2019.11.19

新時代のマーケティング戦略論 <第6回>AIが描く、マーケティングとユーザーの正しい交点(前編)

AIが描く、マーケティングとユーザーの正しい交点

前編:マーケティングにAIが与えるインパクトと役割

最新のマーケティングをさまざまな視点で語る連載コラム。今回のテーマはマーケティングにおけるAI(人工知能)活用です。AIについては多方面での言及が進んでいますが、マーケティング領域で実践的な活用を考えたとき、マーケターはどのような姿勢で取り組むべきなのでしょうか。
前編では、AIができることとマーケティングに与える影響について考えます。

マーケティングとAIの相性が良い理由

AI(人工知能)という概念は決して目新しいものではなく、その研究と開発は1950年代からスタートしていました。2000年代までAIが普及しなかった理由は、実用の難しさです。AIを生かすためにはデータが必要ですが、そのデータを取り込む方法、収集する技術、そして複雑な関連性を持つデータの扱い方などの面で課題が残り、AIは十分に生かされませんでした。
AIが急速に普及したのは、2006年、ディープラーニングの提唱が始まったことがきっかけです。AI自ら知識を習得する技術と、時代と共に蓄積された膨大な量のデータ(ビッグデータ)が重なったことで、AIによる自動的な試行や提案が可能になりました。

各分野でAI活用への期待が高まっていますが、そのなかでも特に注目されているのは、マーケティング領域です。では、なぜマーケティングとAIの親和性が高いのでしょうか。
マーケティングとAIの共通点は、データを主軸とする際限なき試行と、流動性の高い膨大なデータとの対峙です。
マーケターはユーザーという操作不能な相手とデータを通じて向き合い、商品やサービスを的確に伝えるための手法について日々試行を繰り返しています。そして、その試行の良し悪しを判断するのも、やはりデータです。

正しいマーケティングとは何かを突き詰めたとき、それはユーザーと企業が何一つストレスなく意思疎通できる状態をキープすることだと考えられます。なぜならば、企業の提供する商品やサービスの市場価値を高めるためには、ユーザーの満足度を維持するほか方法はないからです。
もちろんユーザーに対して新たな発見を与えることや、予想外の価値を提供することも企業のひとつの使命です。ただし、それも相互間のコミュニケーションの一環であり、最終的にはユーザーの幸福、ひいては社会貢献に寄与するものであることが前提となるでしょう。

こうした正しいマーケティングを実現するためには、データの分析とそこから得る判断を繰り返す必要があります。
AIはこの繰り返しを客観的かつ継続的に行える点で、極めてマーケティング領域にマッチしているといえるでしょう。デジタルプラットフォームが普及し、データ収集が可能なツールも浸透した昨今、AIは自在にそのデータを利用して活躍する準備ができています。

マーケターはAIとどう向き合うべきか

こうした状況をひとりのマーケターの視点から考えたとき、自分が今向き合う仕事を前に何からすべきか戸惑う方も多いでしょう。
トレンドワードとしてAIが取り上げられはじめてからというもの、AI利用を謳うマーケティングツールやサービスが急増しました。どれを取り入れるのが適切なのか、不安を覚えるのも無理はありません。
マーケターが第一に取り組むべきは、自らが何のデータを扱い、どのような試行を繰り返しているかを正確に認識することです。自社のチャネルを洗い出し、それぞれ何を根拠に現在の戦略を選び取ったのか、そしてその先に何があるのかを考えてみましょう。

AIのマーケティング活用について語るとき、オムニチャネルにおけるデータ活用への言及を多く見受けます。しかし、それ以前にチャネルがどのような様相を示しているのかを把握しきれていないケースもあります。
マーケティングはデータなくして語れない業務であるにも関わらず、データの扱い方が形骸化している場合や、加速するデジタルマーケティングの変容に企業が追いつけていない場合、直感による判断が戦略を左右しているかもしれません。

この状態からAIに自動化や効率化を任せることを志すと、多くの場合マーケティングに失敗するでしょう。なぜなら、AIはマーケターが任せる領域を正確に定義することによってのみ、その影響力を発揮できるからです。
したがって、マーケターはAIにすべてを預けるのではなく、自動化できる試行を分担する姿勢で臨むのが妥当です。今後のマーケターの優劣は、いかに多くの業務をAIに明け渡し、的確な判断でAIからの答えに耳を澄ませるかによって判断されるでしょう。

