2020.02.18

【第3回】地方創生とサステナブル・マーケティング その交点とは

<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ

「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。今回は地方創生と企業の関係性を紐解き、持続可能な事業展開とマーケティングのヒントを探ります。

地方創生にも持続性が必要

「地方創生」という言葉が第二次安倍内閣の発足とともに社会に広められてから、はや6年が経とうとしています。雇用創出や地域同士の連携、人の呼び込みなどの基本目標に基づき、各地ではさまざまな事例が生み出されてきました。
その事例の多くにはパートナー企業の存在がありますが、各企業にとって地方創生はCSRの一環であったり、短期的に取り組むプロジェクトであったりすることが多いようです。
しかし事例の一つひとつを観察していくと、企業の取り組みが地域に根付いて自走するケースは少なく、立ち消えてしまっているものも目立ちます。「まちを変える」ことの難しさが年月とともに浮き彫りになっていることがわかります。

本来理想的な形は、地方の雇用創出や活性化そのものが、何らかの事業として成立することです。ソーシャルグッドな取り組みが収益を生み出す仕組みづくりを念頭に置けば、地方創生は企業に長期的な実りをもたらすはずです。
この考え方は、本連載がテーマとする「サステナブル・マーケティング」とも親和性の高いものです。連載第一回にて、持続可能なマーケティングのポイントは、長期的な目標設定と消費者との連携、そして社会課題解決に資することであると述べましたが、地方創生はまさにこの3点と深く関わるテーマです。

サステナブルな地方創生とマーケティングの掛け合わせが、企業と地方にどのような価値をもたらすのか。今回は、その可能性を感じられる事例をいくつか紹介します。

「ファミリーロッジ旅籠屋」の長く自然な挑戦事例

1994年創業の「ファミリーロッジ旅籠屋」は全国に約70店のロードサイドホテルを有し、2020年現在も事業拡大を続けています。
安価での素泊まりを提供する地方経営の宿泊業は、創業当時の日本では類を見ない挑戦でした。米国のモーテルを手本にしたビジネスモデルの根源には、中高年層の人々の雇用創出と、旅先で気軽に宿泊したいニーズに応えること双方への想いがあります。

住み込みのオーナーが最低限のリソースで経営できるよう設計された小規模なホテルは、来客見込み数の少ない地方でも収益を担保できます。また、寒冷地の店舗では雪を利用した空調設備を作り、約8割の空調費の削減を実現しました。

参考記事:サステナブル・ブランド ジャパン

このようなアイデアや経営スタイルは、地域ならではの資産や特徴を理解し、エコな経営を徹底したからこそ生まれたものです。

旅籠屋の地域特化型の経営は国が「地方創生」を定義する以前から始まり、今もなお続いています。そして、近年は地域経済に貢献する企業として名が挙がることも多く、ソーシャルグッドな展開は企業のブランド力にもつながっています。
当初から利益拡大を目指したわけでも「地方創生」を意識したわけでもない旅籠屋の挑戦が、結果として企業と地方の関係性を深め、持続的な価値を生み出し続けているのです。

島との共生を事業化した「小豆島ヘルシーランド」の事例

旅籠屋のように全国各地に拠点を増やしていくスタイルもあれば、ひとつの地域に密着する形で事業を展開するスタイルもあります。

小豆島ヘルシーランドのメイン事業は、オリーブ栽培と関連商品の販売です。そのほか島内イベントの企画・主催、島の魅力を伝える出版物制作やアートプロジェクトの推進など、島全体の経済に貢献する事業を行っています。
同社が掲げる「オリーブと共に生きる」というビジョンは、自社商品を利用する生活のみを表現しているのではなく、オリーブを象徴する小豆島での暮らしを意識したものだと考えられます。

島への貢献は、CSR的な価値を持ちつつも事業のひとつであり、採用活動も企業としての営みである一方で移住者増加などの実りを島にもたらします。その島の生活や豊かな文化を背景に感じさせる一連の企業活動は、強いメッセージ力となって企業の信頼性やブランドを支えています。小豆島ヘルシーランドの商品を選ぶことは、小豆島の暮らしを守り、経済を活性化させることにもつながるからです。

小豆島ヘルシーランドの成功は、地域と企業の関わり方の見本とも言えます。地域に拠点を絞ることはリスクの高い選択に見えるかもしれませんが、それを強みとして商品や企業の価値に変換しているからです。
そして小豆島とセットで作られた企業イメージは、顧客層の拡張も叶えます。オリーブ関連の商品の購入を考えるメインターゲットのほか、小豆島に愛着を持つ人々や、ソーシャルグッドな商品を選びたい人々など、多様な層が小豆島ヘルシーランドのオリーブを選ぶ理由を得るからです。
また、地方創生そのものを目的としているのではなく、企業理念や事業内容がこのような結果を導き出しているところが旅籠屋との共通点です。

