人にファンになってもらうためには、「G-SHOCK」の特性である耐久性の素晴らしさを訴えるのがセオリーかもしれません。一方で、盤面のデザインや豊富なカラーバリエーションを訴えることでファンになる人もいるはずです。しかし、こうした多角的な視点の「仮説」は、ぼんやりとデータを見ているだけでは導き出せません。
デジタル(機械やAI)は優秀ではありますが、完璧ではありません。ファンマーケティングを加速させるためにはまず、「仮説」を立てることが必須であり、そのためには自分の頭で考えて発想する、アナログかつ柔軟なアプローチが求められます。
ですが、デジタルマーケティングにおいては、この仮説構築が置き去りにされがちです。
「仮説」を的確に立てるためには、独自の専門領域と、そこにまつわる人脈を持っている必要があります。その条件を満たすのが「編集者」であり、編集者の持つ編集力こそが「ファンマーケティング」に欠かせない資質だと思っています。なぜなら編集者は、ターゲットの潜在的なニーズを引き出すのに長けている職種だからです。
「ファン作りには、編集者の力が効果を発揮する」と語る高橋さん
音声コンテンツにも生きる編集者の力
──御社は音声コンテンツプロデュース事業も展開しています。そこでも編集力をコンテンツ設計や制作に活かすことで、ファンマーケティングの支援を行っていますよね。
2021年1月から4月末のわずか4ヵ月で視聴者数247%UPを達成した「編集者ラジオ」
高橋 音声のみで構成し、ネット上で配信する「音声コンテンツ」において、ゲストを迎え、特定の話題を声にして発信していくというのは、専門知識とネットワークが大事です。まさにここにこそ、編集者の力が生かせるのではないかと考え、2020年の秋から「編集者ラジオ」という音声マガジンプロジェクト(音声メディア)をスタートしました。
当時はクラブハウスもまだなく、ファンを抱えている人たちのコミュニケーション手段のなかに「音声コンテンツ」がなかったというのも、参入障壁を下げる一因になりました。
現在は、トレンドから専門性の高いテーマまで、編集者だからこそできる「潜在的にリスナーが求めているテーマ」を盛り込み、専門家や著名人との対談など幅広い番組設計ができています。音声コンテンツは若年層を中心支持を受けています。無機質なものではなく、体温や熱量を感じるものに価値を感じるデジタルネイティブ世代。彼らへのアプローチに有効な点も、音声コンテンツの強みだと捉えています。
そのなかで、たとえば「アンエンユリ」こと、元E-girlsの須田アンナさんとYURINOさんの2人にエモくてゆるい日常トークを繰り広げてもらう番組や、"カープ女子神3"のひとり、古田ちさこさんにプロ野球チーム・広島東洋カープへの愛を叫んでもらう番組などは非常に人気の高いコンテンツです。
──若年層以外の層にも、音声コンテンツは刺さるのでしょうか?
高橋 「コドモノ ハナシ、」という子ども向けの音声マガジンは、ポッドキャストの子育てカテゴリーで1位、キッズ/ファミリーカテゴリーで2位を獲得するなど多くの方に聞いてもらっていますが、この番組をきっかけに、子供向けイベントへの企画依頼や、書籍化などへと展開が広がっています。
音声から入って立体的に展開していくという新たなカタチ示せた好例だと感じています。
この子らしい育ち方とは? 自分らしい母親像とは? さまざまな価値観に触れる子育て音声マガジン「コドモノ ハナシ、」
ファン化のためには、多数の選択肢から何を選ぶかが重要
──最後に。ファンマーケティングにこれからトライする企業へのメッセージをお願いします。
高橋 どうしたら自社の商品やサービスを好きになってもらえるか。その延長にファンづくりがあります。しかしその仮説は、ネットでいくら検索しても答えは出てきません。
商品やサービスを利用されている顧客を理解している事業会社や、担当している広告会社だからこそ「ファン化するための仮説」を生み出すことができると思います。仮説ができれば、次にアクション。自然と必要なコミュニケーションが見えてくるのではないでしょうか。
講談社さんのような出版社メディアと組むことや、弊社のような、編集者の力を生かしたファンマーケティングの支援企業を活用することも、選択肢のひとつです。
「ファンマーケティングにはさまざま手段がある。音声コンテンツもそのひとつ」と語る高橋さん