【第15回】アフターコロナの時代に、変わりつつあるSDGsと広告の関係

2020年09月16日

<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ

「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。
コロナ禍であらゆる常識や需要が変わりつつある昨今、改めてサステナビリティの重要性が注目されています。どんな状況下でも、人々の暮らしと環境に対し普遍的に向き合うべき課題がまとまったSDGsは、ウィズコロナの指針としても有効です。
マーケティングの4Pとともに考えていく今回は、Promotion(プロモーション)がテーマです。最新事例を挙げながら、広告プロモーションとSDGsを重ね合わせていく方法について考えます。

日常を変えねばならないいま、SDGsとプロモーションの交点とは

SDGsへの取り組みが果たして広告の効果を高めるのか?この問いは、多くのマーケターが悩む根本的な課題だと思います。
SDGsと広告との関係性を整理しないまま施策を進めれば、その取り組みはCSR的な立ち位置に落ち着くでしょう。多くの企業のSDGsへの取り組みが副次的な印象を受けるのは、事業や広告、ブランディングと直結していないからです。
商品認知やファン醸成という広告の目的と、持続可能な社会づくりというSDGsの存在意義。二つは一致していないように見えますが、コロナ禍で重なる領域が増えつつあります。

私たちは安全な暮らしを考え直す時代と直面しています。これまで問題視されなかったことが問題視され、習慣化していた日常を変えなければならない。世界共通の認識として、感染リスクを下げるという命題が掲げられている。
こうした現状は、あるメッセージを私たちに発しています。それは、習慣化した生活を見直すことは一方で「世界共通の課題として、持続可能な社会づくりを進める機会となりうる」ということです。

今日、明日の生活に不安を覚える人もいる昨今、このメッセージが届く範囲は限られているかもしれません。しかし、ニューノーマルに向けてソーシャルグッドな消費やルールを呼びかける企業は、長い視点で見れば信頼性の高い企業として認知されていくはずです。
そこで、今回はアフターコロナにフィットする持続可能なプロモーションの在り方を、広告の現状から紐解いていきます。また、それら事例とSDGsとの関連性についても考えていきましょう。

ブランドパーパスとSDGsを重ね合わせた広告プロモーション

ブランディングの重要性は言うまでもないことですが、最近ではその前提となるブランドの目的『ブランドパーパス』をどのように作っていくか?が問われています。
ブランドパーパスとは、企業や商品のブランドが社会にどのような価値をもたらし、どんな未来を築いていくかを示したものです。このブランドパーパスを考えるときには、消費者やステークホルダーの視点が欠かせません。ブランディングは企業のビジョンが根幹にありますが、ブランドパーパスは社会課題をもとに考えなければならないからです。
このブランドパーパスをプロモーションに活かすと、それ自体が社会への問題提起になることもあります。社会課題にへの向き合い方によっては、一部消費者の反対意見を増やすこともあり得えます。

スポーツブランドのナイキは、有名なアスリートたちの姿からスポーツのすばらしさを伝えるキャンペーンを続けていますが、2018年にフットボールプレイヤーのキャパニック選手を起用しました。キャパニック選手は2016年、警察官の黒人射殺事件に批判の意志を表明。試合前の国歌斉唱の際に起立しないことで反発を示した姿が物議を醸しました。

極めて政治的な意味性の強いキャパニック選手を起用したことで、本キャンペーンには賛否が巻き起こり、大変な話題となりました。ナイキのスニーカーを燃やす動画投稿、トランプ大統領によるナイキ批判などの炎上騒ぎが重なり、一時ナイキの株価は下落しました。

しかし、リスクを抱えてでも「スポーツは、すべての人の自由や平等と共にある」という企業の姿勢を示したナイキの支持は広がり、ナイキに賛同する著名人の声明が相次ぎました。本キャンペーンの影響力はこれまでのキャンペーンよりも大きく、ナイキブランドをさらに広める結果となりました。ナイキがどんな未来を目指すのかが、このキャンペーンを通じて人々に浸透したからです。

ヘアケアブランド・パンテーンの「Hair We Go」プロジェクトも、ブランドパーパスを高めるプロモーションの一例です。
「自分の髪を大切にし、自由に美しく見せる」ことを目的に、いくつかのキャンペーンが連動している本プロジェクトのスローガンは「さあ、この髪でいこう。#HairWeGo」。例えば、毛髪が生まれながらに茶色であるにも関わらず、黒く染めることを強制する校則に対して問題提起した「#この髪どうしてダメですか」は、SNSを中心に広く伝わりました。
キャンペーンは署名活動に発展し、約2万の署名を受けとった東京都教育庁は、「一律で黒染めを強制する指導はしない」と方針を改めました。

「Hair We Go」プロジェクトでは、ほかにも「同じ髪型を選ばなければ結果に影響する就職活動」に対する問題提起や、特殊な髪質を誇れるストーリー・キャンペーンなどを展開。毛髪をテーマに、慣習の見直しや人々の豊かさを啓発するメッセージを発信し続けています。

