【第5回】ターゲット別で考える、サステナブル・マーケティング事例集

2020年03月31日

<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ

「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。今回は、ターゲットを起点としてサステナブル・マーケティングを考え、事例とともにひもときます。

「サステナブル」の捉え方はターゲットによって異なる

「サステナブル」への関心が高まりつつある昨今、サステナビリティを前提とした事業展開やマーケティングの事例は国内外で増え続けています。SDGsをテーマとした取り組みも、多くの企業で発信されるようになりました。
そこでさまざまな業界での取り組みと反響をまとめていったところ、「サステナブル」の意義がターゲットによって変化している様子がつかめてきました。

「サステナブル・マーケティング」というと、テーマに意識が集中しがちですが、ターゲットの視点に立った従来のマーケティング手法に立ち返ることも大切です。例えば、ターゲットの年齢層・性別・居住地や置かれる環境などによって、「サステナブル」の定義や意義、意識はどう変わるのでしょうか?
このような視点でサステナブル・マーケティングを掘り下げるために、いくつかの事例をご紹介していきましょう。

事例1: 親子には「教育」の視点からサステナブルを啓蒙する

ベネッセ「サステナブルな社会へ」子ども向けページ

通信教育や出版事業を展開するベネッセ・コーポレーションは、子どもを対象としたSDGs関連のワークショップやイベントを継続的に開催しています。国際理解や環境問題など扱うトピックは幅広く、子どもたちが柔軟な視野で現代社会を学ぶための機会を創出しています。
同社のオウンドメディア「サステナブルな社会へ」は、大人向けと子ども向けそれぞれにページを分けており、子ども向けのページでは簡易な表現とルビ付きのテキストによるSDGsの説明を掲載しています。こうしたウェブサイトの構成そのものがターゲットを理解し、寄り添ったものであることも特徴的です。

未来を担う子どもたちを対象としたサステナブル・マーケティングは、教育業界はもちろん、親子向けの事業を展開する企業にとって取り組みやすい領域です。
子どもたちへのアプローチを通じたサステナブル・マーケティングは、社会の未来につながるという点でストーリーがわかりやすく、共感を得られやすいからでしょう。ただし、コンテンツが平易なものとなりやすいため、どのように自社の個性を打ち出し、ターゲットの心をつかめるかが戦略構築の鍵となりそうです。

事例2: 20〜30代女性には「普遍のトレンド」としてサステナブルを訴求する

女性に対するサステナブル・マーケティングとして有効な手法は、ファッションアイテムの紹介や、著名人を通じたメッセージ発信などです。
近年はファッション業界からサステナブルなアイテムのリリースが相次いでいます。環境破壊の軽減につながる素材を用いた衣服や、ジェンダーレスなデザイン、幅広い体型や肌の色に応じた選択肢を提示するブランドなどその方向性はさまざまですが、いずれもSDGsと通じた課題を扱っています。
こうしたことが普遍のトレンドであると提示し「持続可能なアイテムを選ぼう」と発信することが、女性の反応や消費などのアクションを引き起こすきっかけになっています。

女性向けワンテーマ・メディア「FRaU」は、2018年よりSDGsをテーマとした特集号の発売など、継続的なメッセージ発信に取り組んでいます。また、同誌のウェブメディアでは、SDGsをひとつのジャンルとして扱い、環境問題や女性の生き方をテーマとした記事を展開しています。
「社会に働きかける女性たち」というターゲティングとSDGsの掲げる課題意識は重なる部分も多く、共感を得られやすい領域と考えられます。このターゲットに対し、ファッション、ヘルスケア、メイク用品などの企業と連携して発信する展開は、SDGsを普及させていくための基軸として大きな影響力を持つでしょう。

事例3:ミレニアル世代には「当然の取り組み」としてサステナブルを示す

パスカルマリエデマレ(PASCAL MARIE DESMARAIS)オンラインショップ

ミレニアル世代はサステナビリティに対する関心が強く、各企業のSDGs関連の取り組みを肯定的に受け入れています。それを受け、ミレニアル世代向けのブランドでは、スタンダードなテーマとしてSDGsを扱うケースが多くなっています。

モデルのマリエが立ち上げたブランド「パスカルマリエデマレ(PASCAL MARIE DESMARAIS)」は、廃棄予定の端材を使ったラグを起点に、メッセージ性の強いアイテムを販売しています。しかし、同ブランドはサステナブルであることを自ら語っておらず、流行と消費を前提とするファッション業界のビジネスモデルそのものに問題提起するコンセプトを打ち出しています。その姿勢は、多くのミレニアル世代から共感を呼びました。