まちづくりを主軸に幅広い事業展開に挑む「エーゼロ」の事例

エーゼロ株式会社は、岡山県の西粟倉村を拠点にローカルベンチャー育成事業を展開しています。村役場や林業関連企業、組合とパートナーシップを組み、これまでに10社を超えるベンチャー企業の創業をサポートしました。そして、同社の一連の取り組みは西粟倉村の移住者増加や雇用創出に寄与しています。

エーゼロと地域の関わり方は、まるで自然の生態系のようにまじりあうものです。ベンチャー企業の誘致を目的としたイベントを開催しているかたわら、地元の木材を利用した建築・不動産業も手掛け、またその一方でサステナブルなうなぎの養殖にも挑戦。
それらの事業の分野は関連性を感じられませんが、いずれも地域の特色を生かしたものであり、村の人々と連携しているからこそ実現する事業であることが共通点です。

さらに、それぞれの事業は地域のイメージアップにつながる商品や体験を生み出すものであり、外の人々の注目を地域に集めるきっかけとなるものです。それらの情報はオウンドメディア「Through Me(スルーミー)」に掲載され、各地域で生き生きと価値を生み出す人々の姿が描かれています。

ひとつの事業にこだわることなく、その地域の特色や課題から事業を次々と生み出していく。いわばその地域のプロフェッショナル、専任コンサルタントのような存在。これも、地方と企業が良い関係性を築くためのひとつの在り方です。
エーゼロは西粟倉村のほか北海道厚真町でも同様の展開に挑んでいます。各地域に密着した事業創出と地域活性化のサイクルモデルは、全国各地で同様の成功の可能性を秘めていると考えられます。

伴走型コンサルティングで地域のプロジェクトを実現する「さとゆめ」の事例

事業創出と地方創生の持つ可能性を事業化し、ひとつの地域にこだわることなく全国各地で地域活性化や特産品のブランディング等を試みているのが株式会社さとゆめです。

さとゆめは「ふるさとの夢をかたちに」をミッションとし、各地域の特産品開発やイベント出展のサポートを続けています。同社は、かつてシンクタンクやコンサルタント会社で地方創生に関わったメンバーが集い創業し、計画を形にするプロセスをトータルサポートする"伴走型コンサルティング"を推進しています。

さとゆめはここまで紹介してきた各社とは異なり、プロジェクト単位で地域と関わる、いわば地方創生のプラットフォーマー的な立ち位置です。
よく見る地方創生の失敗例として「他の地域での成功例をそのまま転用する」ことが挙げられますが、さとゆめは他の地域での事例を生かしながら、各地域に適切な形で応用するための仲介役を果たしています。

全国各地の価値を専門的な視野で観察し、その価値を高めるために貢献することは、もしかするとさまざまな業界の企業が挑戦できるかもしれません。重ねた知識や経験を地域に還元することで新たな価値を共に創り上げていくことも、企業と地域の良い関係性のひとつと言えるでしょう。

地方創生×サステナブル・マーケティングの切り口で企業価値を考える

今回は地方創生をテーマにさまざまな企業の取り組みと地域の関係性をまとめました。いずれも、企業が地域の価値を生み出すことが、双方のブランディングやマーケティングに影響を与え、さらには持続可能なシステムを作り上げている点が共通点です。
それぞれが取り組んだ事業と生み出した価値を並べてみましょう。

・集客の少ないエリアで雇用を生み出す事業展開=自社の価値を高めるメッセージ化
・島の特色や気候を生かした商品開発と地域活性化=自社や商品のブランド力の向上
・地域密着型のベンチャー企業支援を事業化=多様な事業の収益化とコミュニティ形成
・コンサルティングで全国各地の地方創生に寄与=プラットフォーマーとしての価値創出

このように並べてみると、それぞれの企業がマーケティングにおいて悩みがちな点を、地方との関わりによって解決している様子がわかります。

企業価値を高めるマーケティングの在り方を模索している企業は、ぜひ地方の課題に目を向けてみてください。その課題の解決策と自社の持つ強みの交点が、意外な解決のヒントになるかもしれません。

>【第1回】サステナブルなマーケティングとは? 戦略立案のための3つの主軸
>【第2回】話題性ではなく持続性のために―ARで拡張する「現実」のネクストステップ

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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