SDGsを企業の成長戦略に据え、サステナビリティの実現に取り組むユニリーバ 企業のSDGs取り組み事例Vol.12

2020年06月17日

「環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させる」というビジョンを掲げ、ビジネスの成長とサステナビリティの両立に取り組んでいるユニリーバ。ユニークな人事制度や採用選考など、人事戦略でも注目を集めています。企業活動やマーケティング、広報にSDGsをどう活用しているのか。実際の取り組みについて聞きました。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 アシスタントコミュニケーションマネジャー 新名 司さん
ユニリーバのロゴは、事業や価値観を表す25個のアイコンからできており、
「毎日の小さな積み重ねをよりよい未来のための大きな力につなげていきたい」
という思いが込められている

ビジネスを通じて、暮らしをよりよくしたい

──ユニリーバは、SDGs以前からサステナビリティの実現を目指していた企業です。「SDGs」という概念を意識し始めたのは、いつ頃からですか。

新名 実は弊社では「特別にSDGsに取り組んでいる」という意識は、今でもあまりないんです。創業者ウィリアム・ヘスケス・リーバは、1880年代、英国に衛生的な習慣を広めるため、「サンライト」石鹸を発売しました。ビジネスを通じて暮らしをよりよくしたいという創始者の目的意識や使命感は、現在もユニリーバの企業文化の一部として、脈々と受け継がれています。

つまり、ユニリーバにとって、事業成長とサステナビリティの両立を目指すことは、創業時から続く"当たり前"なんです。実際、「サステナビリティを暮らしの"あたりまえ"に」という独自のパーパス(企業としての目的・存在意義)を掲げ、SDGs登場以前の2010年の時点で、「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入しています。

「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」で示された、
ユニリーバのバリューチェーン(価値連鎖)の図

──「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」について具体的に教えてください。

新名 ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランは、環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指す事業戦略です。「10億人以上のすこやかな暮らしを支援」「製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減」「数百万人の暮らしの向上を支援」という3つの分野で、9つのコミットメントと50以上の数値目標を設けています。SDGsが登場した時にあてはめてみたところ、17の項目すべてを網羅していることがわかりました。

ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランは、さまざまな社会課題の中でもユニリーバの消費者と事業に関わりが深く、ブランドを通じて変化が起こせる分野を中心に設計されています。たとえば、「すこやかな暮らし」の分野では、衛生問題の深刻な国々では石鹸を使った手洗い啓発や朝晩の歯みがき啓発、日本など先進国ではダヴを通じた自己肯定感の向上などを行ってきました。今年導入で10年目を迎えますが、8割以上の取り組みで目標を達成済です。

すべての取り組みに共通しているのは、「サステナビリティを暮らしの"あたりまえ"に」というパーパスの実現につながるものであること。単に目の前の課題を解決するのではなく、先にパーパスを掲げて未来を描き、そこから逆算して現在の施策を考える発想は、SDGsの実践に欠かせないバックキャスティングに通じるものがあるかもしれません。

国や地域によっては、製品を小分けにして低価格で販売することで、
誰もが衛生的な生活がおくれるよう、工夫を凝らしている

ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランによって、社会や環境によい影響が出ているだけでなく、ブランドが成長し、就職活動中の方からの人気が上がったり、製造コストや調達リスクを削減できたりと、ビジネスにも非常によい結果が生まれています。

社内への浸透。SDGsの取り組みはそこから始まる

──まだSDGsという考え方がなかった時代、サステナブルを事業のメインに据えるのは大変だったのではないでしょうか。

新名 今でこそ「サステナブルなビジネス」への賛同をいただく機会も増えましたが、導入当時はうまくいかないことも多々ありました。

2010年は、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」という言葉も今ほど一般的ではありませんでしたし、「社会貢献はお金がかかる」という考え方が主流でした。そんななか、一企業がここまでの規模で、数値目標まで掲げてサステナビリティに取り組むことは異例ともいえることでした。そのため、発表直後は「利益が見込めそうにない」と株価が10ポイント近く下がりましたし、社内でもとまどいや不安の声がたくさんあがりました。