D2Cムーブメントの立役者ともなったスニーカーブランド「オールバーズ(Allbirds)」も、ミレニアル世代を中心に口コミが広がったブランドのひとつです。同ブランドのスニーカーはTime誌で「世界一快適なシューズ」と評価されるほどの機能性を持ちながら化学繊維不使用であり、環境問題に考慮した商品という点が高く評価されました。

このように「サステナブル」を副次的なテーマとして強調するのではなく、アピールするまでもない当然の取り組みとして見せるほうが、ミレニアル世代の共感は得やすいようです。ミレニアル世代は消費行動を自己表現の一つとして捉えるため、社会貢献をスマートに体現する事業内容や商品に惹かれるのかもしれません。

ヒント1:男性をターゲットとしたサステナブル・マーケティングは未開拓

ここまで、サステナビリティを基軸としたメッセージ発信について特徴的な例を紹介しましたが、男性向けのサステナブル・マーケティングについては事例が少ない印象です。「オーガニック」や「エコ」、「エシカル」などのキーワードは、男性より女性のほうが強く関心を持つためかもしれません。
「サステナビリティ」は性別を問わず、全人類共通の課題です。今後、男性の視点に立って訴求するサステナブル・マーケティングの事例が増えていくことによって、さらに意識は深まるはずです。

男性向けのサステナブル・マーケティングの指針について考えるときのポイントは「SDGsへの当事者意識」です。
ここまで挙げてきた事例を振り返れば、いずれのターゲットに対しても「SDGsに掲げられた使命を当事者として考える」ことを核として発信しています。
「質の高い教育」は子どもの未来に直結するものであり、「ジェンダー平等の実現」は女性の雇用問題や、自由な生き方を選択する難しさを解決する糸口となるものです。また、環境破壊による自然災害の増加を目の当たりにするミレニアル世代にとって、環境維持は豊かな生活を維持するために取り組むべきテーマです。

したがって男性に対しても、当事者意識を抱けるテーマでメッセージを構築することが、今後考えるべき課題です。自社の商品やサービスと掛け合わせ、どの点において男性の当事者意識に訴えられるか、検討してみると良いかもしれません。

ヒント2:高齢者の視点に立ったサステナブルを追求する

消費の中心がミレニアル世代に移行していくと言われる昨今ですが、人口比率の多くを占めるのは高齢者層です。
高齢者の暮らしに寄り添う環境整備やサービス提供は今後ますますニーズが高まるでしょうし、そのニーズに対してどのような情報を伝えるかがマーケターにとってひとつの課題です。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の『エコ活動・SDGsに関するアンケート調査』(2020年2月)によると、50?60代の女性はエコに対する意識が高く、エコバッグの持参やゴミの分別など生活における実践例が他年齢層より高いことがわかりました。
また、SDGsのなかでもっとも共感する項目は「すべての人に健康と福祉を」であることも示されています。SDGsの掲げる「住み続けられるまちづくりを」の小項目にも、高齢者の視点に立ったまちづくりの必要性が挙げられています。

こうした交点を探りながらSDGsに対する理解を深め、健康な生活を支えるための情報や実践方法の提案を高齢者に対して発信していくことは、ニーズに適したサステナブル・マーケティング戦略と言えるでしょう。

ヒント3:都心と地方で「サステナブル」の基準は違う

「サステナブル」を基軸にマーケティングを考えるとき、地域による課題の変化も視野に入れたほうがよいでしょう。
都市部で暮らすユーザーに向けた情報発信メディアでは、SDGsやサステナブルをテーマにしたコンテンツの多くが「マンションのベランダで可能な農業」や「フードロスを抑える工夫」などで、一人ひとりのライフスタイルの改善という観点が主軸です。
一方、地方では「まちづくり」や「地方創生」といった地域全体に関わるトピックが目立ち、人々の暮らしを支えるインフラそのものを持続可能なシステムに切り替えていくことがテーマとなっています。

教育やジェンダーといったテーマへの価値観の違いも、都市部と地方では大きく異なることがあります。その差を理解したうえで、ターゲットの価値観にフィットしたメッセージを選んでいくことも重要です。


ターゲットにより適切な戦略を選び、インパクトのあるサステナブル・マーケティングを実践する必要性について、おわかりいただけたでしょうか。
「サステナブル・マーケティング」の枠組みで見たとき、ターゲットに寄り添った戦略には大きな振れ幅があります。自社商品やサービスの顧客層と照らし合わせ、どのようなポイントが特に顧客の心に触れるコンテンツやメッセージを生み出すものなのか、一考してみましょう。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

記事カテゴリー
企業のSDGs取り組み事例