AIはマーケティングにおける多様なデータを扱える

マーケターとAIの関係性について確認したうえで、改めてAIがマーケティング領域でできる具体的な仕事について考えていきましょう。前提として、AIは一定量を保持し、かつ増量し続けるデータを扱う業務であれば、ほとんどの場合その分析に携わることができます。いくつかの分野に分けて、マーケティング領域でAIが活躍し得る業務を紹介します。

◎MA(マーケティング・オートメーション)

MAは、AIの活用事例で頻繁に登場する名称です。各チャネルにおける潜在顧客に対して行うコミュニケーションを自動化し、商談までのプロセスを最適化します。BtoBの場合、特にMAは効果を発揮するでしょう。

◎カスタマーサポート

カスタマーサポートは、近年カスタマーエクスペリエンス(CX)の重要性が示唆されてから一層注目されています。人的リソースを割かずにより多くの顧客と接点を持ち続けるためには、AIによる自動サポートが有効です。

◎ターゲティング

商品やサービスのターゲットを的確につかむためには、広範にわたる潜在顧客の傾向を把握する必要があります。AIはこうした条件下におけるデータ分析に強みがあり、BtoCの商品やサービスを展開する場合には極めて高い効果を発揮するでしょう。

また、ターゲティングした後の最適なコミュニケーション手段も、AIは提案することが可能です。個々のニーズに応じた柔軟なマーケティングが行える点でも、AIのディープラーニングは効果的です。

◎モニタリング

ユーザーの満足度や反応をつかみ取るために、今までマーケターはあらゆる課題を感じてきたことでしょう。現在は、SNS上のコメントやカメラで読み取った表情をデータとして分析することで、アンケートなどの手間をかけることなく彼らの評価を得ることができます。

特に店舗やリアルイベントでのモニタリングとAI活用は、顧客とのコミュニケーションに大きな影響をもたらすことが予想されます。

◎クリエイティブ

マーケティングの手段となるバナー広告やキャッチコピーなど、あらゆるクリエイティブを自動生成するAIが開発され始めています。過去のデータからどんなクリエイティブがユーザーの反応を引き出したかを分析し、最適化されたデザインを提案することが可能です。

クリエイティブはセンスを要するタスクとして人的なスキルに頼らざるを得ないと言われてきましたが、膨大なデータからはユーザーに好まれる傾向が導き出されており、ある程度の正当は判別できることが実証されています。

◎予測

カスタマージャーニーのデータを分析し続ければ、未来の予測をすることも可能です。気候変動や要因による価格変化、売上予測など、あらゆる未来を事前に数値化し、マーケターはその結果をふまえた対応を選ぶことができるでしょう。

過去のデータから算出された適切な価格設定を自動的に行なうECサイトや、ユーザーの購入履歴に応じたレコメンドを表示させる広告は、すでに珍しいものではありません。

マーケターが考えるべきAI×マーケティングの将来

こうしたAIによるデータ分析の多様性を考えれば、マーケターの業務内容が激変することは言うまでもないでしょう。これまでマーケターの専門性と見なされてきたあらゆる仕事は、AIによって自動化されます。ただし、これは悲観すべきことではありません。

AIを活用したマーケティングが普及すればするほど、ユーザーにとってそれは当たり前のものとなり、やがて均一的なエクスペリエンスになるでしょう。特に類似の商品やサービスを扱う競合他社との差別化は難しく、的確なデータ分析を模索するマーケター同士の競り合いも、大きな差を生む要因にはなり得ません。

では、AIを活用したマーケティングの正しさは、今後どのように変化していくのでしょうか?その答えは、マーケター自身の生み出すランダム性にあると考えられます。
AIはあくまでデータをもとにした最適解をマーケターに提供します。それは極めて実現性の高い将来を垣間見せますが、その反面、実現性の低い成功や、データに反映されないマイノリティのフィードバックを切り捨てます。

時代は常に流動しており、その変化は時に"運"としか言いようのない、予測不可能な方向へと導かれるでしょう。マーケターはその予測不可能な事態をキャッチするアンテナを磨き、時にAIのジャッジメントを覆す覚悟を持って市場を俯瞰する視座を持つことが重要です。
AIとマーケターは、お互いが拮抗し、強みを讃えあったうえで手を取り合うライバルのような関係であるべきです。後編では、そうしたAIとマーケターの関係性を見出せるマーケティング事例をご紹介します。

参考:マンガキャラクターを使ったAIチャットを採用した、丸井グループの事例>

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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