──逆風の中、サステナビリティへの共感を、どう社員に浸透させていったのですか。

新名 ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランは、いわゆる慈善事業ではなく、企業としての成長戦略です。「これをやらなければ、企業として生き残り、成長し続けることはできない」という強いメッセージを、前グローバルCEOのポール・ポールマンをはじめとする経営陣が、全世界15万5千人の社員に向かい、ありとあらゆる機会を使って伝えていきました。トップダウンだけではなく、社内の有志によるコミュニケーションも行っています。

昨今、「サステナビリティに取り組まなければ生き残れない」といわれるようになりましたが、ビジネスとして続けていくためには社内への浸透が必須です。社員のマインドから変えていく。SDGsへの取り組みは、そこから始まるといっても過言ではありません。

「ジェンダー平等」の視点から、顔写真の提出と性別の記入を排除

──SDGsでは、「ジェンダー平等」もゴールのひとつとして設定されています。ユニリーバ・ジャパンでは、社員採用の履歴書から、顔写真の提出と性別の記入をなくしたそうですね。

新名 はい。従来からジェンダーや年齢などに関係なく、個人の適性や能力のみに焦点を当てた採用をしていましたが、「LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャルダメージケア プロジェクト)」の一環として、2020年度から、ユニリーバ・ジャパンのすべての採用選考の過程で、顔写真の提出や応募者への性別に関する一切の項目を排除しています。この決断は大きな反響を呼び、「LUX」ブランドに共感し、応援してくださる声も届いています。

性別に関する表記を一切なくすことを宣言した採用選考の告知

SDGsへの取り組みが、結果的に企業のBCP対策にもなった

──この取り組みを実施した背景を教えてください。

新名 ユニリーバでは、多様な人材が自分らしくいきいきと働くことが、ビジネス成長の基盤だと考えています。そのため、人材育成や人事制度においても、社員一人ひとりが自分らしくあり、能力を最大限に発揮できるようにしていくことを重視しています。

ユニリーバ・ジャパンでも、「よりいきいきと働き、健康でそれぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る」という働き方のビジョンのもと、2016年7月に「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を導入しました。

「WAA」は働く場所と時間を自由に選べる新しい働き方です。理由を問わず、自宅やカフェ・図書館など、会社以外の場所でも勤務できます。また、平日5時から22時の間で、自由に勤務時間や休憩時間を決められます。工場と営業の一部を除く全社員が対象で、期間や日数の制限がありません。

「WAA」の導入以来、日常的にリモートワークを実施してきた結果、新型コロナウイルス感染症対策のための在宅勤務への移行もスムーズに行うことができました。SDGs的な取り組みを行っていたことが、結果として企業のBCP対策にもなったと実感しています。

──SDGsに取り組むことは、さまざまな効果を生むのですね。

新名 弊社はSDGsプロジェクトのパートナーとして『FRaU』様とも一緒に活動を行っていますが、電通Team SDGsの調査によると、国内のSDGs認知度は、『FRaU』の初のSDGs特集号が発行された2018年時点での14.8%から、2020年4月の時点では29.1%にまで上がったといいます。

『FRaU』のSDGs特集号第一弾「FRaU SDGs 世界を変える、はじめかた」は、
世界でも類を見ない、全編SDGsを特集した女性誌として大きな話題となった

環境や経営の専門誌ではなく、『FRaU』のような女性誌が発信してくださったことは、生活者一人ひとりの意識を変える大きなきっかけになったように感じます。弊社だけではできないことも、パートナーを増やしていくことで、もっと大きな変化を生み出せると確信しています。ビジネスを成長させながら、人々も地球も豊かに存続できる社会の実現を、これからも目指していきます。


「サステナビリティを暮らしの"あたりまえ"に」を掲げ、よりよい未来の創生を目指しているユニリーバ。世界中の人々が毎日を豊かに暮らせる社会の実現に向けて、確固たる価値観と使命を持ち、環境負荷を減らしながらビジネスを成長させていく姿勢に、SDGsの本質があるように感じました。つねに先を見据える同社の今後の展開に期待が高まります。

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