コロナ禍の屋外広告を用い、企業価値を高める試みを行った事例もあります。
屋外広告のリーディングカンパニーであるデザインエージェンシーたき工房は、都内の特大ビジョンを利用して『今だけは、屋内を楽しもう。』というメッセージを発信。外にいる人々にSTAY HOMEを呼びかける姿勢を示しました。
繁華街の人の往来が少なくなり屋外広告の価値が問われる中、それでも「社会のためにある屋外広告と、それを創る企業」としてメッセージを発信しました。

アフターコロナの時代に選ばれ続けるために、企業は社会に貢献する具体的なビジョンやメッセージを掲げることが大切です。プロモーションは商品販売の手段ではなく、ブランドパーパスを示す機会として再定義されていくでしょう。
ブランドパーパスを意識したプロモーション施策と向き合うとき、直接的にSDGsを打ち出す必要はありません。今回紹介した事例は、いずれもSDGsの開発目標である"人や国の不平等をなくそう"や、"住み続けられるまちづくりを"、"すべての人に健康と福祉を"に触れる内容ですが、SDGsに触れるものとして発信されているわけではありません。

SDGsは、事業と社会課題の交点を定めるためのヒントになるものです。持続可能な社会のために何をすべきか軸が定まらないときは、SDGsの目標と事業内容を照らし合わせながら施策を考えていくと、より価値の高いプロモーションが生み出せるはずです。

個人経営店のSNS発信から学ぶユーザーコミュニケーションの将来

ここからはややSDGsから離れますが、事業を「持続可能」とする広告コミュニケーションについて考えます。
SNSマーケティングの影響力の大きさは、ここ数年でさらに顕著になりました。ユーザーを巻き込んだマーケティング施策や長期的に見た関係構築が、大きなマーケティングパワーにまで育った事例が多くみられます。
そしてウィズコロナの時代、プロモーションを目的としたSNSの持つ意味は少しずつ変化してきたようです。

トレンドとして挙げられるのは、個人経営店舗(飲食、理美容、アパレル)によるSNS発信が盛んになったことです。これは必然が生んだ結果でもあります。コロナ禍で稼働時間やメニューの更新が変わるため、確実に最新情報を届けられる場は大手プラットフォームからSNSへと移行しています。
そして活発になった各店のSNSアカウントは、ロイヤルカスタマーとの関係性を深める場として機能し始めました。コロナ禍で各業界が経済的な打撃を受ける中、消費者は「より支援したい」と感じる店舗やサービスの情報を集めるようになりました。
こうした変化の結果、SNSは地域密着型の有機的なメディアとして活用され始めました。そこではユーザー同士のつながりが可視化できることも魅力の一つとなりつつあります。

東京・下北沢の寿司屋「鮨ほり川」の店長・堀川さんは、より店舗に足を運んでほしいという想いからTwitter、Instagram、noteの運用を開始。70代の店長が自ら工夫を凝らして運用するアカウントには多くの支持が集まり、コロナ禍で飲食店が苦戦する中でも着実にフォロワー数を増やしています。

来店したお客さんとの交流はSNSでつぶさに可視化され、中には1000以上の「いいね」や「スキ」を集める投稿も。その投稿内容は店の開店情報や予約状況、メニューの写真、そして店長の想いをつづったものです。いわゆる"バズる"ことを目的としない当事者による地道な運用が、最善のプロモーションとして効いています。

企業同士や店舗同士のクローズドなコラボレーション事例も増えつつあります。双方の常連の送客が期待できる一方、地域密着型で人数制限できるコラボレーション企画は、時代のニーズに合った施策と言えるでしょう。常連客を中心に新たな魅力を伝えるキャンペーン方法は、顧客満足度を高める機会としても効果的です。

集客することが難しくなった時代、一人ひとりのユーザーと持続可能な関係を築くことの重要性が高まっています。ユーザーとの親密なコミュニケーションはサービス改善につながり、消費者の暮らしやすさの向上にも結びつきます。
今後ユーザーと共に育てるSNSコミュニティは、より効果の高い広告手段となり、各地域の経済成長や暮らしやすさにも貢献していくでしょう。

アフターコロナの広告は「広く見せる」から「狭く魅せる」へ

プロモーションの在り方は、コロナ禍で徐々に変容しつつあります。コロナ以前のマーケティング戦略でも重要と言われてきたサステナブルな施策が、より効果を表す時代になったとも言えるかもしれません。

多額の投資で波及力を高める施策より、厳選した対象に信頼性の高いメッセージを伝えることが、今後の広告価値になります。対象の絞り方は地域性であったり、課題の具体性であったりさまざまです。いずれにせよ、社会や一人ひとりの生活にとって価値のあるメッセージを広告から伝えることが重要です。

SDGsには、そうした社会へのメッセージ発信のヒントが詰まっています。これまでSDGsにはCSR的な観点で取り組む企業も多かったと思いますが、アフターコロナの時代にはよりプロモーションに生かしていくことができるはずです。
漠然としたメッセージや心的距離の遠いキャンペーンは、人々の心を捉えません。具体的な課題解決の姿勢を見せるために、SDGsを改めて見直し、どんな形で取り組んでいくべきかを検討してみてください。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

記事カテゴリー
SDGsと担当者